この話は戦闘がないdisc3の蛇足的存在なんだが、まず読んでみて欲しい。
うん、「急な更新」なんだ。済まない。
最近は19時に更新してたし、2日前に更新したばかりだけど、台風で家にこもってたら完成してしまったんだ。
でも、このお気に入りに入れてくれた人達は、新しい話が追加された時、きっと言葉では言い表せない
「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい
そう思って、この時を開けずに追加したんだ。
放課後十六時を回ってアリーナは閉館時間を迎えた。
更衣室に戻って当然のごとく着替え始めるが、シャルは女なので肌を見せたくないようだ。
やっぱりなんだかんだ理由を付けて、着替えは別で行っている。
「偶には一緒に着替えようぜ」
「い、イヤ」
「つれないことを言うなよ」
「つれないっていうか、どうして一夏は僕と着替えたいの?」
「というか、なんでシャルルは俺たちと着替えたがらないんだ?」
こいつホモなんだろうか、潤の疑惑は入学当初まで遡る。
人の腹筋を見て触っていいか等と尋ねたり、なぜか着替えをジロジロ見て感想を述べたり、一夏ホモ説は要検証という事で。
案外男同士の友情というものをそう解釈しているだけかもしれないし、父親が不在で家族が姉だけという生活も関わっているかもしれない。
“潤、なんとかしてよ”、“まあ、事情を知っている側からすれば、だな”、”ありがとう”、”いいってことよ”。
交わされるシャルルと潤の目線。
「そこまでにしておけよ」
「ぐえっ」
シャルルに近寄った一夏を、寸での所で後ろ髪を掴んで止まらせる。
その隙にシャルルは部屋に戻っていった。
洗面所なら鍵もかけられるし、シャワーも浴びられるだろう。
「何すんだよ!」
「お前こそデリカシーを覚えろ。 もしシャルルが手術の傷跡や、火傷の色素沈着やケロイドを他人に見せたくないといった心理的障害があったらどうする」
「そういうのを互いに許し合えるというのも友情の形だろ」
「ならせめてシャルルの口から語られるまで待て。 人の心にズケズケと入るのは凌辱とさして変わらないぞ」
潤の用いるダウンロードの、本流にあたる魂魄の力。
それは人の魂や肉体に関する能力であるが、この能力は人間に干渉し過ぎる。
精神的な共感を得ることも出来るし、肉体的な体感も直感的に理解できてしまう。
リリムが死んだ後、潤が薬物まで摂取して気が違ったかのように荒れたのも無関係ではないだろう。
心の奥底に隠してあることへの干渉は、魂魄能力者が最も得意とする。
だから、魂魄の能力者はみんな普通のままではいられないのだ。
リリム然り、潤も異世界での結末もまた然り。
人が嫌がる事を知る、そこに関して一夏は潤に遠く及ばない。
「それもそうか。 引き際を知らないやつは友達なくすからな」
「シャルルが避けている理由も、その内本人が直接話してくれるさ」
話している間に着替えが終わった。
ISスーツは着るのは大変だが、脱ぐのは比較的簡単だ。
「よし、じゃあ帰ろうぜ」
「悪いが、俺は用事がある」
「またかよ。 お前もお前で付き合い悪いぞ。 それで、今回は何の用事だよ」
FIF-P01Xの装備装着のための打鉄・カスタム・mkⅡの提出。
本来なら、パトリア・グループの関係者でない一夏に話すことは出来ないが。
どうせデータ取りの為にアリーナを使うのだから、衆人の目にとまるのは時間の問題か。
「俺の専用機が形になったんだ。 どうやらここから先、生のデータを加えつつ調整しないとどうしようもないらしい」
「それホントか!? まさかリーグマッチに間に合うのか?」
「流石に無理があるな。 だが、七月の合宿にはお披露目になると思う」
「そうか、七月か。 それで、名前は?」
「何故か俺が名づけて良いそうなので、遠慮なく好きな名前を付けさせてもらった」
名前を決めて良いと言われた瞬間、電撃的に名前は浮かんできた。
異世界のパワードスーツの名前。
その名は――。
「FIF-P01X、『ヒュペリオン』だ」
ギリシア神話に登場する神。
その名は『高みを行く者』の意味。
IS学園とパトリア・グループ日本支部の繋ぎとして顔なじみの立平氏にmkⅡを提出し、代わりにPDAを受け取った。
そこから機体の資料を開いて、装備を頭に叩き込みながらカルボナーラを食べる。
