高みを行く者【IS】   作:グリンチ

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いつから連日更新が無いと勘違いしていた?
今日は三連休最後なんだぜ? 派手に行こうじゃないイカ。(9/23 現在)


5-3 ダウンロード

部屋に戻った潤はレポート用紙を取り出すと、総合受付からペンを失敬してレポートを作り出した。

ダウンロードの暴走関連の調査。

この世界に来て最初にやったことだが、今回の暴走を踏まえ、改めてダウンロードの精度や性能について考えなければなるまい。

規則やISの名称を覚えるために毎日ノートに写しを作っているが、今回は命に関わる事なので殊更重要である。

ダウンロードの精度を調べるのは簡単だ。

ダウンロードして触れた人間の来歴を調べて書き写す。

実際に訪問した記録と合わせてみて、誤差はないか、見逃しはないかを見比べる。

潤は自らが死の淵から蘇った際に持ち帰った異能を発現して以来、最早体の一部とも言っていい力を現段階で可能な限り確かめていた。

 

能力を使用する。

結果をノートに書き写す。

来訪記録の写しを見て、合っているか確認する。

地道な反復作業、その大半が徒労に終わっていく。

日にちが変わっても繰り返される作業で、潤が気づいて時計を見れば時計は4時を指し示していた。

幾度となく繰り返されたチェックの結果、机の周りには細かく人名が書き連ねられたレポート用紙があちこちに散乱している。

 

「ダメだ。 こちらに不備はない」

 

大きく伸びをして、ベッドに倒れ込む。

ダウンロードの暴走の結果、恋人も殺しているので、そのラインに近づくことに対しては少しの妥協もする気はない。

ヒュペリオンで脳波を用いたシステムを起動した結果は、ライン限界に近しい影響を潤に与えていた。

もっと魂魄の能力に適性があれば、わかるものもあるのだろうか。

長年の戦争の積み重ねから、幾度となくダウンロード繰り返し、それゆえその能力に精通している潤も完全な能力者ではない。

物質や人物に接触することで過去の記憶や記録を得ることが可能。

情報を自分に植え付けることで、情報と同様の行動が出来る。

実際潤が知っているダウンロードの情報なんてその程度。

戦いに必要だったのがその位だった、というのもあるが、潤の魂魄精度ではこれが限界だった。

 

 

と、なれば、原因はIS側。

 

 

事の起こりを鑑みるに脳波コントロールシステム。

だが、PDAを見る限りパトリア・グループで行われた簡易実験では何の問題もなかった。

導き出される現実。

ダウンロードと脳波コントロールシステムが合わさると問題が起こる、らしい。

しかし、最初の事故以降、能力が暴走することはなかったのが腑に落ちない。

ならば、根本たる問題は脳波コントロールシステムではないのだ。

それがキーとなって暴走という結果になったのは間違いないが、最大の原因はコアだろう。

あまりの情報量の多さと、意味不明な負荷で、読み込み不可能なままの領域。

今、潤に宛てがわれている専用機は、今日のデータを反映させるためにパトリア・グループ日本支社に預けられている。

尤も、あんな意味不明な物質を理解できるようにダウンロードしたら廃人確定路線だろうが。

 

 

 

 

 

ヒュペリオンは、未だにまともな起動すらできる気配がない。

技術者たちが潤の機動を得た後から、データを弄りまわして調整しているが、未だに歩行に問題ある程酷い。

第4世代技術、装備の換装無しでの全領域・全局面展開運用能力の獲得を目指した世代を想定していると立平さんは言っていた。

ヒュペリオンの可変装甲は汎用型の通常状態から、超高機動型状態になるという第四世代の実験機となっているとも。

この状態から射撃特化、近接特化、防御特化に変わる装備を開発して第四世代は完成するらしい。

世界が第三世代に四苦八苦しているのに、第四世代の門戸を叩いた。

これは、かなり妙だ。

脳波制御装置といい、第四世代相当の装甲といい、パトリア・グループで技術革命があったのだろうか。

立平さんの話では、機体設計の時点でブラックボックスのような箇所が見受けられるらしく、拒否しようにも極めて強い口調で可変装甲に手を加えるなと厳命されているらしい。

それゆえ始めて機体に乗せた時には、不測の事態に備えてヘリまで用意されていた。

何があるというのだろうか、この機体に。

パトリア・グループの真の狙いは、誰にも分からない。

 

 

六月も最終週に入り、IS学園は月曜から学年別トーナメント一色に変わる。

前日まで、潤と簪は練習試合を繰り返し、お互の手札と戦闘評価を繰り返した。

これで誰が相手でもいい勝負、いや処理することが出来るだろう。

第一回戦が始まる直前まで、全生徒が雑務や会場の整理、来賓の誘導などを行った。

潤や一夏は、力仕事を任せられ、時間ギリギリまでしっかり働かされた。

それらから解放された生徒たちは着替えのため一斉に更衣室へ移動する。

男子三人だけ隔離されて更衣室を専有できるので、きっと反対側の更衣室は大混雑だろう。

 

