マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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フリー・チョイス

 スカリエッティの発言に怒りを抑え込む。流石に今の一言には我を忘れそうだったが―――スカリエッティは条件さえ満たせば無条件降伏してくれると言っている。それを態々蹴る必要はない。ここは感情をそっと押し殺し、そして何とか笑顔を浮かべ、そしてスカリエッティへと話題を続けるように言葉を発そう。そう思い、

 

「このキチガイ変態野郎」

 

「ありがとうございます!」

 

「何やってんのよ……」

 

 口から出てきたのは全く違う言葉だった。しかもオートで蔑んだ視線まで付けてしまった。おかしい、自分のキャラは―――いや、この状況はむしろ高町なのは式交渉術の方が上手く行くのではなかろうか。キチガイとキチガイの親和性的意味で。だとしたらもう自分このままのキャラでいいや、と思う。たぶんここで諦めるのと諦めないのが一般とキチガイの境界線だと思うのだが。

 

「とりあえず話は聞いててあげるから言いたい事を言いなさい。無駄に勿体ぶる奴ってのは基本的に好かれないわよ」

 

「じゃあ私って基本的に超嫌われまくってるのか。しょんぼりだよ! じゃあ思いっきり話すね! ―――ぶっちゃけた話勝利イコール私の目的ではないのだよ。私の第一目標は私の名前を歴史に永遠の物として刻む事だ。……まあ、これは最高評議会の老人方への意趣返しの一種なんだがね。ほら見ろ、お前らが必死に隠してきた私はこんなにも有名人になったよ、と。もう一人の私もそうやって盛大に暴れたがいかんせん、本局で目撃者を”消し過ぎた”のが災いだったね。そのせいで黙らせる口が減ってしまったからあっちはそれほど大きい話題にはならなかったよ。それと比べて私は大いに反省しているのでパンピーには全く手を出さない! 大々的にスカリエッティちゃんアピールもしているので絶対に無視できない! ……っとまあ、そんな感じで私の存在をアピールするのが私の目的の一つだ。これに関してはホント、勝ち負けなんてどうでもいい。やるからには徹底的にやるってのがモットーなだけだよ、私は」

 

 そこでスカリエッティは水筒に手を伸ばし、その中身をコップに入れる。長く話しているせいか喉が渇いているらしく、一飲みでコップの中身を飲み、そして一気にむせる、喉を抑えるスカリエッティは視線をドゥーエへと向けると、ドゥーエがやっぱりね、と声を零す。

 

「冷蔵庫からウェンディがネタで作った超強力栄養ドリンクをとりあえずぶち込んでみたんだけどやっぱり駄目だったのね。それ、見た目はただのリンゴジュースなのに中身は精力剤30種類と栄養ドリンク50種類混ぜたバイオテロだものね」

 

「心なしか体がほかほかしてきたよ」

 

「こっち見んな変態」

 

 タスラムのグリップでスカリエッティの頭をガンガン叩くとタスラムが嫌そうな声を漏らす。流石兄達の手を渡り歩いてきたデバイス、感情表現が豊かだ。これを学習する様にクロスミラージュに伝えると、クロスミラージュが自閉モードに突入する。そんなに嫌なのか。

 

「まあ、そんなわけで話を元に戻すけど私の目的は勝利ではないのだ。故に我が娘達は勝利できない。何故かって? そりゃあシンプルな話だ。そこまで必死になって勝利する意味がないからね。所詮子供のお遊びと一緒だよこれは。私は特に強い意味を与えず、彼女たちのモチベーションに任せて戦わせているんだ。命令している訳じゃない。だったらやっぱり、最後で決め手になるのは”どれだけ対策したか”でもなくて、”どれだけ準備したか”でもない。最終的には全て”モチベーション”なんだよ。動機とモチベーション。これを軽視する科学者は割と多い。ただ私はここら辺、物凄い重要視している。何故かって? そりゃあ決まっているだろう―――だってほら、私はたったの一度も”命令されたから”なんて理由で適当な仕事をしないからだよ。だから私は職場環境としては最上級な物を用意するよ? ―――そこにモチベーションを見出せるかはそれぞれに任せるけどね」

 

 

                           ◆

 

 

 身内相手、というのは割と慣れている。お互いに動きを知っているし、改善点が見いだせる。ただこれが一方的に知られ尽くしている、という状況になると全く違う。こっちの動きは筒抜けなのに相手の動きは解らない。対処はされるが自分から対処は出来ない。そんな状況が出来上がってしまう。戦闘する者として、それは一つの命題だ。如何に己の動きを読まれないか。同じ敵を相手にしてでも見切られずいられるか。シグナムはそういう事に対しては見切られない様に攻撃すればいい、と言った。そういうのも技術の一つだと言っている。なのははそんな事気にせず巻き込む様にぶっ放せば良いと言う。はやてはそもそも超広範囲殲滅型なので見切る見切られるが存在しない。だから、人にはそれぞれの対策方法がある。なのはやシグナム向けのはもちろん用意してある。戦いで”メタ”を張るのは決して珍しい事ではないからだ。

 

 ……やりにくいと感じるのは二つからの理由……!

