―――これでいいの……かな?
近くの壁に反射して映る自分の姿を確認する。何気に男子の家へお邪魔するのは初めてなのだからそれなりに服装や恰好には気を使った。その結果あまり力を入れ過ぎると勘違いされるかからかわれるし、あまり普通過ぎると失礼な気がするので、そこそこ力を入れる、という感じに服装は落ち着いた。そんなわけあって親しい友人と出かける感じ、という風に服装は着なれたワンピース姿になっている。今の季節が春になった事もあってこの恰好だと大分涼しく、過ごしやすい。ともあれ、確認したところ自分の恰好に悪い所はなさそうだ。これなら大丈夫だ。
マスコミもいないし、ストーカーの気配もない。ちょっとしつこい人もバインドをかけて軽く脅してきたので――尾行はなし。有名になるのも考え物だとおもう。ストライカー級魔導師となると出演やらいろいろで名前と顔が売れてしまうから外出も少し面倒だ。
と、そんな事を思っている内に目的に到着する。目の前にあるのは結構立派なマンションだ。結構いい所に住んでいるんだなぁ、と感想を抱きつつ自動ドアを抜けて中に入る。既に部屋の番号は確認しているので特にロビーで動きを止める事無く、軽く辺りを見渡してエレベーターを見つける。歩いて近づきエレベーターのボタンを押すと、既にエレベーターは到着していたのか扉は直ぐに開いた。エレベーターへと乗り込み、フロアを示すボタンの内、上層に近いボタンを押す。こういうマンションは上へといけばそれなりにお金のかかるものだが、そこそこもうかっているのだろうか―――と、まで思ったところで、そういえば自分と同じ職場であることを思い出す。自分の給料を思い出し、そして最近どっさり入ってくる危険手当を思い出す。あぁ、確かにそれならこれぐらいの生活はできるだろうなぁ、と軽く家賃を想像していると、エレベーターが動きを止める。
開いた扉の向こう側へと歩きだし、近くにかかっている番号プレートを確認する。それでどちらへと進むべきなのか確認し、そちらの方向へと向かって歩き出す。ざっと見た所、このフロアは部屋が二つ三つしかないっぽい。他の入居者がこのフロアにいないらしいとは聞いていたので、結構騒げるんだろうなぁ、と送っていそうな賑やかな生活を想像し、そして到着する。最後に一回だけ自分の身だしなみをさっとチェックし、そして扉の横のベルを鳴らす。
「……あの、高町なのはです」
思わず敬語になったが、返事は帰ってこない。扉の向こう側から気配は感じる。だからこれで大丈夫なのだと思い、少しだけ緊張して待っていると、かちゃん、という音がして扉が開く。そして扉が開き、迎え入れてくれるのは、
「よぉ、遅かったじゃねぇか」
シャツにジーパンという恰好のイストだった。だがそれでもサングラスと長袖、そしてデバイスを装備しているという恰好は変わらない。おそらくだが、こっちの事を気遣っているのだろう。敬語は外せても、まだこのラインは外せないらしい。
「そんなに遅くないよ」
「はいはい。今儀式の最中だから中に入って少し待ってろ」
「儀式?」
イストがドアを開けてくれるので中に入る。イストが玄関で靴を脱ぐ動作を見て、あ、っとここのスタイルが日本の住宅と同じスタイルなんだなぁ、と軽い親近感を覚える。ミッドは地球風に言えば洋風の建築タイプというか、靴を脱がず部屋に上がるタイプの家が多い。だからこうやって靴を脱いで上がるタイプの家には結構親近感がある。
イストが先へと進んでいる。それを追いかけるようにリビングへと出ると、
「えーと、では処刑を開始します」
「うまうま」
「ぐわぁぁぁぁ―――!」
少女を椅子に縛り付け、その周りでケーキを食べているという異常な光景が繰り広げられていた。ただただ少女の周りで少女達三人がケーキを食べているという光景。そこに迎えてくれたイストも混ざってケーキを食べ始めると、椅子に縛られている少女が悲鳴のような声を上げる。
「ぎゃあ―――!! それ僕の―――!!」
「駄目です。悪い子にはおしおきしませんとね」
「そうだそうだ」
