大海賊時代に降臨する拳王 我が名はラオウ!!   作:無機名

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 ものすごい難産。気に入らなくても消すもんじゃないですね。消したものより劣化してしまったし……。


第14話

・襲来する"英雄" の巻

 

 教えを請うた者達に適当な指導をする。ここ二ヶ月の中の日常。アルコル島でラオウが行なってきたことだ。

 

(そろそろ終わりだな。しかし、これほど長く続くとは……)

 

 ラオウは感慨に耽っていた。

 ここ半月、幾度となく襲撃してきた海賊団に対してラオウは少し飽き始めていた。チラホラと居る"悪魔の実"の能力者は、それぞれに特徴があり、戦うのは楽しかった。

 だがその能力を見極めれば。―――もとい、見極める以前に"闘気"を以って拳を振るえば大半が吹き飛ぶ。好勝負を演じた【白ひげ】や【赤髪】に匹敵する使い手はいなかった。

 ほとんどが能力にかまけてしまい。己を鍛え上げ、オーラを纏い、自身の格を上げることを忘れた者しか見ていない。

 そして拳法家と呼べそうな、素手で戦う者は……ラオウが知る限り最も低レベルな使い手の愚弟:ジャギ程度の者すらいなかった。

 

 そのため、島の者達の指導に一段とのめり込んだ。

 伝承者以外は教えることを禁じている北斗神拳と、教えるべきでない武術を除いて―――南斗聖拳の基礎と教えていいと思える武術・拳法、そしてこの世界で知った六式を教えることを考えた。

 そのためにこの2ヶ月の稽古の内、8割を基礎に費やした。二割は実戦で見せる見取り稽古。

 その甲斐あって、教え子達はその基礎で8桁の賞金首であってもそれなりに渡り合える様になっていた。そしてラオウ自身が居なくなっても指導を行うために、技を習得させるために書き記した指南書を残す。 

 

 それらを極めた者と戦うことを考えると、あるいはこれまで実戦で見せてきた北斗神拳を盗んだ者が現れたら……。

 教えはじめた当初と目的が変わってきているが、そう思うと楽しみでたまらないラオウだった。

 

「はぁ……師匠、おはようございます……。」

「こんにちわ、ラオウさん。今日もウチのリュウがお世話になります」

 

 最も熱心な教え子であるリュウ、その姉オウカが今日も来た。リュウは普段、姉を置いて一番に来るはずが、この日はなぜか稽古が始まる直前にようやくだった。他の門弟達とラオウはそれを少し訝しんだが気を取り直し、"地獄"と周りから囁かれる稽古を始めようとする。

 オウカは医者の卵で、怪我人が出るといつも治療に当たっている。いつもどおり医療器具と消耗品を持ってきていた。

 

 時間が来たことで、黙って瞑想をしているラオウの前に門弟達が並ぶ中、リュウが何か言いたげに声を上げる。

 

「あ、あの師匠……」「たのもー!!」

 

 それを遮り、老けた男の大声が空気を吹き飛ばした。

 

「ワシは格闘家のガープという。ラオウとか言う拳法家はここにおるか?」

「―――変な人が……」(小声)

 

 彼らの目を惹いているのは、アロハシャツにサングラス、サンダルに短パンを履いた"格闘家"と名乗るジジイ。しかも『ガープ』と名乗っている。

 変装をしているつもりだろうが、この格好では"格闘家"でなく"旅行者"である。顔を隠していても、それはサングラスだけで古傷、年季の入った髪などの特徴は丸出し。物事を多少なりに知っている者にとって、海軍の広告塔―――『英雄ガープ』と呼ばれる男とよく分かるままだった。

 

 ………なにかがズレてる。確実に色々とズレている。

 

 この男を連れて来た姉弟も微妙な表情を浮かべていた。この珍客当人を除いて、居合わせた者達の思いは一致している。

 

((((これが『英雄』と呼ばれる人物なのか!?))))

