大海賊時代に降臨する拳王 我が名はラオウ!!   作:無機名

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グロ注意報 そして文が荒いです。


第18話

 時を少し遡り―――。

 世界政府役人:スパンダインはこの日、上機嫌だった。

 先日エニエス・ロビーでの息子の失態を、何とか現場の構成員に責任を押し付けウヤムヤにした。そのために派閥の者には借りを多く作ってしまった。また、敵対する派閥の者には、付け入る隙を与える事になった。

 しかし、それを補って余りある成果が近々手に入る。そう思っていた。―――息子を見舞いに行ったその時まで。

 

・荒らされる聖地(後) の巻

 

 先日、元CP9:ロブ・ルッチからの復讐の宣言に怯える息子に、スパンダインは己の手足・部下共を使い、元CP9達に対する対策と対応を練ったことを伝え、安心させていた。

 そんなところに、病院で聞いたことのない声が―――低く、威圧感と重圧に満ちた声による問いかけが聞こえてきた。

 

[うぬが、スパンダインとやらだな」

「「―――えっ!?」」

 

 その問いかけが聞こえた方に親子揃って反応し顔を向けると、そこには、銀灰色のややカールのかかった短髪の偉丈夫が立っていた。

 過去に現場に出向き、予想外の事態に見舞われた時には道化に等しい醜態を晒したスパンダインだが、仮にも世界政府に於いて地位を得るほどの野心と実力を持っている彼だ。眼の前に居る男が一体誰なのかを理解する。

 

「ま、まさか……【拳皇】!?」

 

 そこまで言って、その存在感に圧倒されてしてしまう。

 四皇、世界の頂点である【白ひげ】と引き分けたとされる男だ。一体、何故、それが目の前に来たのか。何をしに来たのか。

 その目的と理由を測りかねていた。七武海の就任について話し合いに来ていたはずだ。―――それが何故ここに来る!?

 その疑問は多少の違いこそあれ、彼の息子:スパンダムも同じであった。

 

 ラオウはそんなことなどお構いなしに、彼らの目に映ることのない速度で、スパンダインの秘孔を数カ所突く。

 秘孔を突かれたスパンダインには、周りを風が吹いた程度にしか感じていない。そして、ラオウはスパンダムに足を向ける。

 唖然とするばかりの彼らが気づいた時には、ラオウがスパンダムの額に二指の指弾を突き刺し、引き抜いているところだった。

 

「―――北斗壊骨拳(ほくとかいこつけん)。」「ふえっ!?」

 

 スパンダムが驚きのあまりに声を発する。ラオウは「語ることなど無い」とばかりに背を向け、病室のドアの前に足を向けていた。

 思わず、スパンダインが『何をしたんだ!?』……そう声をあげようとしたところで、異常は始まった。

 

「あおか、あお…おえ、げがげが……」

「え、おい!?」

 

 スパンダムが突然、痙攣を始めた。慌てて息子に近寄るスパンダイン。

 だが、その異常は止まることはなく、

 

「―――げへえっ!!」

 

 断末魔とともに、スパンダムの肉体はベッドには骨を綺麗に残し、骨意外の肉・体組織は天井に[ベチャベチャ]と音を立ててこびり付く。

 そしてその場には、張り付いた肉塊から文字通り、血の雨が降り注ぐばかり。

 

「!?っ―――!!!!」

 

 その傍らにいたスパンダインの体に愛息の血の雨が体に振りかかる。あまりにも無惨な惨劇に悲鳴を上げようとする、しかし喉から猛烈な激痛が襲う。

 ならば今度は……と、彼の居る辺りに有るはずの電伝虫を使って、外部に連絡を取ろうとする。―――だが、探してもどこにもない。

 壁でも殴りつけて異常を周りに知らせようとしても、もはや激痛が体の動きを封じて何も出来ない。のたうち回ることさえ出来ない。

 

[ゴシャ、ビチャビチャ、ボトボト……ヒュッ、ペチャ。ヒュッ、ペチャ。]

 

 そんな何かを潰した音と、潰れたモノが落ちてくる音が、スパンダムが降らす血の雨以外からする。そして、何かが空を切る音と共に液体が振り払われている音がする。

 そちらに目を向けるとそこには人の足。その足元には、この部屋に有ったはずの電伝虫の色が、そしてその貝殻が散らばっている。

 

