マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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ジョーキング・ジョーカー

「―――さて、無駄に長々と話してしまったね、ティアナ・ランスター君。私の娘達はセインとウェンディ、あとはガジェットを指揮しているウーノにここにいるドゥーエを除いて全員撃破され、捕まったころだろう。うーむ、こう見るとなんてあっけないもんだろうなぁ、私も我が娘も。結局は自分が一から作ったものが先に負けて、まだ立っているのが模倣品や贋作だと考えると、結局の所私個人の能力は管理局を超える事は出来なかったのだろう。あぁ、しかし娘達には悪い事をしてしまったかもしれないね。彼女たちは間違いなく勝つつもりだったのだろうし、そこを裏切ったのは間違いなく私のスタンスだ」

 

 そんな事をスカリエッティは言ってからさて、と言葉を置く。ピクニックバスケットや水筒をしまいはじめ、シートの上でゆっくりと立ち上がり、そして体を伸ばす。頭上に輝く太陽の日差しをしっかりと受け止めながら、スカリエッティはゆっくりと此方へと振り返ってくる。次元世界で今一番凶悪と言われるはずのジェイル・スカリエッティ。その男には狂気がある。だが何かに怒る様な、憎悪をするような、そういうマイナスな感情を目の前の男から感じる事は一切できなかった。ただ見る分には夢に挑む科学者、そんな風にしか見えない。

 

「―――私はね、結局の所自分の業から逃れぬことはできないのだよ。最高評議会の老人方が私に求めたのは人類生命の追及と、そして生成だ。彼らは新たな肉体を求め、私はそれを作る事となった。私はその一点から外れていなかった。プロジェクトFも戦闘機人も結局はその延長線の事でしかないのだよ。私は最初に与えられた職務を結局の所ずっと全うしていただけなのだ。そう、最初から究極の生命というものを求めていたんだ。で、結局私は何に行きついた?」

 

 スカリエッティはホロウィンドウを表示させる。そこにはヴォルテール、白天王、ディアーチェ、そしてボロボロのナハトヴァールの姿が映し出されている。ホロウィンドウの中で巨大な剣に貫かれ、動きを縫いとめられたナハトヴァールは真竜の繰り出すブレスに正面から直撃され、そしてその上半身を吹き飛ばされる。それを再生して元に戻ろうとするところに白天王が上から押しつぶす様に攻撃を繰り出し、そのままナハトヴァールを消し飛ばす。そんな、常識では想像もできない超決戦の姿をスカリエッティは少しだけ悲しそうに眺める。

 

「これはどうだ? 闇の書の闇、ナハトヴァール。バグと害悪の概念が融合したような存在で、再生能力等を合わせ持った究極の生命体か? 否、最初はこれもそうかと思っていたが違った。結局の所真竜と戦えば負けるし、ああやって負けている姿を見ればアレは絶対に違うと断言できる。だったら究極の生命体とは、一体なんなんだ? 私はね、それを求める事から自分の目的を決めたんだ。何が究極。何を求めるべきなのかと。それはとてもとても興味深い事だったんだよ、少なくとも私にとっては」

 

 スカリエッティはそこで一旦言葉を置くと、深呼吸をした。

 

「そして結論へと至った―――究極とは即ち完成された存在。歴史を探してもそんな存在は一人だ。たったの一人しか存在しない……即ち聖王家”最高傑作”にして”最終”な存在、聖王オリヴィエ・ゼーゲブレヒトその人しかない、と。ま、そこから私の研究は新たなフェイズを迎えたのだよ。探究から製作へと。ナンバーズを作ったりナハトヴァールを解析したり色々とやって、人間の仕組みや構造、そういうのを私は色々と探して……そして聖王オリヴィエを完成させるためのシステムを生み出した。聖王の体を生み出すためのシステムは既に外部へと何年も前に流出してある。メモリーの方も用意してある、聖王核だって、義手だって、全てが用意してあった」

 

 そうやって己の事を語るスカリエッティの声には段々と熱がこもり始めていた。今までの上っ面の楽しさではなく、スカリエッティは自分の願いを伝える事に楽しみを覚えていた。それがその態度と、そして声から理解できた。そしてなんとなく、何故スカリエッティが自分を話し相手に選んだのか、それを理解してきた。……おそらく自分以外の人間であれば、ここまでまともにスカリエッティの話を聞く事はなかっただろう。……たぶん、それだけの理由だと思う。

 

「―――だがね、私は最後の最後で欲を出してしまった! そう、”無限の欲望”らしく! このままでいいのか? 聖王オリヴィエ、それは確かに人類の究極的存在だとも言えるかもしれない。だがそれは所詮ただの再現ではないのかね!? 私はただ過去の存在を蘇らせているだけだ、ナハトヴァールも! ゆりかごも! 聖王も! 結局は全て過去の遺物ではないか! そう、そうだ、私は気づいてしまったのだよ、私は何一つ成し遂げていない! 何一つとして成し遂げてはいないのだ! そして私は目標を改めたのだ―――私が手を貸し、強くした存在が、蘇った過去に、最強に、究極に打ち勝てるのかどうか」

