大海賊時代に降臨する拳王 我が名はラオウ!!   作:無機名

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 お待たせしました。今年度初です。……不幸があったので『あけまして~』は、ナシで。


第21話

[チリン、チリン]

 

 夜の海をベルを鳴らしながら自転車が走っている。

 そう、海を自転車が走っている。異常である――しかし、異常が無いことが異常と言えるグランドラインから見ればよくあること。

 

「……はぁ、ガープさんはなんで俺なんか呼び出すんだか。

 …………『【白ひげ】引き分けた【拳皇】がこれまた最近、頭角を現した【黒ひげ】と戦うから見ておけ。』……か。

 それにセンゴクさんはセンゴクさんで『ジンベエを捕えるから手伝え』って。ふたりとも人使い荒いなぁ。まったく。」

 

 ため息を吐きながら自転車を漕ぐアイマスクを額につけている男は、こう考えていた。

 

『理由は実のところは取ってつけたモノで、よくあるガープのワガママがまた炸裂してセンゴクが爆発。その尻拭いに自分は呼び出されたのだろう。』

 

 そんな考えは目的地マリージョアを目にして吹き飛んだ。

 

「おいおい、なんだありゃ……。」

 

 マリージョア湾口の建物の大半が崩れ、港の目印となっている灯台は無くなっている。視界の中でさらに建物が轟音を立てて倒壊した。

 これはその場所でなおも戦闘が続いている事を示している。男は"見聞色の覇気"を使い、戦場を探る。

 

「あらら、ガープさん。それに、センゴクさんまで……。

 この気配、デタラメじゃないの。――――急ぐか。」

 

 足の方が早いと自転車を置き去りにして、男は戦場に向かって駆け出した。

 

 

・続く激闘 の巻

 

 

 戦場音楽が奏でられている。

 

[ドォ・・ン、ガゴォ・・ン、ギィン、ガァ・・ン]

 

 その場で戦う者、全員が高速移動技・"剃"を最高速で使いながら戦っているため、周囲の破壊がまたたく間に広がっていた。

 

「……ちっ、くそったれ、怪物どもめが。」

 

 その光景を肩越しに見ながら、ティーチが吐き捨てる。少し離れたところから観戦していた黒ひげ海賊団は、居住区に向けて逃げ出していた。

 

 先程『【拳皇】は消耗したに違いない』と考え、自身のヤミヤミの実の能力でラオウを飲み込み、自分たちの存在をアピールしようとした。 

 

 しかし、やぶ蛇であった。

 その余計な行い以降、ラオウの攻撃は『【黒ひげ海賊団】を巻き込んで殺せるならば殺す。』

 そう言わんばかりに広範囲に攻撃を撒き散らし始めていた。放たれるラオウの攻撃は奥義で無くとも、黒ひげ一団にしてみれば全て必殺。逃げるしかなかった。

 

 無言でラオウが放った回し蹴り―――南斗聖拳の足技【南斗白鷺拳奥義:烈脚斬陣】の生み出した真空の刃が周囲360度を切り裂く。

 ガープは持ち前の野生の勘でそれを躱す。センゴクは"覇気"と"六式"、そこに"悪魔の実"の防御力を用いて耐え、反撃の衝撃波を放つ。

 衝撃波はラオウの"闘気"の壁により、逸らされる。かき消されずに残ったラオウの攻撃、逸らされたセンゴクの技により、港町の被害は更に拡大する。

 

 依然続く、世界の頂上に位置する者達の第二ラウンド。戦陣風が舞うマリージョア港地区。

 『拳皇、英雄、仏』それぞれが異名を持つ者達による破壊活動。それを黒ひげ海賊団以外に見ている者達がいた。

 

「……ひどいもんだ。あの脳筋たちは……シキ以来だね。」

 

 既に当時を上回る惨状を眺め、ため息を吐きながら巾着袋に入っている小粒の鉄球に"覇気"を込め、それを弾き飛ばし、飛んでくる破片を粉砕している老女。大参謀:つる中将。

 隣に立つシワが深い顔とサングラス、ヒゲが特徴的な男。―――大将:黄猿、ボルサリーノもまた、破片を"悪魔の実"の能力を用いたレーザーで撃ち落とす。

 

「オー、わっしも行きましょう。」

「……おやめ。馬鹿言ってんじゃないよ、この状況を見ていいな。あんたまで加わってひどくなったら、後始末は誰がするんだい?まったく。

 ……あとね。あんたがここから抜けて居住区に被害が出たら、世界貴族に何を言われるかわかんないよ。」

 

 安直な考えで提案したボルサリーノは、その指摘に押し黙る。

 眼下の戦いで使われている"悪魔の実"はセンゴクの幻獣種の動物系。ガープは非能力者。【拳皇】がどうかは分からないが、少なくともロギアではない。そこに自然系能力者の黄猿を投入すれば、敵を追い込むことが出来るのは間違いない。