 

 その中でラオウは、笑みを、門弟達にとっては海賊が来た時の『いつもの笑み』。

 初めて見る者にとっては獰猛で凶悪で、そして愉しげな顔を浮かべていた。

 

 

・・・・・・

 

 

 海軍本部中将:ガープはアルコル島の街を練り歩いていた。隣にいるお伴のスモーカー新任准将はゲンナリとしている。

 現在、彼らの格好は白い『正義』を綴ったコートを羽織らずにただのスーツ姿。

 

 この発端はガープが言い出したことからだ『W7では大所帯で出向いて警戒されちまったから、今度は少数で行く』……と。

 それでも、『お目付け役はどうあっても必要。』そう周りに騒がれたために、仕方なしに相方として指名されたのはスモーカー。

 ガープの副官:ボガードはスモーカーに向け『頑張れ。こっちは気苦労がないこの時間を満喫させてもらう。』そう言いたげな、いい笑顔だった。

 弟子のコビーとヘルメッポは『これがなければなぁ……』と、スモーカーに同情の目を向けていた。

 そして、スモーカーの副官:たしぎは二人の指導をすることになった。

 

 スモーカー、コビーとヘルメッポはともかく、付き合いの長いボガードは気付くべきだった。

 ガープが自分から妙な案を出した時点で、この一生涯の悪ガキがなにか企んでいる様な笑みを浮かべていたことに……。

 

 

(まったく、戦ってみんことには相手のことなぞわからんじゃろうに……なんだって、あいつはワシに厄介事を押し付けるんじゃい!)

 

 別にガープは不真面目というわけではない。ただ単に私情が絡むとどうしようもなくなるだけで、その頻度がちょっと多いと言うところだ。そう、ちょっとだけ……。

 厄介事を押し付けられたのは自業自得である。今回のガープに与えられた任務は、七武海候補の【拳皇】ラオウの送迎。これは政府から回ってきた任務で、部下も知っている。

 

 同時にガープはもう一つ任務が与えられていた。

 それはセンゴクから『ラオウと言う人物を調べてこい。あわよくばその戦闘力を見てこい…。』と言う任務を。

 

 センゴクがこんな指示をしたのには、当然理由がある。

 情報が少なすぎたのだ。政府と海軍。それぞれ別の組織であるが、犯罪者に対する連携はしっかりと行なっている。

 しかし、【拳皇】についての情報はほとんど渡されていない。海軍が把握しているのは【白ひげ】と引き分けたらしい。―――それくらいである。

 

 今海軍は忙しい。何より、今年はルーキー側、前半部:パラダイスの方が何かと騒がしかったために、新世界側は【四皇】の大雑把な動向以外はなおざりにしていた。

 だからこそ、CP(サイファーポール)に問いただしたのだが、情報がちっとも元帥のセンゴクに降りてこない。

 そこで、現地に赴くついでに、致命的に向かないが仕方なしに、迎えに行くガープに対して別件の任務が降りていた。

 

 そう……内容はあくまで観察であり、『戦え』と言われていない。だが、脳筋しか無いガープに、戦闘力を見るというのは、戦う―――以外の選択肢は頭に無かった。

 

「……で、どうするつもりです?」

「そうじゃのぉ…。うん、とりあえず……メシ!!」「はぁ!?」

「情報は飯屋に集まる!!そして、まずは腹ごしらえじゃろう?」

 

『どう考えても、情報よりもメシが優先じゃないのか?!孫と同じように……』そう突っ込もうと思ったところで、横合いから声をかけられた。

 

 その人物の顔を見て、スモーカーは島の顔役であることを思い出す。

 貴重な情報を得られそうだとガープに声をかけようとするが、既にそこにガープはいなかった。

 スモーカーが慌てて辺りを見回すと、ガープはかなり遠くにいた。そして……。

 

「そこは任せた!ワシは飯屋に行く!!」

 

 そう言い残し、ものすごい速さで去っていくガープの後ろ姿を見ながら、

 

(………やっぱりあの孫にしてこのジジイだ!!)

