萌えっ娘もんすたぁ ~遙か高き頂きを目指す者~   作:阿佐木 れい

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お 待 た せ




【第三十二話】グレン島――燃える男より熱きモノ

 決戦場は、熱かった。

 熱くもあり、暑くもあった。

 

 常にサウナにいるかのような熱せられたフィールドの中、左右には溶岩を模した火の海があり、真ん中には広い荒野に岩が足場として設置され、熱風が吹き付けられている。

 当然ながら水の部分は存在しておらず、挑戦者が水タイプを扱う場合、どう工面するかが問われるだろう。

 

「暑いな……」

 

 脱水症状対策としてスポーツドリンクや塩も準備されていて、ジム上部からは冷風が吹き込んでいる。しかし、密閉された空間ではないために、風は外に駄々漏れかつ、常に熱が生まれているので、ほとんど意味をなしていない。

 リゥたちも同様で、炎タイプのコン以外はみんな辛そうだった。

 愛梨花には熱中症を狙われたが、今回もまた注意していかねばなるまい。加えて、これだけ高温だと岩場も相当熱せられていると予想できる。火傷にも注意しないと。

 

 となれば、やはり重要な要素となるのはシェルだ。足場を作れるし、火の威力を弱めることもできる。

 同時に、熱せられた地面は、地面タイプにとっても熱湯に入るのと同じように厳しい環境のはずだ。それこそ、火山に住んでいる萌えもんでもない限り、辛い環境となるだろう。

 

「今までで一番厳しい戦場だな」

 

 それが、第一印象だった。

 実際に戦場に立ってみると、肌で理解できる。この状況を打開できる方法は、そう多くない。

 どんな戦略で戦うか――それも含めて相手をこちらの術中にハメるのが、何よりも重要になるだろう。

 それにしても、

 

「流石だな。汗一つかいてない」

 

 キラリと光る頭に視線が吸い寄せられる。

 いや、むしろあの頭は汗をかいているのかもしれない。それ故に、より光を反射しているのかも。

 何れにせよ、酷く目立つ。さながら太陽かの如く、余計なものを隠さず曝け出している姿は実に男らしい。

 

「かーっはっはっ!」

 

 桂から、大きな笑い声が発せられる。

 戦場と言わず、会場全てに響き渡るほどの大きな声だ。

 その言葉は、まさに炎。それを体言するかの如く、桂は腕を組み、仁王立ちしている。

 

「良く来たな、小僧! わしは燃える男、桂!」

 

 暑苦しいという言葉がぴったりな爺さんだ。

 あの年齢であんなテンションでは、血管がぷっつり切れてそのまま逝ってしまうんじゃないかと心配にすらなってくる。

 

「わしが扱うは炎! その名の通り、立ちふさがるもの全てを燃やす!」

 

 その言葉を真正面から受け止める。

 グレンタウンジムリーダー、桂。俺が戦った中で、もっとも長い間トレーナーをやっている男だ。ジムリーダーとしてもかなりの年月だろう。

 彼の胸を借りるつもりで――しかし必ず勝つ意志をこめて、俺は人生の先輩が放つ言葉を受け止めなければならない。

 

「小僧! お前に受け止められるか!」

 

 俺はマイクを手に取り、宣言する。

 

「冗談言えよ。あんたの炎より燃えてやるよ――!」

 

 モニターに互いの手持ちが表示される。

 桂は6体。俺は6体――うち1体は、戦えるかもわからない状態。戦力として数えたら負けだ。

 不利な状況は承知している。それでも、勝つ。

 

「ならば示してみるんだな!」

 

 桂が言葉を放った直後、俺たちは同時にボールを抜き放ち、

 

「行け――」

 

「頼むぜ――」

 

 灼熱の大地に2体の萌えもんが降り立つ。

 

「キュウコン!」

 

「コン!」

 

 ――ここに、グレンジムの火蓋が切って落とされた。

 

 

   ■■■■

 

 

 俺と桂。互いに先陣として選んだ萌えもんは、奇しくも同じだった。

 キュウコン。

 もはや語るべくもない頼もしいさを持った萌えもんだが、相手にすればこれほど恐ろしいものはない。

 

「――さて」

 

 桂は炎タイプを扱うプロフェッショナルだ。俺の人生よりも長い期間ジムリーダーをやっているのは、伊達ではないだろう。

 若輩の俺が真正面からぶち当たって、力技で勝てるとは考えられない。

 

「同じ萌えもんとはわかっておるな、小童」

 

「いや、全くの偶然なんだが」

 

 桂の手持ちは予想していた。その中には当然キュウコンはあったし、どのタイミングで出してくるのかは賭けだった。

 グレンジムは炎タイプの萌えもんを使うジムだ。ならば、自然、桂が相手をするのは水タイプか地面タイプ、もしくは岩タイプくらいだろう。弱点を的確に攻めるのまた戦略。そういった方法が常道だと理解している。

 だけど生憎、俺はそんなに器用な質じゃない。

 だから――あらゆる手を使って勝つしかない。

 

「キュウコン――」

 

「コン――」

 

 俺と桂は同時に指示を飛ばす。

 

「まずは手始めだ。日本晴れ!」

 

 桂のキュウコンが、フィールドを明るく照らす。炎タイプにとっては格好の戦場と化す。

 

 ――やっぱりそう来たか。

 

 当然、織り込み済みだ。自分のフィールドを更に強化し有利に立つのは当然。それを打ち破ってこその、挑戦者なのだから。

 

「コン、どくどく!」

 

「はいっ!」

 

 コンがはきかけたのはコールタールのような液体だった。亨から譲り受けた技マシンで覚えた、相手を苦しめるための技だ。

 

「跳べ、キュウコン!」

 

 桂の指示に従い、キュウコンは即座に跳躍。逆光を背に、コンを頭上から見下ろしている。

 

「キュウコン、妖しい光!」

 

 選択されたのは、混乱を引き起こす技だった。コンは目を閉じるのが間に合わず、まともに食らってしまう。

 

「は、はわわ。ご主人様がいっぱい見えるです。幸せなのですー」

 

「おいコン」

 

 ふらふらとおぼつかない足下のコンの眼前に、キュウコンが降り立つ。

 

「サイコキネシス!」

 

 ぐん――とコンが一瞬揺らいだ。かと思えば、近くの岩山へと叩きつけられていた。

 

「か、はっ……!」

 

「コン!」

 

 桂は更に追撃を仕掛けてくる。

 

「侵掠すること火の如しよ! キュウコン、火炎放射!」

 

 選択されたのは、炎タイプの技だった。同タイプであるコンに相性は良くないが、桂にとってみれば関係ないようだ。

 押して押して押しまくる。

 そらくそれが、桂の戦闘スタイル。勝つためには、どんな些細なダメージとて積み重ねていくのが、グレンタウンジムリーダー桂の真髄だ。

 

「ん、むっ……あ、当たりませんから!」

 

 ダメージを負いながらも意識を取り戻したコンは、岩に手をかけてバク宙。逆に岩を利用して火炎放射から身を隠した。

 次に桂が取り得る作戦は何だ?

