今日は1年間の中で私が最も嫌いな日だ。面倒な日と言ってもいい気もするが。とにかく、今日は朝からテンションが低い。私はこの前の事件?のことをまだ引きずっているのだ。正直、勘弁してほしい。
私はあれから沢田綱吉達と微妙に距離をとっている。
元々、自身の身の危険を感じない限りは原作を壊す気はなかった。もちろん上手くはいかなかったが、何度か沢田綱吉の顔を見て動いたことがあるのことは否定しない。が、それでも今まで自らの意思で原作に絡もうとはしなかった。動く時は原作が終わってからか、原作に巻き込まれた後だったと私は思ってる。
この前の時もくだらない内容だがフゥ太にランキングをしてほしいと考えた。だが、あの日の雨が降る前にランキングをしてほしいとは思わなかったのだ。だから私は家に帰った。それなのに――。
――頭を振る。これ以上は考えてはいけない。私は自身が1番大事で何でも優先することを理解している。これ以上考えれば、私は――全て彼らのせいにし恨んでしまう。
それだけは嫌だ――。
だから私は彼らと微妙に距離をとっている。話しかけられれば返事をし一緒に帰ることもするが、放課後に誘われれば何か理由をつけて断っているのだ。……そう、私は完全に彼らを避ける勇気もないのだ――。
「……自己中で最悪」
思わず呟く。結局、私は自身が傷つかないために選択すらしないのだ。
学校に行く準備が出来たので溜息を吐きながら階段を降りると、兄と会った。私の溜息が兄のせいと勘違いしたのだろう。謝っていた。その姿をみて、一瞬忘れていた今日が面倒な日ということを思い出した。
「……1日ぐらい、我慢するよ」
「やはりサクラに迷惑をかけるのは心苦しい! 迎えにいくよ!」
「仕事があるでしょ。それにもっと面倒なことになる」
昔のことを思い出したのか、兄は口を噤んでいた。その姿を見て私は気合を入れ、兄に行ってくると声をかけて学校に向かった。マスクをつけるのは忘れずに――。
帰りには意味はないが行きだけでもと思い、マスクをしたのは正解だったようだ。学校の校門まで無事着いた。しかし、ここからが問題である。教室に行くまでにどれぐらい時間がかかるのだろうか……。
まず最初に下駄箱。予想通り私の靴は見えなかった。しかし、迷惑になるので自身の靴は後回しにし、靴箱から溢れ出ている物から処理することにする。用意していた紙袋につめてる間に手渡されて増えるのも予想通りである。
「……お前、なにしてんだよ」
「神崎さん!? どうしたの!?」
沢田綱吉と獄寺隼人が登校して来たらしい。箱を黙々と袋につめている姿に疑問に思ったのだろう。
「今日はバレンタインだから」
「も、もしかして……それって全部チョコなの……?」
沢田綱吉の言葉に頷く。そして彼はガーンという顔をしていた。獄寺隼人は「……げっ、今日なのかよ……」と嫌そうに呟いていた。私と一緒でいい思い出がないのだろう。
「て、手伝うよ。……女子同士なのに凄いね……」
「勘違いしてないか? これは全部、兄へのチョコだ」
「えーーー!? そうなのー!?」
「ん。普段は兄が手をまわしてくれるおかげで私に被害はないが、バレンタインだけは効果がないんだ」
兄はもてるためバレンタインは毎年もの凄いことになる。兄が私に甘いことが有名なので、私に渡せば必ず兄の手に渡ると思う人が多い。
普段は兄が手をまわしているのだが、なぜかバレンタインだけは兄の言葉の効果がなくなる。恐らく1人じゃないからだろう。何人も同時に破るため強気になるのだ。兄はバレンタインという理由だとしても私に迷惑をかけたことには変わらないので、実は私に渡した時点でその人への好感度はもの凄く低くなるのだが。
もちろん兄は私に迷惑をかけるのが嫌なので、1度だけだが私が預かったチョコを受け取らないことがあった。兄からすれば、来年から持ってくるのは自身の方に誘導すればいいと思ったのだろう。しかし、何を勘違いをしたのかはわからないが、私がやきもちを焼き、純粋な思いを踏みにじりチョコを捨て兄に渡さなかった最低な人物ということになった。すぐに兄が訂正をしたので大事にはならなかったが、嫌な思いは残った。それから家族で話し合った結果、チョコは必ず受け取ることにしている。
そういうことがあり、私はバレンタインは面倒で嫌いな日なのだ。
いろいろ考えている間にチョコがいれ終わったので、手伝ってくれた2人に礼をいう。しかし、彼らはまだ手伝ってくれるらしく、教室まで持ってくれるようだ。
