北斗の世界観が良く表現されてていい曲です。作業、止まることが多いけど(^^;
もう、マーシャル・D・ティーチという存在自体が拳王様の逆鱗に触れる気がしてきました。
白ひげに天破活殺を放った時以来、力を出すことがなかった拳王様。―――今回かなり本気です。
「ゼハハハハ、ラフィット、遅かったじゃねぇか。あとちょっとで殺されちまうところだったぜ。」
先程まで激痛でのたうち回っていたマーシャル・D・ティーチが荒い息を吐き、部下を労いつつも愚痴を吐く。
それに対して、ラフィットがその体を支えながら答える。
「ホホホ、申し訳ない。海軍のお歴々が話を聞いてくださらなくて遅くなりました。」
(抜け抜けと海賊が―――。)
センゴクはその物言いを腹立たしく思うが、まさにその通りだった。
『仲間を裏切った【黒ひげ】よりも【拳皇】の方が信頼できそうである。』
ガープからの話による先入観から【拳皇】を、所詮犯罪者である者をここまで泳がせてしまった。それをセンゴクは悔いていた。
今、ガープとセンゴク。二人は聖地を荒らしたラオウの背後をとっている。距離はたった5メートルほど。一挙手一投足の間合い。
だが、彼らにはこれ以上ラオウに近づくことが出来ないでいた。
驚くべきことに、ここまでの戦闘でラオウは左腕を肩がけの荷物袋を持つために使っていなかった。少なくとも、全員の戦闘力が海軍本部:大佐以上の実力を持つだろう【黒ひげ海賊団】と戦っていながらである。
この事実を抜きにしても、センゴクたちはラオウの隙を伺うどころか、その"覇気"に打ち込めば訪れるであろう死の気配を感じていた。
「……ドブネズミ。これがうぬのやり方か?」
一方ラオウは、黒ひげ一団の会話と、ガープ達から向けられる敵意から己が泳がされ、言い逃れのできない状況に追い落とされた事を理解した。
もともと言い訳、言い逃れをするつもりなど無い。
先刻より十分に承知していだが、ラオウ自身の在り方とは真逆。己を晒すこと無く人の影に隠れ、果実だけを攫っていくやり方をひた走るゲスに不快感を覚え、問いただしていた。
「ああ!?使うものはなんでも使う。これが策略ってもんだろ。―――"覇道"ってもんだろうが!!」
海軍の古強者二人が来たことにより、そして【黒ひげ海賊団】が集まった事による有利を覚えたティーチは機嫌よく答える。
これは火に油を注ぐ行為でしかなかった。沸点を超えたラオウは、左腕を制限していた荷物を放り投げるとともに静かに言い始め、最後は叫んでいた。
「"覇道"……だと?貴様は己が力で事を何一つ成さず、仲間を裏切り、謀略で人を扱うことを―――"覇道"とぬかすか!!」
ラオウの怒声と共に強烈な"気(オーラ)"あるいは"闘気"をこれまでの薄い陽炎としてではなく、"覇気"を扱えぬ者でさえ見えるほど強く纏う。
その"闘気"は地面にヒビを入れ、砂塵を巻き上げ、突風をも起こしていた。
「―――ヒッ」「……なんちゅう覇気。」
ティーチを始めとした黒ひげ海賊団は言葉を失い、一度戦ったガープでさえも、開放されたラオウの力に驚いていた。
―――しかし、義務感・正義感の強いセンゴクは違った。
[ゴーン!!]