 

 俺は思考を巡らせる。

 キュウコンが登録している技は、日本晴れと火炎放射、怪しい光にサイコキネシスだ。 逆にコンは、メガトンパンチに火炎放射、どくどくに電光石火。

 それらの中から、最適解を導かねばならない。

 となれば――

 

「コン、どくどくだ!」

 

 岩陰に隠れたコンが身を出したとして、キュウコンが取れる手段はそう多くない。火炎放射かサイコキネシス、そして怪しい光で同じように攻めるかだ。だが火炎放射の可能性は低い。こちらがもう一度身を隠せば回避できてしまうからだ。

 となれば、選択肢として大きくなるのは怪しい光かサイコキネシス。どちらも視線を用いる以上、こちらが取れる手段はどくどくしかなかった。

 

「火炎放射! 焼き尽くせぃ!」

 

 だが、桂は物理的に消去する方法を選んだ。キュウコンの火炎放射によってどくどくが熱せられ、気体となって霧消する。

 

 ――まだだ。

 

「どくどく!」

 

 もう一度放つ。

 

「小癪な手を使うか! 何度やろうと同じことよ!」

 

 知ってるよ。

 俺は小さく呟き、コンに指示を飛ばす。

 

「コン、」

 効果の無い技を二度、遣った。いい加減、鬱陶しくなってくる頃だろう?

 放たれる技はおそらく――

 

「サイコキネシス、今度こそ討てぃ!」

 

「電光石火!」

 

 そこにこそ最も大きな隙ができる。そのための時間稼ぎさえできれば、それで良かった。

 キュウコンが選択したのは、()()()()のサイコキネシス。小癪な手を連発していた以上、桂が熱くなるのは予想していた。それ故、この勝負を早々に終わらせて、自分には効かないことを見せつけてくるはずだ。

 

 小手先など不要と桂は言ってくる。

 ならばこそ、俺は存分に小手先を使わせてもらうまで!

 

 サイコキネシス発動までは、時間が僅かながらかかる。集中力が必要だからだ。余程の熟練者でもない限り――それこそ棗のフーディンあたりか――タイムラグ無しで発動するのは無理と考えていい。

 なら、こちらの電光石火で先制が取れる。

 

「足を引っかけろ!」

 

「……っ!」

 

 俺の指示に呼吸で答えたコンは、キュウコンの足を引っかけた。キュウコンの体が傾ぐ。だがそれでも、忠実にコンへと視線を向けているのは流石だ。

 

「どくどく!」

 

 その視界を防ぐには、この方法しかなかった。

 コンが吐き出したどくどくは、キュウコンへと降り注ぎ、コンもまた自爆する。

 だが、これで勝つための布石は揃った。

 

「マウントだコン! メガトンパンチ!」

 

「はいっ!」

 

 キュウコンの視界には、どくどくを纏わり付かせて襲いかかるコンの拳が見えたことだろう。

 

 一発、二発、三発――!

 

「むぅ!」

 

 桂の呻きが発せられるまで、コンは三発撃ち込んでいた。

 キュウコンの動きが止まる。

 

 ――ノックアウト。

 

 これで、

 

「一体目――」

 

「撃破、です――!」

 

 桂の牙城のひとつを崩した。

 残る萌えもんは五体。これでようやく俺の手持ちとイーブンになるが、コンはダメージが蓄積されている上に猛毒状態だ。不利なのは相変わらず。

 

 さて、これからどうするか。

 思案しながら、俺は桂の手番を待った。

 すると、

 

「戻れ、キュウコン」

 

 桂は俺をしばし見た後、口角をつり上げた。

 

「その戦い方――あの小童に似ておるな。さては、何か学んだか?」

 

「さてな。俺にゃ、あんたを含めてみんなから勉強させてもらってるから、わかんねぇな」

 

 俺の問いに、桂は哄笑し、

 

「よかろう。ならばこの桂の真髄、盗んでみせよ! 征け、ブースター!」

 

 次に萌えもんを展開させた。

 ブースター。

 イーブイの進化形のひとつで、炎タイプの萌えもんだ。サンダースがスマートな体格なのに対し、ブースターはずっしりと構えた、所謂パワータイプ。俊敏に動くのではなく、砲台と化して周囲を焼き払う、そんな萌えもんである。

 

「さて……」

 

 コンには少々辛い相手だが、〝仕込む〟にはもってこいの相手だ。

 

「コン、いけるか?」

 

 俺の問いに、コンはすぐさま答えてくれる。「もちろんです」

 

「なら、やるぞ」

 

 即座にコンへと指示を下す。

 狙うはただひとつ。

 

「どくどく!」

 

 コンが放ったどくどくをブースターが躱す。

 

「如何に足が遅いといえど、イーブイ種族をなめたか、小僧!」

 

「どうかな!」

 

 桂に不敵な笑みを返し、俺は更にコンへどくどくを命じ続ける。だが、そのどれもが命中しない。

 やがて、

 

「ご主人様、どくどくはもう……!」

 

「あいよ!」

 

 その悉くを外し、コンは俺へどうするのか指示を仰いでくる。

 好機と見たのは桂だ。

 

「ブースター、大文字!」

 

 日本晴れの影響下で放たれる大文字は、凶悪の一言につきる。同じタイプといえど、無事ではすむまい。

 

 ――マズいな。

 

「コン、火炎放射!」

 

「はいっ」

 

