ONE PIECE ~青天の大嵐~   作:じんの字

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キッタリハッタリデンキビリビリ

『皆様、お待たせいたしました!!少々手間取りましたが、お次の人間をご紹介させていただきます!!西の海出身のフィードル君です。特技は…』

 

さて、途中時間が開いた者の、どうやらオークションが再開したらしい。一体、何があったのか、そんな事ァ一切考えたくはないが、逆に言うとそれだけラクーンの仲間探しのために使える時間が伸びたともいえる。

さっきまでのペースから考えると、奴隷が出品されて買い手がつくまでの時間は10分~30分くらいといったところか。それぐらいなら時間を稼げるだろう。

 

『…とご紹介したかったのですが…えー急きょフィードル君が恥ずかしがりであるため、また後日ご紹介と言う形になってしまいました。いやはや、残念。真面目な人間ほど、人前に出るのが苦手なのですね』

 

『ハハハハハ……』

 

「なにっ」

 

何だと!!どういうことだ!?…いや、でも普通にありえるか。人間を含め、頭部への攻撃は人体に大きなダメージを及ぼす。さっきの音からして、脳震盪をおこしても不思議ではないはずだ。ともすれば、そう簡単におきるはずがない。普通ならば即刻病院に入院させなければいけないハズ、ヤツらからしても苦渋の決断と言うわけなのだろうか。

 

『では、次の方の紹介になります。いえ、違いますね彼らのご紹介です!!』

 

「…」

 

兎にも角にも先程の彼が無事だといいが。しかし、どちらにせよラクーンの探索の時間が短くなってしまったことに変わりはない。無事に見つかればよいが…。

 

『彼等はヒトとは違い、とても小さな背丈を持っている珍種族です。さあ、ご覧ください“小人族”の方々です!!』

 

「ファッ!?」

 

ちょちょちょちょちょちょちょい!?今何てった!?ま、まさかその小人族ってラクーンの探している小人族たちの事じゃないよな!?

 

「おい、あんたのツレが探しているのってまさか…」

 

「ぐぐぐ…やっぱりそう思います?」

 

どこかから湧き出した、“そんなはずがない”というそんな思い、そして一瞬にして沸騰しかけた感情を心の奥底へと追いやった。万が一にもここで爆発してしまったら、計画は元よりせっかく今まで隠し通してきた俺の正体がばれてしまったりと、色々と終了のお知らせだろう。

しかし、冷や汗が凄まじい勢いで溢れてくるのが分かる…。状況が変わらないってことは分かっていても、焦燥感のみ広がってくる!!

 

『彼らは遠く新世界からやってきたそうです。滅多に人前に姿を現さない彼等とお会いすることが出来たお客様はとても幸運でいらっしゃいます。鑑賞用に籠や檻の中に入れるもよし、猛獣と同じ檻に入れて鬼ごっこを楽しむもまた一興かと存じます。では、皆さんどうぞふるってご参加ください、オークションスタート!!』

 

チッ、これは完全に俺のミスだ!!オークションがすでに始まっていることは知っていたが、それを考慮してもある程度の時間的余裕はあるものだと踏んでいた…。しかし、思っていたより数段進行が早まっていたか。それに、先程の仕打ちから見ても、コイツらの奴隷に対する日ごろの行いは容易に想像することはできる。おそらく…今の様に適当な理由を付けて隠蔽を行ってきたのだろう。

とにかく、ここにいても時間の無駄だし、どこかでラクーン落ち合ってどうにか小人たちを取り戻す手段を考えなくては…。

 

「そうと決まったら、さっさと首輪を外さなきゃな…ヌンッ!!」

 

邪魔だった手錠をバキリと引きちぎると、首輪から伸びた鎖に手をかける。こういう機会を取り外すには色々とコツがいるんだよなぁ。鍵開けはレッドさんに教えてもらったけど、レッドさんみたいにうまくいくかどうか…。

そう思って首輪の鍵穴部分をガシャガシャとイジっていると、その手が急に隣の檻から伸びてきた手にムンズと掴まれた。

 

「お?」

 

水かきのついた眼をたどっていくと、そこには困り顔をした魚人さんがいた、いきなり掴まれて少しビックリしたのだが…何かご用でしょうか?