「しかし、すごいなこりゃ……」

「パトリア・グループの社長までいるな。 結構なことだ」

「三年にはスカウト、二年には成長の確認、一年はオマケだろうけど、今回は一夏と潤がいるからね」

 

ガラガラの男子用に使われている更衣室でシャルルと一夏、潤が会場のモニターを見据える。

あまり興味のない一夏、努めて冷静であろうと装っているものの、水を飲む回数が増えている潤。

そんな男二人を見てシャルルは、軽く微笑んだ。

 

「一夏はボーデヴィッヒさんとの対戦だけが気になるみたいだね」

「まあ、な」

「そうだ、一夏、シャルル。 言い忘れたが、もし先に俺がラウラを倒したり、一夏と先に当たって俺が勝っても恨むなよ」

 

潤の言葉を聞いて、一夏は意地悪小僧のように晴れやかに笑った。

 

「お前も俺が勝っても文句言うなよ。 もしかち合ったら全力で戦おうぜ!」

「ああ」

「二人共、あまり感情的になるのはよくないよ。 彼女は、恐らく一年の中では現時点で最強だと思う」

「潤は……、あいつに勝てないのか?」

「今週中にそれがはっきりする。 それでいいだろ」

 

色々と話をしている間に、トーナメントの発表が行われ始めた。

今年だけタッグ式にトーナメントを変更したのでシステムにエラーが出たらしく、手作りの抽選方式になった。

様々な意見を集めたところ、専用機持ちは各リーグに分かれた方が、より決勝トーナメントが見栄えが良くなる、との意見が通ったのでメインイベントは決勝トーナメントお預けになるだろう。

 

「Aブロック一回戦一組目なんて運がいいよな」

「え? どうして?」

「待ち時間に色々考えなくて済むだろ。 こういうのは勢いが肝心なんだ」

「ふふっ、なるほど。 なんか一夏らしい考え方だね」

 

一夏とシャルルペアはAブロックの一番手に名前が挙がった。

トップとして戦うのでさぞかし注目されるだろう。

 

「俺はCブロック、二回戦からの出場か……。 ラウラはBブロックで、ペアは篠ノ之か」

 

潤、簪ペアはCブロック。

予選は十四組み、A、B、C、Dの4リーグ制で、予選リーグを勝ち残った四ペアが決勝リーグに進む。

決勝リーグは『A VS C』、『B VS D』で行われ、勝ち進んだペアで勝利をかけて戦う。

順当に専用機持ちが勝ち進めば、潤と一夏が決勝トーナメント一回戦目、ラウラとぶつかるのは決勝までお預けらしい。

 

 

 

 

 

リーグ戦初日は一回戦の組み合わせが各アリーナで行われる。

各種予選リーグのペア数は十四組で、週の頭二日間で行われる試合は学園全体で九十六試合。

一回戦は各学年バランスよく行われ、一回戦を行わなかったペアが二日目の〆を飾って全生徒が一度は戦うように設定されている。

要するに潤の最初の試合は二日目の夕方からとあって、一夏とシャルルの試合を見た後は、ナギと癒子ペアの応援の為に一年の主だった代表候補生たちとは別行動を取る事になった。

実に、――暇であった。

 

「席取って貰って悪いな」

 

一日目はやたら暇な箒、全力でメンテナンスしても一回戦に間に合わなかったセシリアと鈴に合流する。

簪も誘ったが、一夏の試合観戦をする気はないらしい。

次の試合に備えている癒子とナギペアは誘うに誘えず、本音と一緒に来た。

 

「そろそろ一回戦開始、一夏たちの出番ね」

「専用機持ちも居ないことですし、問題なく勝てるでしょう」

 

一夏ペアの一回戦。

シャルルがラピット・スイッチと呼ばれる戦闘と同時進行に適宜武装を呼び出す能力をいかんなく発揮し、絶え間ない弾幕を展開。

相手ペアを分散させ、任意の区域における行動を制限。

一夏が零落白夜を発動して瞬時加速で接近、一人終了。

 

「零落白夜で一気に決めたのか? 一夏は必殺というものをわかってない。 ここぞという場面で使ってこそだろうに」

「全く同感ね。 これじゃあ相手が可哀そうねぇ」

「篠ノ之、鈴、一夏は教科書通りのいい攻め方をしたんだ。 少しは褒めてやれよ」

 

その後、アンロックした銃をシャルルが一夏に手渡して、ペアが速攻で落とされて唖然としている片割れに十字砲火して終了。

突撃する時などに援護として制圧射撃を加える。

例え正確に当らなくても、人間は自分の廻りに弾が着弾したら防御に専念したりするので、その隙に片方が背後に廻ったりする。

一対二になったら無理をして距離を詰めることなどせずに、十字砲火を形成して押し込む。

セオリー通りだろうけど、なんて味気ない試合なんだ。

一夏は毎日試合があるとはいえ、全校生徒分の試合があるので一日一回しか試合がないというのに。

 

