アックス・プレデター   作:竜鬚虎

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第四話 軽鴨

「ああああああ! たっ、助けてくれ……」

 

 国王キース・エルダーは仰向けに座り込んで硬直していた。

 目の前には、さっきまで自分の兵達を殺戮していた怪人が立っている。返り血で元の色が判らなくなるくらい赤くなった怪人は、無防備の国王をその大柄な体躯で見下ろしていた。

 

 国王の恐怖は既に絶頂を越えている。この怪人は自分の命を狙って来たに違いない。そう判っていても、逃げ出したくても腰が抜けて全く動けない。

 

「お父様!」

 

 突如対峙する二人の真横から幼い声が聞こえてきた。

 

「ア、アンナ!」

 

 唐突に現れたアンナの姿に国王は目を丸くする。国王の想像を超える緊急事態に、王宮内に姿を見なかった己の娘の存在をすっかり忘れていた。

 だがアンナはそれ以上の言葉を言わなかった。二百人を超える兵の死体と、眼前の血みどろの怪人の姿に恐れおののき、固まってしまったからだ。ただかすかに「ああ……」と震える声を上げるだけであった。

 怪人は当然声に反応して、少女の方に振り向いていた。

 

『もう駄目だ』と二人が思った瞬間、怪人はなんともおかしな行動を取った。

 少女に顔を向けていた怪人は、今まで手に持っていた斧を背に差し戻し、後ろに身を回したのだ。丁度アンナを左横に、国王に背を向けた姿勢である。

 

 怪人は二人には何の興味もないといった様子で、先程自分が兵達と戦っていた地点、兵の死体が密集して転がっている場所に、急ぐ様子も無く足を進めていった。この意外な行動に二人は呆気に取られてしまった。

 

(何なんだ? 私の命を奪いに来たのではないのか? ……んっ? そういえば、こいつのこの鎧姿、どこかで見たような……?)

 

 少し冷静さを取り戻した国王は、前方で大量の死体をゆっくり見渡している怪人を、注意深く見ながら、何とか音を立てずに立ち上がろうとする。

 

 ふいに視界に、ある長い物体が目に入った。

 自分のいる位置から少し右手前に、一丁の小銃が投げ捨てられていた。小銃の三メートル前方には、怪人の光弾で頭を吹き飛ばされた兵の死体が、うつ伏せに倒れている。倒れ込んだ拍子に腕から離れ、こちらに転がってきたようだ。

 

「アンナ様!」

 

 再び来訪者が現れた。アンナの真後ろに彼女を追ってきたクシュウが剣を片手に走ってくる。

 

 声が放たれた途端、怪人は再度アンナの方を振り向いた。今度はアンナとは違い、低い唸り声を上げ、左肩の銃が真っ直ぐクシュウの方向に動く。同時に仮面から三点の赤く小さい光が放たれた。

 赤い光は背の低いアンナの頭の上を通り抜け、クシュウの顔面、目と目の間に照射された。危機を感じたクシュウは、咄嗟に滑り込むようにして、うつ伏せに体勢を変え、身を低くした。

 

 その瞬間、怪人の銃から光弾が放たれた。

 

 光弾はアンナの頭上と、姿勢を低くしたクシュウの真上をすり抜け、真後ろにある裏門の横の柱に命中する。

 間一髪であった。ほんの一瞬でも反応が遅れていたら、クシュウの顔面は光弾によって粉々になっていたであろう。

 二人の距離のど真ん中に立っていたアンナは、今の攻撃のショックの所為か、失神してフワリと身体をふらつかせ、その場で仰向けに倒れる。

 

 クシュウは身を起こし、怪人の次なる攻撃に身構えた。

 すると怪人の仮面から発せられていた赤い光が消えた。そして右腕の手甲から、ジャギン!という音と共に、二本の鉤爪が一気に伸びる。銃は使わず、接近戦で挑むつもりのようだ。

 

 クシュウは真ん中で倒れているアンナに危険を及ばないようにと考え、敵がかかってくる前に、今の位置から真横に移動しようとする。

 その時だった。 ドオン! と怪人の使っている物とは違う銃声が鳴った。

 