「ぐわぁ!!」
「ぬぅ――――――!!」
これ以上、ラオウの威圧に飲まれてはマズイと思い、センゴクが放った衝撃波。
ティーチのもとに集まっていた【黒ひげ海賊団】はマリージョアの街の方向へ転がされる。しかしラオウは、マントをところどころ破られながらも、数メートル地面を削りながらも耐え、立っていた。
「ぬ…むぅ……。」
「ラオウ!!如何に貴様が強大であろうと、ここは世界政府の中央マリージョア。貴様の好きにはさせん!!!」
センゴクが啖呵を切る。一時代を率いた男の意地が言わせた台詞であった。
そこに吹き飛ばされた黒ひげが便乗する。
「ゼハハハハハ、相変わらず、すげぇじゃねぇか!センゴク元帥よぉ。ラオウ、お前はもう終わりだぜ!!」
そう言ったティーチを、ラオウは一瞥し吐き捨てる。
「…………もはやゴミにしか見えん。そこまで見苦しいと殺す気も失せるわ。白ひげに挑んで死ぬがよい。
―――うぬの異形、"悪魔の実"だな。何の実だ?」
後半、センゴクに向きを変えながらラオウはその姿を認め、問う。
その問いかけに不穏な空気を感じながらセンゴクは答える。
「……"ヒトヒトの実:モデル:大仏"だ。」
「ふ、ふぁははははははは~~~!まさか、"仏"を象ったそれと戦うことが出来ようとはな―――!!【"仏"のセンゴク】とはそういうことだったか!!!」
センゴクには預かり知らぬことであるが、北斗神拳は真言密教―――仏教と深い関わりがある。
不運なことに、正しくその能力はラオウの興味を向ける結果となっていた。
「ッ―――ぬええい!!!」
センゴクを威圧しながら笑い続けるラオウに殴りかかったのはガープ。一段と強くなった死の気配を感じさせる"覇気"の矛先が戦友に向いた。
『目の前の男を倒さねば、センゴクは死ぬ―――。』
彼の孫同様、その危機を頭で考えるより先に体が動いた。
「―――むお!!」
逃した衝撃で地面を陥没させながらも、ラオウはガープのパンチを捌き、投げる。
ラオウの威圧から開放されたセンゴクは、命令を聞かずに勝手に攻撃したガープを咎めずに構える。構えながらセンゴクは、共に戦う戦友の忠告を思い出していた。
『【拳皇】の"覇気使い"としての力量はわしらより上の領域に―――。』
・拳王 対 海軍の古強者達 の巻
「ハァ……それで……【拳皇】はどうだったんだ。」
「やっと本題か、センゴク。」
長い長い説教が一段落し、ため息を吐き別の話題を切り出した海軍元帥【仏】のセンゴク。
これまでの説教に、まったく堪えていない【海軍の英雄】ガープ。彼は呑気にも湯呑みを手にし、それが冷めていることにしかめっ面を浮かべている。
「……はぁ、茶が冷めてしもうたわい。――あ!アルコルで買った菓子があった。食べるか?」
「誰のせいだ!?そんなもの一人で食べてろ!!」
二人のやり取りを眺めながら、部屋の入口でいたたまれなく立っているスモーカー准将。ガープの孫弟子当たるが、不幸(?)にも彼の生真面目さから、その心持ちは外の闇のように暗かった。
彼らが報告をしに来たのは、夕暮れ前に始まったはずなのだが外は既に夜の闇に包まれ、街灯がポツポツ光っている。
まずセンゴクは報告をスモーカーに求めた。
ガープに説明を求めては、すべてガープにとっての都合のいい事だけ。ガープ自身の失態・失敗は悉く、はぐらかされ。彼の性格上、具体的な説明は無く、すべて子供の感想程度の報告しか期待できないであろう。
そのことが分かっていたからだ。
実際、電伝虫を使ってのガープの報告は『【拳皇】を連れて行く。』……だけだった。だからこそ詳しい報告を改めて求めた。
そして、スモーカーからの報告、そこで分かったガープの行動をおおまかにまとめると。
『・少人数で行くと言って、お伴を置いてきぼりに一人で突っ走る。
・メシ屋に乗り込み、10万ベリーに登る食事、ツケをセンゴクへあてつける。(代金はスモーカーが立て替えた。)
・調査対象の【拳皇】と関わりある現地の子供に接触。