「助かる」
「いいってば。それにしても神崎さんのお兄さんって凄いんだね。オレ、こんな量初めて見たよ」
「一体あのヤローのどこがいいんだが……。それに渡すほうも渡す方だ。妹に渡してもらおうとする考えがオレにはわからねぇ……」
獄寺隼人が同情してるような目を私に向けて言った。が、君がそれを言っていいのか……。君は直接渡そうとしても断るだろ。私は君に渡そうとする人に少し同情する。
「あ。さっきは助かったけど、今日は私の近くに居ないほうがいい」
「え!? どうして?」
「答えはすぐにわかると思う」
獄寺隼人が「はっきり言えよ!?」と怒っているが、無視をして教室のドアをあける。
「なっ……まじかよ……」
「……ウソ」
私の机の上で山のようになってるチョコを見て、彼らは絶句したので理解しただろう。私は見慣れた光景なので驚きもしなかった。
経験上、歩き回ったほうが渡される量が増えるので教室で大人しく居た。そして放課後になった瞬間に教室から出た。何があっても帰るつもりだったので、先に沢田綱吉にメールをしたのは正解だったと思う。彼はメールを読んだ途端に手伝うという話をしに来たのだ。断るのには苦労したが、放課後に呼び止められ原作がまた壊れることを思うと大したことではなかった。
両手いっぱいに荷物を持っていると、当然マスクの効果はなく次から次へと渡される。重くて手が辛いので立ち止まりたいが、そうすると量が増えてしまう。出来るだけ我慢するしかない。
何とか靴箱までたどり着き、またチョコを袋につめる。何度目になるかわからないが、私に恨みでもあるのかと本気で思った。特に手紙を見ると燃やしたくなる。チョコだけでも重いのだ。紙の重さには腹が立つ。
「……草壁」
「はい」
美声が聞こえたので振り向けば雲雀恭弥と草壁哲矢だった。チョコを草壁哲矢が没収しようとするので慌てて止め、マスクを取り顔を見せて説明する。また恨まれるのは勘弁なのだ。
「それについては心配に及びません。あなたの家にお届けするだけですから」
思わず草壁哲矢を上から下へ見てしまう。そして、興味がなくなったように去っていった雲雀恭弥の後姿を見つめる。――守りさえすれば意外と優しいという知識を思い出す。
この時の私の行動を説明することは出来ない。ただ、気付くと足が動いていた。
「――雲雀恭弥、待ってくれ!」
草壁哲矢に礼も言わず、私は走り出し叫んだ。放課後なので私の行動に驚いた生徒達の姿を見えたが、気にはならなかった。そして彼は私の声で一瞬だけだが立ち止まり、「ついてきなよ」と私を見ずに言い歩き出した。
彼の後を追えば、応接室に入って行ったので私も続いた。普段ならばリボーンが居たとしても彼と話す気にもならない。しかし、今の私は躊躇すらしなかった。
「それで何?」
雲雀恭弥が嫌そうに入ってきた私に声をかけた。彼なりに私の話に耳を貸す約束を守っているのだろう。
「どうして君は強いんだ――。私は君のように譲れないものなんてない。強いてあげるなら自身なんだ……。だから誰かを傷つける。傷つけると分かってるくせに自身が大事で去ることも出来ない。そんな弱い自分が嫌いなんだ――」
「……君の言ってることはよくわからない」
雲雀恭弥の言葉に落胆する気持ちと納得する気持ちがあった。自身でも何を言ってるのかわからないのだ。彼にわかれというのは到底無理なことである。
「周りに振り回されない君の強さを知りたかったんだ――。悪かった」
私は彼が1番強いとは思っていない。それでも彼に聞いたのは周りに振り回されない強さがあるからだ。沢田綱吉達は周りを思いすぎて聞けなかった……。
「そうじゃない。僕が言いたいのは君が悩む意味がわからないってこと」
思わず雲雀恭弥の顔をジロジロと見る。今の私の目は頭大丈夫?という風にケンカをうってるかもしれない。
「はぁ……。例えば、君が風紀を乱して僕が咬み殺すとするよ。君からすれば、僕という存在が居なければ傷つかなかったかもしれない。もちろん、君に風紀を乱された人物は喜ぶ。だけど、君が咬み殺されたことによって、君という存在のおかげで抑えれた人物がもっと風紀を乱すかもしれない。それをまた僕が咬み殺す――。僕は君が悩む意味がわからない。君が居なくなれば誰も傷つかないとは限らない。それと君は僕の強さを知りたかったみたいだけど、それはまた違う話だ。さっき言ったことを理解した上での行動だからね。その前で止まってる君にわかるとは思えない」