「陛下!?」

 

 クシュウは目を丸くした。

 クシュウの見える位置から、怪人の右横に、国王が銃を構えて立っていたのだ。

 その銃口からは白煙が吹いており、国王は怪人が自分に視線を外したすきに、発砲したのだと判った。

 

 弾丸は見事に怪人に命中していた。運よく鎧が着いていない左横の腹部に当たり、怪人は一瞬怯む。この結果に国王は少しながら歓喜の表情を浮かべた。

 

「やっ、やったか!?」

 

 だがそれは直ぐ絶望に変貌した。

 実弾をまともに受けた筈の怪人だが、それで倒れることはなく、怒りの篭った唸り声を上げて、国王の方に振り返った。

 

 左腹からは、明らかに人間のものとは違う、緑色に発光する血液が微量ながらも流れていた。だがそれだけで、大した痛手は受けていないようだ。

 慌てた国王は二発目を撃とうと、銃の用心鉄を引く。同じくクシュウも魔力を込めた剣を怪人目掛けて大きく振る。だがそれよりも怪人の発砲の方が速かった。

 

 光弾が国王に向けて撃たれ、国王は胸を貫かれ、ゴゲッ! と蛙のような声を上げて絶命する。それと同時に、クシュウが撃った魔法の風の刃が、怪人に命中した。

 

 今までの近衛兵が使っていた技とは、威力が倍近くはある魔法攻撃に、怪人の巨体が弾けるように吹き飛んだ。

 

「陛下! くそう!」

 

 クシュウは悔しさで胸を強く痛めた。

 撃たれ飛んだ怪人は、庭園の池に落下した。先刻の戦闘が元で、兵の死体が浮かび、ワインのように薄っすらと赤くなった池の水が、噴水のように大量の水しぶきを舞い上げる。

 

「アンナ様!」

 

 クシュウはアンナに駆け寄り、名を叫んだ。そしてまだ気絶しているアンナを抱えて、裏門へと駆け出す。

 

(まさかあれで死にはしないだろうな。今は何とか逃げ延びないと!)

 

 クシュウはこの王宮で、いやこの街全体で何が起こっていて、何が本当の敵なのか、未だに判らなかった。

 ただ一つ判るのは、このケルティックが何者かの手によって陥落したということだけである。

 ただひたすらクシュウは街中を走りぬけた。向かう先は一つ。ケルティックの南方の巨大人工池、ジャイアントダックの大型飼育場である。

 

 

 

 

 

 

「なっ、何だ!? これは!?」

 

 クシュウが立ち去った後、すぐに九人の青甲冑の兵士達が庭園に走りこんできた。

 

 当然のことながら、彼らは園内の事態に愕然とした。氷竜騎兵部隊が討ち取れなかった、王宮に篭る敵兵たちは、無残にも惨殺され、変わりに見たこともない銀色の甲冑を着た人外の兵士が、池の淵に立っているのだ。

 

 全身に付着していた血は、池の水で大分洗い流されたようで、かなり薄くなっていた。だがまだ落ちていない血色が、この惨事の犯人はこの者だと主張していた。

 

「お前がやったのか? 何者だ? 我々の味方か!?」

 

 肯定の言葉は無かった。代わりに出たのは銀の銃による発砲であった。

 瞬時に一人の兵の胸が、頑丈な甲冑もろとも光弾にたやすく貫かれる。これに対し残りの兵達が、次々と氷の魔法を怪人に放った。

 

 怪人はこれを左横に走ってかわす。兵達の攻撃は動揺しているためか、各々の攻撃は統率が無く、滅茶苦茶に放たれていた。

 

 怪人は真っ直ぐ走ったその先、眼前には高い塀があった。

兵達は「追い詰めた!」と一瞬勝機を感じ取ったが、だが怪人は助走をつけた状態で、大きく跳び上がる。

 そして六メートルもの高さの塀を飛び越え、塀の上に軽々と着地して見せた。

 