・その子供を拉致、半ば強制的に道案内させる。
・単独・独断行動を咎めようとしたスモーカーから逃げまわり、それを撒く。
・対象に政府・海軍に離反意志を持たれかねないような、直接の戦闘に訴え出る。
・―――戦った結果、半死半生に追い込まれた。』
前半二つはどうでもいい……わけではないが、やはり『いつものこと』である。メシ屋の一件をスモーカーから聞いた時、センゴクはポケットマネーで補填した。
そして、『そんな事、せんでええのに。』などと笑うバカをついでに殴り飛ばす。
さておき、ここまで説教が長くなったのは残り4つの報告。結果オーライとは言え、危うく危険人物を明確な敵に回しかねない行動。
更に問題なのが最後の報告だ。
全盛期に比べて多少衰えがあると言え、海軍の最高戦力である大将と遜色ない戦闘力を持つガープを追い込んだということだ。
「……もう一度聞くぞ、ガープ。【拳皇】はお前から見てどうだった。」
とりあえずセンゴクは改めて説教を切り上げ、鼻クソをほじっているガープにラオウの見立てを質問することにした。
(人物がわかれば対処の仕様があるはずだ。)とセンゴクは考えていた。
「うーん、難しいのぉ……ロジャーのヤツに似てるといえばそうだし。でも違う気がするのぉ……。」
「ふむ、ロジャーに似ているのか。――――難しい?」
能天気なガープにしては、珍しく腕を組みウンウン唸りつつ言葉を探している。彼にはどこか子供のように直感的に、説明や証明など必要とせずに人を見切るところがある。
そのはずなのだが、はっきりと言い切らない。答えに窮している。
「元帥、聞きたいことがあるのですが……。」
そこにスモーカーが口を挟む。
「何だ?言ってみろ。」
何かガープには言い表せない何かを言うのだろうと、センゴクはスモーカーに回答を促す。
「【拳皇】がどこかの国で"王"であったと言う記録は?」
「ない。……むしろ、白ひげと引き分けた。その話題が出るまでの経歴が一切不明だ。」
センゴクはきっぱりと言い切る。情報を渡さない政府に業を煮やし、センゴクは五老星に詰めより確認を取っていた。
そして、そこで情報を得ても、やはりつかみきれなかった。
「あ、そうだ!!アイツ、"覇王色"を持っておったぞ。」
「!?……何故、真っ先にそれを言わん。」
どんな形であれ、他人に影響を与える素質。数百万人に1人の「王の資質」を持つ者しか身に繆うことができない覇気。―――【覇王色の覇気】。
近年でそれを持っている者で歴史に名を残した者と言えば、ゴールド・ロジャー。
『それを持っているならば、アルコル島を僅か3ヶ月に満たない期間で、島民の在り方を変えてしまったことは必然。』
頭痛を覚えながらもセンゴクはそう納得した。
「……元帥、まだ続きが……。」
「ああ、スマンな。で、何だ。」
無視する形になったスモーカーに謝り、とりあえず続きを促す。
「あの島で【拳皇】は戦闘技能の指導だけではなく。戦術、戦略面の指導もしていたことを……。」
「………。」
もうセンゴクは、反応を返すに返せなくなってきていた。
「それとな、センゴク。言いにくいんじゃが、はっきりと分っておることがある。」
「……まだあるか……何だ?」
ガープはそれまでの呑気な態度を改め、重く言葉を紡ごうとした。
「「―――っ!!」」
そこで、センゴクとガープの二人は、部屋の窓に目を向ける。
それにつられてスモーカーも同じ方向を見る。
「おや、さすが海軍の生きた伝説。…と言われる御二方ですね。」
細身のシルクハットを被った男、ラフィットが窓枠に座っていた。
スモーカーは愛用の十手を手にし、ガープも警戒態勢に入りすぐ動けるよう構える。
「落ち着け。……何の用だ。」
殺気立つ二人を制し、センゴクは用向きを問いただす。
部屋に侵入してきたラフィットは得意げに言う。
「【拳皇】についてです。彼はこの"聖地"を荒らしに来た。その事をご報告差し上げようと来た次第です。」
その回答に、なおのこと不穏な空気が部屋を包む。