 迎え撃つのはコンの火炎放射。だが、大文字の方が威力が勝る。徐々に押されていくコンの表情は苦痛に満ちていた。

 大文字が着弾する寸前に電光石火で回避するか? 無理だ。よしんばできたとしても距離がありすぎる。こちらの攻撃が届く前に、桂からカウンターを食らう。

 メガトンパンチは論外。接近できる可能性がそもそも低すぎる。

 

 ――打つ手無し、か。

 内心歯がみしていると、桂が宣告する。

 

「ブースター、シャドーボール!」

 

 突然消えた炎の残滓。その中からひとつの黒い球体が猛スピードでコンへと迫り、着弾した。

 

「ぴきゃっ!」

 

「コン!」

 

 コン、撃破。

 

「……ありがとうな、コン。助かった」

 

 これで手持ちは残り四体。

 さて、どう出るか。

 

 ブースターの技は、大文字とシャドーボールは明かされた。残る技は何か……可能性としては日本晴れは覚えていそうだが。

 桂が出すと予想できる萌えもんは、ウィンディ、ギャロップ、ブーバー、リザードンあたりか。警戒すべきはリザードンだ。飛行タイプも持っているため、早々と出されてはこちらが不利になる。勝つには地上に縛り付ける他ない。

 だがそれは桂とて読んでいるはず。あえてリザードンを出さないのは余裕のためか、あるいは……。

 こちらが策を打ってくるのなら、正面から叩き潰すつもりなのだろう。俺のように策で相手を翻弄するタイプがもっとも苦手なのは、正面から力押ししてくるタイプだからだ。

 

 ――なら、保険か?

 

 地上戦を仕掛ける以上、桂が警戒しているのはおそらく地面タイプ。これほど熱せられていては、水タイプの攻撃が果たしてどれだけ通じるかもわからない。香澄戦のように、最悪蒸発しかねない。

 

「さぁ、次は何を出す!」

 

 桂が催促する。

 前面に出ているのはブースター。イーブイ族の炎タイプ。

 桂が後に控えているであろう萌えもんは、ほとんどが素早い。早急に機動力を奪う方法が必要となる。

 出すならカラしかいない。愛梨花戦のように地面を壊せば、天秤はこちらに傾く。だが同時に、サンダースの持つ愛大の武器をも奪うことになる。

 決断は一瞬だった。

 

「頼むぜ、カラ!」

 

「任せて!」

 

 素早さが活かせないのなら、活かす場面に持っていくのがトレーナーの仕事だ。

 

「そう来たか……ブースター、火炎放射!」

 

「カラ、穴を掘って動き回れ!」

 

 火炎放射を躱したカラは、そのまま地面を掘り進んでいく。

 とはいえ、深くは掘り進められない。幾分かマシとはいえ、炎の影響を受けている地中の温度も高いだろう。

 

「やはりな。ブースター、シャドーボール!」

 

 地面に向かって放たれたシャドーボールが地中へと吸い込まれていく。だが、当たらない。

 カラは縦横無尽に地中を堀りまわっている。その意味はふたつあった。

 

 ひとつは、警戒させること。

 愛梨花戦で見せた地面割りを思い描かせたかった。よしんば桂がチェックしていなかったとしても、予測させることは可能だ。もちろん、今回は地震を登録しちゃいない。

 カラが登録したのは、穴を掘る、骨ブーメラン、骨棍棒、影分身の四つ。接近戦主体の構成となっている。

 

 だからこそ、ふたつ目の意味が強くなる。

 それは、散々っぱら撒き散らしたどくどくを地中へとため込むことにあった。

 地面は熱せられていく。そこに毒液をため込むことで、一種の貯蔵タンクにしたかったのだ。だがこれも時間が経たねば効果を発揮しない。また、早々と発覚させても意味が無い。効果的に使える場面で発揮させねばらない。

 

 それ故の、穴を掘る。

 広大なフィールドの中、地中を掘り進む相手にシャドーボールは分が悪い。桂とてそう思っている上で撃っているはずだ。

 地中がカラのフィールドであるなら、地上はブースターのフィールドといったところか。

 

「シャドーボール!」

 

「……自分の周囲に、か」

 

 ブースターが放つのは、自らの周囲のみ。

 穴を掘るは本来、地中からの奇襲として用いられる技だ。そのため飛行している萌えもんには効果がないし、攻撃するためには相手の至近距離に飛び込まねばならない。

 桂はその特性を踏まえた上で、ブースターに至近距離において地中に向かって牽制を仕掛けさせたのだ。

 カラはあちこちを掘り進んでいる。そのため、ブースターの牽制がもし眼前に出現したりすれば……?

 

「ぷはっ!」

 

 地中から顔を出す、というわけだ。

 

「あ」

 

 カラは慌てて顔を地中へと引っ込める。

 だがそれを見逃す桂ではなかった。

 

「ブースター、シャドーボールを撃ち込め!」

 

 カラが逃げ込んだ場所へと向かって放たれるが、幸いにして手応えはなかった。やがて桂は、

 

「ならば火炎放射よ!」

 

 と穴へ向かって火炎放射を放たせた。カラをあぶり出すつもりだろう。

 それを見て、俺は内心で喝采を告げる。

 こちらが想定するより早く動いてくれた。

 なら、後は――

 

「カラ!」

 

 俺は指示を飛ばす。

 

「骨ブーメラン、やっちまえ!」

 

「わかったよ!」

 

 ブースターより距離を取った場所からカラが飛び出し、手にしていた骨を投擲する。

 同時に、

 

「影分身! 距離を詰めろ!」

 

 影分身で別れたのはふたつ。そのどちらもが……。

 

「む、骨を投擲させたのはそれか。ならば大文字だ、ブースター!」

 

 カラの放った骨を事も無げに回避したブースターは、口元から火炎を迸らせんとする。

 だが悪いな、ブースター。

 そいつはブーメランだ。

 中空で機動を変えた骨は、カラの手元――その途中にいるブースターへと飛来する。

 

「はっ、距離を詰めたのはそのためか、小童!」

 

「さてな!」

 

 これまで戦ったジムリーダーなら、選択の逡巡が生まれるだろう。

 だが、桂は違う。燃える男はいつだろうと攻めを選ぶ。自分が被弾するより早く、敵を削りにかかる。

 果たしてそれは予想通りだった。

 桂の命令が変更されることはなく、火炎放射が放たれる。

 

「カラ、穴に潜れ!」

 

