高みを行く者【IS】   作:グリンチ

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これが投稿されたとき、初投稿から2ヶ月たったことになります。
まだまだ先は長そうですが、今から続きを作るのが楽しみです。

それはそれでいいとしてアニメ二期楽しみや


4-4 ラウラ・ボーデヴィッヒ

「え、えーと、今日も、転校生を紹介します」

 

シャルル・デュノア入学の翌日。

本日も再びホームルームが始まっての開口一番は、真耶の転校生入学の知らせだった。

前日シャルルの入学があったばかりで、その翌日に新しく1人追加。

普通そういうのは散らすだろうとか考えているだろう。

裏の事情を知っているのは、教師二人、潤と本音ぐらいである。

クラスに入ってきた生徒を見て、クラスのざわつきが止まる。

輝くような長い銀髪。

左目の眼帯。

何物をも拒絶するかのように冷たい右目の赤色。

近寄りがたい雰囲気はあるが、その独特な雰囲気や姿勢は軍人のものであると、クラスの何人かは気付いた。

 

「……挨拶をしろ、ラウラ」

「了解しました、教官」

「ここではそう呼ぶな。 私のことは織斑先生と呼べ。 いいな?」

「はい、先生」

 

そう答えるラウラと呼ばれる小柄な少女は、背筋を正したまま教室を一望した。

教室の女子たちを下らなそうに見て、ひと言。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

それ以外に続く言葉は無く、沈黙が訪れる。

 

「あ、あの、以上……ですか?」

「以上だ」

 

出来る限りの笑みを浮かべて、教室の空気を変えるべく話しかけた真耶だったが、あっさり切り捨てられた。

一夏の自己紹介の時以上の重たい空気が教室を支配していた。

と、そこから今までの無表情が嘘のように激高した表情を見せ、一夏の正面に立つとその頬を叩く。

 

「私は認めない。 貴様があの人の弟であるなど、認めるものか……!」

 

当然一夏は抗議の声を上げたが答えることもなく、来たとき同様黙って空いている席に向かう。

席はクラス最後尾の廊下側。

隣には誰もおらず、潤の真後ろである。

 

「………………」

「………………」

 

何を思ったのか、潤の前で足を止めるラウラ。

今度は潤とにらみ合う形になる。

 

「あ、あの、ボーデヴィッヒさん?」

 

一夏の時と同じく剣呑な雰囲気を気遣って声を掛けるが、二人は静かに睨み合うだけだった。

 

「……成程、本物だ。 教官が一目置くだけのことはある」

「お互い様だ」

 

何が共鳴したのか分からなかったが、二人は冷笑を浮かべて視線を外した。

お互いの戦力分析は、大筋今の段階で例外を除いて一致している。

六:四でほぼ互角、ラウラの知識が及ばない魔法の概念を加味すれば七:三ほどで潤有利。

 

ラウラは恩師である教官の、ちょっとした頼みごとを聞いて入学してきた。

恩師の頼みであれば、と頼みごとを意気揚々と承諾し、レーゲン型のテストと名分も整えてある。

その本筋のお願いが『男子二人を外部の圧力から守るため』等という、拍子抜けする内容ではあったが。

しかし、ドイツに教官を連れ戻すためならその程度なんとも思わない。

それに、IS配備特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』隊長として興味深い対象もいる。

 

 

 

『ほう、我がシュヴァルツェ・ハーゼに入隊してもやっていけそうな機動制御だな』

 

画面には四月上旬のセシリア・オルコットとの戦闘が映されている。

織斑一夏の映像は、本職からすればストレスがたまるほど覚束ない戦いだったので最後まで見なかった。

だが、この小栗潤はISの特殊部隊隊長から見てもハイレベルな技術を有している。

 

『しかし、未熟さは感じますね』

『ああ、私ならあの程度の攻撃を掠ったりはしない』

 

画面を見る二人、ラウラと副隊長のクラリッサ・ハルフォーフ。

経験の差からか、徐々に押されだす打鉄を見て感想をもらす。

結局、小栗潤はその明るい将来性を顕著に表したものの、接近することなく敗北に終わった。

しかし――何か頭に引っ掛かりを感じる。

ラウラの闘争本能が、潤の機動を見て何かを訴えかけている。

もう一度最初から戦闘を見返す。

 

『なんだ、この違和感はなんだ?』

『隊長?』

 