カルボナーラもたまに食べると美味い。
機体を見ての、潤が思い浮かべた率直な感想は――『俺と同じようにIS世界に来た日本人が居たのかな?』だった。
アンロックユニット装備
・EEGARAラック
・EEGARA×十二
そして、量子変換されている高エネルギービームライフル、ビームサーベル。
全体の色がν、アンロック部分はレイダー、EEGARAはフィン・ファンネル、そしてガンダム特有のビーム兵器と、全身にある可変装甲。
「で、小栗くんの専用機、どんな感じなの?」
「EEG……脳波コントロールが曲者だな」
隣に座っている癒子がPDAを覗き込んで質問してくる。
全てフィンランド語なので、同じく覗き込んでいるナギにも分からないだろうが。
すると一夏が、両手に女子を侍らせて食堂にやってきた。
潤の姿を見つけた一夏は、戦場帰りの飼い主を見つけた犬の如く近寄ってくる。
「よう、潤、一緒に食おうぜ!」
「いや、見ての通り食い終わったんだが」
「そんなこと言うなよ! デザート持ってきてやるから! な!」
胸を押し付けられて多少取り乱したらしく、一夏はセシリアと箒から解放されると颯爽と料理を取りに行った。
表情を見るにホモじゃなかったのか、いやバイか。
シスコンでバイとか、以前のパートナー達と負けず劣らずの変態じゃないか。
血の滴る腕に噛り付いて主食にしていたり、年端もいかない子供をペットにしていたり、これらからすればマシだが。
両脇をがっちり固められ、『はい、あーん』みたいな事をやらされる一夏。
PDAで専用機の資料を見ている潤に、専用機の事を聞き出そうとすると、両脇の二人は専用機に興味を示すも一夏に対して不機嫌オーラを出すのでしょうがない。
暫く二人に翻弄されていた一夏だったが、食べ終わると何か言いたいことがあるかのように黙り込んでいた。
「その、潤……。 相談が、あるんだか」
「――シャルルのことか?」
「三人で話したいことがあるんだ」
この雰囲気、シャルルのこと、この事柄から連想できそうなことは一つ。
もう、ばれてしまったのか。
周囲には話さず、同じく既に知っている潤に相談を持ちかけた
それはデュノア社の思惑通り、順調に波に乗っていることを示している。
「お前と俺、男二人、だけでもいいんじゃないか」
「――ああ」
男二人だけ、この僅かな言葉の綾に一夏は反応した。
恋愛ごとに関しては鈍感だが、多少の腹芸は出来るらしい。
「セシリア、篠ノ之、一夏を借りるぞ。 本音、遅くなるかもしれないから先に寝ていてくれ」
「いってらっしゃいー」
さて、一夏とシャルルは何処まで考えているのか。
程度が浅い様なら、いずれ食い物にされる。
一夏と連れ立って寮に向かって歩き、結局たどり着いたのは一夏の部屋だった。
盗聴とか盗撮の類を気にしてないのだろうか。
してないんだろうな。
『本人の同意が無い限り、外的介入は許可されない』なんて紙切れ同然の約束事を信じきっているのだろう。
一夏とシャルルがベッドに座り、潤は机に備え付けられている椅子に腰を掛けた。
「随分早く気付かれたものだな、シャルル。 それで、一夏はどうやって知ったんだ」
「え、えっと」
ベッドに腰を掛けた二人が、共に視線を彷徨わせて沈黙したので、潤から口火を切った。
二人は質問に答えず、シャルルは顔を赤くして俯き、一夏は目をそらした。
まさか、女だと知らない時に押し倒したのか。
「ホモだったのか」
「ちげーよ! どんな勘違いの仕方だよ! 澄まし顔で何想像してんだ!」
つまり、ボディソープが切れていたのを思い出し、シャワーを浴びている最中に渡そうとしたら、色々見てしまったという事らしい。
これは、セクハラです。
「セクハラだな。 犯罪だぞ」
「余計なお世話だよ! そういうお前はどうやって分かったんだよ? シャルに聞けば転校初日に気付いたらしいじゃないか!」
「視線とか、筋肉のつき方とか、男性に対する反応とか、歩き方、喋り方でわかる。 疑って見れば結構気付ける箇所は多かったぞ。 もういいだろう。 コントはここまでにして、本題に移ろうじゃないか」
どちらかと言えば頼られる側としてクラスに認識されている潤の声で、再び部屋に独特な雰囲気が戻った。
シャルルに話を聞いて、初日に潤に気付かれたと聞いた一夏は、潤も仲間内に入れて相談に乗ってもらおうと思っていた。