「……それでも私が居なけれ――違う、君の言ったことが正しい。私はもう居るんだ……」
原作を知ってる私が居る時点で原作とは違う。私が自身を優先したせいで沢田綱吉達が死ぬかもしれない。でも、知識がある私が居るから助かる可能性もある。未来はもうずれているのだから……。もちろんこの知識をいつ使うかはわからない。原作にどれほど関わっていいかもわからない。でも、ここに居てもいい気がした。
――死にたくない。それを譲れない気持ちにして何がおかしいんだ。なぜなら、それが私なのだ。余裕があれば彼らを気にかければいい。それも私だ。自己中で何が悪いんだ。私は自身の気持ちや身体を優先する。大きな代償を払うことになるかもしれない。だが、彼らを優先しても払うかもしれないなら、私は私らしく生きる。
「はぁ……わかったなら出ていきなよ」
「あ。悪い」
雲雀恭弥に言われたので慌てて部屋から出る。そして気付く。礼を言うのを忘れたことを……。しかし、もう1度入る勇気は今の私にはないので帰ることにする。彼は私の礼を聞いても何も思わないだろうしな。
靴箱に着いたが草壁哲矢の姿とチョコはもうなかった。そして、恐らくこれから出るチョコも彼が届けてくれるのだろう。何ともラッキーである。私は応接室を出てからつけたマスクがずれていないか確認して外に出た。
無事に家にたどり着けば、思わぬ人物が家の前で立っていた。
「この前は本当にすまん!」
「……寒いだろ。私の部屋でいいか?」
「い、いや……止めておく。オレは男だからあがるのはよくねーだろ。どこか他のところで――って、大丈夫なのか……?」
「ん。私は気にしないけど、ファミレスでいいか。今日はカフェは混んでると思うしな。荷物置いてくる」
「お、おう」
どこか動揺するディーノを見て少し笑ってしまった。
ファミレスにディーノが居ると目立つ。そのせいで兄と一緒に居る時のような隣に居る私への不満な視線を感じる。日が悪いのもあると思うが。まぁディーノと居れば兄へのチョコを渡そうという猛者は現れないようだ。イケメン効果万歳である。
「食べてもいい?」
「ああ。何でも好きなものを頼んでいいぜ」
おごらせる気で言えば、それ以上の言葉が返ってきた。流石、ボスである。甘えてケーキと紅茶がほしいといえば、注文してくれた。兄と同じぐらいエスコートが上手いかもしれない。もてるはずだ。
「ディーノは相手が居ないのか?」
私の言葉にディーノは盛大にむせた。
「ゴホッゴホッ……い、いきなりどうしたんだ?」
「今日がバレンタインだから思っただけ。反応が面白くて満足したから答えなくていい。別に興味ないし」
私の言葉にディーノは顔を少し引きつって「そうか」と返事をした。中学生にからかわれるボス。なんとも不憫である。……不憫にしたのは私だが。
「君が来たってことは、向こうは片付いたんだろう?」
「あ……ああ……」
「ならいい。それにもし君がまた私に気をつかい連絡をしてきたなら、私はもう頼むつもりはなかった」
ディーノが口を開きかけた時に注文が届いた。店員が離れたので、また私が口を開く。
「ウソだ。君の協力がなくなるのは惜しいからな。それに君は必ず1度はリボーンに連絡したのはわかってる」
あの時、リボーンが傘を持ってきたのは偶然ではないことぐらい私にもわかる。これ以上、私を傷つかせないために戻るしかなかったディーノは、日本にいるリボーンを頼ることにしたのだろう。
「正直に話せば、君に連絡しようと何度思ったかわからない」
「……すまん」
「言っておくが、君に謝るためや被害状況を聞きたかったわけじゃない。もちろん君に八つ当たりするためでもない。さっきも言ったが、君から連絡をしない理由はなんとなくわかる」
「……じゃぁ、どうしてだ?」
「私のために早く片付けようとして君が無茶しそうで怖かったからだ」
「っすまん!」
「謝るのは私のほうだろう。私はどこかで君の――君達のことを信頼していなかった」
冷静になった今なら分かる。彼らにとって原作キャラじゃない私は優先順位が低いと私は思っていた。10年後のランボの涙、文句を言わず髪を乾かしてくれたディーノ、立ち止まるたびに待っててくれたリボーン、何も聞かずにそばに居てくれた沢田綱吉。彼らの優しさを私は何もわかっていなかった。いや、違う――気付かないフリをした。