「了解!」

 

 カラが穴を即座に掘って逃れる。いや、それは先ほど掘り進んだ穴のひとつだ。

 

 これが、布石その二。

 火炎放射をやり過ごしたカラは、即座に地中から飛び出し、ブースターの懐へと入り込まんとする。そこに飛来するのは骨だ。

 ブースターは骨を受け、よろめいている。

 カラが骨を受け止め、振りかぶる。

 

「くっ」

 

 桂が一瞬、呻いた。

 布石その二が効いたようだ。

 

 こちらが敷いたのはふたつ。

 まず最初に戦闘フィールド内に穴を掘らせたことで、地盤を弱くしたこと。

 そしてもうひとつが、先ほどの一瞬の回避。すぐに地中へと潜って外に飛び出したことで、実は自分が思っている以上にフィールドの状態が良くないのではないかと思わせること。

 

 つまり、無事なのはブースターのいる場所だけではないのかと思わせることにあった。

 そうなれば、自然、ブースターの取れる方法は限られてくる。

 

 桂が取る方法は、ふたつ。

 ひとつ、迎え撃つ。

 ふたつ、退避する。

 

 だが、退避は選べない。カラが振りかぶっている骨は、投擲して攻撃手段になり得ると先ほど見せたからだ。

 同時にまだこちらが選択した技のひとつを見せていない。

 

 ――骨棍棒。

 

 手にした骨で殴る、単なる物理技だ。桂が警戒する理由はほとんどない。

 だが、地震となれば話は別だ。

 地面タイプ最強の技にして、炎タイプにとってみれば水タイプと同じく警戒するべき筆頭の技である。

 

 特に、穴を掘るでフィールドの基礎を破壊しているからこそ、地震で崩壊する恐れがある。すると、素早さが売りのギャロップやウィンディを事実上、無効化できる。

 それは桂にとって一番回避したい流れだろう。

 故に、多少ブースターが不利になろうとも、確実に殺せる手を打ってくる。

 即ち――

 

「アイアンテール!」

 

 牽制の近接技。

 大文字では当たらない。

 シャドーボールでは態勢を立て直している時間がない。

 日本晴れはそもそも意味がない。

 となれば、残る技を選択せざるを得ないわけで。

 

「当た、るかぁ!」

 

 カラが吠える。

 蹌踉めきながら繰り出されたブースターのアイアンテールは、空を切る。

 同時、懐へと飛び込んだカラは、渾身の力を持って、手にした棍棒をブースターへと振り下ろした。

 

「っせいやー!」

 

 脳天に直撃し、ブースターはそのままフィールドへと崩れ落ちる。

 これで、

 

「二体目――」

 

「――撃破だよ!」

 

 追いついたぞ、桂!

 不敵な笑みを浮かべる俺達に、桂はブースターを戻しながら神妙な顔で言った。

 

「スタートラインには立てたか」

 

「あんだと?」

 

「かかっ! 征け、ギャロップ!」

 

 こちらの言葉には応えず、桂が繰り出したのはギャロップだった。

 炎タイプの萌えもんポニータの進化形で、高い素早さが特徴だ。あの速さに追いつけるのは、手持ちでは現状一体しかいない。

 

 ――カラでは不利、か。

 

 判断は迅速に。

 

「カラ、戻ってくれ」

 

 そして、

 

「頼むぜ、サンダース!」

 

 確実に勝てる戦法で挑む。

 仕込みが活きるには、まだ早い。

 カラならばギャロップを封じることも可能ではあるが、そうすればこちらの利点も失われてしまう。サンダースの持ち味であるスピードを殺す真似はできればしたくない。

 

 目には目を。

 奇策よりも実を取るしか、今は術が無い。

 サンダースを犠牲にして――という方法が頭をかすめるが、無理だ。

 限られた人数でやりくりしなければいけないのに、自分から選択肢を狭めるのは悪手以外の何物でもない。

 

 自棄になってもいけない。

 針の穴を通すように。

 熟練のジムリーダーを妥当する一手を、打ち続けなくては。

 

「サンダース」

 

 じっと見ていると、俺の言葉で桂の眉がぴくりと動く。あそこだけ毛があるから、見てわかりやすいのが何よりの救いだった。

 

「電撃波!」

 

 こちらの一手はすでに決まっている。

 知りたかったのは、ただひとつ。

 

「ギャロップ、突進せよ!」

 

 桂の指示は、電撃波と同時。

 即座に動いたギャロップは、電撃波が命中するも臆することなくサンダースへと距離を積める。

 電磁波ならば筋繊維が麻痺して少しは行動を阻めただろうが、電撃波ではこれが精一杯か。

 

 とはいえ、電磁波はできるだけ使いたくはない。

 炎タイプの技は、中遠距離の技が多い。対してこちらはほとんどがインファイター。固定砲台になられちゃたまらない。相手を逆に優位に立たせる選択肢は、排除しておきたかった。

 

 ――もう一度。

 

 確信を得るために、サンダースへと指示をとばす。

 

「砂かけだ!」

 

 サンダースが足に砂をひっかけ、宙返りとともに砂を巻き上げる。

 ギャロップは臆さない。

 砂が舞う中、迷うことなく渦中に飛び込み、正面にいるサンダースへと一気に距離を詰める。

 

 かわすか、一撃をもらうこと覚悟でカウンターを狙うか。

 刹那、頭を過ぎったのは、一撃をもらった場合の未来。空中でギャロップの突進を受けてはね飛ばされるサンダース。衝撃はほとんどないとほくそ笑む俺の前で、ギャロップが追撃の火炎放射を放つ場面だった。

 

 ――駄目だ。

 

 頭を降る。

 ならばどうする?

 ギャロップは目の前だ。その表情は――勝利を確信しているのか、はたまた戦うことそのものが好きなのかはわからないが、ひどく楽しそうだった。

 このまま突進を受けるのは愚作。

 

 ならばと手法を変える。

 突進は確かに強力だ。

 しかし、あくまでも攻撃手段のひとつ。

 

「サンダース!」

 

 電撃波。

 砂かけ。

 こちらが見せた手札は、まだふたつ。

 なら――!