 そのまま見上げると、惨劇を引き起こした。【拳皇】と呼ばれる―――人の形をした悪魔が電電虫を握りつぶし、その体液を振り落としていた。

 スパンダインの感じている恐怖、絶望に対して何の感慨も持たいない。まさに害虫を見るかのような。感情を写すことのない目でラオウは彼を見ていた。

 

 伝承者から外れた過去を持っていても、ラオウは北斗の漢である。

 これまでスパンダイン親子についての見聞は女、子どもを弄び、人を貶める外道。直接彼ら親子を見ることでそれを確信に変えた。

 そんな者を、北斗の血統を継ぐ彼が許すことはない。

 

 部屋の時計の針は、スパンダインにとっての悪魔が、死神が入って来て一分も動いていない。

 そのわずか一分にも満たない時間で、スパンダインが長年積み重ねた"地位"、"名誉"、"権力の後継者"。人生で得たモノはすべて崩壊してしまっていた。

 

 更に時が過ぎること2分ほど、ラオウにとってはスパンダインが正気に戻るのを待つちょっとした間。スパンダインにとっては永遠にも等しい時が過ぎる。

 その状況に慣れてきたか少しずつ痛みが引き、そのひいた痛みの分、増してきた恐怖に怯え、体を震え始めたスパンダインにラオウは近づく。

 

「―――政府最高幹部の五老星とやらの元へ行け。今夜中に、だ。」

「ふ?……へぇ??」

 

 だが時間をおいても、息子を失った事により、文字通り何もかも失ったスパンダインに言葉を聞くことなど不可能であり、まして理解することなど出来はしない。

 

 ラオウは呆れ返っていた。

 かつて組織した【拳王軍】。その雑兵すらここまで精神が弱くなかった。あちらで行った脅迫に比べたら遙かに生ぬるいモノであっさりと抜け殻にも等しい状態になったスパンダインに、ラオウは手段を変えることにする。

 もっとも核戦争で文明が崩壊した世紀末のあの世界で、曲がりなりにもたくましく(?)生きている夜盗、モヒカン達。それらと文明が健在でその権力と権威を振るうことに酔いしれ、当人の能力が皆無に等しいスパンダインと比べるのはおこがましいのかもしれないが……。

 

「…………北斗神拳、九神奪命(くしんだつめい)。」

 

 言いながらラオウは、一指拳を後頭部に深く突き刺す。突き刺されたスパンダインは顔が面白いように変化する。悲痛と絶望の色に……。

 

「う………ぎゃ、ひ…や、え…あ………う……え……」

 

【九神奪命】:突いた相手を下僕と変え、使用者の意思通りに動かせるようになる、秘孔・奥義。この技のえげつないところは、被害者の意識を残したまま体の自由を完全に掌握されてしまうところにある。

 例えば、相手がどんなに大事な人間であろうとも、命令されればその手で絞め殺したり、銃で撃ち殺したり。―――意識を残したままである。被害者であるスパンダインが虚ろになっている事は、あるいは幸いであろうか……。

 

 関わる事件、政府の敵、部下すらも己が出世のための道具。そんな人の使い方をしてきたスパンダインの最期は、道具と思っていた人物の傀儡と化す―――。

 そんな惨めなものであった。

 

 

 深夜、マリージョア行政区。

 

「『【拳皇】への説明はつつがなく終了。先方に就任を受ける意志あり』……か」

「ふむ、白ひげとの決戦が間近に迫ってる中で、この戦力加入は喜ばしい」

 

 五人の老人が話し合いを続けている。それまでは政府の運営についてまとめ、ようやく今後の方針と情報の分析に入ることが出来ていた。彼らに休みなど無いに等しい。

 しかし今、精査している報告はもちろん。ラオウにより記憶を改竄された者が書いたもので、真実とまるで違うものである。

 

「どうだろうか。試合などせずに、この際【黒ひげ】、【拳皇】双方共に七武海に加えるのは?」

「……なるほど、ジンベエか。」

 

 実は【黒ひげ】が【火拳】を捕えてからというもの。どこからかその情報を得てきた七武海:海侠ジンベエがその解放を求めてマリージョアに来ていた。

 正式な発表を近々控えているため、伝えてはいないが、【火拳】の処刑を伝えれば、彼が【白ひげ海賊団】と懇意にしていることから、その後の行動は火を見るよりも明らかであった。今は暴れた場合に備えた戦力を密かに用意している。

 

 戦(いくさ)への参戦が望めないのであれば、それを外して別の人物を加入させてしまえばいい。―――そんな提案が出ていた。

 そんな中、ノックが部屋に響く。

 