「私は怖かった。君が無茶するから怖いんじゃない。君に――君達に恨まれるのが怖かった」
「そんなこと思うわけねーだろ!? オレだけじゃねぇツナ達だって!! 断言できるぜ!!」
「――たとえ私が自身のことしか考えていなくても、たとえ私のせいで君達の運命をかえてしまっても、たとえ私がこの世界で歪な存在だとしても、君達はそばに居ることを許してくれる――今はそう思える」
「……そうか」
話が終わったのでケーキを食べることにする。しかし、ディーノが私の頭をガシガシ撫でて邪魔をする。「食べにくい」と抗議すれば謝りながら手が離れたので許すことにした。私は心が広いのだ。
「しっかし……オレの立つ瀬がないぜ……。いつの間にか成長してるしよー。まっ良いことだけどな! きっかけはツナか? それともリボーンか?」
頭をかきながら話し始めたと思えば、嬉しそうに身を乗り出して聞いてきた。きっかけは雲雀恭弥だろう。しかし、彼の名前を教えれば興味を持つ気がする。もう未来が変わっても気にはならないが、ディーノの苦労が増える気がするので誤魔化すことにする。
「……未来の君の教え子」
「オレの教え子!? そうか……オレに教え子が――」
嬉しそうに未来を想像しているディーノの姿をみて、不憫だと本気で思った。深く聞いてこないのは私が誤魔化してることに気付いてるからだろう。……助かった。そして、ディーノがしばらく未来の期待から帰ってこない気がしたのでメニューを開きパフェを注文した。
少々食べ過ぎたせいで、制服のスカートが苦しい。横っ腹が痛くなりそうな気がしたのでゆっくり歩くことにする。ディーノは文句も言わずに付き合ってくれるようだ。
「イタリアに戻るのか?」
「いや、しばらく日本に居るつもりだ」
「ああ。なるほど」
原作と違って日本に来るのが早かったが、同じタイミングで帰るのだろう。彼はこれから雪合戦と山本武のトレーニングに付き合わなければならないしな。
横目でディーノを見る。原作を壊す時は事情をよく知ってるディーノと一緒の方がいい気がする。だが、あの雪合戦に参加する勇気はないな……。もちろん、山本武のトレーニングも却下である。次は……合コンだな。雲雀恭弥以上に内藤ロンシャンとは絡みたくもないのでこれも当然却下である。そうなると次は……結婚式。それも微妙な気がした。6月だしな……。
「どうかしたのか?」
「君は忙しいんだなと思って」
「そんなことねぇって。帰ってもまたすぐに来るぜ!」
「いや、いい」
ディーノが「なんだよー」と言ってる声は無視する。忙しい時に無理に来てもらうほどのことでもない。困ったときは呼ぶつもりだが。
「……1つ聞いてもいいか?」
「なんだ?」
「ディーノは沢田綱吉に君のその刺青――紋章が浮かび上がったときのような試練がおきるのを防ぎたいか?」
「――わからん」
意外だった。彼は確かキャバッローネのボスの紋章が浮かび上がったときに父親を亡くしてるはずだ。そんな思いを沢田綱吉にさせたくはないと思っていると予想していたのだが……。
「オレがわからねーのはそういう意味じゃないぜ? オレはツナには辛い思いをさせたいとは思ってねぇよ。だけど……回避したとしても試練はやってくる。――必ずだ。それなら、何も知らねーオレよりお前が判断したほうがいいと思ったんだ。もちろん、オレはお前やツナの力になる――」
「……ん。わかった。困った時は助けてくれ」
「ああ。約束だ」
歩きながらガシガシと頭を撫でられているとスーパーの前だったので寄ると伝える。付き合わなくても良いと言ったが、ディーノはついてくるようだ。
「何を買うんだ?」
「お菓子」
「……まだ食うのかよ」
ディーノが思わず呟いた言葉が聞こえたので睨む。そもそもケーキやパフェとお菓子は違うのだ。そこのところをじっくり語りたい。面倒なのでしないが。
お金を払おうとすればディーノが出そうとしたので、必死に止めた。普段なら払ってもらうが、今日はダメなのだ。
「たいした金額じゃねーんだ、気を使う必要はないんだぜ?」
「50円ぐらいしたチョコが兄へのバレンタインなんだ」
払わせなかった理由を知れば、ディーノが驚いていた。
「海外ではバレンタインは男性が女性に送るのが習慣と言って、兄は私にくれるんだ。そしてホワイトデーというのは海外ではないんだろ?」
「ああ」
