高みを行く者【IS】   作:グリンチ

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なんでプロローグから、と思うでしょうがちょっと思うところがありまして、独りよがりかな、と。
アンケートを実施し、広く意見を求めたいと思いますので、是非活動報告をご覧になってください。
よろしくお願いします。

それと鈴が出てくる1-3がちょこちょこ変わっています。
どうぞ見てやってください



2期 可能性の権化
プロローグ


「うぅ、え、えぁあ……」

「こいつ……気が違ったら捨てられたのか」

「……嫌なもの見ちまったな。 看病するのも億劫ってか?」

 

常人なら耳に入ることもないような小さな声だったが、この赤目の貴人なら聞くことはできる。

欠けたる物もなし、と言わんばかりのその威風は、その貴人がただならぬ力を持つものだと表している。

ようやくお目当ての相手が来たことを知り、重たい腰を上げた。

真上から降ってきた、一人の男を見据える。

男が落ちる場所に手を向け、――瞬く間に魔法陣が形成され、落ちてきた男を難なく受け止めた。

 

「貴様は、片道旅行のつもりだった、そういって憤るのだろうが……。 恨んでもいい、ただ、俺の最後のわがままに付き合え」

 

そう言って貴人は、虚ろな瞳で言葉にならない声を漏らす男を連れ出す。

たどり着いたのは、宙を浮かぶ男を、あらゆる観点から強化した施設だった。

以前は男を強化した場所だが、今度は男を元に戻すための処置を施す。

 

「お前は良くやってくれた。 お前の未来は全て俺が決めてしまったというのに。 付き従うもの、人を従えるもの、孤高を目指すもの、安寧を望むもの、現状の維持のみを望むもの……。 お前を思うならば、俺が拾う時に素直に死をくれてやればよかった。 だが出来なかった。 お前の才を知った時、どうしても優秀な手駒としてお前を欲しくなった。 お前は命まですり減らし、俺の予想通りの戦果を出した。 ゆえに、褒美を賜わしても誰も文句は言いまい」

 

男を装置の中にいれ、手術を開始する。

いじらねばならない機器はあちこちに分散しているので一人ではどうしようもないと思うかもしれない。

しかし、貴人がまるで指揮官のように手を振り上げると、何もない空間から手が生えてきて機械を操作しだした。

ガラス越しに体が分解されていき、神経、骨、内蔵といった部分が液体によって浮かんでいく。

強化前に記録されていた男の年齢は十五歳。

これ以上前に戻すことは出来ないが、無茶苦茶に改造され、薬物が手放せない、といった問題は起こらないようになる。

子供も薬の影響がないまま作れるだろう。

ボロボロになった体、そして体に負けないくらいボロボロだった心をある程度元に戻せた頃には、季節は初春を迎えていた。

 

「魂魄の能力には無限の可能性がある。 自分を信じて心を委ねろ。 それではな、潤。 ……貴様に暇を与える。 せめてこことは違う地で、残る余生自らの望みのまま生きるがいい」

 

世界線の歪みをこじ開け、エルファウスト王国にやってきた頃まで若返った男を投げ入れる。

別世界の縁、例えば親や兄弟、といった縁を辿って元の世界に帰るだろう。

赤目の貴人、――エルファウスト王国の国王と呼ばれる男は、自国最良部隊の隊長だった男、小栗潤を見送った。

 

そこから数ヶ月。

 

戦争の傷跡は深く国を抉っていたものの、人は逞しく復興を始めている。

男手が減りすぎて多少不憫だが、いずれ戦前の賑わいを取り戻すことだろう。

最早自ら手を出すこともなくなってきた。

非常時でなければ自ら辣腕を振るうなどありえない事だ。

戦時でもなければ些細な雑務は下々に任せ、王は悠然と君臨するものであり、王が正しく超然としていれば臣下が意を汲み、物事は万事上手くいくものである。

そして、暇を持て余した。

退屈にまみれ何をしようかと考えていたら、嘗て自ら手を煩わせてまで見送った臣を思い出した。

細く微笑むと、あの日と同じように世界線の歪みをこじ開け、今度は自ら身を投じた。

 

 

 

----

 

 

 

「おはようございます」

 

昼の陽光が差し込む生徒会室、眩しく差し込む夏の日差しを背に座る生徒会長・更織楯無に挨拶した。

全体的に余裕を感じさせる態度、その大人びた雰囲気とは違い表情は子供っぽく感じる。

そんな会長に挨拶して、生徒会室に入ってきた男は夏休み中に生徒副会長にさせられた小栗潤。

会長の手前側に座っている会計・布仏虚にも目礼、何故か顔に縦線を引いて絶句しているが気にしない。

更に手前側にいる会長の妹・更織簪に目を向けた。

 

「おはよう」

「……? 何かいいことあったの?」

「ん? いや、別に。 どうかしたか?」

「いや、なんか――雰囲気が柔らかくなったというか……」

 

入学当初の潤の評価をまとめると、概ねこのように言われている――すなわち、『怖い』と。

夏に色々、本当に色々あって潤は初心にかえり、既に習慣になるほど染み付いていた、威圧して、遠ざけて、身近な人たちから逃げるのを止めた。

そのちょっとした違いで、笑顔が自然と外に出るようになり、結果として機嫌がいいように見えている。

速く一人前になれと言って死んだ人が、潤を思っていった言葉だったが、その人が死んでしまったせいで、逆に潤にとっては呪いになってしまっていた。

 

「そら、本音。 いい加減起きろ」

「ふぁ? ふみぅ? う~ん、おはよう……」

 