 

 だが、それでも決着が長引けば破壊は加速度的に増し、被害は更に拡大する事は必定。この場所が聖地でなければ許されるだろうが、ここで万が一そうなれば許されることではない。

 

 その指摘に黄猿は諦め、戦場からの余波を居住区に及ばないよう守備に専念する。と、彼らの横を通りすぎ、戦場に向かおうとする者が現れた。

 つるは声をかけながら、その肩をつかむ。

 

「お待ち、どこに行こうってんだい?坊主。」

 

 それはスモーカー准将だった。能力ですり抜けようとしたが、つるが"覇気"を纏って掴んだために振り切ることは出来ない。

 

「くっ、放…つる中将!?―――申し訳ありません。」

「ん?あんたはクザンのところの悪ガキだね。何しに行くつもりだい?」

 

 スモーカーを止めたのがガープ辺りならば、普段の反抗的な口調でぞんざいに撒くところだが、つるではそうもいかない。それなりに丁寧な軍隊口調で用向きを伝える。

 

「ハッ、その……五老星からこれを―――。」

 

 彼女が渡された物は世界政府の印紙付き書簡。走り書きであるが、ご丁寧に五老星全員の署名が書かれていた。

 それを確認すると顔をつるはしかめた。

 

「……なんかの冗談かい?これは……。」

「いえ、連絡の取れないセンゴク元帥、ガープ中将を止めろと、五老星より仰せつかりました。」

「んん~~~、ホントだねぇ~~~。これは五老星の字だよぉ~~。」

 

 隣のボルサリーノも確認する。

 その内容は『―――直ちに戦闘を中止。本日、拳皇に手出しをすることは許さぬ。』とあった。

 かつてのフィッシャー・タイガー以上の大事件であるのにもかかわらず、である。

 

 命令が例え納得の行かない内容であっても、軍人である以上は従わなければならない。つるは諦めスモーカーを放し、戦場を指さす。

 

「わかった。……お行き―――坊主なら、そう簡単に死んだりしないだろうからね。」

「はっ!!」

 

 言われたスモーカーは走りだす。

 

「いいのかい?つる中将~~。」

 

 見送ったボルサリーノが問いただす。

『あの危険分子をここで逃せば、とんでも無いことになる。』そして、『強烈な覇気を纏った戦いに、あの程度の者を送り出していいのか?』の意味を込めて進言だった。

 それに対し、つるは諦めたように頭を振りながら言う。

 

「今回は諦めな。だから、ガープとセンゴクが戦ってるうちに見ておくんだ。

 そら、【拳皇】は戦い方を変えたみたいだね。きっとまだ何か隠してるよ。それに、警戒されてるあたしらよりも、あっちからの不意打ちのほうがきっとましだろうさ。

 ―――あの坊主がたどり着くまでに、どんな形であれケリは付く。」

 

 言われたボルサリーノは深く気配を探る。そして気付き、思わず声を上げる。

 

「?……あぁ~~!!ホントだ。この気配…つるさん、ひょっとしてぇ、わかってたぁ~~?」

「……あの悪ガキが通りかかった時くらいだよ。『確認のために呼び止めました。その間に決着は付きました。』……なら、言い訳が立つだろう?

 ―――しくじっても問題ないさね。」

 

 あっけらかんと言ってのける老女に、周りの者は絶句した。

 そんな彼らの考えは一致していた。『このバアさん。今でもやり手だ。』…と。

 

「誰がバアさんだって!?あたしゃあんたらに遅れを取った覚えはないよ!!」

 

 そして、諸々の図星を見事に突いた怒声に、場の空気は重苦しいものになった。

 

 

 

 ガープとセンゴク。二人はラオウに向けて突進し、攻撃を繰り出す。

 センゴクは衝撃波と拳。ガープは得意の拳骨の弾幕。そんな大砲を上回る攻撃の嵐に晒され続けているラオウは、攻撃が途切れた間隙に"月歩"で空へ逃れ、落下の勢いと共に反撃する。

 

「―――南斗、飛鳥乱戟波(ひちょうらんげきは)!!」

「くっ!!」「ふんっ!!」

 

 突進と共にラオウは無数の抜き手、そこから発生させた真空波を乱射する。大砲がガトリング砲の連射力で破壊するような音があたりに響き渡る。

 しかし、その攻撃には強い"闘気"を十分に込められていない。込めることが出来ない。一山いくら程度のものならば即死であるが、この二人には通じることはない。躱され、防御されてしまう。

 

