高みを行く者【IS】   作:グリンチ

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早速原作とアニメの違いが露呈。
クラス代表の話が寮の場面をはさんで前後してるんですよね。
アニメ基準なので、ちょろいさんの話は後ほど。


2-2 お嬢様って縦ロールにしなきゃいけないの?

教科書を開き、単語と説明文を見比べては悪戦苦闘している一夏。

自身も分厚い参考書を片手に説明しながら、ページをめくる潤。

そのままお互いにISの基礎的な単語やら用語やらを話していると、背後から別の生徒が割り込んできた。

 

「ちょっとよろしくて?」

「ん?」

「なにか?」

 

声の主は金髪縦ロールが特徴的な女子だった。

潤はその背格好からどことなく懐かしい雰囲気を感じ取り、嬉しいようで、微妙な嫌悪感を感じていた。

そして、相手からは目の前の二人への侮辱、自己の優越感、そして驕りを感じていた。

異世界ではどの国にも貴族や王というのは存在し、彼らによって統治されていたのだ。

よって彼女のような人間にも、実際に会ったこともある。

そして彼女そのものも雑誌で紹介されていたので知識にもある。

 

「まあ! なんですの、そのお返事。 わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではないかしら?」

「悪いな。 俺、君が誰だか知らないし」

「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを? 入試主席にして、イギリスの代表候補性のわたくしを?」

「ほう、代表候補生か。 腕の立つ経験者と同クラスとは嬉しい限りだ」

「あら、あなたは最低限の知識は持っていらっしゃるのね。 褒めて差し上げますわ」

「それはどうも」

「なあ、二人で盛り上がってるところ悪いんだけど。 潤、だいひょうこうほせい、ってなんだ?」

 

その瞬間、何故か一名除いて再びクラスが一丸になった気がした。

 

「ISにおいて、イギリスの、代表の、候補。 単語で連想すれば分かるだろうに」

「なるほど、そういわれればそうだ」

「要は、IS学園に入学できる優等生の中でも、特に優秀な――」

「そうエリートなのですわ」

 

そう言って、謎のポーズをとってベラベラ喋りだすセシリア。

一夏は呆然としていたが、潤は頑張って笑いをこらえていた。

滑稽とか、そういう類ではなく、潤が最初に剣を取った理由を思い出していた。

貴族の女の子に惚れ、彼女に近づきたくて彼女配下の騎士団に入ったのが全ての始まりだった。

 

――奴もオルコットの様な性格ならば、俺もこんな所に来なくて済んだろうに。

 

セシリアの金髪、縦ロールを見ると、懐かしい顔が思い浮かぶ。

その後辿る数奇な運命を、自分視点から見ても笑わずにいられなかった。

 

「あなたもですわ。 あなたは多少の知恵があるようですけど、期待はずれですわね」

 

一夏と顔を見合わせる。

色々立場が違うものの言いたいことは同じのようだ。

 

「「今の俺に何かを期待されても困るんだが」」

「ふん、まあでも? わたくしは優秀ですらあなた達のような人間にも優しくしてあげますわよ。 わからないことがあれば、まあ……泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。 何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」

 

入試試験で皆ISで戦闘を行う、というのは潤にとって初耳だった。

何せ自分が受けてない。

セシリアが唯一の勝者という情報を鑑みれば、勝利することが目的でない事は分かる。

となればISの適性を調べる試験、という考えに至る。

 

「あれ、俺も倒したぞ教官。 潤は?」

「いや、受ける暇すらなかった」

 

一夏の言葉で驚愕の表情になるセシリア。

しかし、素人ですら倒せる教官……。

教官が弱いはずもなく、潤の中では一夏の評価がちょっとだけ改善した。

世界には実戦でしか力を発揮できない奴も存在する。

一夏もその口かもしれない。

 

「わたくしだけと聞きましたけど」

「女子ではってオチじゃないのか? ほら、チャイム鳴ったし座ろうぜ」

「話の続きはまた改めて! よろしいですわね!」

 

嵐のような女だった。

 

 

 