 

 もの凄い怒りを覚えたが、押し付けられた現場を放り出すことも出来ず、スモーカーは渋々と情報収集を始めることにした。

 

 

・・・・・・

 

 

 ガープは飯屋で呑気に食いながら情報を集めていた。食事代は海軍元帥:センゴクにツケである。

 

「最近手配書に載った人でしょ?怖いわよね、早くどっかに行ってくれないものかね。」

「ラオウ?彼が来てからこの島の治安は良くなったよ。」

「教わってる者たちは、よくあんな拷問についていけるもんだと思うね。」

「あんな、あんなバケモノ居るかよ。……俺は故郷に帰って堅気になるよ。」

「海軍みたいに理屈つけて逃げないからね。良い人だよ。変な誘拐事件も起こらなくなったし。」

「わからないものだよ。なんであの人が賞金首なんだか……。」

 

(うーん、ロジャーのヤツみたいな感じかのぉ……。)

 

 大雑把に集めた内容はこんなもので、そこからガープはかつての海賊王と同じ印象を持った。

 

 直接会ってない者にとってはあまりいい印象をもたれることがなく。一方で、直接会ったことのある人間。よく知るものにとっては憎むことの出来ない。

 一種の人望を持っている者とガープは思った。普通、もうちょっと調べるべきなのだが、ガープにそんなつもりはない。

 手っ取り早く変装をするために、近くの服屋に入り、休暇にでも着るような服を買い揃え、一緒に買ったカバンにスーツをしまい込む。

 

(さて、どうやってラオウとやらのもとへ行こうかの。)

 

 そこにちょうど件の人物の話題をして歩く者達がいた。耳に届くものではないが、見聞色の覇気で盗み聞きをする。

 

「姉さんはラオウのことどう思ってるの?」

「ん?どうって?」

「―――いや、好きか、嫌いか。」

「はぁ……コイツ、いつの間にかマセてる。」

「目が怖いって…。それで、どうなの?あの人を兄貴って呼べるなら嬉しいし。」

「んー、あの人は好きな人がいるみたいね。無理無理」

 

 そう言いながら顔の横で手を振る、白衣を羽織った年頃の娘と、動きやすい服装をした10代前半の男の子。

 そんな姉弟らしき組み合わせに耳を傾けた。

 

「でもさ、俺達が教わってないこと教わってるでしょ?それって……」

「ああ、医術のツボのこと?だってリュウ、怪我してばっかりじゃない。」

 

 オウカは治療効果のあるモノのみであるが、経絡秘孔をいくつか盗んでいる。本人が医者を目指していることと、無鉄砲なリュウを気遣う姿、それを見たラオウは実弟とかつて惹かれた女に重ねて黙認していた。

 

「俺には教えてくれないんだぞ。『伝承者じゃないから。』って……」

「あのね。あたしのあれだって見よう見まねよ?見てるなら同じじゃないの。ボロボロになったみんなにラオウが突いた場所を覚えて、夜になったら同じ場所を言われた加減で突いてるだけ。覚えられないのはリュウがちゃんと見てないんじゃない?」

「ぐ……」

 

 そう言われるとリュウは言葉がない。盗んでやろうと努力しているが、姉ほど盗めていない。

 

「―――はぁ、でもすごいよね。知らない薬草の調合とか、薬の使い方とか。あたしの知らないことばかり。どこの医術なんだろう……」

「さぁ?」

 

 興味深い話をしているが、嫌な気配が近づいてきたことを察知したガープは二人の話に割りこむことにする。

 

「……のう。」

「あ、はい―――」

 

 ガープの声に反応したのは姉、オウカ。話が切れたので、リュウはラオウの元に行こうとする。

 

「……姉さん。俺、先に行くね。」

「用があるのはお前さんじゃい。」

「「え?」」

「実はの、お前さんらが言っているラオウのところに行きたいんじゃが、道に迷っておるんじゃ。

 ―――案内せい!」

「え、あ、うん……」(…なんで頼んでいるのに、最後が命令なんだよ?)

