マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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 ほら、マテリアルズが欲しいって言ってただろ。デタヨー。


スクリーミング・アンガー

 ―――数分前。

 

 シャッターが下りてバインドに拘束された直後、

 

 体は物凄い勢いで引きずり込まれていた。素早く四肢に纏わりついた魔力の枷はそのまま体を研究所の奥へと引っ張りこんだ。それを破壊し、脱出する事は支援型魔導師として、そして修練を重ねてきた武術家としては簡単な話だ。ミッドチルダでも、ベルカでも通っている武術の奥義には必ずバインド破壊や拘束脱出の奥義が存在するからだ。だから抜け出すこと自体は決して問題ではない。だからこそここはあえて拘束を抜けださず、素早く自分を引き寄せさせる。

 

 そうして高速で引っ張られる通路の奥に、人の姿が見える。

 

 そこが終点だと悟った時、バインドを破壊して着地をする。そして視線をあげる。

 

 そいつは白衣姿だった。楽しそうに笑みを浮かべ、頭髪は頂点が紫だが、下へと続くにつれて色素を失って灰色へと変わっている。顔も少しだけ、しわがある様に思える。本来よりも”歪”に加齢しているように思える存在だった。だからこそ目の前のこいつが自分の敵であるという事を悟るのに時間はいらない。それを悩む必要はない。この鼻がひん曲がる様な悪意の臭いをまき散らせる存在をただの研究者として見過ごしておくわけがない。だからこそ、第一声は決まっている。

 

「―――鏖殺―――」

 

「やあ、初めまして。私の名前はジェイル・スカリエッティ―――双子でもう一人のスカリエッティには外道の1号さんとかって呼ばれていたりするんだけどあんまり興味なさそうだね君、そこらへん。ははは、まさかこんなにも君が欲望に素直だとは思わなかったよ―――」

 

「―――拳、ヘアルフデネ」

 

「―――あぁ、実に好感が持てるね?」

 

 目の前にシャッターが下りてくる。が、フルドライブモードに入る必要すらない。あの日、生き延びてしまった日より鍛錬を欠かす日なんてなかった。最高の奥義が、自らの技術を集約した全てを放っても殺せなかった存在がいた。だとしたらそれを殺せるように拳を磨くしかない。あの極みとも、悟りの境地とも言える至高の拳に届く事だけはありえないと理解した。だとしたら逆側へと向かって落ちれるだけ落ちて、より強く練り上げなくてはならない。

 

 殺意を。

 

 故に、修羅道の拳を、

 

「止められると思うな」

 

 跡形もなく粉砕する。破壊、ではなく粉砕。改良ではなく改悪。拳は命中したその個所から物質を粉々に破壊して広がって行く。故に衝撃によって弾ける筈だった分厚いシャッターは砕けずに細かい破片に粉砕される。衝撃が逃がされるなら着弾箇所からひたすら破壊すればいい。到底人間へと向かって放てるようではないこの形こそが鏖殺という形としての完成形、故に改悪。普通に考えて到着できる最悪を求める故の改悪。

 

「素晴らしい。捕まえようとする意志すら感じない。君は本能的に私が悪だと断じている。本能的に私がティーダ・ランスターが死ぬ原因となった黒幕であることを理解している―――そしてその感覚は正解だ。覇王は君の事を獣と評した、なるほどと納得の言葉を送らせてもらおう―――おっと」

 

 塵が喋り、後ろへと下がろうとする。逃がすわけがない。再び拳を振り上げる。叩き込むのは変わらぬ一撃。ただ必殺のみを求める一撃。それ以上もそれ以下もなく、ただただ鏖殺するだけ為の一撃。どの流派にもない、自分だけの自慢だった。

 

「ヘアルフデネ」

 

「二枚目だ」

 

 目の前にシャッターが下りてくる。それの出現と同時に拳は命中し、シャッターは再びその役目を果たすことなく粉々となって存在を終わらせる。

 

 ―――殺す。

 

「完全な私怨でテメェを殺す」

 

 その言葉を聞いて塵が―――男が口を開く。その表情は楽しそうに笑みを浮かべ、此方を輝く瞳で見ている。ただただ期待を込めた瞳だった。その視線が激しく鬱陶しい。友人との約束は守らなくてはいけない。家には帰らなくてはならない。生き延びた代償だ。真実を知り、生き延びたものは形はどうあれ、罪を背負わなくてはならない。生き恥を晒している現在に対して、また普通に生きる為に、その罪を清算しなくてはならない。

 

 だから、

 

「復讐させてもらうぞ……!」

 

 馬鹿だからそれ以外は知らない。仕方がない。学校なんて中退だ。なのはの事をそれでネタにして笑ったりもしたが、本当は俺にだって笑う資格はない。こうやってさも当然の様にひけらかしている知識だって必死になって覚えたもんだ。仕方がない、だって馬鹿だから。男は格好つけなきゃいきていけない馬鹿な生き物だから。だから何でも知っているかのように振舞って、弱い所は絶対に見せないで、そして常に前に歩いて、そして約束を果たさなきゃならない。たぶんアイツも同じことをしてくれただろうから。だからこれは別段特別な事じゃない。当たり前の事でしかない。

