とりあえず勢いでアニメになっている分くらいは作りますわ。
目指せアニメ一期分完結。
IS学園での生活はあれから数週間経過して五月に入った。
鈴と潤の関係は、近いようで遠く、仲がいいように見えて犬猿の仲でもある。
周囲が不思議がる二人の関係は、喧嘩寸前までいって、数秒後には仲良く世間話するなど、本当に理解できない。
鈴と一夏の関係は、誰が見ても直ぐに分かるほどなのに。
例えば、鈴転入当日の放課後。
自国の特務隊訓練施設での放課後、『一八〇〇時から一九〇〇時までフリーファイア宣言を行う。 各自自由に戦って生き残れ、敗者には死を、幸運を祈る』なんて誰も言われない平和なひと時を満喫する潤。
一夏は鈴が転向してきてから常にカリカリ怒っている二人に迫られアリーナで修行中である。
セシリアは淑女としての誇りが足りないと思うのは潤だけだろうか。
その潤は、入学当初からお世話になっている陸上部に顔を出し、一緒にトレーニングに参加させてもらう。
『女子陸上部』が正式名称なので、正式な部員ではないが部長さんは優しい人だった。
男子が急に一緒にトレーニングして、マネージャの様な事もしているせいか、一般部員の態度が余所余所しい。
ベタベタ接触されても嫌なので、潤にとってはありがたい事なのかもしれない。
「で! だ! 何故ここに来るんだツインテール」
「いいじゃない! 初日はアンタから絡んできたんだし、今日も今日で邪魔する! それと私の名前は凰鈴音って昨日言ったじゃない! 大体この鬱憤を少しでもはらさないと寝れないじゃないのよ!」
最後のが本音か。
この世界で唯一安心して過ごせる潤の居場所。
その憩いの場はたった今、ツインテールの襲撃にあっていた。
「で、凰家の鈴音さんは何しに来た? 布仏なら大浴場に行ったぞ」
「なんでアンタと一夏が同室じゃないのよ!」
「織斑先生に聞けよ、俺は知らん」
なぜそんなに怒っているのか知らないが、鈴の機嫌は急降下しているらしい。
「男って約束すぐ忘れるの!? 意味わかんない」
「ちょっと待て、話がわからん。 それと俺の枕を放せ、引きちぎれそうだ」
内容を簡略すると『私が料理上手になったら、毎日味噌汁作ってあげるね』だった。
それを酢豚に変えて言ったらしい。
しかし、一夏は『タダ飯を食わせてくれる』に変化していた、と。
「気持ちはわかる。 相手の告白を無下にするのは確かに悪い」
「でしょ! でしょ! でしょ! でしょ!? なんなのよ、もー!」
「おい、だから枕を放せ。 引きちぎれる」
ミシミシ音を立てる枕と、安全のために布仏の枕を引き寄せる。
「だが、一夏の性格を考えろ。 そんな遠回りの告白通じる相手か?」
「それはっ!? そうだけど……」
鈴が気を落とすと一緒にリボンが萎む。
リリムもそうだったが、まさか生きてるのだろうか、あのリボン。
それともツインテールのリボンは主の機嫌に反応するのか、これは要検証だ。
「ああぁ! もうやってらんない! 寝る!」
「はいはい、お休み」
プリプリ怒りながらドアを蹴破るようにして出て行く。
ブチ破るかのように現れた時といい、本当にアグレッシブである。
日増しに機嫌が悪くなるツインテールは、毎日のように1030号室に乱入して愚痴だけ言って帰っていく。
布仏からりんりんと呼ばれて潤の枕を殴り、一夏の愚痴を言っては潤の枕を殴る。
快眠を支えてくれた枕は、1025号室から響く轟音と共に部屋に乱入した鈴の強襲で遂にお亡くなりになられた。
鈴から受けた潤のストレスは、セシリアと箒と共に一夏に帰っていく。
一夏は鈴にストレスを与え、鈴は潤にストレスをぶつけ、潤は一夏でストレスを発散する。
理不尽の渦に巻き込まれた結果、一夏は瞬時加速を習得した。
その際の潤が使用したISは打鉄・カスタム・mkⅡ。
データ取得専門であるため武装はブレードと、もう一種類しか積んでいないが、その武装が専用機搭載予定のビームライフルだった。