「お忙しい中、失礼します。スパンダイン氏が"重大な報告"のために面会を求めております」

「うん?……ふむ、よかろう。通しなさい」

「はい」

 

 そんな中、部屋の入口に控えている者が、来訪者を伝える。

 アポイントはとっていないが、『重大な報告』そしてその来訪者は、ちょうど話題に上がっている人物を担当していたことから、それについての話を持ってきたのだろうと、五人の老人。五老星たちは考え、招き入れる。

 

「―――さて、報告なさい。」

「………………。」

 

 入ってきたスパンダインに報告を促しても、何も答えない。

 良い結果があるならば、己の欲をわかりやすいほどに丸出しに成果を報告するはずだ。そう五老星たちが訝しんでいると、それは起きた。

 

[ゴキゴキ、ベキベキ……グニャ、グニャリ…ドボンッ]

 

 そんな音を立てて、スパンダインの内部から骨が軋み、砕ける音が鳴り響き、体と肉が歪み、最後には血しぶきを振りまきながら爆散した。

 

「―――なっ!?」「こ、コレは!?」

 

 五老星全員がそのあまりにも奇天烈な死に様に目を丸くする。悪魔の実ですら、こんなデタラメな死に様を見せるものはおそらく無いであろう。

 戸惑っていると、再びドアが開き、部屋に誰かが入ってきた。

 

「……うぬらが、このゴミの飼い主だな?」

「「「!?」」」

 

 そこには件の人物、本人が立っていた。何故そこにいるかはさておき、五老星たちはラオウを睨みつける。

 彼らの経験から、隣の誰かに頼るような隙を見せれば、間違いなく死ぬ―――ラオウから放たれる気配にそんな予感を持っていた。

 

「……聞かせてもらっても構わんかね?……何用だ?」

 

 即座に襲いかかって来ないことから話は通じるだろうと、坊主頭でメガネを掛け、着流しをその身を纏い、刀を携えた老人は質問をする。

 

「このラオウに『従わねば、島を地図から消す』と宣った下司を潰しに来ただけよ……貴様らはその飼い主。違うか?」

 

 問いに対する答えは簡潔だった。『飼い犬が噛み付いたのならば、それは飼い主の責任』そうラオウは言っている。それを即座に彼らは理解する。

 

「……そうか。ではどうやってここまで来た?」

「ふん、北斗の者には、如何なる城塞も意味が無い――。」

 

 この世界政府の最大拠点においてすら、その守りは無意味と言い切った。

 彼らは知りえぬ話であるが、北斗に連なるある使い手は20世紀最大の独裁者の寝室に忍び込んだ実績がある。映像電伝虫などがあるとはいえ、元の世界と同じ程度の人と科学による警備では、ラオウにとって侵入は容易な話であった。

 

 そして、五老星全員に衝撃が走る。―――『北斗』という名に。

 

「―――ま、まさか『究極の暗殺拳』か!?」

「そうも呼ばれているな。……人は呼ばんのか?」

 

 左右に大きくひげを蓄えた者が声を張り上げる。だが、警備が来る気配がない。来れば即座に皆殺しにしようとラオウは考えていたが、それが無いことにラオウは疑問を覚える。

 

「ここまで何の沙汰もなく来た時点で、貴様に対抗出来る者はそれこそわずかであろう。ならば人を浪費することなどできん。……目的を果たしたらどうだ?

 そして出来る事ならば、それは私のみに留めてもらいたい。」

 

 金髪と金のヒゲの男が言い切る。それは他の者も同じであった。

 皆、同じ目で……一人、柱に名乗りでたことで安心することなどなく、ラオウを見ている。

 

 その覚悟と見切りにラオウは「ほぅ……」と嘆息し、

「―――なるほど、見事な歳の取り方だな、老人ども。飾りの地位ではなく。その手腕で、歴史と世界を動かしている者の匂いと英気を感じる。」

 

 そう、言ったそのままに部屋を出て行こうとする。

 

「……いいのか?」

 

 左側頭部に傷を持った老人が問いかける。『自分たちをこのまま見逃すのか?』…と。

 

「北斗の拳は天帝の守護拳。英雄を密かに守護し、平和を祈る拳だ。―――天命に生きるものを殺しはしない。」

 

 侵入者―――ラオウはそう言い残し、去っていった。

 

「……お伽話の類(たぐい)かと思ったが、まさか、実在したとはな。」

「だが、そのお伽話が事実ならば、必ずしも我々に味方するというわけでもあるまい。」

 