「うん、自分で言っといてなんだが、やっぱり味気ないな」

「そうですわ。 仮にもわたくしにクラス代表を譲られたのですから、勝ち方にもこだわりを持つべきですわ」

「全くその通りだ」

 

馴染のメンバーで固まっていたのに気付いたのか、一夏は右手を高らかに上げて勝利の誉を高らかに示した。

爽やかな一夏に対して、女三人寄れば姦しいとはこの事か。

勝てば勝ったであれこれ文句が入り、負ければ相当に辛辣な文句を言われるのだろう。

 

「潤、応援ありがとな」

「セオリー通りのいい攻め方だった。 地味だが実戦ではその堅実さこそ大事な所だ」

 

と言っても、などと言ってためを作って一夏の自称コーチ三人組に目配りし、一夏もその先を見る。

潤の奥に座っていた三人の顔色を見て、何かを悟ったらしい一夏は、三人とは別の顔色を浮かべた。

 

「あちらさん達は不満があるらしいがね」

「ちょっと一夏! もうちょっとギャラリー背負って戦っていることを意識しなさいよね!」

「全然優雅さを感じませんでしたわ!」

「そうだぞ一夏。 付け入る隙を与えないというのも大事だが、魅せる戦いもまだ大事だ!」

 

三人の間にある空席に誘導され、左右から非難轟々の雨あられ。

 

「……一夏は女難の相を先天的に持っているのかね」

「あはは……」

 

女難の意に大いに心当たりのあったシャルルは、潤の言葉に乾いた愛想笑いしかできなかった。

 

「一夏、俺は本音と一緒に他のアリーナで行われる癒子とナギの試合を見に行くけど、一緒に来るか?」

「行く、というか行かせてください。 お願いします」

「駄目よ一夏! ここでさっきの戦いの反省と、今後の対策を練るんだから!」

「一夏さんには何としてでも優勝して頂かなくては!」

 

女生徒に包囲された一夏は、哀れ潤を追っていくことも出来ずに拘束されてしまった。

 

「……なんか、今の鈴と俺の会話変なところなかったか?」

「んー、そんな事ないと思うけどな」

 

鈴から妙な違和感を感じた。

具体的には何かが物足りなかったような気がするのだが、今は別アリーナに移動することが先決である。

癒子とナギの試合はDブロックの第3試合と時間もあったが、別アリーナへの移動時間も相まって既に二人共準備の為に格納庫に移動した後らしい。

本音はどうして走るのがあんなに遅いんだ。

 

「よし、間に合った」

「――あ、かーんちゃーん」

「本音?」

 

走るより、歩く方が早いんじゃなかろうか。

潤の隣をくっつくように歩いていた本音が、ここ数日で見慣れた水色の髪の少女を見るとそっちに向かっていった。

相変わらず試合よりプログラム作成に精を出しているようで、一人片隅で投射型キーボードを弄っている。

所で、簪に近寄ると途端に感じる生徒会長の気配はなんなのだろうか。

本音も簪も気付いていない様子なので、潤だけしか感じ取れないよう調節しているのだろう。

なんだその無駄な才能の使い方。

 

「本音……なんで、此処に?」

「んー? 別におぐりんについてきたら偶然だよ~」

「姉さんから言われて……来たんでしょう?」

「いや、クラスメイトの試合があるから本当に俺から誘ったんだが、二人とも訳ありか?」

 

簪が気まずそうに瞳を逸らす。

何時も通りの本音とは好対照な様子だった。

これは、簪の方に一方的な淀みがあると、魂魄の能力によって簪の感情がおぼろげながら感じることが出来た。

しかし、ここで変な親切心を出して踏み出そうにも、一方的な心への侵入は拒絶される。

簪の隣に本音を座らせて、せめて物理的な距離を近くしてあげよう。

そこまで本音が嫌いという感情を持っておらず、簪の根底には仲良くしたいという感情が見え隠れしている。

後はこれが少しでも二人の心の距離が縮まる切欠の一つになることを祈るのみである。

潤もそういう実生活での距離の近さから、本音を信頼できる土壌が出来上がった。

経験者程、時間が解決してくれることの偉大さを知っているのである。

 

「隣で喧嘩しないでくれてれば俺は何でもいいさ。 さて、癒子とナギの試合が始まるぞ」

「……ありがとう」

「気にするな。 ところで相手が妙に安定しているようだけど」

「ゆーちゃんと、かがみんの相手は元二組クラス代表と三組クラス代表のペアだね」

「……クラス代表コンビとかガチじゃないか」

 

癒子とナギの実力はよく分かっている。

流石にクラス代表相手に勝つのは難しいだろう。

結局善戦空しく、癒子とナギはクラス代表ペアに押し負け一回戦で散っていった。




平日は忙しいので更新できない模様。

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