「もぐもぐもぐもぐ」
涙を流しそうな表情で椅子に縛られているのは水色、親友のフェイトの様な姿の少女、レヴィで、そしてその周りにいるのは自分や、自分の友人と似た姿を持っている人物たちばかりだ。一人だけ、全く知らない子がいるが、それは自己紹介してくれるのだろう。ともあれ、ケーキを食べているイストへと近づいて、肩を叩く。
「な、何をしてるの……?」
「ん? コイツが予想以上にアホだった事に関してのおしおき」
視線をレヴィの方へと向けると、レヴィが涙目を此方へと向けてくる。それは確実に此方へと助けを求めているようなもので、まずフェイトが見せる事の無い少々情けない姿だ。こんな姿を見せられてしまうと本当にクローンだが、別人だと認識する。
「えーと、助けてよ―――砲撃魔!」
「ギルティ。私にもケーキください」
「敵が増えた! なんで!? 何がいけなかったの!?」
しいて言えば人の呼び方が悪かったんじゃないのかなぁ。
イストからケーキの乗ったお皿を貰いながらフォークでケーキを切り、そしてそれを口に運ぶ。意外にも高級品らしく、それはかなり美味しかった。
◆
「―――えーと、つまり簡単にまとめるとイングさんは敵でストーカーで、そしてついでに若干ヤンというかキチが入っているヤンデレで、殺してくださいって告白したら姿を消すんだけど既に”あの女の気配……!”って感じに探知していたレヴィちゃんが適当な理由でっち上げてストーカー退治に乗り出したのはいいけど、腹パンされて逃げられた上に八つ当たりでビリビリしたら近くの電線にクリティカルヒットしてここら一帯が停電、冷蔵庫の中身が死んだおしおき―――って感じなのかな?」
「そうだよ!」
椅子から解放されたレヴィは残ったケーキ、最後の一切れにフォークを突き刺しながら答える。少し前までは発狂しそうだったくせに、こうやって解放されてケーキを与えられた瞬間にはもう元気になっている。現金だなぁ、と思うと、じゃあ、とイストが口を開く。
「改めて紹介する……っつーのか? 俺が一家の大黒柱でパパのイスト・バサラ」
その紹介の仕方にクスっとくる。そして、そのイストに横に並ぶのが自分と同じような姿をしている少女だ。此方よりも少しだけ色の濃い茶髪、瞳の色は違って、目つきは少々鋭く思える。全体的に自分よりも知的なイメージをしていると思う。
「初めまして、私が正妻のシュテル・B・スタークスです。正妻ですのでお忘れなく。ご察しの通り、貴女のDNAをベースにプロジェクトFを通して生み出された”理のマテリアル”のクローンです。特に遠慮とかはいらないのでシュテルとお呼びください」
激しい正妻アピールに少し頬を引きつらせながらいると、フェイトに良く似た水色の髪の少女、レヴィがケーキの乗っていた皿をテーブルの上に置いて、胸を張りながら主張する。
「僕の名前はレヴィ・B・ラッセルだよ! 役割りは”力のマテリアル”で僕は―――」
「愛人です、レヴィ」
「愛人だよ!」
「ぶっ」
思わず今の発言には吹き出す。しかもごく自然にフォローするものだからレヴィは何も違和感を抱いていない。なんなのだろうか、この自分のクローンの激しい愛情アピールは。とりあえず、向けられている本人は困ったような様子を浮かべてシュテルの頭を押さえている。
「貴様結構自己主張というか顕示欲凄まじいな……ともあれ、我がディアーチェ・K・B・クローディアだ。本来はB、つまりバサラ性が無いのだがそれは我らの立ち位置を明確化させるものだと思ってくれ。ともあれ、我がこの場にいる四人をまとめ上げる”闇統べる王”というポジションだ。……あまりマテリアルとかは気にするな、そこまで重要な所ではない」
そう言って丁寧に話をしてくれるのがはやてに似ているが、シュテル同様目つきが若干鋭く、髪は白く染まっている少女だ。ディアーチェと名乗った彼女の事も、自分は遠巻きに、呆然としていたが見ていた。彼女がどれだけ他の二人の事を思っていたのかも。