 兵達は構わず魔法を撃った。怪人は塀の上を走り抜けながら、次々と銀の銃を撃つ。赤い光印を差した銃の命中率はとても正確で、一人、また一人と兵達が倒されていった。

 兵達は恐怖で半ば発狂した状態で、魔法を撃ち続けたが、遂に最後の一人が光弾に倒れた。

 

 怪人は動きを止め、塀の上に立ったまま、背に差した斧を抜いた。そして何となく誇らしげ様子で斧を天空に向けて見せる。

 すると怪人は大きく力を溜め、グオオオオオオオオ! と町全体に響く勝利の雄叫びを上げた。

 

 

 

 

 

 

「なっ、何てこった……」

 

 気絶したアンナを抱いたまま、クシュウは呆然と立っていた。

 そこはこの国の航空力の要である巨大水鳥、ジャイアントダックの大型飼育場があった場所である。

 

 クシュウは数年前にも両親や従者達と一緒に、この王都に来たことがあった。その時にこの町の名物とも言えるこの場所を見学したのだ。

 その時の記憶では、そこには見渡す限りの巨大な人口池が存在していた。いや人口湖と言ってもいいかもしれない。

 

 岸は全て石造りで固められ、陸地にはジャイアントダックを管理する為の施設が立ち並んでいる。そして池の中には、千羽を超えるジャイアントダックがプカプカと浮いているのだ。

 池にはいくつもの柵が張られており、ダック達は軍事用・運輸用等の様々な用途に合わせて区画されて生活している。

 

 彼らは普段は何もせず浮いているか、柵の中の限られた空間を適当に泳いでいるだけであった。だが餌の時間になると、一斉に岸辺の飼育員の所に集まる。我先にと撒かれる餌を求めて、鯉の群れの様な勢いで押し合い、飼育員に詰め寄るのだ。

 その時に一遍に放たれる無数の鳴き声は、耳を劈く程の凄まじい音量で、この様子を見学していた時の記憶は、幼かったクシュウにとっては悪夢のような思い出であった。

 

 また池の水面には、区画ごとに大きなダック用の牧舎が建てられていた。それらは皆、池の底から柱を組み上げ建てられており、一見すると建物が水に浮いているようにも見える。

 クシュウは見なかったのだが、ダック達は夜間寝るときや、雨天の日にはこの牧舎の中に引き篭もるのだそうだ。もちろん牧舎の中も床は無く水面で、ダック達は仕事と訓練のとき意外は、ほとんど水上で生活しているのだ。

 

 数百年前から、全く変わらずにこの形でダック達を営んできた飼育場は、たった今歴史上例を見ない大改装が施されていた。

 飼育場の池の水面は見事に凍り付き、水上には無数の大きな水鳥の氷像が建てられていた。もちろんそれが、本当は氷像等では無い事は判りきっている。

 

 おそらく先程の氷使いの魔道士達が、魔法で池をダック達もろとも氷漬けにしたのだろう。何ということか、敵は先んじてこの国の制空権を破壊していたのだ。

 

(くそ! こうなったら足で逃げるしかないのか!)

 

 クシュウは焦った。ダックなら実家でも何羽か飼われており、幼い頃からダックに触れて暮らしていたクシュウは、ダックの騎乗にはかなりの自信があった。

 だからこそ最優先に、この場所に駆け込んだのだが、これではどうしようもない。

 

 まだ街の中や外に、敵兵が残っている危険を承知で地を走るしかないのか? そう諦め気味に考えた時、不意に小さなダックの鳴き声が聞こえた。

 一般人には絶対に聞こえないような遠い声であったのだが、常人以上に鍛え上げられたクシュウの聴覚は、確かにその鳴き声を捉えていた。

 

「えっ!?」

 

 ダックはもう全滅したものと思い込んでいたクシュウは、驚きのあまりアンナをずり落としそうになった。だが何とか持ちこたえ、慌ててアンナの容態を見ようと、その幼い顔を覗き込んだ。

 