キツネらしき動物を模した着ぐるみ少女、虚の妹でもある布仏本音を簪の向かい側の空席に座らせる。

なんか全く起きる気配がないので背負ってきただけである。

何故か紹介文のようになったが、この五人が生徒会メンバーである。

 

「さて、メンバー全員を呼び出した用件は他でもない。 新学期から始まる文化祭の件について。 それと潤くんには別に頼みたいこともあるから、そっちは後ほどね」

 

学園祭には各国軍事関係者やIS関連企業など多くの人が来場する。

基本的に一般人の参加はないが、生徒一人につき一枚配られるチケットでも入場できる。

生徒会のメンバーはその日に入場者のチケット確認や、各クラスの企画の精査をしたりするなど忙しくなる。

それに伴って書類が増えるし、会計も忙しくなる。

いると仕事が増えるから、邪魔にならないように書類仕事はしないと決まっている本音以外は、だが。

 

「それじゃ、ひと月位忙しくなるけど、頑張って乗り越えましょう! それでは解散! 潤くんは残ってね」

「……――、それで、別の頼みごと、とはなんですか」

 

会長と二人っきりで残ることに、簪がちょっぴり不服そうな顔をしていた。

彼女の慕う気持ちはわかるのだが、潤は国籍不明で、世界でたった二人のイレギュラーといった、重大な問題を抱えているので応えにくい。

そんな事は置いておいて、素直に居残って会長と顔を付き合わせる。

普段なら少々おちゃらけた態度を取る会長が、真面目な表情で他のメンバーが遠ざかるのを待っているので、否応なく真剣な話を覚悟する。

 

「……さて、そろそろいいでしょう。 まず、覚えといて欲しいことが一つ。 最近裏側がきな臭くなってきたわ」

「裏側……私がここに残って聞かされている、ということは、ターゲットは私ですか?」

「それもそうだけど、まず話を聞いて、ね?」

 

会長は事情を説明した。

今回の敵は、しっかりと名の知れている誰かというものではなく、古くは五十年以上前から活動している第二次大戦中に生まれた組織が相手になる。

己自身のために闘争を行い、思想も信仰も民族もルールにも拘らず、従って国境も関係ない。

ゆえに目的は不明。

存在理由も不確かで、その規模も、組織の目的も分かっていない。

ただ一つだけ確かなことは、組織は大きく分けて運営方針を決める幹部会と、スペシャリスト揃いの実働部隊の二つが存在し、その主な標的はISであること。

その組織の名は亡国機業・ファントム・タスクという。

 

「連中の狙いの有力候補は、第四世代技術が用いられている、『紅椿』、『白式』、『ヒュペリオン』ね」

「来るとしたら一夏でしょうね……」

 

候補に挙がった機体、それぞれの戦力分析をサラっと済ませて潤が言った。

三つの機体、三人の実力差を考え、最も弱い部分を口に出す。

一番手を出しにくいのは第四世代として完成している紅椿、次にヒュペリオン、大差はないが最後に白式。

パイロットの技量は贔屓目なしで、潤が最も高く、次に箒、若干劣って一夏の順になる。

一般生徒と比べれば実力的に勝る一夏だが、この三人を並べればどうしても見劣りしてしまう。

 

「確かにそうだけど、相手の人員と装備が定かでないから一本に絞るのは時期尚早ね。 当面はパイロットの地力向上を目指しましょう。 私は箒ちゃんを担当するから、潤くんは一夏くんをよろしく」

「……私は放置ですか?」

「私は一年最強の肩書きを信用しているのよ。 不安ならまた三人で暮らしてもいいけど?」

「必要ありませんよ。 私なら大丈夫です」

「あら、フラれちゃった。 私の方からも一夏くんと顔合わせするから、それじゃあ、お互い頑張りましょう」

 

最後少しだけ蛇足な部分があったが、会長と潤の間にはちょっとした信頼関係がある。

絆とか友情といった殊勝なものでなく、同じ裏側を知る共感のようなものではあるが。

それはあたかも、王と、直属の特殊部隊の隊長と同じようものであった。

 

「づあっ!?」

 

それでは、と生徒会室から出ようとした潤がいきなり崩れ落ちた。

何か見えざる力に強引に引っ張られるような、もしくは強大な何かに魂ごと引き寄せられるかのような衝撃だった。

 

「潤くん!?」

 

崩れ落ちる寸前、背後から会長が抱きとめた。

体格的に支えきれるとは思えないが、それでも会長は完全に潤を支えきる。

特に何をした訳でもない。

病気を持っていたわけでも、狙撃を受けたわけでもない。

それでも、その両目から涙のように鮮血が流れ落ちていた。

 

「何!? 何があったの!?」

 

血が会長に見えないようにしたが、至近距離にいる相手に見せないように出来るはずもない。

目から流れ落ちる血に会長が固まる。

なんとか周囲を見渡してティッシュを取って、流れ落ちる血を拭う。

既に痛みは無い。

 

「会長、もう大丈夫です」

「えっと、何があったのか説明して欲しいのだけれど?」

「――……、すいません、現象は理解可能なんですけど、理由がさっぱり」

「話せない?」

「悪いですけど、ね……」

 

歯切れが悪そうに潤が詫びる。

会長には、こんな事はそう何度も起こらないことだけを説明して引き下がってもらった。

潤の魂を縁にして何かがやってきた。

力量的に潤を遥かに超える魂魄の能力者が、能力的に劣る潤の魂を縁にしてしまったせいでこうなった、なんて説明のしようがない。

IS学園二学期、その新たな門出は波乱の幕開けを予感させることとなった。


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