 

「10万ボルト!」

 

「まっかせろー!」

 

 逆立つサンダースの毛針が、紫電を纏う。

 瞬時にして発生した荒れ狂う電気は、こちらに接触せんとする敵へと殺到する。

 

 これなら止まるはずだ。

 賭けにも似た思いで願う俺へ、しかし桂は余裕の表情。

 その構えたるや、まさしく山の如し。

 ただ己の結果を確信している者だからこそできる、泰然自若とした姿だった。

 

 ――なんだ?

 

 10万ボルトは既に放たれている。やり直しは利かない。

 だからこそ、背筋に走った悪寒を拭い去ることができない。

 何か自分は大きな間違いを起こしたかのような……。

 

 その違和が何なのかわからないまま、10万ボルトはギャロップへと突き刺さる。

 閃光が視界を焼く。

 サンダースにいつでも指示が出せるよう、目を凝らす。

 

 その先には――ギャロップ。

 足を止めた彼女は、大きく息を吐く。

 そして、こう言った。

 

「少し痺れたぞ、じぃ」

 

 その動作を見て確信する。

 電磁波を登録しなかったのは正解だった、と。

 あれは――桂の萌えもんは、その程度で止まるような者たちではないと、肌で確信した。

 

「かっ、ならば良し! では」

 

 桂が獰猛な笑みを浮かべる。

 その笑みが意味するところは、ただひとつ。

 

「大文字! 燃やし尽くせぃ!」

 

 放たれるのは、炎タイプの大業。

 それもこの日照りだ。従来の威力よりも遙かに高いのは、容易に予想がつく。

 加え、

 

「ファアル! 逃げ場が無いぞ!」

 

 サンダースの悲鳴が耳に届く。

 桂は初めから被弾覚悟だった。

 自らが被弾することを覚悟した上で、こちらの距離を詰めることだけを狙った。

 

 相手はサンダース。

 桂にとってみれば、不利な水や地面タイプではない。彼に――いや、彼らにとってみれば、覚悟など無いに等しい選択だったろう。

 何しろ、彼らはずっと自らが不利な相手と戦っているのだから。

 だからこその、選択。

 

 まさしく、肉を斬らせて骨を断つ。

 会場の熱気。

 得意なフィールド。

 己にとって不利ではないタイプの相手。

 

 桂にとってみれば、これほど好条件な敵はいまい。

 多少無茶な戦術を取ったところで、己の有利は覆らないのだから。

 有利なフィールドで、有利な戦いをする。

 それは――

 

「……あんたが普段陥っている状況そのものだな」

 

 呟く。

 だが……!

 

「気にするな、サンダース」

 

 慢心は隙を生む。

 桂の持つ自信は、こちらがつけ込む隙となり得る。

 

「……はれ? 外れたぞ、あいつバカか?」

 

 違う、そうじゃない。

 俺は口角を上げ、仕込んでいたものがようやくひとつ発動したのを知る。

 それは――

 

「お、おい、ファアル。わっちもなんかしんどいぞ! なんじゃこりゃあ!?」

 

 立ちこめるのは、色の付いたガス――毒ガスだ。

 

「知ってる。俺が仕込んだ」

 

「さらっと言うな! わっち、しんどいぞ!」

 

 ……悪い。

 

 胸中で呟き、前方を見る。

 顔を真っ青にしたギャロップは、自分の見に何が起こったのか、理解していないようだ。

 

「……小僧、何をした?」

 

 桂が問う。

 

「へっ」

 

 桂に種明かしをするつもりはなかった。

 どくどく。

 猛毒の毒を相手にぶつけて苦しめる技だ。

 となれば、その中の成分のひとつに、気化するものがあってもおかしくないのではないか、と考えた。

 どくどくよりはだいぶ薄くなる。

 

 だが、毒を受けて平素の顔をできるのは毒タイプくらいだ。

 何かしらの隙を作れば、こちらがつけいる隙ができる。

 

 ――キョウ、あんたのお陰だ。

 

 心の中でこっそりとかつて戦ったジムリーダーに礼を言いつつ、戦況を見やる。

 まずは一手。

 だが、これで倒せるほど桂は甘くない。

 むしろこっちも毒を食らったのだから、イーブンだ。

 だから、さらに一手を打つ。

 

「地面の中に仕込んでおいたのが、やっと発動してくれたわけだけどな」

 

「むっ!?」

 

 地中の穴を掘り進めたのは、あくまでもこのため。そしてその上さらに次の利用も考えている。

 桂の眉がぴくりと動いたあたり、またぞろ何かしら仕掛けてくるのでは? と訝しがっているはず。

 だが種明かしをするならば……ぶっちゃけブラフだ。何の仕込みもしちゃいない。

 桂にしてみれば、今まで俺がとってきた行動に何かあるのではと探りたいはず。

 

 本来ならば、そんなことはするまい。

 だが、毒ガスを発生させたことで、桂の内に躊躇いが生まれるのは間違いない。

 一見無意味に見える行動も、その実何かしら意味があるのでは?

 それこそ、先ほどの砂かけひとつにとっても、何故あの場面で起こったのか?

 

 考え始めればキリが無い。

 そして一度考え始めると、戦闘パターンは確実に崩れる。

 俺が棗の時にそうだったように。

 

 その思考の迷いこそ、狙い。

 桂という熟練トレーナー相手に隙を生み出すための、俺が打てる一手。

 だが、桂とて甘くは無い。

 一瞬の判断で、彼は、

 

「戻れ、ギャロップ」

 

 このままやれば勝てるであろうギャロップを戻した。

 

「――いいのか、変えて」

 

 危なかった。

 あのまま続投されていれば、押し負ける可能性もあったからだ。

 とはいえ、今後桂が出してくるであろう萌えもんは、何れも強敵ばかりと予測できる。

 

 彼女らを打ち砕く要因は間違いなく、シェルだ。

 俺にとっての切り札は、しかし弱点でもある。シェルを倒されれば、桂へのアドバンテージが一気に無くなってしまうからだ。

 

 選ぶのなら慎重に。

 桂が何を出してくるのか。

 キュウコン、ブースター、ギャロップ。残り三体は何になる?