しかし、センゴクはその空気に流されること無く、更に情報を引き出そうとする。
「……ふむ、それは一体何を根拠にしているんだ?」
「【拳皇】から直接聞きました。そして、私の仲間がそれを追跡しております。」
言いながらラフィットは電伝虫を取り出す。
「先に訊いておこう……。貴様らは何を企んでいる?」
「簡単なことです。我々は海賊。こうして船長が七武海に就こうとしている中、あなた方に信用されないというのは心苦しい。そういう事ですよ。」
質問に対し、もっともらしい理由を吐く。
この場にいる海兵三人はなおのこと警戒感を強めた。『ここで信用を得て何をしようとしている?』と。そんな中、電伝虫が呼び鈴を鳴らす。
「こちら、ラフィット……。」
『オーガーだ。【拳皇】は今、行政府を出て前半部・港方向に足を向けている。船長が足止めをすると言って止まらん。そっちはまだか?』
その報告は世界政府・行政府に賊が侵入したという。そんな事はフィッシャー・タイガーの以来の……それを上回る大事件であった。
驚いたセンゴクは思わず電伝虫に問いただしていた。
「何があった!?番の者達はどうした!!?」
『この声はセンゴク元帥殿か?―――では、答えよう。門番は【拳皇】が何かやったようで倒れている。生きているかはわからない。
……船長が行ってしまった。俺は援護に入る。後はドクQが連絡を引き継ぐ。』
『このまま運が…ゴホ…悪ければおれ達あの世行き…ハァ。』
「……ドク…あなた、いつも不吉なことしかいいませんね。」
「ええい、海軍のメンツに関わる。状況はどうなんだ!?」
なんか変な空気が部屋に漂いはじめたが、その空気に逆らってこそアクの強い海軍を束ねる元帥。
とにかく状況の把握に務める。
『今船長が……ああっ!』[ドサ]というなにかが倒れる音がして『ア…ア、すまん、奴の"覇気"にあてられた……。ゴホッ、もう動けない。ゲフ…。』……そう続いた。
「……まったく……いつもどおりそのまま死んでいなさい。―――とにかくこんな状況です。相手はあの【白ひげ】と引き分けた男。助力を願えませんでしょうか?」
ラフィットはドクにあきれた。とりあえず、いつもの"死ぬ死ぬ詐欺"なので流す。
そして、再び用向きを再びセンゴクに伝える。
「スモーカー准将、五老星に連絡をとれ!!安否確認を急ぐんだ。ガープ、行くぞ!!」
「ハッ!!」「えー、いいよ。」
センゴクは【正義】の文字が入ったコートを羽織り、ガープもまたやり気があるかないか分からないような、いつもどおりの返事をしながら部屋を出た。
スモーカーは急いで行政府に連絡を取ろうとする。
部屋を出て少し歩いたところ、二人だけになったところで、ガープは密かに、深刻な声色でセンゴクに言う。
「―――さっき言いそびれたがの、センゴク。」
「……なんだ?」
「アルコルでの手合わせで測れんかったが、おそらく…【拳皇】の"覇気使い"としての力量は、わしらより上の領域におるぞ。」
「な――!?ならば、なおのこと俺達の手で何とかしなければならん。」
ガープが先程、努めていつもどおりの態度をとったのかセンゴクは理解した。
これから戦う相手は、かつて幾度と無く戦ったシキ、白ひげ、そしてゴールド・ロジャー。彼らと戦う時と同等・それ以上の覚悟を持って戦わなくてはならないと。その緊張を部下に伝えないためだったと。
・・・・・・
「ほぅ、その纏う"気(オーラ)"そして、神を模した"悪魔の実"か……。
ここまで血がたぎるのは久しぶりだ。―――よかろう。海軍の古強者。死合うに足りる…来い!」
開始のゴング代わりに放たれたガープのパンチを難なくさばき、状況を五分に戻したラオウは黒ひげ海賊団の攻撃。センゴクの衝撃波により用をなさなくなった外套を脱ぎ捨て、荷物を道の端に放る。
そうして構えると共に、手首を返し挑発する。
「こっ…若造が……。」
「―――。」
センゴクが唸り、ガープは無言のまま"剃"を使い一息に接近する。
[ガギィイン!]