 

「お、おい。一体何をやっているんだ?」

 

「あ?何って言われても…見ての通りだよ。脱走の準備?いや、むしろサーチアンドデストロイといったところかな…」

 

そう答えると、魚人君は呆れたような顔をして俺を静止してきた。

 

「…あんたは自分の状況が分かっていないのか?今はずそうとしているその首輪…。無理矢理外すと爆発するぞ」

 

「ああ、それなら知ってるぜ。時限式の爆弾だろ?前に一度爆発するシーンを(漫画で)見たことがあるからな」

 

「それならどうして…」

 

「他はどうかは知らないが、少なくとも失敗しないからだよ。…ホラ」

 

片腕を掴まれながらも、すでに俺は首輪を外すことに成功していた。

覇気応用×鍵穴外し。どうだ、便利だろう?

 

「…え?」

 

「さぁてと、外した瞬間から爆発までのカウントダウンが起動するんだっけか。武装色で守ってもいいけど、それだと疲れるし、何よりガードしきれるかどうかわからないからなぁ。というわけで、明日に向かってポ、ポ、ポ、ポーンっと」

 

カチカチと爆発へと時を刻む首輪を宙に放り投げる。それは、腹が立つほど綺麗な放物線を描きつつ、檻にぶち当たり、

 

カチカチカチ、ピピピピピ――ドン!!

 

凄まじい破裂音とともに中に仕込まれた強力な火薬が爆発し、強固な檻を何と一撃で吹き飛ばした。

 

「おースゲェ威力だ。面倒だからって、爆弾をそのまま起爆させなくて正解だったな。よし、それじゃ、チャチャチャっと終わらせますか!!」

 

燻る爆弾の残骸をよけながら、檻から飛び出す。

そんな俺の姿を呆然と見守っていた魚人さんが慌てたように俺に問いかけてきた

 

「あ、あんたは一体何者なんだ!?」

 

何を動揺してるか知らないけれども、その質問って結構愚問じゃない?

 

「ん?それはヒミツだ」

 

さて…そうこうしているうちに、扉の向こう側がドタドタと騒がしくなってきた。どうやら、やっこさん達も騒ぎに気付いたのだろう。ま、これだけデカい爆発音させれば当然だけどな!!

 

「今の音は一体何だ?」

 

「奴隷が脱走しようとしたのか?」

 

大慌てでやって来たので、労いもかねて挨拶してやる事にした。

 

「あ、どうも。()奴隷です」

 

彼等には、未だもうもうと煙を吹きだす首輪の残骸と、檻から抜け出してにこやかに笑ってご機嫌そうに手を振るおれの姿が同時に目に入ったであろう。

店員共の顔が焦りから一転、怒りと侮蔑の色へと変わった。

 

「奴隷が…どうやってあの檻から逃げ出した!?まさか、他の奴隷の首輪を無理矢理外したのか!?」

 

「どうでもいいさ、あいつを捕まえろ!!」

 

「おい、お前らはこの部屋の奴隷たちが騒ぎに乗じて逃げ出さないように見張っておけよ!!」

 

一際高そうな服を着たチョビヒゲ男の指示の元、銃器を手に携えた店員達がジリジリと俺との距離を狭めてきた。包囲網でも作っているつもりなのかね?こちらは何も持っていないし、人海戦術をとり、最終的に十分な距離をとったところで一気に襲い掛かるつもりなのだろうが…確かにただの(・・・)奴隷一人を捕まえるためならば良い手だ。

が、俺にとっては最悪の一手だったな。あなた達が牙を剥いたのは、兎ちゃんの皮をかぶった狼さんです。俺は銃口がこちらに向いている事も構わず店員共に向かって走り出した。

 

「なっ、コイツこっちに向かってくるぞ!!馬鹿なのか!?」

 

「構わんこの程度の商品が一人消えた所で我々には何の損害も出ん!!撃て、撃ち殺してしまえ!!」

 

チョビヒゲの気味悪い高笑いと共に男達が持つ銃器から銃弾がばらまかれる。一発一発が人を死へといざなうその凶獣の牙は、俺の身体を引き裂きバラバラに―――しなかった。

 

「“覇気手合い”辻斬り御免」

 

「は?」

 

「え?」

 

男達の持つ銃が何も弾みもなく崩れ落ちた。そう、銃口から銃座まで、まるでしっかりとのりづけされていなかったジクゾーパズルのようにボロボロと解体された。彼ら一般人の目では、何が起こったかまるで理解することはできないだろう。そう、自らの身体に今起こっている事でさえも…

 

ビシッ!!

