・海軍の最高峰 の巻
スモーカー准将は唸っていた。
『島の顔役など、海賊による被害を受けて政府に対して保証金を求める事のできる者は、そこからピン撥ねをする事が出来なくなったために評判が悪い。
一方でこれまで損害を大きく受けて、泣き寝入りをするしかなかった大多数の者達は『戦う意志』に応え、共に戦い。力を与えてくれた【拳王】に対して感謝している。』
これが【拳皇】について得られた情報。
外面が強面であってもローグタウン―――"始まりと終わりの町"でかなりの信頼を得ていた。それを勝ち取るために住民との交流を欠かしていない。
この経験から、この島でも上手く情報を入手することが出来た。そしてその情報に危機感を持っていた。
(……敵を作る以上に味方を作っている。危険な男だ。)
スモーカーはそう思った。この恐ろしさはよく知っている。
彼がローグタウンという職場を放棄する原因となった、"麦わらの一味"と同じだ。アラバスタの一件で事後処理の事情聴取の報告を読んでも、住民からの被害は食い逃げ程度であった。
後はどんな行動をしていたか。その情報は出てくるが、友好的な感情が読み取れる話しか出てこなかった。
この【拳皇】も同じだ。敵は悪評を振りまくが、味方から悪評がでることがない。
「……ちっ、あのジジイどこ行った」
思わず口に出てしまったが、今は【拳皇】よりも逃げ出した上司が気がかりだった。あの脳筋ジジイならどうするかスモーカーは考える。
そして、その脳筋スチャラカじじいが追い掛け回した時、子供を連れていたことを思い出した。
(……そういえば、なんで子供を……道案内?まさか戦いに行くつもりじゃないだろうな。
―――いや、むしろなんで気付かなかった。来る船の中でも、あのジジイ―――それしか考えてなかったじゃねぇか!!)
そう思い至り、あわてて【拳皇】が居るという庵に向かうことにした。
・・・・・・・
ラオウとガープ。二人のぶつかり合う"闘気"と"覇気"が風を舞わせていた。
その圧倒的な"気"のぶつかり合いと、ラオウの変質した"滅する闘気"―――この世界における"覇王色の覇気"を受けて、門弟達はその強烈な圧迫感から遠くへ離れる者はいても、気絶するものは皆無。
日頃"闘気"を纏うラオウとの組手を強いられてきた成果だった。
「リュウ……師父は本気を出すと思う?」
「……今は海賊を相手にしてる時の師父だね。ホントに本気の師父を見てみたいよね。」
(ガープって爺さんはともかく、ラオウは絶対に本気じゃないよな……本気かぁ…)
2才ほど年上の門弟との小声の会話の中で、リュウは本気はないと見ていた。
門弟の中でセンスが良い者は、不完全ながらも"気:オーラ"とまではいかないまでも、"覇気"を纏う術を身につけ始めていた。
北斗・南斗聖拳どちらも気を扱うことは必須事項。故に数段飛びでラオウは仕込んだ。ラオウの師父リュウケン譲りの。『死ぬかもしれない。』と傍目から心配されるほどの組手を……。
そんな生死ギリギリの組手をラオウは門弟に行った。既に"気"の断片を、"覇気"を扱う者が居るのは当然なのかもしれない。
その拷問に応え、耐えぬく執念を見せた門弟達も並の覚悟ではない。成長はうなずけるものだった。
「ふうぅぅうううぅうう」
「ぬああ~~~!」
ガープは見込み違いを悔いていた。所詮若造だから、どうってこともないと思っていた。【白ひげ】と引き分けたなどと、善戦に尾ひれがついたものだと、どこかで高を括ってしまっていた。
その一方で若い頃の高揚感を覚えていた。
(若造め、この"覇気"センゴクやロジャーと……それ以上か)
ラオウもまた楽しんでいた。
(心地良い"闘気"。紛れもなく【白ひげ】や【赤髪】に並ぶ使い手―――!!)