これで中距離に対応できるようになった。
ISが手元に戻ってきたのを期に、セシリアから勝負を挑まれることになった。
これもほぼ毎日。
箒が一夏に剣術指南をしている間、『今日こそ、その澄まし顔歪めて差し上げます!』と勝負を吹っかけられている。
対戦成績は一勝二敗七分、一夏が来ると引き分けになるため妙に分けが多い。
そうして、鈴と一夏が戦う、クラス代表トーナメント当日を迎えた。
試合当日、一回戦第一試合の組み合わせは凰鈴音、織斑一夏。
第二アリーナは両者専用機持ち、男子と代表候補生の組み合わせもあってか座席は埋まっている。
会場入りできなかった生徒も出ており、そちらはリアルタイムモニターで鑑賞するらしい。
何時もの四人でクラスメイトの応援に来ていたが、あまりの超満員に立ち見に徹することにした。
が、人の縁とは奇妙なもので、何時ぞやの新聞部副部長が四人分の席を確保してくれていたらしい。
「それじゃあ、インタビューしまーす」
「何故、こうなる……」
「いやぁ、こうでもしなきゃ話してくれなさそうだからね」
労働には対価を。
四人分の座席には、それなりのインタビューを。
「この注目の一戦、どう見ますか?」
「普通なら代表候補性の鈴に分がありますが、一夏の単一仕様能力は特殊でありワンチャンスあります」
「織斑君の単一仕様能力?」
「バリア無効化攻撃、それに一夏には瞬時加速を骨の髄まで叩き込みました。 鈴の隙を見いだせれば勝機はあります」
「ふむふむ、なるほど……。 次は対戦相手の凰鈴音について一言お願いします。 本人からは『あいつに絡むと元気になる』と謎の評価を頂いてますが?」
「……そんな所も一緒かよ、死ねばいいのに」
「ん? もっと大きな声でいいかな?」
「いや、愚痴ばかり言いに来る変な奴、そんな印象です」
「そうですか。 それじゃあ最後に、このトーナメントの参加者全員にエールを」
顔すら知らない他クラスへのエール。
どうかわしたモノかと考える。
ふとその思考を止めると、徐に空を見上げた。
「小栗くん、どうしたの?」
新聞部相手にそつなく回答していた潤が、いきなり言葉を切って空を見上げて停止した。
まるで戦っている最中の様な真剣な表情に、隣の癒子が少し驚く。
「……黛先輩、もしここに敵性ISが来た場合、避難完了までに迎撃可能な状況ですか?」
「流石にそんなことは分からないけど、どうかしたの?」
「嫌な感じがする。 悪意、いや敵意、違うな。 好奇心、モルモットを見るような、似ているが少し違う?」
「なに? どうしたの?」
何故か急にそわそわし始めた潤の様子に、左右にいる女子四人が注目する。
潤は目をつぶり、こめかみを揉むように集中している。
新聞部という他人の感情や空気を読むのに慣れた薫子は、その様子に只ならぬ不安を感じた。
腕利きの記者は、稀に直感だけで事件を掘り当てるという。
建物や人物を見ただけだというのに、まるで鋭利な刃物を首筋に突き立てられたかのような感覚がした、と彼らは言う。
もしかしたら、潤もその一人かもしれない。
事実、彼は一度、彼自身の命運を分けた飛行機事故で、自分が打鉄を動かせることを感じ取った経歴があるのだ。
「何か感じるの?」
「背筋がぞわぞわする。 何かあるかもしれません」
不穏な言葉はアリーナに出現した二機への歓声で掻き消えた。
潤は何かに備えるように、腕時計型になっている打鉄・カスタム・mkⅡを撫でた。
潤の不安なんてどこかに吹き飛ばすかのように、鈴と一夏は軽快に刃を重ねていく。
青竜刀の様な武器を合わせて白式に迫っていく、なんというか戦闘というより曲芸に近い。
鈴の攻撃は普通の生徒に比べれば早い。
狙いは荒削りで急所は捉えていないが、シールドエネルギーを減らすのが目的なのだから問題ないだろう。
交叉する剣と青竜刀。