割と有意義だった授業を終え、今は放課後。

一夏はさっそく発行された参考書を開いて唸っている。

潤は潤でやることがあった。

提出物の作成。

部屋の鍵の管理。

鍵の管理に関しての誓約書。

なにせ入学決定からの入学当日まで二十四時間たってない。

 

 

一夏と別れた後、職員室へ向かう。

真耶の話だと、潤と一夏にはそれぞれ専用機が宛がわれるらしい。

お互い実験動物と同じ扱いだが、コアの絶対数が限られている中で、個人専用機を用意してくれるというのは破格の条件だ。

提出書類の作成と共に、開発会社の担当人物との会談を行うらしい。

宛がわれた応接室で確認書類に名前を書いていく。

保護者や身分証明が可能な状態でないので、提出物も少なめだ。

数分後、ペンが紙面に走る音だけが響く室内にノックの音が加わり、ペンの音がやんだ。

 

「どうぞ」

「失礼します。 フィンランドのパトリア・グループ日本支部の立平祐一です」

「……あなたは」

 

現れた男性は、奇しくもあの飛行機トラブルで打鉄を運搬していた男であった。

 

「あの時は助かりましたよ」

「いや、私も出すぎたマネをしたのではないかと、選択を誤ったのではないかと今でも思ってます」

「どうしてそのような事を言うのですか。 あなたの英断と勇気ある行いで百人程の大人数が安全に地を踏むことが出来たのですよ」

 

仰々しく言いながら、互いに握手を交わす。

利き手で握手する悪寒も呑み込んだ。

 

「さて、実は私側の技術者から結果を急かされてましてね。 単刀直入に言います。 小栗さんの専用機開発を私の会社にお任せいただきたい」

「元から断る気はありませんよ。 ただ機体コンセプトに関しては、多少でいいので私の意見を取り入れていただきたいのですが」

「もちろんです。 ではせめて近接か射撃かくらいはここで――」

 

この後、潤は細々と意見を繰り出していく。

レパートリーは少ないとはいえ、専門知識を有する者同士話は弾んだ。

だが、潤とて想像できなかった。

立平祐一の背後にいる開発人は、IS開発業界なら一度は聞いたことのある特殊な人間の巣窟であることを――。

 

「自社開発ktkr!」

「国際IS委員会からの開発資金!? 生体データ引換とは言えとすげぇぞ、関連企業の出費と合わせれば国家予算並じゃん!」

「うはあ、夢がひろがりんぐ~」

 

そう言葉を交わす彼らの中心には、何枚もの青写真が置かれている。

現存のISの最高速度の二倍をも出せる高機動型IS。

子供のころに見たSF映画の代名詞と呼べる物を模したビームの剣。

オート化されたビット兵器を過去にする新たなオールレンジ攻撃機の開発。

個人で月面着陸すら可能とさせるスペシャル機。

負荷、整備性、そんなどうでもいい。 全ての第三、いやいずれ現れる第四世代とすら渡り合える最高傑作を!

無論、全てが通るはずがないことは彼らも承知している。

むしろ全て通ったら、人間など乗れなくなってしまう。

 

――彼らは、こんなものを平然と考案し、機体に搭載しようとするマッドサイエンティストの集まりだったのだ。

 

そんなことなどつゆ知らず、潤の意向を聞いた立平氏が足取り軽く室内を後にした。

後は寮に向かって、寝るだけである。

三日にわたる強制移動で小栗は完全にくたくたである。

全てが移動時間だったわけではないが、戦場どころか市内でも殺し合いをしてきた人間にとって、寝室に赤の他人がいる状態で休めと言っても難しい。

どうせルームメイトは一夏である。

過去行方不明になったこともなくはないが、少なくとも暗殺者には向いてない。

変な宗教にはまった形跡もない。

薬に手を染めているわけでもない。

そういえば、パートナーとなった者に碌な奴がいたためしがない。

レイプ魔でショタコンでレズビアン、カニバリズム、サディズム、マゾヒズム、etc、etc。

そして今日初めて、まともなルームメイトができるのだ。

そしてふかふかのベットでぐっすり快眠する。

潤の目には、既にベットしか映ってなかった。

 