 

 そう思いながら動く。自分の得意である小さく、素早い動きから離れる。もっと大きく、空へと浮かび上がり、無駄に大きく旋回する様に動く。自分の根底にあるスマートな動きから離れる。それは少なからず相手に対して有効では―――ない。結局の所接近した時に使う動きは自分が慣れ親しんだものだ。つまり最終的に変化はなくなってきているのだ。それでも、

 

「一気に……!」

 

 空に浮かび動きを止めた相手に対してゼロから最大の加速に体を叩き込む。迷う事無くザンバーを加速とともにローブ姿へと叩きつける。誰よりも、何よりも早く動ける事を目指した一撃は不動の相手の反応を許すことなく叩き込まれそうになり―――プロテクションに阻まれる。それによってザンバーが動きを止めるのは刹那程。

 

 だが防御するには十分すぎる時間となった。

 

 ザンバーとセプターがぶつかり合う。このまま強引に抜くかどうかを一瞬で判断する。

 

「ジェットザンバー……!」

 

 雷撃と魔力撃を刃に乗せてそのままザンバーを振り回す。相手の体が後方へと弾き飛ばす。相手が本当にリニスであればベルカ式カートリッジデバイスを所持していない―――魔力でごり押しの通じる相手だ。故にスピードからパワーへと一気にスタイルを変える事を決意する。衝撃のまま吹き飛ぶ相手の姿を確認し、前へと踏み出しつつカートリッジをロードして魔力をザンバーに込める。前進しつつ再びザンバーの強化された一撃を叩き込もうとし、

 

「―――」

 

 相手が雷撃の織り交ざった魔力剣をセプターから生成し、それを刃の動きに合わせてくる。

 

「それは知っている!」

 

 故に魔力を更に込めて無理やり此方の攻撃で相手の攻撃を押し切る。相手の魔力刃だけを破壊しつつ、その余波で相手の体を雷撃で焼く。素早く展開されたプロテクションにより相手は直撃を防ぐが―――体を隠していたローブは雷撃によって焼かれ、吹き飛ばされる。そこから出現してくるのは懐かしい魔導師服姿、栗色の髪の女の姿だった。思わず下がりそうになったバルディッシュを握る手をそのままにして、刃を構える。

 

「リニス……!」

 

 名前を呼べば姿を現したリニスは申し訳なさそうな表情を浮かべる。彼女の姿は自分が知っている彼女の姿だ。まだ母が生きていた頃の、まだ自分が幼かった頃のリニスの姿だーーまだ生きていた頃のリニスの姿。

 

「やはり、と言いますか。私だと確信して今、少しだけ戦い辛さを感じましたね、フェイト」

 

「……ッ」

 

 考えた事をリニスに的中され、内心で少しだけ焦る。そう、リニスの言っている事は間違いない。リニスは幼い自分の恩人なのだ。正直な話戦い辛いってレベルではない。今すぐ刃を降ろして抱きしめたい所ではある。だがそれを執務官としての経験と、そして立場がそれを押しとどめている。衝動的な行動ではなく、理性的な行動を自分に取らせている。そしてそれを見て、リニスは少しだけ、寂しそうな表情を浮かべる。

 

「リニス……お願い、戦う事を止めて。邪魔をしないで。出来たらリニスとは戦いたくないの。たとえ―――」

 

「―――たとえ私が偽物であっても、ですか。やはり優しい子に育ってくれたようで嬉しいような、少し複雑な気分です、ねっ!」

 

「リニス!」

 

 リニスが接近してくる。振るわれてくるセプターを回避しつつ、反射的に反撃を行う。だが先ほどまでローブを被っていた姿とは違い、完全にリニスが姿を現し、存在が確定してしまった今、切っ先が僅かに鈍る。それを自覚している。原因も理解している。だがそれはどうしようもない事だ。自分が人の子である以上―――そしてあの連中ほど脳がぶっ飛んでない以上、どうしようもない事だ。

 

 リニスは的確にその隙を突いてくる。

 