もどかしくなって、左目の眼帯を外す。

その瞳は、右目の赤色と違い、金色に瞳が輝いていた。

ヴォーダン・オージェ。

擬似ハイパーセンサーが移植された瞳は、常人には到達できない動体視力を約束するものだった。

しかし、制御に失敗してセンサーは常時稼働され、日頃の生活に支障をきたすために眼帯で保護している。

 

『クラリッサ! 今の場面で停止! 着弾点を拡大して、コマ表示のままゆっくり動かしてくれ』

『了解』

 

ブルー・ティアーズが右手の先端に命中した場面を、軍の超高性能カメラで再生していく。

そして、浮かび上がった真実――

 

『これは……どういう事でしょうか?』

『回避したのにも関わらず、再び当たる様に元の位置に戻している。 しかもギリギリ当たるように微調整して』

『高速戦闘中に一、二㎝単位の精密動作をしていた、そうおっしゃるつもりですか?』

『映像を見る限りそう判断せざるをえん』

 

今度は部隊のメンバーを集め、着弾点を拡大したものを集計していく。

この妙な調節はラウラの見つけた一度きりではなく、戦闘中に何度かそういう現象が起こっていた。

 

『この男はこのライミーに花を持たせるために接待していたのか?』

『もし小栗潤にこの精密機動制御が可能だと判断できる材料を織斑元教官が持っているならば、代表候補生の立場を守るための指示をしたかもしれません』

『ふむ、男がISを動かした、等というイレギュラーが起こって教官も対応に追われているという事か』

 

次々と小栗潤に関するデータを表示させる。

航空機事故、今回の精密動作。

ルームメイトが暗部との繋がりが深い人物の関係者だけあって、直接的な監視が出来ないがこれだけの情報でもわかることがある。

 

『強いな。 この男』

 

軍人としてのプロ意識、エリート意識の強さ、その全てをぶつけてもいい相手。

兵器たるISをファッションと同列に考えている連中と違って、この男は楽しめそうだ。

ラウラは教官以外に目的などない筈だったIS学園に、二つ目の目標を見つけた。

データよりも、自分の身で感じた強さの方がデータとして相応しい。

 

 

 

 

 

シャルルとラウラが入学してから、もう直ぐで週が変わろうとしている。

IS学園は土曜日でも授業はあるが、午前の理論学習が終われば午後は自由時間。

とはいえ休みを取る生徒は少なく、アリーナが解放されているので殆どの生徒が実習に充てている。

潤や一夏と共に実習に参加した面子は六人。

シャルル、セシリア、鈴、箒、一夏、潤。

シャルルは怖がりながらも隠し事をしなくてもいい気軽さから、割と潤と行動を共にすることが多くなった。

当然シャルルと同室の一夏も行動を共にするので、鈴やらセシリアやら箒やらも加わって共に行動するメンバーがだいぶ増えた。

専用機持ちなので模擬戦を行うのも早くて助かる。

大分人数が居るので、空中で軽い手合せを行う程度の模擬戦でさえ、順番待ちという有様だが。

 

『試合終了! 勝者、小栗潤』

「く、なんなんだよ、その命中精度」

「織斑先生も言っていたが、瞬時加速が戦い慣れている相手に通用するのは一回限りだ。 駆け引きを覚えろ」

「尤もな意見だけど、瞬時加速で接近してくる一夏に対して、自分も瞬時加速で接近してすれ違いざまにブレードで払い落とす、なんて学生レベルじゃ普通出来ないからね」

 

空中から一夏と潤が、ゆっくりシャルルの元に降りていく。

 

「つまりね、一夏が勝てないのは、単純に相手の武装特性を把握してないからだよ」

「うぅん、分かっているつもりだったんだが」

「相手が武器を出した瞬間に、その特性、レンジ、弾道の予測ができて『分かっている』だからな?」

「ま、マジか。 そういえばシャルルの射撃、潤には防がれてばかりだからなぁ」

「相手の軌道予測先を狙い撃つのみでは不合格なんだ。 相手を自分の予測通りに回避運動させて、相手の動きを支配できるようにならなくてはな」

「潤、それ本気で言ってるの? デュノア社お抱えの選りすぐりでも出来なさそうなんだけど……」

 

これまで何度か仲間内で模擬戦を繰り返しているが、一夏の勝率は著しくない。

一夏から見た潤の射撃、近接の成長速度がおかしい。

ラウラの来校によって楔から解き放たれた潤は、代表候補生が理解可能な範疇を維持しながら実力を出しつつある。

始めて潤と戦闘して、その熟練の深さを目の当たりにしたシャルルの驚きは形容のしようがない。

射出されるライフルの弾を、ブレード二本で全弾叩き落とされもすれば驚愕もする。

 