「これが提出する書類です」

「確かに預かった。 それから、お前の部屋が決まった」

 

差し出されたのは、部屋番号の書かれた紙とキー。

このIS学園は全寮制だ。

いくらISのコアが限られていようが、ISが国防上重要な代物である以上、搭乗者の教育は国家の一大事業である。

その操縦者たちの保護もまた事業の一つであり、優良な素質の持ち主を保護するための施設が寮である。

 

「織斑先生、俺の生活必需品はどうなってるんですか」

「日本政府が用意したが、私が言うのもなんだが本当に最低限だけしかない。 サイズも着れればいい程度にしか考えてないようだ。 明日にも生活補助金が出るから、その金で足りないものを買い揃えろ。 以後は生活補助金は月末に出る。 考えて使えよ」

「それは何から何までありがたい。 他には?」

「夕食は十八時から十九時、寮の一年生用食堂で取れ。 大浴場があるが当面は各部屋にあるシャワーで我慢しろ」

「トイレは?」

「宿直付近のトイレに男子用がある。 生徒寮には女子用しかない」

「わかりました。 それでは、また明日」

「次は、体調を整えて授業を受けろ。 いいな」

 

最後の言葉に、少し眉が吊り上る。

体調の良否は決して相手に悟らせてはいけない。

疲労がたまった状態でも顔に出してないし、クラスメイトには絶対わからなかっただろう。

 

「……あれ、本当に平和な日本で育ったのかねぇ」

 

故に潤の考えはひどく真っ当なものだった。

 

明けない夜はない。

連続不眠時間もようやく終わる。

シャワーは、……朝浴びればいい。

『1030号室』

今の潤には天国への階段がある番号である。

一夏がだらけてようが、例え素っ裸だろうがお構いなし、とばかりに鍵を開けて中に入る。

 

「おおう」

 

部屋の中を見てちょっとだけ嬉しくて声を上げる。

というより見ているのはベットだけである。

流石に王侯貴族の寝るベットと比べれば分が悪いが、造りのしっかりとした高級な部類に入る代物だ。

 

「いやっほぅ」

「キャ!」

 

……キャ?

背中から布団にダイブして――――すぐ右で寝転んでいた私服の、女子と目があった。

至近距離、およそ五cmちょい、呼吸が当たる距離。

もう少しで鼻の頭が接触する。

だらけたTシャツ、桜色のポッチが見えそうで見えない。

そこまで固まって――、次の瞬間の戦士としての反射が始まった。

肩、背中、尻、太ももの筋肉を順次力をつけて飛び上がり、壁を右手で弾いて空中で丸まって回転。

ベット際で着地し、すぐさま逃げられるように出口方向に回転して立ち上がる。

――この間、およそ二秒未満である。

 

全く気付かなかったが、部屋には女子が三人もいた。

 

ベットの上で寝転んでお菓子を食べている二人。

片方はキグルミのような、狐のパジャマを着ている。

もう一人は髪型に覚えがない、顔には見覚えがある、クラスメイトの一人。

そして、潤が寝転んだベットに、最初から寝転んでいた黒髪セミロングの女子。

 

「え、あ、え、えぇぇ? ……ウウン! 谷本さん、布仏さん、鏡さん。 一夏は何処? それと鏡さん色々すみません。 疲れてたんです、眠かったんです、寝転がりたかったんです、他意はないんです。 本当に色々すみませんした!」

 

下げた頭が床に当たってゴンッと音を立てる。

紛れもない土下座スタイルである。

 

「……………………」

 

きょとんとした顔の女子三人。

一人眠そうな顔をしているが。

 

「お、お、おぐ、り、くん? ここの部屋なの?」

「はい、これが織斑先生から手渡された紙面です」

 

先ほど至近距離まで接近した鏡ナギの手に紙が移る。

 

「いやに来るのが遅いから、誰だろうって話してたけど……」

「まさか、ねぇ……」

「おぐりん同じ部屋だね~、宜しくね~」

 

こんなグダグダな感じで小栗潤の新生活は始まった。

 




2013/07/26 投稿。

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