 

 ――確か桂が使っていたのは、ウインディ、ブーバー。そして、リザードン。

 この中で出すなら、リザードンの可能性は低い。飛行タイプを持つリザードンではサンダースが有利だからだ。如何様にも対処可能な場合で、わざわざ不利なタイプを選択するとはとてもじゃないが考えられない。

 となると、ブーバーか、ウインディ。

 桂が選ぶのは――

 

「サンダース、こっちも交代だ」

 

 素早くこちらも変更する。

 ウインディが選択される可能性は低い。強力な萌えもんだが、毒を受けて運動能力が鈍る可能性もある。

 それに、こちらにはシェルがまだいる。彼女がいる以上、選択肢として選びにくい。

 となれば、消去法で選ばれるのは、

 

「ゆけぃ、ブーバー!」

 

 ある程度のタイプをカバーできる、ブーバーしかいない。

 ならばこちらは……、

 

「頼むぜ、シェル!」

 

「むっ――」

 

 切り札をここで出す。

 毒が充満し自身も毒を受ける中、必殺の火力を持ちうる存在を、惜しみなく投入する。

 

「ファアル、これは何ですの?」

 

 シェルが落ち着いた様子で、毒を吸い込んだ。

 

「くらくらするー」

 

「だろうなぁ」

 

 果たしてそれは相手も同じようでブーバーも顔をしかめつつ、毒ガスの中、立っている。

 

「……もう少しで毒ガスは消えるだろうに、何故切り札を投入した?」

 

「もっと強いのが来るかと思ってたんだよ」

 

 もちろん、ブラフ。

 だが、今ので桂がシェルをもっとも警戒していたのがわかった。

 

 切り札。

 自分が言うならばまだしも、他者が口にすればそれは、他者もそう認識していたということ。

 しかし逆に言えば、今ここでシェルを投入すべきでもあった。

 

 もうひとつの仕込み。

 それを成就させるためには、今このタイミングがベストだった。

 その相手がリザードンであり、ウインディであったとしても、確信は変わらなかっただろう。

 

「かっ、己の策を潰すことになろうともか?」

 

「あんたに勝つのに必要ならな」

 

 作戦に拘る必要なんてない。

 こっちが想定した通りに運ぶ戦いなんて、ありはしない。本気で戦っている以上、全て臨機応変。機を見て対応していくしか手はない。

 

「その思い切りや良し!」

 

 とはいえ、シェルの持っているタイプは水と氷タイプ。ブーバーのダメージは届く。

 だからこそ、こちらが倒れる前にやり遂げなければならない。

 

「シェル、ハイドロポンプ!」

 

 強い日差しの中、巨大な水柱が放たれる。

 

「ほう、雨乞いを使わぬか! だがこの気候では、不利になるぞ」

 

 知っている。

 だからこそ、だ。

 この場所この瞬間に、シェルは水タイプの技を使う必要がある。

 

「かわせぃ、ブーバー!」

 

 ブーバーが動く。ハイドロポンプは空を斬り、膨大な水がぶちまけられる。強い日差しの中、熱せられた岩に当たった水が、見る間に蒸発していく。

 

「シェル、波乗り!」

 

 間髪入れず、次の技の指示を出す。

 シェルは周囲に水を放ち、生み出した巨大な水たまりから、大波を発生させた。

 

 点が駄目なら面へ。

 これらなば外すまい。

 その自信と共に放った一撃は、過たずブーバーを打ち抜く。

 

 だが、倒すには至らず。

 立っているブーバーを一撃で仕留めるには至らなかった。

 

「下がれ、ブーバー」

 

 桂は警戒してか、すぐにブーバーを引っ込めた。

 何のつもりだ?

 こちらへ対抗するための一手が思い浮かばなかったのか、それとも――。

 次に出すのは何だ? 桂はどの萌えもんを選ぶ?

 このままシェルで行くかどうか逡巡する。ちらりと見たフィールドは、もう乾いている。

 

「シェル、戻ってくれ」

 

 もし桂がリザードンを選ぶのなら、分が悪い。だが、それ以外なら……。

 

「頼むぞ、」

「いけぃ、」

 

 俺と桂。

 同時に萌えもんをフィールドへと送り出す。

 

「カラ!」

「ギャロップ!」

 

 桂がフィールドに出してきたのは、ギャロップ。毒が残る体で、こちらに対峙している。

 時間が経過すればするほど、こちらが有利になる。

 ならば、

 

「カラ、穴を掘れ!」

 

 こちらは時間を稼ぐ。

 振り返ったカラに頷くと、意を汲んでくれたのか、カラもまた頷き返してくれた後に地面へ潜った。

 火力と機動力、どちらもこちらを上回っている敵に律儀に付き合う必要はない。

 

「小僧、この期に及んで姑息な手を取るか!」

 

「へっ、当たり前だろ」

 

 あくまでも余裕は崩さず。実際は、どうやって出し抜くかが綱渡り状態だが。

 ありもしない裏を読ませ続ける。

 その上で、出し抜く。

 そのために、

 

「ばぁ!」

 

「――!?」

 

 敢えて外す!

 カラが顔を出したのは、ギャロップの至近距離。

 突進をするには助走距離が足りず、火炎放射を放つには近すぎる、絶妙な位置取り。

 

「骨ブーメラン!」

 

 どんな者にも、間合いというものが存在する。それは何も体と体の距離だけでなく、心の距離でも同じだ。平素ではそれはパーソナルスペースと呼ばれているが、戦いにおいては相手の虚を突く大事な要因となる。

 そのために、戦いはまず自分が得意とする間合いを維持し、相手の間合いを外すことから始まる。

 今回、カラが地中から飛び出したのは、ギャロップの間合いを外す位置。

 

 カラには何も指示をしていなかったが、こちらの意を汲んでくれたと共に、カラ自身が戦いの中で成長してくれたということだろう。

 何れにせよ、カラが上手く行動してくれたのは事実。

 彼女が放った骨ブーメランは、ギャロップへ向かって中空を突き進んでいく。

 

「ギャロップ、離れ――いや、近付けぃ!」

 

 一旦はギャロップへ離れろと指示を出した桂だったが、即座にそれを取り消した。

 その理由は、眉を寄せて歯がみする表情が、全てを物語っている。

 

 ――気付いたか。

 

 骨ブーメラン。もはや説明するまでもなく、手にした骨をブーメランのように投げる投擲武器である。また、投げた骨はブーメランと同じく楕円を描いて手元に戻っても来る。

 そう。

 種を明かせば、カラとて自分にとって最適な間合にいたわけではない。

 彼女が顔を出したのは、近距離にしては遠く、遠距離にしては近すぎる位置。絶妙なまでに、隙だらけの位置だったのだ。

 