 

 そこまで言われてしまえば解る。つまりスカリエッティの計画とは”あの”二組をぶつける事にあったのだ。―――イストと、そしてオリヴィエをぶつけ合わせ、そして尚且つイストを勝利させることにあったのだ。

 

「解るだろ? この目的が。そうだ、その為に私は途中から色々と苦労したのだぞ? わざと見逃したり盗みやすい所に強化パーツを置いてやったり―――まあ、そのおかげで非常に思ったように事が運んだよ。いやぁ、実に上手くいくものだね。私が、私”達”が苦境に追い込んだ男が、成長しながら、少しずつ此方の力を取りこみ、育った存在が、再現された過去の最強に挑む。ハハ、どちらも私が生み出してやった様なものだが―――これであの男が勝てばほら、私が、科学が勝ったって事になるんじゃないか?」

 

 こいつは一体何を言っているんだ。

 

 言っている意味がよくわからない―――ただ満足そうなのでよし、と頷いておく。そうするとスカリエッティが理解されたと思ったのかサムズアップを向けて来る。ムカつくのでその親指を掴んで折りにかかる。

 

「あた、あたたたた、痛い!! 超痛い! 助けてドゥーエ!」

 

「折らないように気を付けるのがコツよ」

 

「私の味方がいない!! 何時も通りだ!」

 

 とりあえずスカリエッティを解放し、そしてバーサークロリの姿を映しているホロウィンドウをチョップで叩き割る。それからクロスミラージュとタスラムを握り直し、そしてそのグリップでごんごん、とスカリエッティの頭を叩きはじめる。ドゥーエはその光景を楽しそうに見ているがこの女は本当にこの男の味方なのだろうか。まあ、とりあえず。

 

「いい加減捕まえたいんだけど」

 

「あ、すいません、すいません、ほんの少しだけなんで。あとほんの少しだけなんで……ってなんで私がこんな下手に出ているんだ。こういう場合は私が―――あ、痛い、痛い。ガンガン響くのでやめてください。体は貧弱なので暴力反対! はんたーい!」

 

 反対、と言いつつスカリエッティはホロウィンドウを広げ、そしてポーズを取る。片手を真直ぐ此方へと向け、そして真剣な表情を見せてくる。

 

「すいません、これ終わったらバインドで簀巻きにしてもいいんで」

 

 スカリエッティからの許可は出たのでとりあえずバインドの準備だけはしておく。そんな状況の中で、スカリエッティはホロウィンドウをドンドン増やす。その数はスカリエッティを全方位から囲む数となり、その中心でスカリエッティは腕を広げる。スカリエッティが此方をその光景に巻き込まないのは最低限の配慮なのだろうが―――何故、そんな配慮をするのだろうか、という疑問は残る。

 

「やあ、皆さん。戦争、しているかね? あぁ、そのブーイングは納得がいくものだよ。実にすばらしい、そうやって怒りに狂っている君たちは現在進行形で生を実感しているのだろう。故に再び言わせてもらおう―――実にすばらしいと。そして君たちは今困惑している事だろう、何故私が今になって姿を現すか。いや、何、そうたいしたことではないのだよ。君達には是非とも知りたいと思うだろうからね―――あのゆりかごの中で起きている事を。これから起きる世紀の戦いを」

 

 スカリエッティの言葉は見事にホロウィンドウに映し出される人々の視線と、そして意識を奪っていた。最前線から響いてくる轟音に変更はない。だがそれでも、誰もがスカリエッティの言葉に耳を傾けていた。それを理解しているスカリエッティは腕をまるで指揮者の様に振るいながら、新たなホロウィンドウを生み出す。おそらく全ての人間か、それに近しい人数に対して贈られているホロウィンドウだ。そこには今、何も映し出されてはいない。

 

 が、

 

「括目せよ―――これが私の目的、この戦いの真意だ……!」

 

 そして、ホロウィンドウが映し出す。

 

 ゆりかごの内を、

 

 ―――じゃんけんをしている二人の姿を。

 

『あいこで』

 

『っしょ! っしょ! っしょ! っしょ! っしゃあ!! 勝ったぁ! いえーい、元先輩ざまぁ!』

 

『はぁ? 何言ってんのお前。今のはアレだよ、ほら、超小物のお前に花を持たせてやろうとしてちょっと手を抜いたんだよ。お前アレだぞ、俺のグーなんかワンパンでパーを消滅させられるんだからな。そこらへんいい気になるなよ』

 

『えー、何か元先輩が超負け惜しみしてる。なんか面白いんですけど。まあ私が勝ったし今度は左に曲がろうか。次の曲がり角までガジェット壊すのは元先輩の番で』

 