 第二ラウンドを開始してから、センゴクは"覇気"と"悪魔の実"のよる巨大化による巨躯を生かし、強力な一撃必殺と言える攻撃を繰り出しつづける。

 ガープは大振りになりがちなセンゴクの隙を補うように、出せる限り最高速の"剃"と圧倒的な手数で攻撃。

 

 二人はインターバルの後、この戦法を取り続けていた。

 1ラウンド目で彼らが判ったことは、一対一ではラオウに分があるということ。

 しかし互いの持ち味を最大限に生かし、撹乱して削る。―――センゴクが悪魔の実を含めた高い攻防力で削り、ガープが手数と速度で動きを封じる戦術。これならば確実に追い込むことができる。

 二人の長年の経験から、言葉を交わさずとも自然な流れで成り立った戦い方だった。

 

 そんな少しでも守りの"闘気"を緩めればノックアウトされかねない攻撃と手数とスピードに晒され、防御重視となり攻撃に集中出来ない。

 

 これはラオウの失策だった。

 本来の無意識・無想の拳に程遠い、使い慣れない南斗聖拳を逐一考えながら使っていたため、ガープ達の"見聞色の覇気"によりその攻撃をかなりの頻度で察知されてしまっていた。

 

 さらに、北斗神拳を使う時と同じように敵の攻撃に回避は行わず防御、あるいは反撃で返している。南斗聖拳は北斗と違い、技のキレと速度が重視される。そのため足捌き等による受け流しが基軸となるのだが、今は剛拳として技を振るっているため、それを使おうとしていない。

 

 これら要因により、ラオウはほぼ一方的な防戦を強いられてしまった。その不利を示すかのように服は所々ちぎれ始めていた。

 

 もちろん打開策はある。北斗神拳を使えば、状況を打破することがたやすく見込める。

 

 そう。これまでラオウは、この劣勢であってもスピードを重視した攻撃ならば当てることが出来ていた。―――ならば軽い攻撃であっても、相手の状態を少しずつでも悪化させることができる経絡秘孔への点穴を用いる北斗の技ならば、確実に状況を好転させ、敵を仕留めることが出来る。

 

 だが、凄まじい意地を持つ彼は、この場で北斗神拳を使わないと決めた以上、絶対に使おうと思わない。このまま行けば【拳皇】は倒れる。傍目からはそう思えた。

 しかし―――。

 

「ぬ、むぅ!……このラオウに、柔の技を使わせようとは……白ひげ以来だ。誇るがいいわ。」

 

 ラオウがそう、静かにつぶやいた後だった。

 その数秒後、ガープは腕に攻撃を喰らい思わずそこを抑え。センゴクの肩口からは血しぶきが上がった。

 

「ぐぅ!!」「―――ぐわっ!!」

 

 ラオウはガープの拳の弾幕を"紙絵"のような柔軟な動きで躱しつつ、その腕を手刀で切る。それは剛ではなく、柔の南斗水鳥拳。

 

 反撃に出て体勢が崩れるラオウの隙を狙い、センゴクは拳を振り下ろす。

 しかし、ガープ同様しなやかな動きで回避され、"剃刀"を用いた高速移動で傍らをすり抜けつつ、肩口の肉を抉り取られた。

 その拳は【泰山天狼拳】。覇業の果てに目指した平和のため、心を殺しながらラオウに忠義を尽くした漢の拳。

 

 ガープは間一髪"鉄塊"が間に合って、腕に多少の痛みを覚えた程度。

 だがセンゴクは"悪魔の実"を使った巨体がため、回避が間に合わず、腕の動きに違和感を覚える程の傷を負った。

 

 二人共痛みはあるが、かまわずラオウを睨みつける。そこで彼らは困惑を覚えた。これまでの『どんな攻撃をも真正面で受け止める。』と言わんばかりの、かかとに体重を乗せた力と威圧を感じさせる構えでなく。

 両腕をゆるやかに垂らし、つま先に軽く体重を乗せた、いわゆる猫足立ち。柳のようなしなやかさを思わせるモノであった。

 

 その構えの使い手は、世紀末覇者「拳王」を名乗ったラオウに王道を行く事を説き、結果戦い、手傷を負わせたほどの使い手―――軍師:森のリュウロウ。

 流派【南斗流鴎拳(なんとりゅうおうけん)】『風に乗って水辺を浮遊するカモメの如き拳』と例えられる南斗108派の拳。その拳の質は柔拳。

 

 

「おのれ!!」

 

 戦闘を再開する。闘いながらセンゴクは思わず、繰り言を発していた。

 今、ラオウは自身の"剛の拳"を乗せた南斗聖拳に加え、柔の技:流鴎拳を織り混ぜ、更に時折逆立ちの体勢から蹴りを放つ―――彼の朋友が修めた【嵩山旋風脚(すうざんせんぷうきゃく)】など、変則的な技まで使い始めた。