「返すことも出来ないから、小さい頃に私はバレンタインデーにチョコを渡したんだ。兄が嬉しそうに受け取ったのはいいが、真面目に渡したせいでお返しがもの凄いことになった。日本では男性はホワイトデーに最低でもバレンタインデーの3倍返しが礼儀らしいけど、兄は10倍ぐらいにして返す。だから渡さなければいいと判断すれば、落ち込んで面倒なことになった。最終的にこれに落ち着いた」
「……お前の兄貴はずっとそんな感じなのか?」
「私が物心ついた時ときにはもう――」
恐らく私は遠い目をしているだろう。といっても、子どもの時はこれが普通だと思っていたのだが。
「何かきっかけとかあったんじゃねーのか?」
「元々そうだったらしいけど、小さい頃に私が事故にあった時に加速したらしい。私はその時のことをよく覚えてないけど」
「……なるほど」
立ち止まりディーノを見れば「どうかしたのか?」と聞かれた。今までなら1人で考えていたが、ディーノを信用し質問することにする。
「兄が……どうかしたのか? 話の流れで兄と私のことを聞いたのは理解できる。でも君の性格を考えるときっかけとかの興味をもつより、兄と仲がいいことは悪いことじゃないとか言う気がした」
「あー……正直に話すぜ。お前の兄貴がお前への執着が少し強すぎると感じたんだ。だから何かあったんじゃねーかなと気になったんだ」
「ん。ならいい」
ディーノが疑問に感じるのは無理はないと思ったので、また歩き始めることにする。彼も沢田綱吉達と一緒で『兄だから』と流されないタイプなのだろう。
「ん? お前の家はそっちじゃねーだろ?」
「沢田綱吉達を助けに行こうと思って」
「ツナ達に何かあるのか!?」
「仲のいい女子にチョコフォンデュを作ってもらって、そろそろ出来上がるはず。ただ、チョコにつけるクラッカーをビアンキが焼いている」
「それで……マシュマロとかを買ってたのか……」
首を縦に振り頷く。
「どうする? 君は男だから食べるように言われるかもしれない」
「……なんとかする」
何度も殺されかけたらしいのに行くようだ。気休めに「頑張れ」と声をかけておいた。そして、やはり彼は不憫だなと思った。
沢田綱吉の家についたので呼び鈴を鳴らせば、フゥ太が顔を出した。
「サクラ姉!? それにディーノ兄も! ツナ兄にだよね! ちょっと待ってて! ツナ兄ーー!」
一言も発していないのに話が進んだ。不思議である。フゥ太に呼ばれた沢田綱吉は慌てて来てくれたようだ。
「よっ! 元気にしてるか! 弟分!」
「ディーノさん! えっと……どうかしましたか? 神崎さんも一緒だし……」
「オレはただの付き添いだぜ」
「そうなんですか? 神埼さん、どうしたの? オレに用事?」
「ん。ただのお菓子の御裾分け。みんなで食べて」
ラッピングをしていないのでバレンタインとは言わない。お礼を言われて家にあがるように声をかけられたので入ることにした。
リビングに通されると怪しい煙が出ているクラッカーとチョコが並んでいて、リボーンは眠っていた。フリかもしれないが。
笹川京子と三浦ハルに挨拶されたので、慣れないながらも返事をする。ランボは私へよじ登ろうとしていたので抱きあげた。
「ランボ、良かったな。神崎さんがお菓子持ってきてくれたぞ」
「やったもんね!」
喜ぶのはいいが、私の腕の中で暴れるな。地面に落としてしまう。
「ツナ、サクラが持ってきたのは何があるんだ?」
「珍しいな、お前が興味をしめすなんて……。つーか、さっきまで眠ってたんじゃないのかよ!?」
「いいから教えろ」
いつの間にか、リボーンは起きていたらしい。そして、沢田綱吉がマシュマロやドーナツ、クッキーと教え始めると私の顔を見てニヤッとリボーンが笑った。
「ちょうど合うじゃねーか。ツナ、一緒に並べろよ」
「ほ、ほんとだ!! 神崎さんありがとーーー!!」
救われたような顔をした沢田綱吉を見てホッと息を吐く。どうやって誘導するべきか悩んでいたのだ。最悪、ディーノが何とかしてくれた気もするが。そのディーノは私の頭をガシガシと撫でていた。気分がいいので許すことにする。
和やかにチョコフォンデュを食べていたが、1つだけ問題が起きた。誰もビアンキが作ったクラッカーを食べようとしないのだ。
「あなた……リボーンへの愛を邪魔する気なのね……」
危険を察知した私はこう答えた。
「私はディーノが買ってくれたのを持ってきただけ」
「なっ!?」というディーノの声は気にしない。困った時は助けてくれるという約束だったからな。
分岐話で苦労しました……