それに、潤は『聞かなかったことにしてやる』そう言って、シャルルを許している。
「シャルと俺に、協力して欲しいんだ」
「協力?」
「一夏はね、ココに居ていいって言ってくれたんだ」
「……それで、居てどうするつもりだ。 俺たちだけならともかく、この学園で生活する限り、どれだけ上手く隠しても何時かはバレる」
「それなら大丈夫だ。 潤も特記事項知っているだろ――「第二一、この学園の生徒は、外部のあらゆる企業、組織、団体の干渉を受けない、か」そうだよ、それだよ」
そこでシャルルと一夏は、お互いに視線を合わせると表情を崩した。
依然潤の表情は、いつも通りの無表情のまま変わらない。
「僕も一夏に聞くまで、すっかり忘れてたよ。 ここが何処の国にも所属してない土地だったって」
「被害者側の俺たちが何も言わなければ、三年の間で何か対策がとれるかもしれないんだ。 頼む、シャルを助けてやってくれ!」
「……俺の答えは変わらない。 『聞かなかったことにしてやる』、そして、直接危害を加えてこないというならば、シャルルを責めたりしない」
「ありがとな!」
無邪気に喜びを表現する二人。
何時からだっただろうか、あんなに素直に喜べなくなったのは。
その喜びを滑稽だと思ってしまうようになったのは、何時だったか。
部屋を出る潤は、後ろ髪を何時までも引かれるような悪い後味しか残っていなかった。
一夏とシャルルに別れを告げるが、部屋に帰るほど気は収まっておらず。
一人に慣れる場所を探して、終いには寮の外まで足を運んでいた。
「随分感情豊かになったな……」
以前リリムに言われた言葉、『感情を表に出せなくなった人形のような子』。
それは比喩でも他の何でもない言葉通りの意味。
戦う時以外は、薄気味悪い位に無表情だった嘗ての自分。
人形のままでいいと思っていた。
戦うための剣であればいいと思っていた。
戦いの際に出る覇気や怒気意外は要らないと思っていたし、感情なんて無い方がいいと思っていた。
どうせなら、最初の強化手術の時に、ただの狂える軍用犬にでもしてくれれば良かったのに……。
「やはり、俺の居場所は、戦場以外には無いのかな……」
普通に生活するだけでも疎外感を覚えるのは、気のせいではないのだろう。
そも初めの時点から、潤はこの世界と無関係のところで生まれている。
誰も知っている人はいない。
誰も理解してくれる人はいない。
憎しみだけ、絶望だけ、それだけを糧に行動しようとは、以前見えた怨敵を思えばする気はない。
しかし、せめて鈴が、本当にリリムならば……どんなに楽か。
だが、それでは鈴の精神が死んでしまいかねない。
「そんなこと許されないって分かっているのに。 難儀なものだ」
夜空に溶けていくのは、二つの故郷に未だ縛られたままの愚者の声だった。
そんな遣る瀬無いことを考えていると、アリーナから誰かが歩いてきた。
生徒会関係者か、教師の誰かが1人でいる時間が長いと注意しにでも来たのかと思ったが、現れたのは意外な人間だった。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ……」
「随分辛気臭い顔をしているな」
何を思ったのかラウラは缶コーヒーを潤に投げ渡した。
自分用にも購入したのか、潤の近くまで歩み寄ると自分も飲み物を口にした。
潤は何も言わず、さりとて缶を開けることなくラウラを睨み付けるだけだった。
「そうだな、流石に無条件で口につけんか。 もし警戒心も出さず飲みだすなら見限っていたが、私の見る目も確かなようだ」
投げ渡した缶を、再び自分の手元に戻すと口を開ける。
そのまま、少量飲み下すと潤に手渡した。
毒は入っていない、それを立証しようとしたのだろう。
年頃の乙女が騒ぎそうな、間接キスがどうのこうのはことラウラの中には無いらしい。
「それで、こんな物まで用意して何の用だ」
「率直に言う。 次のトーナメント、私と組め!」
「組む? 何の話だ?」
「次の学年別トーナメントではより実践的な模擬戦を行うため2人組での参加を必須とする。 今の学年で私とまともに組めるの貴様だけだ。 逆を言えば、貴様と組むに相応しい実力者もまた、私だけだ」
「初耳だが、どこの情報だ?」
「織斑教官からのリークだ。 私は転校から間もないから、今の内から相手を探せとおっしゃられてな」
凍てつくような瞳。