 

「ぎゃ!!」

 

「ぐあっ!!」

 

氷にひびが入るような嫌な音を立てて男達の身体に無数の切り傷が刻まれた。

男達の手から鉛玉の弾幕が張られた瞬間、人の視覚の上での死角に潜り込んだ。即ち、普段特に意識を向けることが少ない足元の下を駆け抜けた俺は、鋭利な刃物と化した手刀を幾度も交差させていたのだ。

 

「ふぅ、やれやれ銃持っただけの一般人じゃ俺の相手にもならないか。うん、君ら運が悪かったってことで…おや」

 

うずくまって呻いている男達をすり抜けて扉に向かおうとした時、目の前にあるはずの扉が何故かふさがっていることに気付いた。…いや、そうじゃない。扉の目の前で、見上げるような大男が俺の進行方向を塞ぐかのように対峙していたのだ。

 

「…ふむん」

 

ムッキムキ筋肉の上半身を中心にまるで風船のように(その実筋肉風船か)膨張したような出で立ちで、髪を一部刈り上げた上に、達磨を連想させる縁取りと赤色のペイントをしている。

 

「お前さん、たかが300万だと思っていたら中々やるだナ。やはり、事前の情報は嘘だったっぺか?」

 

いやはや、予想通りというか、ナマリがきついなオイ。しかし、ドヘムの言葉をそのまま鵜呑みにするとはアフォな奴らだ。少しは人の顔くらい見とけっての。あ、俺の正体がばれちゃ失敗なのか!!

 

「はん、事前の情報?そんなもんに頼ってんならあくまで二流だろ。本気で殺る時は、はじめて向き合って時点でソイツの実力から力量を計れ」

 

ま、相手が自分より遥か格上だったら、あんたはその時点で死亡だけどな、そう言い返すと、達磨男は不満げにフンと鼻息を出し、まるで大木の幹のような両腕を振り上げ興奮したゴリラのようにドラミングを始めた。

 

「ハッ、口だけなら何とでもいえるナ!!オラは、このオークションハウスに雇われた賞金稼ぎ“赤肌”ギュウベエだっぺ!!見よ、このオラ自慢の両腕を!!」

 

ギュウベエはまるで見せびらかすかのようにその腕を振り上げた。

 

「今までこの両腕を武器に、偉大なる航路(グランドライン)を渡り歩いてきたっぺ!!今まで、1000人以上にも渡る賞金首を仕留めてきたこの両腕は最強だナ!!即ち、オラは最強の賞金稼ぎなんだっぺ!!今から新世界で試すのが楽しみだナ!!」

 

「そうですか確かに素晴らしいお腕ですね(棒)」

 

そう言ってやると、ギュウベエは何を勘違いしたのか、鼻をさらに荒くフンフンと鳴らしながらドラミングを始めた。お前はゴリラか。

 

「そうだべそうだべ!?そして喜ぶがいい、お前もこの腕に倒され、オラの英雄伝説に名を刻むんだっぺ!!」

 

そう宣言すると、上半身よりも遥かに小さい両足を必至に動かしながら、やかましきドタドタとこちらに突進してきた。

まぁ、確かにその鍛えられた肉体は称賛に値するだろう。だが、あくまでもそれだけ、見かけ倒しだ。例え、何人もの賞金首を葬ろうともその程度では、新世界には…まるで届かない。

 

「“覇気武装”」

 

左手で右腕の裾をめくり上げた後に大きく振りかぶる。人が瞬きをする時間よりも早く、一瞬のうちに右腕に覇気を纏わせると、腕がまるで鍛えられた鉄のように黒く変化する。

そのまま迎撃態勢を取ると、あろうことかギュウベエがそのまま突っ込んできた。

…無策にも程があるだろコイツ。こう、何か相手が奇妙な行動をとっていたら警戒すべきだろ。本当に賞金稼ぎか?まぁどうでもいい。

 

「ムぅん、“一撃必殺パンチ”!!」

 

突き出してきたギュウベエの拳に合わせて俺も右手を突き出した!!

 

「“覇気正拳”!!」

 

ガァン!!

 

鈍い音を響かせて、俺とボーガンの拳がぶつかり合う。俺の拳のゆうに5倍はあるんじゃないかと言う拳。全くオダッチ世界の人間は本当に意味が分からんな。普通なら俺の負けなんだろうけども…今回はさすがに相手が悪かったな。

 

「ギャアアアアアア!!」

 

ズズン…と言う重苦しい音と共に、ボーガンはもんどりうって倒れこんだ。

 

「イデエエエエ、イデエエエよぉ!!」

 

そのままゴロゴロと地面を転がる。…子供か?