「―――そりゃあ!!」
「でぇい!」
互いの、闘気を込めたラオウの拳と、覇気と共に六式:鉄塊"砕"を使ったガープのパンチがぶつかり合い、『ドギャアン!』と人の身で出せるとは思えない轟音が辺りに響き渡る。
それとともに両者共に数歩たたらを踏み、間合いが広まる。
「嵐…脚。じゃい!!」
「むぅん」
ガープの繰り出した斬撃をラオウは放出した闘気波で消し飛ばし、なお放出される"気"は斬撃を貫通し、そのまま攻撃となる。
「ぬわぁ!?―――」
慌ててガープはその闘気を六式:"剃"で躱す。躱された闘気が爆発を起こす。その爆煙を利用し、ガープはラオウの側面に回りこむ。間髪入れず、連続のパンチを繰り出す。
隙の少ない闘気弾と違い、反動が大きい闘気波で硬直するラオウ。それでもガープの攻撃にガードが間に合わせるのはラオウが常識はずれの天才であるゆえんだろう。
「そりゃ、そりゃ、そりゃァ!!」
「むぉ!どうあっ!!」
掌打でパンチを弾き、数発受けたところでラオウもまた拳をぶつけ出す。
「そりゃりゃりゃりゃりゃりゃ」「おぉおぉぉぉおおぉぉぉ」
そのまま互い回転が上がり、拳の弾幕がぶつかり合う。北斗神拳の驚異的な拳のスピードにガープは食い下がっていた。だが全盛期に比べてはパワーが落ちているガープと、今がまさに全盛期のラオウとでは差が出て、ガープは数メートル飛ばされる。
「そのスキ、もらったわー!」
瞬時に間合いを詰め、ラオウは必殺の闘気弾を繰り出す。"六式"の"月歩"の速度では間に合うことがなく、地面に着地した後の"剃"でも間に合わない。まさに絶好のタイミングだった。
「―――ヤバ、フン!・・・そりゃあ!!」
しかし飛ばされた勢いをそのまま生かしガープは"剃"と"月歩"の複合技。"剃刀"で瞬時に間合いを詰め、ガープは右の拳骨を繰り出す。
驚きを一瞬で放り捨て、応戦するようにラオウも左の拳を繰り出す。
それを両者共に紙一重、皮膚一枚を切らすヘッドスリップで躱し、拳の勢いそのままに頭突きが『ゴッシィ』と音を立てぶつかり合う。
さらに互いに残った拳をぶつけ、押し合いを始める。
「速いな……。」
「…うん。」
「はぁ、怪我が心配ね。」
「……姉さん。」
激化する二人の闘争の余波が広まりだしている中、リュウをはじめとする門下の者達とリュウの姉はかなり離れて眺めている。
そんな中、彼女は後始末の心配をし始めていた。彼女にとったら、強さ比べなんて馬鹿げた話なのである。身を守れる強さがあればいい。
「ふ、ふふふ、ははははは」
「……何がおかしいんじゃい」
力比べという気の抜けない中で、拳骨で頭部を切っているラオウは不敵に笑い出す。
同じく傷を負っているガープは訝しむ。
「我が拳を、技を振るえる相手に出会えたことに、このラオウ。うち震えておったわ!」
これまで戦った中でラオウが北斗神拳を殺人用に使ったのはザコの一掃。"北斗剛掌波"を除けば、【白ひげ】に使ったのは"天破活殺"を生命力増強の秘孔へ、【赤髪】には"北斗一点鐘"を秘孔:止動穴に使おうとした程度。しかもどちらも武器ありである。
そして『前者は強敵の体調を戻すため、後者は稽古で使えそうな秘孔。』さらに病人と隻腕。本人は自覚していないが、ラオウは全力で拳を振るうのをどこかでためらっていた。
「……ぶわっはっはっは、フン!!」
「むお?!」
瞬時に高められたガープの覇気と腕力で、今度はラオウが数メートル飛ばされた。
「ワシも若造と思って、手を抜いておったみたいだわい。」
言いながらガープは首をゴリゴリ鳴らし、さらに指を鳴らす。
その言動に笑みをラオウは浮かべる。
「……ゆくぞ!むん!!」右の拳がものすごい残像を持つ。「ぬん!!」更に左の拳にも同じ現象が起きる。
「ッ―――何じゃい、そりゃ!?」
ガープの驚きをよそに、ラオウは作り出した数百の拳の残像を一斉に叩きつけるために接近する。
「―――北斗、百裂拳!!!」
観戦者は勝負あり。そう思った。―――だが、常識を超える天才(バケモノ)という言葉がラオウを指すならば、ガープは常識が通じぬ天然(バカ)である。
ガープは百裂拳と同じようなことを見様見真似でやり始めていた。
「拳・骨・大流星群!!」
拳の弾幕同士が大砲の打ち合いの様な大爆音を上げ、お互いがものすごいスピードで吹き飛ぶ。
双方ともに木に叩きつけられ、もたれかかったままピクリとも動かないでいた。
ガープvsラオウ。『道場破り』=押し込み強盗という拳王様ですから結構本気になりました。とはいっても、相手が海軍のガープと分ってますから、全力全開ではありませんが…。
『常識を超える天才(バケモノ)。常識が通じぬ天然(バカ)。』の下りは某漫画から借りてみました。分かる人がいれば嬉しいです。
『ルフィが剃をパクってるんですから、ガープが"百裂拳"をパクる事ができてもいいかな。』と思ってやらせてみました。孫のルフィに百裂拳と似た"ガトリング"、"暴風雨"がありますしね。
私の中ではガープ>(手負いや病人にトドメを刺したがる差)>赤犬です。相手選んでんじゃないか?アイツ……。