 だからこそ、先手を取ればこちらに選択肢があった。

 遠く離れれば骨ブーメラン。近距離ならばボーンラッシュ。

 

 慌てて後退を指示した桂は、見たことだろう。

 ギャロップの背後を通過するであろう骨ブーメランの軌跡を。

 

 だからこそ、前進させるより他に術が無かった。

 そして、ギャロップが前進すると、誰よりも読んでいたのはカラ自身。

 地中を進んでいた彼女が、何の策も無く敵を引き寄せるのかと言えば、

 

「――穴だとっ!?」

 

 そんなはずがないのだ。

 さながら湖の上に張った薄氷の如く。

 足を取られたギャロップは、持ち前の素早さを活かせるはずもない。

 上半身だけ出た姿は、しかしこちらを真っ直ぐに捕えている。

 桂が悩んだのは一瞬だった。

 

「ギャロップ、火炎放射!」

 

 果たしてそれはプライド故か。

 ボールに戻せば窮地を脱せられたろうに、桂はそれを選択しなかった。

 ……いや。

 

「はっ、そうされちゃあな!」

 

 そんな桂を前にして、俺が逃げる選択肢を選ぶはずがない、と。

 誘導しようとしたのかもしれない。

 だが、近接戦闘を得意とするカラが、この状況でギャロップから距離を明けるということは、例え勝利を掴めるとはいえ、決定的なものに敗北したことを意味しないか。

 そう少しでも考えてしまったのならば、その時点で桂の術中だ。

 

 俺は挑戦者(チャレンジャー)として、桂の術中へと飛び込む他なかった。

 しかしギャロップの火炎放射は地面をなめ回すように広がり始めている。

 だが二の足を踏めば、ギャロップを再び自由にしてしまう。

 落とし穴など、所詮は奇襲。効果のある内にこちらが動かなければ意味などなく。

 相手に攻め手を与えていては、奇襲の意味すらない。

 

 ――どうする?

 

 こちらが喉から手が出るほど欲しい〝隙〟は、ギャロップの後方より迫っている。

 しかしそれは、当たらない。

 地面に体が半分めり込んでいるギャロップの頭上を通り抜けるであろう。

 その時間、数秒もあるまい。

 

 だが逆に言えば、その時間はギャロップは動けない。

 桂とギャロップにとって、今は待つしか戦法が取れないはず。だからこそ、ああして火炎放射を固定砲台と化して放っている。

 カラに二の足を踏ませることによって、骨ブーメランを通過させ、その後に万全の状態で再び戦いに望む。

 そのためには、こちらが骨を手に取るその前に、穴から這い出さなければならない。

 

 ――果たしてそうだろうか?

 

 桂は何故、ギャロップを落とし穴に入らせたままにしている?

 

「そういうことか!」

 

 その可能性に思い至る。

 こちらの手の内は明かしていない。

 つまり、桂はカラに俺がどんな技を登録させたのか、まだ全て知っているわけじゃない。

 

 地震を使うか否か。

 使われれば一溜まりもない中で、桂はこちらに揺さぶりをかけてきている。

 桂に対して取れる方法は、ひとつしかない。

 

 突撃。

 地上から行くか地中から行くかは、その次だ。

 とはいえ、現状は地中からしか方法が無い。

 

「――嫌なジジイだ」

 

 手の平で躍らされている印象が拭えない。

 だが、その次に桂が打つ一手は何だ?

 こちらが地中に潜った先に何がある?

 

「ファアル、行くよ!」

 

 迷う俺を、カラが導く。

 

「ああ、頼む! 地面だ!」

 

「任せて!」

 

 選んだのは、地中。

 火の海に飛び込む愚行は犯せない。

 桂は当然、

 

「跳べぃ、ギャロップ!」

 

 こちらの先を行く――!

 

「はっ、やっぱり誘ってやがったか!」

 

 持ち前の脚力を利用して即座に抜け出し、空高く跳んだギャロップは、空中で反転。自らが埋まっていた場所を睨み付けている。

 地上、地中がだめなら、空中へ。

 なるほど、確かにそうだ。

 その手こそ、最善手。

 桂にとって、勝利をもぎ取るための一手である。

 

「カラ!」

 

 ぼこり、と地がうねる。

 

「ギャロップ、火炎放射!」

 

 吐き出された炎が殺到し、灼熱が地面をなめ回す。その範囲たるや、フィールドの三分の一を埋め尽くすほど。

 これならば、顔を出した瞬間にダメージを負うのは必須。

 まして熱せられた地中にいては、カラも限界が訪れる。

 

 だがそれは、こちらとて同じ。

 ギャロップが必ず隙を作る瞬間がある。

 飛行タイプでもないギャロップは、必ず着地時にワンテンポ必要になる。

 加えて、カラがあちこち掘り進んでいるわけで、またぞろ落とし穴にハマる可能性だってある。

 骨ブーメランはこちらに戻る軌道を描いている。

 

 こちらに到達するのが先か。

 カラが顔を出すのが先か。

 ギャロップが着地するのが先か。

 

「どうくる……!?」

 

 狙うはただ一点。

 俺は視線をギャロップへと集中させる。

 彼女が選んだ着地点は――。

 

「げほ、もう、無理……」

 

 だがそれより早く、カラが顔を出した。火炎放射はしのぎきったものの、限界にきていたようだ。

 むせながら現れたカラに、ギャロップが視線を鋭くさせる。

 そして――、ギャロップは岩の足場に着地を決めると同時、

 

「突進せよ!」

 

 その自慢の脚力を用いて、カラへ向かって真っ直ぐに跳んだ。

 それはさながら弾丸の如く。

 カラに向かって回避不能な速度で接近する。

 だが――!

 

「カラ、影分身!」

 

「わかった!」

 

 穴からすぐに抜け出したカラが動く。

 

 影分身。

〝高速で動くこと〟で分身を発生させる補助技だ。

 本来ならば、カラの動きはギャロップに到底敵わない。

 

 だが、この瞬間――ギャロップがこちらに向かって一直線に向かっている状態ならば。

〝影分身を発生させるためにカラが高速で動く〟という条件が重なれば――!