 

「ば、ばばば馬鹿ナ、有り得んベ!!こんなの絶対ありえんっぺ!!」

 

「いやはや、ありえるんだよなこれが」

 

俺の拳がめり込んだ後をクッキリと残し、そこから吹き出る血を抑えつつ、呻く様に声を絞り出しながら立ち上がった。

何故だろう。先ほど自身満々だったこの大男が遥かに小さな昆虫のように見える。

 

「な、なにをしたっぺ!?まさか、能力者だっただか!?そうだ、そうじゃなきゃありえんべ!!俺がこんなチッコイのに拳の勝負で負けるわけないんだナ!!」

 

「…言っておくが、俺は能力者じゃない」

 

「嘘だっぺ!!」

 

「嘘じゃねェよ。俺は能力者じゃない。元はな、武器持たなきゃ何にもできない剣士だよ」

 

「んな、んな馬鹿な!!」

 

故に、俺は今全く何の本気を出していない。もともと、剣がない状態でも戦えるよう、護身術程度に九蛇海賊団の皆さんから習った程度だ。…でも、何を勘違いしたのか、皆さん滅茶苦茶にやってくるんだよなァ…。あれは教える気なんかサラサラない。手加減する気もない。

完全に殺す気だった。

手加減できないムエタイ男か貴様んらは!!

 

でも、まぁ拳撃は俺みたいな本職じゃない人ても、ある程度の観察眼と覇気操作センス、そして度胸さえあればこの程度の芸当は誰でも出来る、ということだ。それをどのように発展させていくのかは、その人次第だが。

 

「うぬぅ、認めんっぺ!!そんなフザケタ事、最強であるオラが許さないんだナ!!」

 

「いや、特に誰にも認めてもらう必要もないと思うんだが」

 

激昂しながら負傷していない左腕を振り回し始めるギュウベエ。

 

「オイラの技はこれだけじゃないっぺ!!我が奥義“一撃滅殺ラリアット”は、海王類の骨をへし折るほどの威力なんだナ!!」

 

「…へェ」

 

俺はそう呟いた後、深くため息を吐いた。何だかもう疲れた。自分と相手の実力を認めるどころか激昂し、襲い掛かってくるなんて…。これ以上コイツと闘っても何も得ることはないだろう。

でも、まぁ…

 

「新技の実験体にはなってもらおうかな」

 

そう言って俺は、片腕に覇気を纏うと、まるですすを掃うかのようなそぶりでそれを服と高速でこすり合わせはじめた。

 

「ッ!!な、何を…」

 

小学生の時に遊んだことがある人も多いだろうが、下敷きを脇に挟んでこすり、それを髪の毛などの毛に近付けるとあら不思議、毛がまるで吸い寄せ荒れるかのように下敷きに引っ付くというものだ。

気電遊びは、その強化版と形容していい。焔遊びと同様に硬化し、鋭利な刃物のごとく尖った手刀をこすり合わせる、と言う点では似ているが決定的に違うことは、火花を出す量だ。

焔遊びが工場のカッターが金物を切断する際に生じる迸る火花をそのまま火炎に変化させるのではなく、気電遊びは黒化した腕を服にこすり合わせることによって、いくつもの電子を移動させ、まるで雷が発生しているようなそんな現象を引き起こす。触れたものに変化する、と言う性質を持つ覇気を今回は電気に変化!!

 

 

バチバチバチバチバチ

 

 

「“覇気手合い気電遊び”」

 

 

片腕に纏った覇気が、まるで神々しく咲き乱れる白の花々のように激しく音を立てる電気を纏い始めた。

 

「何が起こっているんだっぺ!?やはり能力者だっぺ!?」

 

「ちげーよバカ。そろそろ現実を見やがれ」

 

俺は電撃を纏った覇気の手刀をギュウベエにつきつけた。

 

「あんたは、自分の肉体に自信を持ちすぎだ。持つなとは言わんが、それでも最強は言い過ぎ。“最強”なんて言葉は、他人から呼ばれて初めて“真”に変わる。…あいつみたいにな」

 

瞼の奥に俺に背を向けて立つ、あの男の姿が浮かんだ。

 

「いままで俺は、最強何て最初から自称する奴が強い何て知らん」

 

「やかましい、この田舎出のイモ野郎がぁぁ!!」

 

どっちがだ、と俺が言わないうちにギュウベエが突っ込んできた!!