「うーん、知識として知っているだけって感じかな? 僕と戦った時、もう少し避けられても良かったんだけど」

「う……確かに。瞬時加速も読まれてたな、そういえば」

「一夏のISは近接格闘オンリーだから、より深く射撃武器の特性を把握しないと対戦じゃ勝てないよ。 特に一夏の瞬時加速って直線的だから反応できなくても弾道予測で攻撃できちゃうからね」

「直線的か……」

「あ、でも瞬時加速中はあんまり無理に軌道を変えたりしない方がいいよ。空気抵抗とか圧力の関係で機体に負荷がかかると、最悪の場合骨折したりするからね」

「なるほど、ね」

「ん? 骨折する? ――N字瞬時加速可能ってフィンランドの連中本当にISを作っているのか?」

 

ドヤ顔で、N字を描くように鋭角に向かって方向転換可能な状態になる。

そう言った目の隈の酷い技術者の顔がサムズアップして目に浮かぶ。

 

「よし、潤。 俺ともう一回戦ってくれよ。 なんか掴めそうだ」

「ああ、俺は……。 いや――駄目だ。 メンテナンスする」

「え? まだ一回しか戦ってないよね? しかもノー・ダメージだったんじゃ……、って、本当だ。 潤、ちゃんとメンテナンスしてる? せっかくの専用機が泣くよ、これじゃあ」

「馬鹿にするな。 メンテナンスは毎日やっている。 勿論部品の交換も、ダメージに応じて行っているし、各ダメージデータもパトリア・グループに提出している」

「そうだな。 俺も結構潤と一緒にメンテナンスしてるぞ。 俺より回数多いくらいじゃないか?」

 

シャルロットが打鉄・カスタム・mkⅡのコンソールデータを覗き込む。

ついでに一夏も覗き込んできた。

二人の目に映るのは、機体各所に記される『要交換』のメッセージだった。

 

「この前メンテナンスしたの何時?」

「昨日」

「昨日!?」

「俺も一緒だったから間違いないぜ」

「……姿勢制御スラスター吹かせてマシンガンの弾を叩き落したりなんてするからだよ」

「いや、俺の白式を力勝負で叩き落すからだ。 きっとそうだ」

「幾ら整備しても、カスタム・mkⅡのコンセプトが、『わざと操縦性を下げ、パイロットの力加減をパーツの消耗度で算出する』なんだから、まともに動かそうとすると操縦で機体がガタガタになる。 これでも機体に気を使っているつもりなんだけどな」

「いやはや、潤の伸びしろって、ほんとに凄いんだね。 飛行機事故でもそう思ったけど」

 

仕方が無いので、潤は暫く休憩。

シャルロットと一夏が訓練を開始する。

男子三人で訓練しているこの状況に、一夏も遠慮なく質問出来るのか、物事をドンドン吸収していった。

なにせ、シャルルがいない場合に積極的に指導してくれる、一夏のコーチ達は本当に酷い。

篠ノ之箒の場合、『こう、ずばーっとやってから、がきんっ! どかんっ! という感じだ』、そも説明になってない。

凰鈴音の場合、『なんとなくわかるでしょ?  感覚よ感覚。 ……はあ? なんでわかんないのよバカ』、上に同じく。

セシリア・オルコットの場合、『防御の時は右半身を斜め上前方へ五度傾けて、回避の時は後方へ二十度反転ですわ』、理論的すぎて素人にはわからない。

小栗潤の場合、『鈴に教えてもらえ。 ……俺がいい? まあいいか、来いよ、実践で教えてやる』、質問できない。

それに対する一夏の返答、『率直に言わせてもらう。 全然わからん!』

この一夏の反応に対し、異論を唱えられる者が何人いるだろうか。

 

「ふん。 私のアドバイスをちゃんと聞かないからだ」

「あんなにわかりやすく教えてやったのに、なによ」

「わたくしの理路整然とした説明の何が不満だというのかしら」

「なあ、鈴」

「なによ」

 

暇になったので、少し離れていたツインテールの元に向かう潤。

ついつい、鈴に対して口が出てしまう。

呼びかけに応じた鈴に釣られて、他二人の目が潤に突き刺さる。

彼女たちの元々の視線は、訓練と称してシャルルと射撃姿勢を指導されている一夏の姿

があった。

 

