ふわぁぁと欠伸が出る。久しぶりの学校なので、思っている以上に疲れているようだ。
チラッと横目でツナと古里炎真をみる。鈴木アーデルハイトからの罰を受け終わったようで、彼らは普通に授業を聞いている。
……悪くないな。
頬が緩みそうになるのを必死に耐える。だが、我慢できそうにない。私はこの未来を私は見たかったのだ。仕方がないことなのだろう。
またディーノに借りが出来たな。そろそろ真面目に何か返した方がいい気がする。10年後へ行った時のように未来が見えるようになれればいいのだが、今のところサッパリである。……今度、相談するか。
とりあえずディーノへの礼は先延ばしにして、次の問題であるアルコバレーノの呪いについて考える。
ツナ達がシモンの聖地に乗り込んだ時、私は彼らについていかなった。理由は簡単で戦闘能力のない私がいっても足手まといになるからだ。それなら残ったほうがいい。
その間、私は何をしていたかというとタルボじじ様に頼み事をしていた。リボーン達の呪いをとくための装置を私が知っている限り伝えたのだ。
マーモンがいたので言葉を濁していた部分もあったが、タルボじじ様は察していたようで金銭の請求はなかった。確かマーモンが新しいヴァリアーリングを作った時は全財産がなくなったはずだからな。大部分が素材の値段かもしれないが、私が頼んでる装置も普通の素材が使われているとは思えないのだが。まぁ下手につついて要求されれば困るので私は口を閉ざしたけどな。
後は兄に手伝って貰えればなんとかなるだろう。今回の報酬として9代目から物資の提供を約束してもらえたし。
いい感じだと頷いていると教室の扉が開き、現れた人物をみて静まった。
「神崎サクラ、いる?」
デジャブである。確かに私はもう一度聞きたいと思ったが、妄想で十分である。現実では望まない。心の中で文句を言っても話が進まないので口を開く。
「フランス」
主語はなかっだが察したようで、雲雀恭弥はムスッとしていた。逃げられたことにムカついているのだろう。
「……黙っていた理由はないよね?」
ピンチである。怒りの矛先を私に向けたようだ。勘弁してくれ。
「……学校に来るまで、今日だと気付かなった」
事実である。休学届けの取り消しのためにいつもより早めに家を出れば、ツナ達がシモンとガヤガヤしていたのだ。当然、巻き込まれるのが嫌で私は他人のふりをして職員室へ向かった。……酷いと自覚しているので、ツッコミはしないでくれ。
誰に言い訳しているのだろうかと思っていると雲雀恭弥に睨まれた。
「し、仕方がないだろ! 私は君への連絡手段がないのだ」
内藤ロンシャンがウザかったため、過去にあるように装ったことがあるが雲雀恭弥の連絡先を私が知るわけがない。彼に黒曜ランドに行っても無駄だと教えることは不可能だったのだ。
私の返答に雲雀恭弥は何を思ったか懐に手を伸ばしていた。びびった私は逃げ腰である。……お兄ちゃん、ディーノ、ヘルプミー。
雲雀恭弥が懐から出したものを私に飛ばしてきた。軽く悲鳴をあげたが、私でも見える速度だったためキャッチできた。
「……なんだ、これ」
思わず呟いた。何を渡されたがわかっているが、脳内で理解するのを拒絶して出た言葉だった。
「わかっていると思うけど、用もなく連絡すれば咬み殺すから」
不吉な言葉を残して雲雀恭弥は去って行った。
おい、この空気どうにかしろ!