 

「“一撃滅殺ラリアット”!!吹き飛ぶがいいっぺ!!」

 

…あっそ。じゃあ上等じゃねェか!!

一直線に向かってくる腕を静観しながら俺は構わず音速で駆け抜け、ギュウベエの身体を引き裂いた。

 

「“雷花摩居太刀”!!」

 

「っ!!」

 

東北地方には、この妖怪は常に3匹で行動し、最初の一匹が人間を転ばせ、2匹目が人間を斬り、そして最後の一匹が止血をするという、行動理由が一切不明なイタズラ好きな鎌鼬と言う妖怪の伝承がある。

そして、雷花摩居太刀はその鎌鼬をモチーフとした電光石火の早斬り技だ。

 

「名に傷を残したくない、それなら何もしないでおいてやろう」

 

敵を斬った瞬間、電気が切り口を焼くことによって無理矢理止血させる。つまり、切り口を強引に焼くことによって切り口を焼失させるのだ。

 

「代わりに、痕が残る火傷を負ってもらいますがね…」

 

死なないために、激痛を伴う一撃。まさしく、真剣による殺し合いとは違う、人を生かすための“手合い(お遊び)”、傷つかぬ斬撃だ。

この程度、今の俺からしたら本気ですらない、まさしく手合せ程度の力と言うわけだ。

 

「グググッ…」

 

プスプスと肉が焼き切れる音と臭いを出しながら、ギュウベエは崩れ落ちた。

 

 

 

 

男のジャケットに掴まりオークション会場に辿り着いたラクーンは、彼にとっては何処かのスタジアム並に広い空間内に唖然とし、さらにその空間がゾッとするほどの闇に包まれ、そこに目を日はるほどの数の大人間がいたことに驚いた。

 

(ここまで来たのなら、後は皆を見つけ出すだけなのれすね)

 

アオランドの事だから、すでにオークションが始まっていることに気付いているはずだろう。

そう自分に言い聞かせ、辺りを注意深く見回したラクーンは舞台上に複数の小瓶が無造作に置かれていることに気付いた。

 

(あれは…?)

 

暗闇なのでよく視認できない中、じっと目をこらしてみると、その瓶の中に何か入っている事に気が付いた。そして、それがすぐに何なのかラクーンは理解してしまった。

 

「ッ!!」

 

『オークションスタート!!』

 

瓶の中に閉じ込められた仲間達、そして非常にも鳴らされたオークション開始の合図を聞いた途端、ラクーンの思考の中からグンジョーを待つ、と言う選択肢は消失していた。

 

「みんなー!!」

 

男の服から手を離すと、仲間達の元へと駆け出していた。

 

「な、何だアイツは!!」

 

突如としてステージに現れたラクーンの姿に騒然となる観客だったが、進行は冷や汗をかきつつも、冷静に部下に指示を出した。

 

「チッ、奴隷が一人逃げていたのか!!チッ、あの小人を捕まえろ!!」

 

進行の合図と共に、小太りの男達が壇上に飛び出し…そのまま上空へと吹き飛んだ。

 

「ハッ!?」

 

「な、何が!?」

 

ラクーンを含め、進行や観客が唖然とする中、部隊の奥からその男は姿を現した。

 

「スマン、遅くなったな!!」

 

煌びやかなこの場所とはおよそいるべきではない、着流しのその男はニッカリと笑顔を浮かべていた。

 

「さぁてと、当初はあまり騒ぎを起こさないようにして切り抜ける予定だったけど、ハハハ、これはもぅ無理っぽいな。そもそも、俺は頭脳労働したりするのは苦手なんだよな。やっぱりキッタリハッタリした荒事の方が向いてるな。ま、でもこうなっちゃったなら、もう一蓮托生ってやつだ。野を超え山を越え、銀河の果てまで付き合いますよってね。…というわけで」

 

男は、先程の笑顔とは似ても似つかない凶暴な笑みを浮かべて、観客いや獲物たちに向き直った。

 

「貴族、世界貴族及び世界政府の豚ども!!宣戦布告だゴラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

その咆哮は、世界政府の歴史に刻む災厄、いや再びの悪夢の始まりであったことは言うまでもないだろう。

 


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