 しかもラオウは何が嬉しいのか、あるいは余裕があるのか、笑みを浮かべてさえいた。センゴクは愚痴を吐かずにいられなかった。

 

「センゴク―――ワシが決める!!」

 

 完全に作戦を無視することになるが、ガープはセンゴクに吠えた。

 自分が連れて来た男がこのマリージョアで好き勝手し、更に戦友に手傷を負わせた。これらはガープの矜恃に触れ、もう間もなく来るだろう援軍を待つという作戦を吹き飛ばしていた。

 その心情を察したセンゴクは、落ち着かせるのは無理であると判断し、ガープを援護するため、これまでの牽制として使ったものではなく、全力の"覇気"を込めた最大級の衝撃波を繰り出す。

 

[ゴーン!!]

 

「ぬうお!?」

 

 その威力は、かつてラオウが白ひげの攻撃に対抗するために用いた、全力レベルの"北斗剛掌波"に匹敵するほど。

 ラオウは闘気を全力で纏い、防御する。防御に専念したラオウに致命傷を与えることは出来ない。しかし、その一瞬でガープはラオウの背後に回りこみ、両手突きを放つ。

 

「フ、フフハハハ~~~、これがうぬらの切り札か?―――下らぬわ!!」

 

 しかしラオウは巧みな足捌きで反転し、繰り出されたガープの拳を掴みとった。世紀末の数多の戦場を駆けた男にこの程度のことでは通じない。

 だが、敵の体に触れているということが海軍の精鋭が持つ秘技、切り札を使うに好都合だった。

 

 それは"嵐脚"、"月歩"、"剃"の脚力で生み出す力。それを"鉄塊"と"紙絵"という相反する技を同時に使い増幅。このエネルギーを"指銃"の一点集中、さらに"覇気"を込めて体内へ撃ち出す奥義。名は―――。

 

「―――六王銃!!!」

 

 完璧なタイミングで体内目掛け打ち込まれる衝撃、いわゆる浸透勁。この状況で完璧な防御を成し遂げた者いない。

 ―――だが、世紀末覇者:拳王の知識と経験、会得した技はこの不可能を覆す。

 

 その技は、愛する妹を守る。その一念による執念を見せ付けた【雲】と呼ばれた天賦の才を持つ漢の秘拳。

 六王銃がその身に浸透するまでの刹那。ラオウは拳を受け止めた手のひら、数ミリ単位の隙間でエネルギーを溜め、それを強烈な打撃として撃ち放つ。

 

「撃壁背水掌!!」

 

 互いが発した高圧縮、高密度のエネルギーが炸裂する。

 

「ぶわはっ!!」

「ぐはっ!!うおおおーっ!!」

 

 そして、アルコル島での戦闘の結末と同じように、ガープはマリージョア中央の方向。ラオウは港の方向へ、それぞれ飛ばされた。

 飛んできたガープをセンゴクは受け止める。

 

「大丈夫か!?ガープ!!」

「くそ、鈍ったわい。」

 

 センゴクに受け止められたガープは全盛期ならば―――と、思わず吐き捨てる。

 しかし、センゴクはラオウの飛ばされた方向を見ながら言う。

 

「―――いや、ちょうどいい頃合いだ。」

 

 センゴクが答えたと同じくして、港に冷気が満ちていた。

 




 古強者達の反撃ターンでした。まだちょっとだけ続きそうです。
 知恵者の大参謀:つるに見られていた事を考えると、パクられる技が出てきそう……。経絡秘孔の知識が必要な北斗に比べ、南斗聖拳の技は六式を極めてれば、模倣するのに苦労しないと思いますし。
 劣勢なら意地を張ってないで、北斗神拳を使えばいいのに。拳王様は『愛を心に刻みつけた。それだけは死んでもいえぬ!!』…こう言う人ですから、使わないと決めたら、使わない。意地っ張りというか、すっごく頑固です。

 過大評価かもしれませんが、以前に活動報告に書いたように、同条件の破壊範囲で拳王様と全力ガチンコのタイマンを張れるキャラと言ったら、蟻王:メルエム(強化版)くらいしか思い当たらない……。

 さて、『アンチで大丈夫か?』そう悩んでいる中。たくさんの方の励まし、ありがとうございます。
 何分、小心者ですので、今後もあれこれ悩みながら書くことになるでしょう。けど、読んでくれる方、待ってくれている方がいる限り頑張ります。気長にお付き合いの事を。

 …次は…色々あってシャボンディ諸島に着いたラオウ。そこにいたのは……次回:傍若、天竜人――死ぬのはお前だ!!の巻(半分冗談)
 ただ、そこまでいけるのかわからないです。^^;

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