 

「―――殺す」

 

「あぁ、確かに獣だとも。だがそれ以上に鬼だ。修羅の類のな。君は君が普通だと思っているようだがそんな事は別にない。君は狂っている。それは確約してあげよう。何故それが解っているかって? だって君はこうも私に似ている。その欲望への忠実さ、それだけは自信をもって肯定してあげよう。まあ、そんな事をされても君は嬉しくないだろうがね―――」

 

 そして男は再び下がり、壁が数枚、道を遮ってくる。だが知った事ではない。邪魔するなら存在そのものを終わらせる。

 

「消えろ」

 

「三枚め、そして終わりだ」

 

 拳が数枚重ねられ生み出されたシャッターを貫通する様に粉砕したところで体は自動的に動きを停止した。それは別に体へ異常が現れたのでも、魔力がなくなったわけでもない。ただ目の前、殺すべき標的と、そしてその間に立つ存在が新たに表れた。それだけだった。だが体は目の前の存在が現れるのと同時に殺意による操作を受け付けない。

 

 男と自分の間に立っているのは茶髪の少女だった。見た風からすれば年齢は13歳程。ショートヘアーで、バリアジャケットは紺や紫、だいたいそういう感じの色を使っている。どこかの誰かが使っているバリアジャケットの色違い。そう表現するのが正しい姿の相手だった。ただ、問題なのはそこではない。彼女の姿、それは自分の良く知る人物のもので、追撃で相手へと叩き込むはずだった拳は中空、少女の前で止められている。

 

「じゃあ、君のその素晴らしい欲望っぷりをちょっとテストしてみようか。こう見えても無限の欲望なんてコードネームをつけられるぐらいには欲望に関してはプロフェッショナルなんだよ? いやぁ、自分でもどうかなぁ、って思うぐらいの事なんだけどさ、ここら辺は。あぁ、ごめんごめん。少し脱線しちゃったね」

 

「お前……」

 

 目の前の少女は数時間前まで一緒に珈琲を飲んで時間を過ごしたはずの少女だった。ただ今、その少女はデバイスと思わしきものを手に、それをレイジングハートの様に変形させ、

 

 そして胸に矛先を突き刺してきた。

 

「―――ルシフェリオンブレイカー」

 

 慈悲も躊躇もなく、砲撃魔法が体へと叩き込まれた。ゼロ距離で放たれた砲撃は全て計算されたものだ。研究所へと被害を出さない様に、どこへ被害を出しても平気であるか、それを計算しつくされて威力も調整して放たれた砲撃魔法。それを受けて全身に燃えるような痛みを味わいながら吹き飛ばされる。

 

 感情の無い瞳で杖を握る少女を見ながら、耳は声を拾う。

 

「理のマテリアル―――星光の殲滅者(シュテル・ザ・デストラクター)」

 

「がぁっ、ぐぅっ」

 

 吹き飛ばされた掌撃から受け身も取れずに体は床を跳ねながら転がり、そして動きを停止する。口から血を吐き出し、回復魔法すらも使う事を忘れ、砲撃を放った少女を、シュテルを見る。そして、それからその背後に立つ男を見る。

 

「て、めぇ、シュテルになにしやがったぁ―――!!」

 

「なにも? というか彼女は君が家で匿っているシュテル・スタークスではないよ。ほら、今シュテル・ザ・デストラクターって名乗っただろ? 別人。今日こうやって君をテストするためだけに作り出した新しいマテリアルズのクローンなんだよ。やったねシュテるん! そこの男のおかげで生まれてくる事が出来たよ! あ、私の事パパって呼んでもいいのよ?」

 

 ―――匿って……いるのが……?

 

 バレている。自分が家にあの四人の少女を匿っている事が。それもおそらく一番理解されてはならないやつに理解されている。何時かはバレる生活だと思っていた。だが、目の前の少女が自分をテストするために生み出されたという事は……!

 

「あぁ、君のこと自体は最初から知っていたよ。報告で私の作品を四人とも保護して隠している男なんているもんだからちょっとだけ興味はあったんだよ? まあ、直ぐに忘れたが。どちらかというと私は完成品にじゃなくて完成させるというプロセスに対して興味を持つんだ。そこへと至る道程にこそ一番欲望は反映されると思うんだ。まあ、鬼畜の2号さんはそこらへんちょっと違うんだが興味ないよね? ハイ、ここはカットするとして―――」

 

 男はシュテルを横に連れて近づいてくる。近づきながら口を開き、言葉を刃の様に振り回してくる。

 