繰り出したガープの拳とラオウの腕が、鋼と鋼がぶつかり合うような音をたてる。受け止めたままガープを掴み、先と同じようにいなそうとする。
同じ技と感じたガープは、その野生の勘そのまま体を捻り、嵐脚を至近距離で繰り出そうとする。ラオウはそれに対し足のスネ。言い換えれば刀の柄となる部分への攻撃を行う。そのぶつかり合いで再び鋼同士がぶつかり合いの音が響く。
結果、地に立つラオウの有利でガープを殴り飛ばす。一対一ならばそのまま転がったガープに追撃を入れるところだが、今は一対ニ。
この対処で隙が出来たラオウに、センゴクは能力を使い巨大化した鉄拳を入れる。長年の杵柄と言えるコンビネーション。
しかし、その攻撃は突如高速で動いたラオウには当たらなかった。
「「なっ!?」」
「ふん、速度は落ちるが……"気"を使わない分、この技は使いやすい。」
二人は息を呑む。攻撃が躱されたことに驚いたのではない。躱した技に驚いていた。
"剃"―――海軍秘伝の高速移動術。習得が難しいと言われるが、単純に言えば高速の足踏みにすぎない。ラオウにとってこの程度の技、たやすいものである。
先ほどのぶつかり合いでも、センゴクらはおかしいと思っていた。鉄が……"鉄塊"同士がぶつかる音だったのだ。しかも、海軍随一の武勇を誇るガープとぶつかって、まるで押し負けていない。経緯はどうであれ、技を完璧に奪われたことに二人は愕然とする。
「――貴様!!その技、どこで身につけた!?」
ラオウに六式を身につけさせたは北斗神拳【水影心】:一度戦った相手の拳を己の分身とし、使うことができる奥義。
しかし、この奥義は相手の拳を写す事が出来ても、それを再現するだけの力が本人になければならない。
海軍の者から見れば、習得が難しい六式。しかし、あらゆる拳法を極めた男:【拳王】と呼ばれたラオウからすればこの程度、児戯にも等しい。
そして、複数の強者を相手にしなければならない今のラオウにとって、ただの足踏みに過ぎない"剃"のほうが消耗が少なく、有益であった。
センゴクの質問に答えず、ラオウは不敵に笑う。
「ふん、いちいち答えるものか?……どぉりゃあ!!」
「ぬわ!!」
ラオウは両手首を合わせ、手のひらをガープに向けて素早く突き出す。
【羅漢仁王拳:風殺金鋼拳(ふうさつこんごうけん)】―――巻き起こった風圧でガープは港の灯台に向かって吹き飛ばされる。
「ガープ!!」
飛ばされた悪友の名を呼んだと同時に、聞き慣れた金切り音をセンゴクは聴き取る。彼の知る威力とはケタ違いの破壊を持つ"嵐脚"。それがガープが飛ばされた位置に重なるように飛んでいく。
飛ばされたガープがぶつかった衝撃と、嵐脚の斬撃で灯台は崩れだす。
「―――おのれ!!」
蹴りで体制を崩したラオウにセンゴクは一気に接近する。衝撃波が大して効かない事は分かった。だが大仏の能力と覇気、そして六式を使った防御力ならばこの"嵐脚"にも耐えられると踏んで突進する。
突進に反応したラオウは"闘気"を纏い手刀を高速で繰り出す。
「っ―――!!」
危険を感じたセンゴクは、先の予想を放り捨て"見聞色"と"紙絵"を全力で使い、ラオウの腕の延長線上全てを躱す。
【南斗水鳥拳奥義、千塵岩破斬(せんじんがんはざん)】:文字通り相手を肉片に切り刻む奥義。そこにラオウの剛拳と闘気が付加され、写した本来の使い手の威力を遙かに上回っていた。
すべて紙一重で躱したセンゴクは踏み込み、ラオウを殴り飛ばす。
「なんと!?―――ぐぬぉ!!」
驚きながらも防御は間に合い、肉体の破損を嫌ったラオウは自ら後ろに飛ぶ。そのままラオウは、センゴクの拳の威力により建物を突き破りさらに隣の建物にその身をめり込ませた。
