大海賊時代に降臨する拳王 我が名はラオウ!!   作:無機名

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……辛辣かもしれません。そんな拳王イズム。


第8話

【四皇:赤髪のシャンクス】がここに来たのは、新世界に入ったばかりのルーキーのスカウトが始まりだった。

 金額は億に届いていないこのルーキーに目をつけたのは、ピースメインとしての傾向が強いからだ。

 

 縄張りらしいナワバリを持たず、ただ単純に新世界という海域を遊び場として呑気に巡る。四皇の中では白ひげと並ぶ温厚さで知られている【赤髪海賊団】。……もっとも、暴れさせたら止まらないが。

 そんな彼らも、悩みはある。戦闘による仲間の損失だ。宝探しなどで残る二名の四皇のナワバリに入り込む事はよくあることだから、当然戦闘が起き死傷者が出る。

 これは海軍も海賊も、戦う以上はしかたがないことだ。

 

 目をつけたロックスター海賊団は補給にきちんとカネを払う。宝さがしがメインで戦闘は二の次、それでいながら敵対した海賊、海軍を蹴散らしてここまできている。

 それは【赤髪海賊団】の在り方と一致していた。だから在り方の近い彼らをスカウト対象として、現在屯(たむろ)しているらしい場所に出向いた。

 

 軽い戦闘の後に制圧し、船長のロックスターに『スカウトに来た』とシャンクスが伝えると、目を丸くしながらもスカウトに応じるそうだった。―――だが、どうにも歯切れが悪い。

『今はまだ仲間になれない』と言う。

 理由を問いただすと真剣な表情を浮かべながら『ある男に勝たなくてはならない』と言う。その沈痛さから更に細かく聞くと、『命を握られている』と言うではないか。

 

 悪魔の実を使ったにせよ、何にせよ―――『仲間になった者に、そんな外道をしている奴がいるとは許せない』そう勇んでの訪問だった。

 

 そしてその件の男――ラオウとの戦闘を予感しながら滞在場所を尋ねると、愛用の麦わら帽子を渡した子供の兄:ポートガス・D・エースが居る。しかしどうやら、かなり深刻な話をしている空気だ。

 とりあえず、シャンクスはエースに会えたということで部下に酒を持ってこさせ酒席として、二人の話の中に入ることで、ラオウと言う人物を見極めようとすることにした。

 

 

・畏怖と恐怖、敬意の中に生きた覇者。鬼と呼ばれた者の子。の巻

 

 

「……経絡秘孔?」

 

 自己紹介を終え、ロックスターに起こっていることを聞いたシャンクスが問いただして聞いたのは、その20年を超える海での生活で初めての言葉だった。

 

「我が北斗神拳の根幹にして奥義――それが経絡秘孔だ」

 

 エースとともにシャンクスは詳しい説明を求めた。

 大雑把にわかったことは経絡と呼ばれるところに【気】を送り込むこみ、人体に様々な変化を齎すことが出来るらしい。『ロックスターの命を握っているのはそれなのか…』そうシャンクスは納得する。

 しかも、突けばそれで終わりなのだから、しゃべってしまっても問題が無いということだろう。

 

(手強いモノだ。)そうシャンクスは思う。

 

「あー、ひょっとして、最近オヤジの体調がいいのはそれか?……なら、手加減したってことか?」

「……あの時は殺す気で放った。だが、あの男の闘気で活法になるまで威力を落とされた」

 

 エースは父と尊敬する男の体調が良くなるのは嬉しい。だが、あの戦いの中で手加減をされたのではないかと思うと腹立たしさを覚えずにいられない。

 そういうつもりで放ったのではないか?といくら聞いても水掛け論なのでエースは諦めた。

 

「―――で、ロックスターのそれは解けないのか?ウチの仲間になるんだ。身内にそんな事されちゃ困る」

 

 どうやら想像以上に……『悪魔の実』より質の悪いモノだ。

 そう見当をつけたシャンクスは、たとえ白ひげと引き分けようとも、厄介な相手であろうとも仲間をいいように使われてはたまらない。覇王色を軽くぶつけながら聞く。

 しかしその返答は明後日の方向を向いたモノだった。

 

「―――既に解いている」

「……なんでだ?」

 

 まさに都合のいい下僕が手に入っていたのに……。シャンクスは感情と別に考えて問いただす。

 

「強くなろうとするからだ。己の無力を感じ、悔しがりながらも立ち上がる者を俺は下僕にしない。強くなれば死合うのみ。

 ……このラオウが嫌うは諦め、他人に媚びへつらい、歓心を買おうとするのみと成った愚図・愚劣な輩だ。下僕として使うのはその手合いの輩よ。」

 

 シラフの、普段のラオウならば少なくとも、前の部分は小っ恥ずかしくて答えないだろう。酒が入り、場の雰囲気から出たこの答えは、シャンクスが思わず納得してしまうほど清々しいものだった。

 エースは何故白ひげが戦いの後、相打ちと不本意な結果なのに上機嫌であったか。自分がトドメを差しに行こうとした時に何故、伝言を聞くのみで見逃してしまったのか解ったような気がした。

 

 

 酒が進み。エースは、ふと自分が、白ひげ海賊団が全く気付けなかったティーチの本質を、その本性をあっさりと見出したラオウに、聞いてみたくなったことを質問することにした。