「何故シャルルにまで嫉妬しているんだ?」

「なななな、何を言ってるのか、全っ然っわかんないね!」

「隠しきれてないぞ。 照れ隠ししたいのなら、面と向かってはやめよう。 ――これから喋るのは全部独り言だ」

 

恋愛というのは須らく相手がいるものだ。 お前は一体一夏をどうしたいんだ。 奴にも多大な問題があるのだろうが、ISで攻撃したりするのは恋愛の要素からかけ離れており、それはただの暴力だ。 照れ隠しでも限度というものがある。 それに、もし一夏が日本に昔いた大和撫子が好みだったらどうするんだ。 今の時点で完全に脈なしじゃないか。 自分の魅力に気づいて欲しいというのは女性の性かもしれないが、相手の好みを知ることをしないというのはどうかと思う。

一夏の好みについては大丈夫。

何故?

一夏の好みは千冬さんだから。

 

「真性のシスコンだったのか……」

 

異世界では、貴人の血を濃くするために希に兄妹で結婚する場合もあった。

しかし、こっちの世界では普通に犯罪なのではないか。

鈴の春は遠そうである。

 

「と、ところで何故潤さんは、そんなに恋愛ごとに関して具体的に話せますの?」

「恋人でもいたのか? 記憶喪失と聞いているが、実際記憶はあるのだろう?」

 

セシリアはちょっと面白くない家庭の事情から、男女の在り方について複雑な心境を抱えている。

一夏に対して、普段通りのお嬢様然とした態度が取れないのも男子の取り合いなど経験したことがないからだ。

そして、急に興味津々に身を乗り出した箒も、ISを実の姉が開発した影響から恋愛など経験したこともない。

 

「いたが、それがどうした」

「何が『それがどうした』よ。 初恋の相手からは裏切られて死にかけた挙句、次の恋人には死別されて女運最悪だったくせに」

「……は?」

「鈴さん、何を急に」

「――あれ?」

 

セシリアと箒が目を見開いていることで、ようやく鈴は自分の言葉の奇妙さに気付いた。

黙れ淫売。 その台詞をなんとか飲み込んで潤が視線を混乱する鈴に向ける。

 

「あ、い、いや違うって。 潤に聞いたことがあった様な気がして。 ね、そうでしょ?」

 

縋るような視線を向けられる潤。

彼から帰ってきた言葉は少なかった。

 

「女運最悪だったのは、それは主にお前のせいだ」

 

と、鈴ではなく、鈴越しにリリムに対して世間話をしていると、俄かにアリーナがざわつき始める。

偶然ISを展開したままだった潤には、ハイパーセンサーよってその声を拾うことができた。

 

「ねえ、ちょっとアレ……」

「ウソっ、ドイツの第三世代機じゃない」

「まだ本国でのトライアル段階って聞いてたけど……」

 

ドイツ代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒ。

転校初日に潤と少しばかり会話して以降も、誰ともつるもうともしない孤高の女子。

その少しばかりの会話で、クラスで一番ラウラと会話したのが潤になる位誰とも喋らない。

 

「貴様も専用機持ちだそうだな。 ならば話が早い。 私と戦え!」

「イヤだ。 理由がねえよ」

「貴様にはなくても、私にはある」

「今でなくていいだろ、もうすぐクラスリーグマッチなんだから、その時で」

「なら――」

 

そう幾らかの問答の後に、突如ドイツの黒いISが射撃体制に入り、同時にデュノアがシールドを呼び出し防御した。

周囲はいきなり発砲したラウラに驚いたが、当事者の一夏は別のところに驚いていた。

通常一秒、二秒かかる量子構成をほぼ瞬間的に終えている。

シャルルの専用機は、第二世代型IS『ラファール・リヴァイヴ・カスタムII』。

何故か代表候補生なのに第三世代でもなく量産機のカスタム機なのか。

豊富なバススロット、大量に量子変換してある武装や弾薬、それらをシャルルが十全に使いこなせているからと納得した。

一夏を背に、ラウラとシャルルが睨み合う。

 

『そこの生徒! 何をやっている!』

 

騒ぎを聞きつけて来たであろう教師が、スピーカーで割って入る。

興が削がれたのか、ラウラは呆気なくアリーナから去っていった。




とある方が、リリムのことを『鈴淫ちゃん』と呼称してくれました。
誰が上手いこと(ry

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