 まだ目を覚ましていないものの、少女の身体は寒さで震えていた。街や池がこれほどの氷に覆われたのだから当然である。

 クシュウは、自分の体温がしっかり伝わるようにアンナを強く抱きしめ、鳴き声の聞こえた方向に向かった。

 

 池の岸辺を歩き、周囲を注意深く観察する。やがて期待していたものは見つかった。

 警備員の寄宿舎である、岸に沿うような形の横に長い建物があった。その建物の、池側とは反対方向の裏の壁に、一羽のダックがいた。

 よく見るとまだ若いダックである。着けられている鞍と首輪の色を見ると、まだ仕事を与えられる年代でない幼体であるようだ。

 

 壁に寄りかかってうずくまり、猫のように寒さに震えて動かずにいる。

 

 何故こんな所にダックがいるのか? 理由は大体見当はつく。大方管理員が目を話した隙に池から逃げ出したのだろう。飼育場から逃げ出したダックが、街の中に現れて住民を驚かせる事件は大昔からよくある話である。

 池から離れた間に街が襲撃され、どうすればいいか判らず、ずっとここに縮こまっていた、といった所であろうか?

 

 ダックはクシュウの存在に気付いていたが、特に怖がる様子は見せず、何かを訴えるかのような目で、ただじっと二人を見詰めていた。

 暴れる様子は無いと判断したクシュウは、そっと近寄って、ダックの首に巻かれた白い首輪に手をかけた。

 

「頼むぞ……。お前だけが頼みの綱なんだ」

 

 ダックを脅かさないように、丁寧にゆっくりと首輪を外す。

 その途端、今までの硬直振りが嘘のように、ダックは立ち上がり、翼を大きく広げ、力強く羽ばたかせた。

 

 ダックの首輪には拘束用の魔法がかけられており、それがダックの飛行能力を抑え込んでいた。もちろんダックが街の外まで逃げ出さないための処置である。

 ダックはクシュウに首を向けて、グエッ!と小さく鳴くと、白い鞍が着いた背中をクシュウ達に向けた。乗せてくれるようだ。

 

「ありがとう。助かったぞ」

 

 クシュウは先ずアンナを前に乗せた。その後で自身が乗り込み、アンナの身体を自分とダックの首の間に挟みこむ形で手綱を掴んだ。

 

「行くぞ!」

 

 手綱を大きく引っ張ると、ダックは大きな鳴き声を上げ、翼をバタつかせながら駆け出す。ダックの強靭な脚力で助走をつけ、一定の距離を走ると、一気に地面を蹴った。

 すると人間二人分の体重を背負ったダックの巨体が、宙に浮いた。

 大きく羽ばたかれた翼が風を生み、ダックは空へと飛び立った。

 

「やった! 飛んだ!」

 

 まだ完全に成熟していないとはいえ、このダックは騎乗するのに充分な飛行能力を持っており、クシュウは大きく歓喜した。だが……

 

(どこへ逃げればいいんだろう?)

 

 クシュウは街から脱出した、その先を全く考えていなかった。

 

 そもそも敵が何者で、どの範囲にまで敵の手が及んでいるのかも、さっぱり判らない。下手な場所に行って、敵が待ち伏せしていたら、たまったものじゃない。

 こちらは一国の王女を抱えてしまっているのだ。敵が自分達を追ってくる可能性は充分ある。

 

(とりあえず実家に戻るか……。父さんならあいつらが何か判るかも)

 

 そう思い立ち、クシュウは後ろを向き、地上を眺める。

 自分達はたった今、街の城壁を飛び越えたようで、上空からは小さく見える街の建物が徐々に遠のいていた。

 クシュウは故郷に向かうために、手綱を引き、ダックの飛ぶ方向を変える。すると真正面の広い空の中に、二つの点が見えた。

 大分遠方にあるようで、こちらからは虫のように小さく見える。クシュウは集中して、遠方にあるそれを注意深く見た。

 

「あれは!?」

 

 徐々にこちらに接近するそれは、二頭のアイスワイバーンだった。

 白い大きな身体と翼が、この距離からでも見える。背にははっきりとは見えないが、人が乗っているのが確認できた。

 