されどその瞳は気高く、強さに溢れ、何故か潤にとって懐かしい色を含んでいた。
「すまないが、恐らく俺に相手を選ぶ自由があるとは思えん。 教員側から組む相手を言い渡されるだろう」
「っち、そこまで貴様には自由がないのか……。 それにしても、なんだ、その言い草は」
「別に普通だろう。 何が不満だ」
「周囲に対し常に警戒心を持ち、イギリスの小娘をあしらえるほど強い貴様が、ISをファッションの様に考える生温い生徒と組むことに何も思わないのか? 私はこの学園の存在自体疑問だ」
ラウラの物言いには、胸か喉元に何か詰まる不吉な感じがしたが重要なのはそこではない。
流石に軍人にはばれているか。
上手くやったつもりだが、所詮ISでは素人だったらしい。
「お前こそ何をカリカリしているんだ。 確かに意識の低さは嘆かわしいが、平和な証拠じゃないか」
「何を寝ぼけたことを言っている。 強さの証明こそが人類の歩みだろう」
「お前……」
今、ようやく分かった。
喉元に何か詰まる不吉な感じ。
こいつは――。
「見て直ぐ分るほど高められ、恐怖と感動を覚える程の強者、織斑教官の様な戦士になること。 それだけが私の存在意義だ」
嘗て、自分を強化した研究施設で、産まれ育った強化人間たちと同じだ。
魂魄を通じて伝わる、歪な精神構造。
無意識に肉体を強化し、握られたアルミ質の缶が歪められていく。
潤は小柄なラウラを見下ろした。
その瞳を占めていたのは、憐みの類だったが。
「そんな、力で力を求めて、一体その果てに何が残る?」
「可笑しな事を聞く。 人類有史以来、永遠積み重ねてきた真理だろう」
「その果てに、どの位滅んだ民族が居るのか分からないのか。 目的無き力の積み重ねは自分の身を滅ぼすぞ。 お前は俺みたいになりたいのか?」
「馬鹿な事を言うな。 私の目的は教官だ。 貴様ではない!」
「そういう意味ではない。 それに貴様の言う織斑先生は、強い教官であって織斑千冬ではない。 貴様が見ているのはただ力だ! 貴様は先生の力しか見ていない!」
「なんだと! 私のことを何も知らない貴様が、私の抱いた幻想を否定するというのか!」
やや友好的に始まった二人の会話は、何時しか言葉のぶつけ合い変化していった。
「否定するも何も事実に過ぎない。 お前が欲しているのは、ただの力だろうに!」
「言わせておけばズケズケと! 貴様もただの軟弱者だ! 力に余計なものを求めれば、力は純粋な力でなくなり人は弱くなる! 何故それがわからん!」
「分かってたまるか! 人類は武力によって別の何かを生み出すことで発展した。 貴様こそ、それを分かるんだよ!」
交じり合わない二人の、『力』の持論。
力によって生きる意味を見出したラウラ、力によって大切なモノを犠牲にした潤。
ベクトルは完全に反対を向いている。
「別の何かを生む? そんなのは力を持たぬ弱者に任せればよいのだ。 強者は君臨してこそ強者だ!」
「力の意味をはき違った小娘が何を偉そうに『君臨する』だ! 貴様のような者を真の意味で弱者というに相応しいだろうさ!」
「ほざいたな軟弱者! 今度のトーナメントで、私直々に叩きのめして、力の本懐を叩き込んでやる!」
「お前ほど力の意味を知らん者が、無暗に力を得てしまったのか……」
潤はそれまで向けていた瞳を逸らし、寮に入っていく玄関へと向かっていった。
しかし、歩みを進める途中、煌々と冴え渡る月の下、殺気を纏って振り返った。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ……」
自分と同じく、恐らくは真っ当な人生など歩んで居ないだろう女生徒を見つめる。
月光に輝く銀髪は、不思議と悲しい光を発していると潤は思った。
「理想と力を踏み誤った馬鹿者。 道を誤った先人として、踏み外した道を正してやるのが、俺が此処に居る意味かもしれない」
「私とて同じことが言えるな。 力の意味を違えた軟弱者を鍛えてやるのも、真の強者がすべきことかもな」
「それは結構。 ならば、俺と貴様の勝負は互いの信念を掛けた大一番だ。 俺が勝った暁には、その理想も決戦の地に捨てていけ」
「いいだろう。 私は負けない。 誰にも、お前にも、織斑一夏にも!」
最早語ることはない。
潤にとって、次の学年別トーナメントは、絶対に負けられない戦いになった。
ちょいと変更。