両者の武器は甲高い音を立てて火花を散らす。
接近してでの斬りあいは若干鈴に分があるらしく、仕切りなおしを望んだのか一夏が距離を取る。
そして――、
――見えない力を受けて地面に吹っ飛んでいった。
「なに? なんで織斑くんがバランスを崩したの?」
「質量を持った空砲か何かじゃないか? 第三世代型武装だな」
砲身、砲弾共に見えないオールレンジ攻撃。
どこからどう飛んでくるのか、どのような射撃スタイルなのか相手にはわからない。
潤もああいう手合いの武装を持つ相手とは戦った事がない。
開いた甲龍のアンロック・ユニットを見る。
どうやら砲身斜角もない可能性が高い。
見えない砲弾を僅かな情報で避け、ようやく体制を整えた一夏が雪片弐型を構えた。
「瞬時加速、織斑く」
「――っ!? 本音、癒子、ナギ! 何か来るぞ、気を付けろ!」
ナギの言葉を遮って不穏な波を感じた潤が声を上げた。
潤の言葉が終わった直後にガラスが崩壊した様な甲高い音がアリーナを襲う。
外を包んでいたアリーナの遮断シールドが壊れたのだと気づくのに、周囲の生徒も時間がかかった。
『試合中止! 織斑! 凰! ただちに退避しろ!』
織斑先生の一喝で、アリーナは騒然となった。
観客席は順次防壁が閉まっていく。
「一夏!」
『潤!? これはなんだ? 何が起こったんだ!?』
「強襲だ。 敵機の情報は無いが、……なんとなく、相手は普通の人間じゃないと思う」
『普通の人間じゃない?』
「おそらく無人機だと思う」
『でもISって人が乗らないと動かないんじゃないのか?』
「例外ってものは何時だってある。 それにあいつは人間にしては感情の起伏が無さすぎる。 大方遠隔でコントロールされているんだろう」
『……まあ、俺は潤を信じるよ。 それに無人機なら全力で攻撃しても大丈夫だし、な!』
一夏が所属不明ISの攻撃に対して急旋回した姿が映り、潤は打鉄・カスタム・mkⅡの回線を遮断した。
これ以上は一夏の邪魔になる。
緊急時のアナウンスに従って避難を開始した。
普段目にしない不安な表情をするナギと癒子の手を握る。
少しでも安心してくれることを信じて。
「大丈夫、何とかなるさ」
「う、うん」
自分は出撃できない、無許可の状態で勝手な行動すればどうなるか予測できない。
一夏はともかく、潤には人間の悪意から身を守るすべがなく、今はまだ無茶をする場面じゃない。
通路は混沌としていた。
アリーナの生徒が少ない通路を我先に逃げ出したが、扉のほとんどがロックされている。
『小栗! 聞こえているか!』
「織斑先生?」
『知っての通りドアは閉ざされており、遮断シールドも解除できてない状態で救援も避難も時間がかかる。 だが、何故かお前のいる場所からアリーナへと出る道に限りロックされていない。 お前は三年の精鋭がロック解除するまで織斑と鳳を支援、両者の撤退を援護した後離脱しろ、いいな』
「了解しました。 それと織斑先生、落ち着いてください。 指揮官が混乱するといらない犠牲が出ます」
『私は落ち着いている』
「この様な話は本来プライベート・チャネルで行うべきです」
そこでようやく織斑先生はオープン回線で会話をしていたことに気付いたようだった。
周囲の女子の視点が潤に集中している。
『………………むしろお前のその落着きはなんなんだ』
「安心して下さい。 何とかして見せます」
『そうか、頼んだぞ』
最後にあまり見えない笑みを浮かべて織斑先生は通信を終了した。
両脇で今も固まっているナギと癒子から手を放す。
「行ってくる」
「小栗くん、頑張って」
「ああ、何とかする」
潤はそう言い残して、避難中の女子の波を掻き分けながらナビゲートに従って道を進んだ。
発光する白が宙を舞い、一撃必殺の間合いに入るも剣は風を切り裂いた。
謎の無人機が持つスラスターは尋常ではなく、零距離の離脱が驚くほど速い。