一方、殴り飛ばしたセンゴクの背後の建物は犀の目に切られ倒壊。彼自身も服と薄皮をところどころ切られ、切り口から血を吹き出す。
「……あれで能力者でないのか。しかも、まったく堪えておらんとは……。」
「じゃっから言ったろに。」
「―――お前は『"覇気使い"として上だ。』としか言っとらんわ!!」
「ありゃ……忘れとったかの?」
寸でのところで嵐脚を躱し、戦列に復帰したガープが相槌を打ち、そこにセンゴクが突っ込みを返す。そう、ガープはラオウが数多の技を持っている事は言っていなかった。
いつもどおりの会話をしたところでセンゴクはいくらか落ち着きを取り直し、埋まった体をひきずり出すラオウを見ながら次を考える。
「ところで、気付いたか?ガープ。」
「あぁ……。」
「あとは奴が合わせられるか、カケだな。」
「まぁ、なんとかなるじゃろ。―――ワシの弟子だし。」
「……(そこが不安なんだが)。」
ここまで、ラオウは不利を承知で北斗神拳を封印していた。―――理由は二つ。
一つは『拳王』を名乗り、世を席巻した時のように、初見の相手の様子見には他流派の技を使い手の内を晒さない。そして北斗神拳は奥の手―――認めた強者に対してのみに使う。この習慣。
もう一つ、今回はこちらを重視した。―――それは場所。
そもそも、北斗の拳はそう簡単に盗まれたり、対策をたてられたりするような武術でない。
今回、黒ひげが小細工を弄したが、結局は通じていない。だが、いまここマリージョアは敵地そのもの。見られるにしては度が過ぎている。
(北斗神拳を迂闊に使うわけにはいかぬ。しかしどれほど少なく見積もろうと、南斗六聖拳伝承者に匹敵する者が二人……か。)
いま戦っている二人―――以前、一瞬で多数の拳を叩きこむ事を重視した"百裂拳"を見様見真似で返したガープ。ここまでの会話などから、理論派と見受けるセンゴク。おそらくどこかで観戦しているだろう黒ひげ海賊団とその他の海兵。
これらを前に北斗神拳を使えばどうなるか。それぞれの分析能力を評価したからこそ、あえて封印していた。
なによりも、この戦闘は【黒ひげ】によって扇動されたようなもの。己の意志で戦うのならば、ラオウは北斗神拳を出し惜しみなく使ったことだろう。だが敵に分析されるために使うなど我慢ならない話であった。
口の中を切り、その血を吐き捨てながら、ラオウはそのハンデさえ楽しみながら獰猛な笑みを浮かべる。
「―――だが、面白い!」
肩を回し、手を腹の前辺りに持って行き『かはー』と息を吐き、気を整える。
そこで気がついた。辺り一面の地面を"闇"が、ティーチの能力が覆い尽くしていることに。
「チッ……まだいたか、ゴミどもめ。」
ティーチの姿を認める事はできないが、ラオウは呆れの言葉とともに、今度は足で"闘気"を足元の"闇"に撃ち込む。
距離が離れていたためか、数秒して『ぐぎゃあぁぁ』と叫び声が上がる。―――それが第二ラウンド開始の合図となった。
遅くなってごめんなさい。
天破活殺を放って、白ひげの衝撃波を耐えた時以来。潜在能力(呼吸法などで引き出される70%)をそれなりに開放しました。
老いと病にボロボロの白ひげなら、真っ向から倒せそうなガープ、センゴク。二人の古強者たちでもなんとか五分。もうちょっと劣勢にするつもりだったのに。さすが拳王様、お強い。
原作では北斗神拳以外の拳法を使っている描写が少ないですが、アニメ版では他流派の技を以外と使っているので、今回はそちらを重視して闘っていただきました。
感想で『他流派は使ってない。』なんて大見得きって、恥ずかしい限りです。