 

「……なぁ、あんたはゴール・D・ロジャーをどう思う?」

 

 その質問にシャンクスもまた飲むのを止め、ラオウを凝視する。見習いの……青二才の自身の面倒を見てくれた恩人だからだ。

 ラオウは『―――知識としてのみでだが』と前置きをして、

 

「時代の流れの中で人身御供となった男。そして、最後まで戦い続けた。……おそらく、その最期に悔いはあるまい。」

 

『―――出来る事なら、死合いたいものだな。』……と、最後に続け、更に盃を傾ける。

 シャンクスは(……ああ、そうだった)と、その最期を思いながら、目の前の豪傑が下した評価を嬉しく思う。

 

 しかし、エースは自分の過去を思い出していた。

 幼少期から預けられたところでは『鬼の子』と呼ばれ、街でそれとなく聞いても、やはり下衆扱いだった。

 ―――結果だけで言えば目の前の男もそうではないか?己の好き勝手の果てに弟に倒されたと言ったではないか。子供はいないのか?居ないから言えるのではないか?己の身勝手の果てに、近しいものは皆殺しに遭ってもか?

 そんな憤りがフツフツと湧いてきていた。

 

「……あんたに子供は?」

「…………いる。それがどうした?」

 

 深呼吸の後、ラオウは簡潔に言い放つ。

『拳に生き、覇者となるには情など不要。』そう言って時代を駆けていたが、捨てることも、忘れることも出来なかった息子。それを思い出していた。

 だが、その答えに、その心を察するには人生の経験がまだ少ないエースは腹がたつばかりだった。

 

「『世の中の平定のために人を束ねて、暴力で全てを統一しようとした。果てに、意見を違えた弟達と戦って負けた。』……前に、そう言ったよな?」

 

 その言葉に静かにラオウは頷く。

 シャンクスはエースのその憎悪をむき出しにした表情に驚いていた。

 

「なら、あんたは『そんな暴君の息子』となじられる子供の気持ちは解らないのか?どうして子供を作った!……他人(ひと)に恨まれると思わないのか!?」

 

 エースは堰を切った様に矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。眼の前にいるのは彼を形作る半分の血、鬼と呼ばれるその人ではない。だが、いつの間にか重ねてしまっていた。

 

 ラオウもシャンクスも、話の流れからなんとなくそれを察した。

 

 その憤りにシャンクスは何も言えないでいる。

 しかし、ラオウの答えはどこまでも突き放したものだった。

 

「―――だからどうした。このラオウの血を引くならば、子は俺を超えるために足掻くだろう。それが出来ぬならば、それまでの器だったということだ。」

「―――なっ、器!?……超える?」

「北斗の長兄として、俺は弟達に俺の在り方を見せつづけた。

 弟達はこのラオウを追い、めざした。そして最後に弟はこのラオウを超えた。我が子ならば、弟達のように俺を超えねばならん。」

「「……………。」」

 

 この二人の言い合いで、一気に酔いと場の空気は醒めてしまい、そのまま酒席はお開きとなった。

 




・『天破活殺を打ち込んだ際に、病気が治ったり、体調が良くなる秘孔とか突いてたりするか?』という質問ですが、そのとおりです。

 言葉通り、ラオウは『死んでも構わない』という考えで『体調に作用する』秘孔を撃ちました。手加減は絶対にしない人ですから……。
 白ひげの闘気で威力を軽減されたために、殺法で放ったモノが活法となっています。もしも白ひげの闘気がラオウの想定した強さ未満であったならば、そのまま死んでいました。
 つまり、『殺すために撃ったけど、白ひげに真の実力があるならば、それなりの回復をした上で生還する』といった塩梅です。

 ただし、体調が良くなったと言っても、元々かなりの重症と考えてます。医療器具を外して突っ立ってるだけで避けられるはずの攻撃を避けられず、赤犬と戦ってる最中に吐血ですから……。
 回復したのはラオウとの戦いで消耗した分+ちょっと。と言ったところです。スクアードの攻撃を躱せるくらい。
 ちなみに秘孔の位置は、蒼天の拳で霞拳志郎が朋友のヤクザ大親分が半死半生に陥った時に突いた秘孔になります。


・今回はラオウと白ひげの身内に対する違いを描いてみました。ラオウならばエースの『産まれてきてよかったのか』という悩みは『くだらない』で一蹴してしまうでしょう。

 白ひげの『海に出るならみんな海の子』と、どんな者であっても受け入れる包容力。

 一方、ラオウは泣いてる弟:トキに『俺は涙を捨てた。強くなるために』と言い、遠くを目指す姿を見せつけ。
 その背を追いかけたケンシロウも人質に取られたラオウの遺児:リュウに対して『ラオウの息子だ。既に死ぬ覚悟は出来ていよう』と言い放つ。北斗の兄弟は自分で歩かせるために、突き放してあえて背を向ける。

 そんな保護者としての立ち方の違いを書けたかな?優劣なんて付けられませんが……。
 北斗の兄弟達と近いのを挙げるならばガープの『生きてりゃわかる』でしょうか。

・世紀末覇者拳王としてならば、立ち上がる者でも逆らう要素があれば抹殺するでしょうけど、拳法家:ラオウとしてならば死合うことを楽しみにしているので下僕に置いたりしません。若干捏造ですけどご勘弁を。

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