 紙一重で回避しながら接近し、そしてバックハンドでセプターで殴りつけてくる。その動きは覚えのある―――いや、それは間違いなく自分の動きだ。正確に言えば自分がベースとした動き。自分が今の動きを形作るうえで参考にし、そして発展させた動きだ。基本的と言ってしまえばそれだけだから、高いレベルで基礎を守れることはある種の恐ろしさがある。

 

「私を倒さなければ先へは進めませんよフェイト?」

 

 セプターで殴り飛ばされながらも、空中で一回転し体勢を整える。そのまま縦にザンバーを構え、回転する動きで救い上げる様に切り上げる。その動きで軽めのジェットザンバーを繰り出し、魔力刃を飛ばす。魔力任せの大ぶりな一撃だが、それでもそれが相手に対しては一番有効的な手段となる―――使い魔の魔力は結局の所主任せの所があり、独立した存在としてよみがえったリニスであれば、自己の物に頼るしかない。故に魔力差による圧殺が一番効果的だが、

 

 リニスを吹き飛ばしたところで動きを止める。バルディッシュは相変わらず構えたままだが、それでも動きを止め、素早く復帰してくる姿のリニスを眺める。

 

 ……変わらないなぁ、私達。

 

 馬鹿なほどに甘いという自覚は存在する。はやてが腹パン食らって沈んだ話は隊の皆が知っているし。そしてその原因となった人の事も良く知っている。敵対するって解ってたのに助けようとしたはやてや、そしてそれでも味方だと信じたなのはを甘いって忠告したのは自分だ―――でもそんな自分も結局はこのザマだ。六課は基本的に身内に対して甘すぎるなぁ、と改めて思う。

 

「……リニス、降伏して。リニスじゃ私には勝てない。確かに戦い辛さは存在するよ。それでもその程度なの。その程度だったらごり押しで封殺できるし、その程度には強くなった。それにこう見えて私って結構偉いんだよ? ……リニス一人ぐらいなら助けてあげられるぐらいには」

 

 復帰したリニスはやれやれ、と言葉を零しながら帽子を取り、それに付いた埃を叩き落としてから被り直す。そこには呆れの表情というよりはやはり、と何かを確信する様な表情があった。

 

「プレシアみたいに情が深いですね、フェイトは。これを微笑ましいと見るべきか、もしくは将来プレシアの再来があるのか懸念すべきかは周りに任せるとしまして―――構えてくださいフェイト。私は私の意志でここにいます。べつに洗脳されているわけではありません。他の子と違って聊か命が短いと言う事実はありますが、別段それだけに縛られているわけではありませんよ? それに、そう言う余裕はあまりないと思いますよ」

 

 そう言ってリニスが浮かび上がらせるのは一枚のホロウィンドウだった。規格的には特にめずらしくはない普通のホロウィンドウ。それはどこかの光景を中継しているようで、右上に小さく通信状態と書かれている。そこに映し出される光景はここからそう遠くない場所だ。魔力によって生み出された道の上で激突する姿―――ギンガと、格闘型の戦闘機人の姿が見える。どちらもダメージは大きく見えるが、ギンガの方が損耗色が強い。

 

「あっ」

 

 次の瞬間、吹き飛ばされるギンガの姿が現れ、その横から眼帯の女が出現する。それに追いつく様にスバルとエリオが出現するが、軽々と眼帯の女が二人を掴み、それを投げながらナイフを投擲し―――そこでホロウィンドウが消える。

 

「断言します―――この三人ではこの二人には勝てません」

 

「くっ!」

 

 リニスがそう言った瞬間、三人の下へ駆けつける為に一気に加速しようとし、リニスが邪魔をする為に回り込むのを見る。それを強引に突破しようと前へと進もうとした瞬間、体が動かない事を理解する。視線を素早く足元へと向ければ、そこにはバインドが存在している。

 

「バインド程度!」

 

「抜けられますよね?」

 

 抜けた―――だがその瞬間には相手が再びプラズマセイバーを放っている。それをプロテクションとザンバーを重ね合せる事で防御する。が、とっさの動きでは防御が不完全故に体が後ろへと押し出される。軽くダメージを堪えながら視線をリニスへと向けると、リニスがセプターを此方へと向けていた。

 

「助けに行きたければ私を倒してからにしなさい。いい機会です、貴女の成長を見極めさせてもらいます」

 

「そんなふざけた事を……!」

 

 ―――ふざけた事を、リニスは本気で言っていた。




 そんはそんを卒業できるかもそんそん卒業試験をリニスさんが開催してくれるそうですそん。

 そんそんは活躍してそんを卒業できるのそんか。

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