雲雀恭弥の言葉から私の手に握られている紙に何が書かれているのかわかったのだろう。教室中の視線がその紙に集まっていた。そして、受け取った私に対し恐れを抱いた空気がこの場を支配する。
頭を抱えた私は悪くないはずだ。
この後すぐにチャイムが鳴ったため、教師はそそくさと出ていき休憩時間になった。そのため私の周りには誰もいなくなった。
本当に雲雀恭弥と関わるとロクなことがない。軽く溜息を吐いた私は兄に貰った本を開いた。ぼっち歴が長い私には慣れたものである。……以前より虚しさが増しているが。
「サクラ」
名前を呼ばれるなんて思わなかった私は、勢いよく顔をあげた。そして、ついこの言葉が出た。
「おお、心の友よ」
「ハハハ……」
私の棒読みが酷かったのか、または今朝彼が困ってる時に他人のふりをしたにも関わらず、調子のいいことを言ってるからか、ツナは苦笑いしていた。
悪いな、劇場版がないので私が頼りになる味方の機会は永遠に来ないのだ。
「で、どうした?」
くだらないことを考えていたが、真面目にツナと向き合う。彼は優しさからこの空気を見かねて、声をかけてくれたのもあるだろう。だが、古里炎真を連れてきていたので、他にも何か用があるはずだ。
「サクラに紹介しようと思って。ほら、エンマ」
「……こんにちは、サクラさん」
「コ、コンニチハ」
思いもしない流れに片言になってしまった。そのため視線が泳いでいるとツナが笑ってるのが見えた。すぐさま睨む。
「ごめんごめん。でもサクラはオレ達が友達になることしか考えてなかったんだなーって」
すぐに言い返すことが出来なかった。私がシモンファミリーと友達になる未来は考えてもいなかった。チラッと古里炎真をみてみる。
「……サクラさん、ありがとう。サクラのおかげで、ツナ君と友達になれたんだ」
「それは違う」
私が居なくても彼らは友達になれた。私と兄が居たことでややこしくなったのをディーノが直しただけにすぎない。……やはりディーノへの礼をそろそろ真面目に考えるべきだな。
「違わないよ。ね、エンマ」
「うん」
ツナと古里炎真の顔を見て、やれやれという感じで息を吐く。だが、悪い気はしない。
「サクラ、今日の放課後にみんなとパーティするんだ。サクラも一緒に行こうよ!!」
「……今のところ、放課後に予定は何もない」
彼らから視線を逸らして返事をすれば、ツナと古里炎真がクスクスと笑う声が聞こえた。この空気に耐えれなかったので、慌てて話題を振る。
「お兄ちゃんとディーノは?」
「ディーノさんもいるよ。サクラのお兄さんはサクラの返事次第って言ってたから……」
参加ってことだな。
「大人数だな」
「山本が店を貸し切りにしてくれたんだ。……山本のお父さんがお寿司握ってくれるって」
山本武の家と聞いた途端、期待したようにツナの顔を見たので教えてくれた。おそらくリボーンとディーノのおごりだろうと私は察しているが、遠慮はしない。放課後が楽しみである。
「サクラさんって、意外とわかりやすいんだね」
「エンマもそう思うんだ」
「うん」
ちょっと待て。そんなに私はわかりやすくないはずだぞ。私自身でも言葉足らずと思うぐらいだからな。
「骸はいないみたいだし、クロームは京子ちゃんが声をかけてくれたみたいだし、後誘ってないのはヒバリさんだけなんだ」
……空気は読まないぞ。
「頑張れ」
私が本に視線を戻そうとしたのでツナは私の前で手を叩いた。拝まれてもしないぞ。ツナは知らないだろうが、私の中で雲雀恭弥の声がどストライクなのだ。雲雀恭弥に電話なんてすれば、咬み殺される前に悶え死ぬ。絶対に電話なんかしない。もしも伝えることがあれば、ディーノに丸投げしよう。そうしよう。
「どうしても声をかけたかったのなら、さっきすれば良かっただけだろ」
「ハハハハ……」
笑って誤魔化したな。まぁ気持ちはわかるため、私もこれ以上責める気はない。
「彼のことだ。誘ってはいるはずだ」
「そうなの?」
私は頷いた。ディーノは断れるだろうとわかっていながらも、声をかける。雲雀恭弥にトンファーを振るわれても、何度でも声をかけるだろう。そういう男だ。
「君も……君達もやりそうなタイプだし、何となくわかるだろ」
私の言葉を聞いて、ツナは古里炎真を、古里炎真はツナを見て納得したらしく、笑いあっていた。
どうやらその時に私も笑っていたらしく、家に帰れば兄がニヤニヤとその写真を眺めていたので、いろいろとドン引きした。
継承式編が終わり。
このまま、おまけ(虹の呪い編)も書こうかなーと思ってます。
パソコンを手に入れるまでまだ時間があるし。