『クッソォ……』

 

 そう言って白いバリアジャケット姿のなのはと、そして普段着に見えなくもないハーフコート姿のイストがゆりかごの中を歩いていた。虚空へと向かってイストが拳を振るうと鋼が砕けるような音が響き、次の瞬間にはステルスの消えたガジェットが前方へと向かって回転しながら吹き飛んでゆく。銀髪のイストと、そしてサイドテール姿のなのははそのまま無人の野を行くようにガジェットをあっさりと撃退しつつゆりかごの中を歩いていた。

 

 次の瞬間に視線が集まる先はスカリエッティだった。

 

「す、すみません、ちょ、ちょっとタンマ。ねぇねぇ、イスト君イスト君! なのは君なのは君!」

 

 ホロウィンドウの中でうん、と言葉を零しながらイストとなのはが辺りを見回すと、二人の前にホロウィンドウが出現する。おぉ、となのはが声を零すそのホロウィンドウはスカリエッティの顔を映している事から、スカリエッティが必死に対応しているのは解る。

 

「君たち何やってるの?」

 

『え、迷子』

 

『せんせー! 私達ヴィヴィオを探しに来たんですけど道が解りません!』

 

「案内用のガジェットを内部に用意させて待機させたはずなんだけどなぁ……」

 

 スカリエッティの言葉になのはとイストは顔を見合わせてから首をかしげると、思い出したかのような表情をしてから目線を逸らした。直感的にあ、こいつら特に考えもせずに壊したな、と身内の蛮行に対して即座に理解する。流石キチガイ教官とキチガイ騎士。たぶんとくによく考えずにこの二人、見えるものすべて殴り飛ばしたな。

 

「ご、ごめんね? その、私にもスケジュールってものがあってね?」

 

『はよ行きたいから地図寄越せ』

 

「あ、はい」

 

 スカリエッティが地図をゆりかご内部へと送り込んだタイミングを見計らって魔法を発動させる。チェーンバインドを一気に放出し、それで一気にスカリエッティをぐるぐる巻きにし、床に倒す。その姿を足で踏みつけ、そして額の汗を拭う。

 

「ふぅ……ティアナ・ランスター二等陸士、ジェイル・スカリエッティを確保しました」

 

 ホロウィンドウから一気に響いてくる歓声の声を浴びながら足の下で芋虫、等と言ってくるスカリエッティを完全に無視し、そして視線をドゥーエへと受ける。

 

「私に抵抗する気はないわ。戦闘用に再調整を施されたのは一応だったし……それに私自身そこまで戦いとかは好きじゃないし、それよりも色々喋るから妹達の安全を保障して欲しいわ」

 

「忠誠心皆無で欲望に素直だなぁドゥーエは!」

 

 そこで何で嬉しそうにしているかなぁ……。

 

 この男の頭のおかしさに改めて気付かされながら溜息を吐くと、スカリエッティが足の下でまぁ、と声を零す。

 

「私が捕まった所で問題は何一つ変わりはしないのだけどね。何しろ私がこうやって用意した戦力の全てを集結しても結局の所聖王には傷一つ付けることができないからね!」

 

 改めて恐怖を覚える様な言葉を残してからスカリエッティ楽しそうに口笛を吹き始める。……この状況が出来上がっている時点でスカリエッティのもくろみは九割がたは完成しているようなものだ。

 

 しかし、

 

「結局何でアンタは私と会話がしたかったわけ」

 

 その問いを足元の芋虫に投げつける。返答はシンプルなものだった。

 

「うん? それは戦いが終わってからわかる事さ。何、ちょっとした嫌がらせだよ。ま、今はそんな事よりも別の事を気にしたまえ。ほら、戦うのは君の敬愛する上官と義兄だよ?」

 

 スカリエッティの言葉に若干の不安を覚えながらも、今できることはドゥーエとスカリエッティを本陣へと運ぶことだけだった。その事に若干の歯痒さを感じながらも、溜息を吐く。

 

 ……結局、どういう事なのよ……。

 

 凡人は辛い。




 スカリエッティというキャラクターを設定で見るとまず”天才”である事があります。ですがてんぞーちゃんはバリバリの凡人タイプなので少しエキセントリックでも天才という種別の人間の事を理解はできませんし、おそらく書く事も出来ません。じゃあ、どうするか、という事になるので。

 理解できないし、理解されないキャラを作ろう、という事になります。

 スカリエッティを書くときは常に”作者にも読者にも理解できないキャラ”というスタンスを目指して書いていました。どっかで会話が壊れてたり、おかしかったりしても、既に狂っている人なので人語が通じている方が奇跡、って感じにしたかった。まあ、結局のところは芸風に飲まれてこんな感じでしたが。

 ともあれ、次回からラッシュです。

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