 どう考えても先程の青い甲冑の兵達の仲間である。さっき逃げた竜騎兵がまた戻ってきたのか、後続の兵が追いついてきたのかは判らないが、敵に違いない。

 

「うおおおお!」

 

 クシュウは急いで手綱を大きく右に引き、飛行方角を百八十度変えようとする。あまりに強く引っ張ったせいで、ダックが小さい悲鳴を上げたが、何とか真後ろに向きを変えることが出来た。

 

「悪い! でも今はとにかく急いで飛んでくれ! このままじゃやられる!」

 

 ダックは力強い鳴き声を上げ、ぐんぐん速度を上げていった。アイスワイバーンとダックの異種族競争が始まった。

 だがダックの懸命な羽ばたきにも関わらず、相手との距離はどんどん縮まっていく。もう既に敵の青い甲冑がはっきり見える距離にまで、敵は接近していた。

 

 飛行速度はダックよりもワイバーンの方が遥かに速い。始めから勝ち目の無い競争であった。

 

 だからといって逃げるのをやめて、戦って勝つことは難しいだろう。ダックにはワイバーンのような攻撃に適した鋭い爪も無ければ、ブレスのような特殊な技も無い。

 しかもこちらは一騎で、相手は二騎だ。戦う、という選択肢は賢明ではないだろう。

 

(だったら!)

 

 後ろのアイスワイバーンが大きく口を開け、騎乗している竜騎兵が魔道剣の切っ先をこちらに向けた。ブレスと魔法の同時攻撃を仕掛ける気だ。

 

 だがその前に、クシュウが跨るダックは思いもよらない動きをとった。

 飛ぶ向きを下に向け、地上へ突進していったのだ。魚を狙って空から水面に突入するカワセミのように、一直線に地上、大木が生い茂る森の中に突っ込んでいった。

 竜騎兵は慌てて、突っ込んだ方向の森に攻撃を放った。四連の凍てつく白い矢が数本の大木を一瞬のうちに凍りつかせる。

 

 森の中に潜り込んだダックは無事着地していて、森の中を走っていた。その速さたるや軍馬にも負けない程である。

 ただ速いだけではない。無数の大木の間を機敏に潜り抜け、森の中に転がっている大きな石や倒木に道筋を邪魔されると、ダックは軽く跳躍し、それらの障害物を難なく飛び越えて見せたのだ。

 

 ジャイアントダックがワイバーン等の竜族に勝る点、それは空中だけでなく地上・水上も高速かつ俊敏に移動できることである。

 先程敵が攻撃してきたようだが、光を遮り地上を薄暗くしてしまうほどに生い茂った木々の葉や枝が、上手い具合に盾になってくれたようだ。この様子だと自分達の姿も、敵には見えていないのかもしれない。

 クシュウは自分達の動きを追ってこられないようにするため、走る方角を少し変えた。

 

「上手くいきそうだ! 何としても逃げ延びるぞ!」

 

 ダックは相槌を打つように小さく喉を鳴らし、暗い広葉樹の森の中をひたすら駆け抜けた。

 すると今度は竜騎兵達がとんでもない行動に出た。先程ダックがそうしたように、竜騎兵もまた森の中に突っ込んだのだ。

 上空からだと敵が木々の枝葉に隠れて見えないので、直接森の中に入って追撃しようという判断だった。

 だがダックを遥かに超えるアイスワイバーンの巨体は、間抜けにも森の木に激突してしまった。

 

 太い幹に顔面からぶち当たり、アイスワイバーンは猟銃に仕留められた鳥のように、地面に転がり落ちる。そしてここからは薄っすらとしか見えない太陽に向かって、死んだ蜥蜴のように白い腹を見せて気絶してしまった。

 

 騎兵はそのアイスワイバーンの背に、格好悪い姿勢で下敷きにされることとなった。もう一騎の方は、反動が原因で、不運にも二度も大木に叩きつけられる。

 見事に自滅した竜騎兵達に気付かず、クシュウたちはとにかく全力で逃げていった。

 


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