そして、最後に口を開くのが金髪の少女だった。この子だけは自分の知り合いの誰にも似ておらず、そして見た事の無い子だった。彼女は此方の視線を受けるのと同時に軽く頭を下げ、
「どうも初めまして、ユーリ・B・エーベルヴァインで、本来のポジション的には”紫天の盟主”なんて物をやっていますが、デバイスのない私達にはほぼ関係ない感じなのでそこらへんはスルーでよろしくお願いします。あと家族的立ち位置だと私は―――」
「私は?」
そこでユーリは両手を頬に当て、そして体を恥ずかしそうにくねくねさせる。
「―――可愛がられるペット的な立ち位置です。えぇ、それはもう可愛がられているので。具体的に言うと毎晩毎晩―――」
「ない事を吹き込むな貴様ら」
イストのげんこつがシュテルとユーリの頭へと叩き落とされ、一気に二人が床へと沈み、動かなくなる。そこまで強くはやってないのだろうが、この息の合い方はまさに身内と言える者がこなせるやり取りだと思う。あぁ、そして―――ものすごく、救われたような気分になる。
「うん? 泣いているの?」
「……え?」
目元へと手を持って行くとそこには確かに涙の形跡があった。
……あぁ、やっぱり―――。
あの時あんなかっこいい事を言ったが、やっぱり負い目はあった。いや、自覚はしていたけど弱音を吐ける相手はいなかった。だって事情を話す事は出来なかったから。ただずっと、殺した事への後悔だけはくすぶり、そして残り続けてきた。だがこうやって、もし救えた場合の彼女たちを目の前に見る事が出来て―――こういう結末を迎えられている人たちがいるのを見て、少しだけ、救われた気分になる。その意味はおそらく彼女たちを目の前のこの子達と重ねているのだろうけど、
「ううん、何でもない」
「そう? オリジナルのライバルは意外と泣き虫さんなんだね」
「そ、そんなことないよ!」
何も言ってこない事に感謝しつつ涙をぬぐい、レヴィへと反論する。そこで何故か勝ち誇った笑みを浮かべるシュテルの存在はガン無視するとして、視線を改めてイストへと向ける。
「で、話してもらえるんだよねロリコン」
「話す予定はあったんだけど、話し始める前にまずその不名誉な称号に関して話し合おうか? うん? 何、理解してくれないのなら別の儀式を始めるだけさ……!」
「ひっ」
レヴィが儀式という単語に反応して軽く震えあがる。あのケーキはどうやらレヴィの大好物らしく、それを見せつけながら食べる事で反省を促していたらしい。なるほど、外道らしい教育方法だ、と納得できる。ともあれロリコンではないらしい。だとしたら、
「ペドなの?」
「お前は何でそう俺を社会的に殺そうとするんだよ」
「あとペドだったら此方が困ります。ペドだったら私が成長した場合反応しない可能性が出てくるので前言撤回してください」
再びげんこつがシュテルに炸裂する。何かを言おうとユーリも口を開いていたが、一瞬のうちに発動して姿を消したげんこつの姿を見るに、言う事を止めたらしい。実に賢明な判断だと言ってあげたい。
「はぁ、……我らは保護されたのだよ、そこなお人好しにな」
話が進まないと思ったのかディアーチェが口を挟んで話を進める。
―――そして、そこから話は広がって行く。
一年以上前にイストがまだ嘱託魔導師だった頃、この四人を研究所で見つけ、自分が消される事に恐怖を感じて助けた事。四人を匿うのが金銭的にきつかったので昇段試験を受けて空隊へ来た事、相棒と共に事件を追った事―――今へと至る事に逢った全てをイストはゆっくりと時間をかけながら説明した。
話が終わるころにはもうだいぶ遅い時間になっていた。そして気づけば食欲を誘う匂いが辺りに充満していた。
「話す事はまだあろうが、それも全ては食べ終わって後でも問題なかろう」
「だぁな」
そう言って話は一旦区切られる、考える事を色々と残して。
ちょっと適当かなぁ、と思いつつもなのはちゃんとの本格的な話し合いはまた次回。やっぱり疲れとかを考えると1日2更新が限界かなぁ、とか思いつつも本日の3更新目の為にブログの方の物を執筆中。
なのはちゃんは何故救われたのかなぁ、と思いつつまた次回。