「うむ。海軍に賞金額を引き上げさせねばなるまい。四皇と同等―――それ以上の警戒を以って。」

「では【拳皇】は残念ながら……。不安要素が多いが、新任の七武海には【黒ひげ】を任じよう。

 そして、ジンベエは出来る限りの説得を試みることにしようか。」

 

 ラオウが去ったことでその威圧から開放され、五老星はひとまずこれからについて話し合う。

 しかし、百戦錬磨の彼らでもやはり人なのだろうか。戦争を控えた差し迫った状況であるゆえに、戦力の、均衡の問題についてのみに盲目になり、ラオウとの会話から肝心なことを見いだせず、それに対策を取れなかったことは……。

 

 

 一方、ラオウは荷物を回収し、夜の闇に包まれたマリージョアをグランドライン前半部に向けて歩いていた。マリージョアの地理など昼間のうちにすべて把握済みである。

 五老星を見て、戦闘の実力は感じていたが、絶頂期をとうに過ぎ、白ひげよりも遙かに見劣りしていた。だからか、戦う気など起きなかった。

 

(―――覇業を持ち出す必要はなかろう。)

 

 世を気にすることなく、ラオウ自身の望むままに戦いを求めることが出来ることに、少しうれしさを覚えていた。組織が腐っていても、気骨のある人物が上に立っているのだから……。まだ救いはある。

 

 あの世紀末の世界では、ついぞ平和をもたらす天命を持つ者は現れず、そのまま世界は全面戦争に突入し、禁断の兵器・核により世界は―――文明は崩壊した。

 

 かつてラオウは師父や兄弟に隠れ、為政者というものを見定めに出向いていたりしていた。

 彼らに故国:修羅の国をどうにか出来る者はいないのかと。―――北斗神拳を使い、守護するに足りる者は、英雄は居るのかと……。

 だが、居たのは皆、我欲にまみれたバカばかりだった。

 

 だからこそ、そんな者達の欲望により世界が滅び、暴力のみが支配する。

 そんな神にすら見捨てられた世に納得ができず。―――平和をもたらす天命を持つ英雄の出現など、到底信じることは出来なかった。

 

 その果てに……。『―――ならば、己が天を握る。』

 

 そんな考えに思い至っていた。その野望を危惧した師父:リュウケンと死合い、抹殺。

 その後、弟達と血を血で洗う宿命の対決に至った。

 

 ここではそこまで至る必要はない。そうラオウは考えた。

 

 ならばやはり、かつて覇業が完成に近づいた時、その終着点が見えた後、最後に望んだもの。『強敵との戦い』に没頭しようと考える。

 

 そんなことを思いながらしばらく歩き、あと少しでグランドライン前半部の海に出る港へ近づいたところでラオウは足を止めた。

 そして、路地裏につながる闇を苛つきを隠さずに睨みつける。

 

「……この俺に不意打ちは通じぬぞ。」

「ゼハハハハ、気づかれるとは思わなかったぜ。流石だな―――ラオウ。」

「………やはり、貴様か。」

 

 そこには不愉快なモノがいた。

 

 




 いずれあるかと思ってましたが、"蹂躙物"という意見が来ました。……というわけで先日、タグに『蹂躙』を追加。説明文にも注釈を入れました。

 たしかに、"蹂躙モノ"と言われても仕方が無い。批判は甘んじて受けますが、換える気は毛頭ありません。外道には外道的な手段と技を以ってトドメを刺します。
 これがやりたかったことでもありますし。蹂躙しない拳王様ってあり得ます?ケンシロウみたいに放浪で終わらせはしませんが……。
 ついにはラオウの過去をちょっと捏造しまいました。この世界の北斗神拳伝説も捏造するつもりですが、ご容赦を……。

 さて、原作にて『【拳王】なんていなくなりゃ、ただのションベン』と抜かして、外道行為に走っていたモヒカンを黒王号が踏み潰す程度でスパンダイン親子を扱ったラオウでした。
 人質を取るような態度で脅迫したスパンダインに対し、直接命を握りに行くラオウ。人質一つの扱い方の違いがどうのこうのって、冨樫漫画に有ったような……。まぁ、いいや。

 今回、書いてて思ったことですが、小悪党がちびちびと積み重ねたモノが、一気にご破算になるのが、思ったより愉しかった。何処ぞの外道神父か、自分は!?……自己嫌悪。

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