風車の様に大回りながらも、太い腕からビーム状の砲撃を加えて接近。
その回転が始まる前に、既に後退を始めた一夏。
未だ回転を続ける無人機は回避した相手を見もしないで追撃。
しかし鈴の砲撃を受けてか、回転を中止し砲撃を弾いて防ぐ。
合計四度目の攻撃は、これで無駄にされたことになる。
「一夏っ! ちゃんと狙いなさいよ!」
「ちゃんとやってるつーの!」
この4度の攻防で潤の言った、『おそらく無人機だと思う』という考察は間違いないと一夏は思った。
何せ回避が早すぎる。
いくらISのスラスターが凄かろうが、回避行動を取るのは人間の判断に基づく。
つまり回避行動やその直後の初動は人間の反射神経に依存する。
二対一の状況で四度も強襲を無力化できるのは、人間の反射を凌駕しているとしか思えなかった。
「一夏離脱!」
「援護頼む」
一夏が仕切り直しの為距離を取る。
バリア無力化攻撃にはどうしてもシールドエネルギーがいる。
現在のエネルギーは六十で、今のままでも零落白夜は後一度しか使えない。
無駄に攻撃を受けてシールドエネルギーを使うわけにはいかない。
鈴のエネルギーも既に百八十。
『一夏、もうすぐ小栗が着く。 それまで持ちこたえろ』
「潤が来るのか!?」
『もう二人ともエネルギーが心もとないだろうが、三年がアリーナに入るまで踏ん張れ、いいな』
「ああ任せてくれ」
二人から三人へ。
ようやく終わりが見えてきた。
シールドを突破して機能停止させる確率は最早一桁位しか残っていない。
潤を加えれば、二桁に戻すくらいはできる。
「――で、どうすんの?」
「潤が来たら俺は反撃する。 鈴は、逃げたければ逃げてもいいぜ」
「冗談!」
言葉が途切れた直後、無人機からビーム砲撃が雨あられと二人に押し寄せる。
尽きない砲弾から宙を旋回して距離を取る。
急速な旋回で意識が途切れ掛け、ブラックアウト防止機構がそれを防ぐ。
「こいつ、なんで急に俺を!?」
潤がアリーナに来る、そう聞いた途端に無人機の攻撃は一気に苛烈になった。
鈴の甲龍などお構いなしの猛攻。
たまらなくなって鈴に援護を頼むが、それを嘲笑うかのように龍咆の砲撃を打ち落とす。
雪片弐型で斬りかかるが、それよりも早く無人機は間合いを詰めると白式と衝突。
推力は白式が上だが、勢いは押し込んだ無人機にある。
手にある砲門が一夏の前に躍り出るのが、やけにゆっくりに見えた。
「一夏っ!」
追い詰められる白式にたまらず鈴が無人機に砲門を開ける。
しかし、ここで無人機は、既に無人という事実を隠すことをやめたのか、人体にありえない行動に出た。
一夏に向ける砲門をそのままに、もう片方の手を鈴に向ける。
体は不自然な方向に折れ曲がり、顔は百八十度方向を逆転している。
もし内部に人が居ようものなら大惨事であることは間違いない。
「鈴!? うおおぉぉぉ!」
一夏は何を思ったのか、スラスターの力を借りて宙を舞う鈴の前に躍り出た。
既にシールドエネルギーは底を尽きかけている。
もし、相手の連撃を受けたらどうなるか、代表候補性の鈴は良く知っていた。
搭乗者を守る絶対防御も完璧ではない。
「鈴は、俺が守る!」
「あんた、何馬鹿言って――」
手に光るビーム砲が光を放ち――。
「すまん二人とも」
聞きなれた声が二人のISに届くと同時に、そのまま白式と甲龍は、打鉄・カスタム・mkⅡの踏み台となり地に落ちて行った。
潤の打鉄は二人のアンロック・ユニットに着地し、更に自機を上昇させビームをかわす。
「ア――――っ!」
「ぎゃあ――っ!」
頭の隅に第三者が乱入する可能性は知っていたが、勝手に足場にされるとは想定外。
足場にされた衝撃はともかく、踏み台にされて蹴落とされた力は強かった。
制御を失い螺旋を描きながら墜落していく、白式と甲龍。
そのまま二人して仲良く地面にキスした。
「何をしている。 ちゃんと立て直せ」
潤は結構ひどい性格だった。