「あー、えーと、何だっけ?あぁ、そうだったそうだった、君が頼んだブローカーというのが元々私が趣味で部下? にやらせていた事で、関わってくる人間をちょこーっと観察して暇をつぶす感じのアレだったんだよ。それでまあ、最初から君の事は把握していたんだよ。あぁ、安心したまえ、もちろんこのことは最高評議会にも報告しているよ? まあ、あの連中も全く興味がないのでスルーだったけどね! それでも外へ出さないって判断は悪くはなかったよ。もし堂々と連れ回すようなことがあれば流石に此方としても放っておかずに”遊び”始めたわけだからね。―――あぁ、でもそう考えるとこうなるのも時間の問題だったのかもしれないね? ヤダ、運命の赤い糸で結ばれている……!」

 

「吐き気しかしねぇなぁ!」

 

「おや、少しは元気がでたかい? じゃあちょっくら絶望させてあげようか」

 

 目の前まで男とシュテルがやってくる。シュテルは片手を使ってバインドを使い此方の体を浮かび上がらせるとデバイスを構えようとする。が、このシュテルが自分の知っているものと違うのであれば、これ以上殴られる趣味はない。申し訳がないが―――人形にはここで砕けてもらう。

 

 一瞬でバインドを破壊して拘束から逃れる。目の前の障害を粉砕し、再び前へとでる。それだけの作業だ。

 

 そして、

 

「君の為に用意したマテリアルズは三人。四人目は流石に面倒だからやめたけど、彼女たちの知能、記憶、性能、精神状態、その全てを君が拾ったその時と全く同じ状態にしてある。―――その意味が解るかい?」

 

 動きを止めるしかない。

 

「”スタート地点”は一緒なんだ―――今君がやっている様に、平和な家族ごっこをさせれば普通の少女として育つんだよ。目の前の少女も、今高町なのはを襲っている彼女も」

 

 その言葉に動きを止める事しかできない。視線を少女の物へと合わせる。真直ぐ、その瞳を見据えてその真意を読み取ろうとする。―――そうすれば僅かにだが瞳は震え、そしてその無表情が仮面であることに気づく。冷徹な殲滅者の仮面。それを被った少女は再び杖の先端を此方の体に―――今度は腹に突き刺す。

 

 今度こそ、完全に体を動かす事が出来ない。復讐への思いと、そして少女達への思いのはざまにすりつぶされ、身体が動く事を拒否していた。

 

「ルシフェリオン―――穿ちなさい」

 

 そして再び赤い砲撃は放たれる。強烈で過激な赤の砲撃。それは体を焼きながら相手を殺す炎熱の力を持った破壊の力。それをノーガードで受ければ常人としての運命。そうであればどんなに楽だったのだろうかすらわからない。だが主人と長年を過ごしてきたデバイスが、身を守ろうとして勝手に魔力を使用した術式の展開をする事だけは理解できた。ありがとう、もしくはよくも余計な事をしたな。どちらの言葉を使えばいいのか判断できない。ただ強く噛みしめる唇は歯の噛んだ痕を刻んで、血を流す。

 

「死んでもらいます。王の為に」

 

 少女の声は真直ぐ、死刑宣告の様に響き渡った―――だがそれが何故か震えているようにも思えた。何故だ。何故だ。何故だ―――!

 

「スカリエッティィ―――!! テメェ―――!!」

 

「言っただろう? ”遊び”だって。シンプルに”君の欲望は家族よりも重いか”を、それを測る為だけのゲームだよ。ほら、流石に本人を使うのは次の遊びの為にも自重しておいてあげたんだから、遊ぼうよイスト君。量産型とか芸がないしあんまり好きじゃないんだけど捻じ曲げてみたんだよ? だからほら、試そうよ―――死んだ友人の仇を取るためにその子達を鏖殺するかい? それとも諦めてその子に殺されるかい? あ、これはどうでもいい話だけど三人目のディアーチェは人質としてこの一番奥にいるよ。あ、でもシュテルもレヴィも敗北した場合はドカン、てする設定だし助かる場合はどうしたらいいんだろうね? まぁいいや。ほら、早く続きを始めようよ」

 

 吹き飛ばされた体を持ち上げながら怨敵の名を叫ぶ。だがそれで現実は変わる訳ではない。

 

 俺がここで死ねば家にいるやつらが危ない。

 

 だが俺がここで何らかの敗北をせぬば家にいる彼女たちと変わらない、目の前の少女が死ぬ。

 

 だが、親友の仇は絶対に取らなくてはならない。

 

 拳を、意志を鈍らせているのは明白だ―――目の前の少女には家で馬鹿をやっているあの少女達と一切変わりがない、過ごした時間が存在しないだけという事実だ。それが、彼女の秘めた可能性が此方の心に迷いを叩き込んでいる。

 

「―――そしてそれは好都合です。死んでください―――お願いします」

 

 ルシフェリオンの砲口から閃光が溢れた。




 まだ俺達の絶望は始まったばかりだ! 希望のターンなんてない!

 と、言うわけでなのはさんがギャグっている間、向こう側は……という事です。なのは視点はしばし休憩ですな。皆さんならどちらを優先しまかねぇ。

 あと外道の1号さんの会話が脈絡なかったり話から話へ飛んだり、突拍子がないのは仕様です。

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