 

 疑問を持ちながらも、なんとなく流されるままに道案内を始めるリュウ。姉はこの強引で脳天気な訳の分からない爺に思考停止である。

 

「ぬ!?いかん!!」

 

 そう言って、リュウを抱えものすごい勢いで駆け出すガープ。リュウが『そっちじゃない!』と騒ぐが、

 

「だめじゃ、うざったい奴が来とる!!」

 

 そう言われて、リュウが首を後ろに向けてみると、煙の塊が「ジジイ!待てこらー!!」と怒声を上げて追いかけてくる。

 こんな二人の鬼ごっこでリュウは時間を大幅に無駄にしてしまった。

 結局スモーカーを振り切り、ラオウのもとにガープ達がついたのは稽古の始まるギリギリ。

 

・・・・・・

 

 島を散々連れ回された挙句、ようやく簡素に作られたラオウの野外道場にリュウとガープがついたのは、姉のオウカが買い揃えた医薬品を持ってやってきたのと同じ時だった。

 近くにはラオウが居を構えた庵がある。

 

「―――あれ?リュウ、先に出てたよね。なんで今つくの?」

「……この爺さんに振り回されてた。」

 

 そう言いながら指を刺されたガープは『ぶわっはっはっは』と笑いながら「いい準備運動になったわい」と宣っている。

 そんなガープにリュウは驚いていた。皆グロッキーになる山を走り回る特訓。それに値する運動量をこなしてこのジジイは汗一つかいていない。そんなバケモノはラオウ以外に知らなかった。

 

「ええと……おじいさん。落ち着いたら、あたしたちが紹介しますから、少し待っててくださいね。」

 

 そう言ってオウカとリュウはガープを場に残して道場に向かう。だがカープの忍耐が3分持つことはない。

 

「たのもー!!ワシは格闘家のガープという。ラオウとか言う拳法家はここにおるか?」

「……あの、少し待っててくださいって言いましたよね。」

 

 唖然としている門下生達を差し置いて、ガープの近くにいるオウカが応対する。

 

「うむ、待っとったぞ。」『―――ちゃんと待ってたんだ。どうだ、偉いだろ。』と言わんばかりに胸を張るガープ。

「―――五分も経ってません。」「長いわい!!」

 

 漫才のようなことになり始めている中、ガープの前にラオウが無言で出てきていた。

 その威圧感にガープはラオウの方を向く。

 

「………道場破りか?」

「腕試しじゃい」

「そうか・・・」

 

 そう言って愉しそうに"闘気"を身にまとうラオウに呼応するように、ガープはその顔を引き締め、"覇気"を強固に纏った。

 




 まだロギアと戦ってはいませんが、悪魔の実の能力者との戦いに飽きて、北斗同士の……純粋な肉弾戦に飢えている拳王様です。

 医療をちょっとだけ教えてますが、北斗神拳は修行の中で秘薬・秘孔などを使ってると思ってるからです。
 そうでなかったら、北斗の男は筋肉がモブより少ないのに、それに遙かに勝るパワー出せると思いませんから。

 よその拳法の秘伝書を読むだけでその秘伝書の真贋を見極め、内容を把握し、修得することが出来る理解力・実践力。アミバが回してくる秘孔の実験データ、メディスンシティの薬を把握する拳王様の知識量……。

 きっとトキが医者を目指していたから、影でそっちの努力をなされていたのでは無いでしょうか?
 何もかも兄として弟に勝ってないと気が済まない人ですし。
 ジャギもその姿を見習えばよかったのに……。見習ったのはプライドだけで、努力をしてるとは言いがたい愚弟ですからね。

 そろそろ甘さがあるラオウは終わりに近いです……。次の……その次位からは容赦のない覇王として動くと思います。

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