 

「カラ!」

 

「ぬるいわ、小僧!!」

 

 一括したのは桂。

 彼が指し示したのは、ギャロップ。

 否――その軌道だった。

 

「……!? 拙い、カラ!」

 

 ギャロップが目指していたのは、カラではなかった。

 その手前。

 空中で宙返りしたギャロップは、地面に着地したと同時、カラへと向かって砂埃を大量に舞い上がらせた。

 

「え、えっ!?」

 

 対するカラは、まだ影分身から動けない。

 

「突進!」

 

 ギャロップが急速に方向を変える。

 

 ――読まれた!?

 

 影分身は高速で動くことで発動する技だ。

 その動きは広範囲になればなるほど、相手を撹乱させることができる。そうしていくつもの影分身を生み出すことで、相手の目をくらませこちらを有利にさせる。

 

 だが、今回はそんな余裕がなかった。

 そのため、カラとその影分身はすぐ近く。直線距離にしかない。

 加えて、骨ブーメラン。それがないとカラはギャロップに大きく引けを取る。こちらとしては一刻も早く手中に収めたい代物。

 

 だからこそ、カラは無意識にも骨ブーメランがやってくるであろう軌道上にその体を投げ出していた。

 桂は、ここまで読んでいた。

 ギャロップは高速でカラに近付くと、両腕でカラの両腕を磔刑(たっけい)の如く持ち上げ、

 

「撃滅せよ……大文字!」

 

「にぎゃあああああ!!」

 

「カラ!」

 

 至近距離で、カラへと見舞った。

 命中も何もあったもんじゃない。

 カラの体力が一瞬で尽きる。

 

「ふっ、これで終わりじゃ」

 

 誇らしげに告げる桂の前で、

 

 ――ゴチン!

 

 と戻ってきた骨ブーメランがギャロップに命中する。

 

『カラ、ギャロップ、共に体力ゼロ!』

 

 審判が無情に告げる。

 俺達はしばらく無言で見つめ合った後、

 

「さ、仕切り直しだ」

 

「うむ、そうじゃな」

 

 カラとギャロップを互いのボールに戻した。

 とはいえ、残る戦力は少ない。

 シェルかサンダースかリゥか。

 

 桂の残る手持ちを考えると、この判断ミスが命取りになりかねない。

 だが逆に言ってしまえば――今この瞬間を乗り切れば、勝機は見える!

 

「征けぃ、ブーバー!」

 

 そして桂が選ぶのはブーバー。

 桂にとってみれば有利に立てる萌えもんなどいくらでもいるだろうに、敢えてブーバーをこの瞬間に出した。

 

「頼むぜ、シェル!」

 

「了解、ですわ!」

 

 即座に帰ってくるのは頼もしい言葉。

 だが、

 

「……まだ早いか」

 

 こちらが待ち望むタイミングには、まだ足りない。

 同時にその障壁は、今目の前にいる。

 

 ブーバー。

 こいつを倒すことで初めて、桂の切り札を引きずり出せる。

 だがその肉体は、万全であるかのように一切揺るがない。

 

「今度は先ほどのようにはいかんぞ、小僧!」

 

 ブーバーの周囲の地面が揺れ始める。

 

 ――いや、揺れているのは地面じゃない、岩だ。

 灼熱の岩が、ブーバーを取り巻くように浮遊し始めた。

 サイコキネシス……いや、その数はせいぜい一個くらいだが、

 

「厄介だなこりゃ」

 

 岩一個が大きい。おそらくグレン島の火成岩だろうが、攻めるのにも守るにも使える道具だ。

 思わず口から漏れた呟き。

 耳ざとく聞きつけた桂は、呵々大笑に頷く。

 

「然り! 小僧、仕掛けるのは何も、貴様や享の専売特許ではないわ」

 

 にたり、と笑う。

 

「はっ、良く言うぜ」

 

 あれだけの岩、直撃ならばシェルの敗北は必至。何よりも逃げ場が無い。

 よしんばシェルの防御なら耐えられるかもしれないが、桂のことだ。一発で終わりな訳がない。

 

 ――どうする?

 

 ちらりと後ろに顔を向ければ、頼もしそうな顔で頷くリゥ。

 リゥの技なら乗り切れる。

 エスパータイプのエキスパートでもある棗でも、操れる数はそう多くなかった。

 岩がこちらに向かって来ようと、一度経験しているリゥならある程度は捌けるだろう。

 

 だが……こちらの入れ替えの隙を待ってくれるほどお人好しでもあるまい。

 変えたが最後、致命的な一打を貰いかねない。

 

 警戒すべきは、二体。

 ウインディ。そして――リザードン。

 リゥを出し惜しみしなければ、奴らには勝てない。

 控えといえばもうひとりいるが、それは――

 

「ファアル殿、大丈夫ですか?」

 

 成り行きでメンバー登録したストライクのみ。虫タイプである彼女では、このバトルに勝ち目は初めから薄い。

 しかし、弱点である虫タイプであることを鑑みても、飛翔できるというのは、圧倒的なアドバンテージを持つ。

 だけど――

 

「大丈夫だ」

 

「しかし」

 

「何とかするさ。勝つためにここにいるんだからな」

 

 ストライクはあくまでも、人数合わせ。

 酷なようだが、彼女は俺の仲間じゃない。

 ストライクには主がいて、主を慕っている。

 だからこそ、俺が好意に甘えるわけにはいかなかった。

 それに――

 

「勝算ならある」

 

「まことですか!?」

 

 桂のサイコキネシスに打ち勝つには、こちらも点では無く面で制圧しなければいけない。

 シェルの持ち技でそれができるのは、ただひとつ。

 即ち――

 

「シェル、波乗り!」

 

「水などありはせんぞ、小僧!」

 

 目に見える範囲ではな……!

 

「は、どうかな?」

 

 指示を受けたシェルの周囲に水が集まっていく。

 その範囲たるや、会場を飲み込まんとする程になる。

 

「それほどの水がどこに――いや、そうか! 先ほどの!」

 

「だけじゃねぇさ! シェル、波乗り!」

 

「くっ、ブーバー! サイコキネシスを解けぃ! 火炎放射!」

 

 シェルの波乗りとブーバーの火炎放射が激突する。

 水と炎、相性で言えば打ち負けるはずの無い戦いだが、

 

「ファアル、水が蒸発してますの!」

 

 うちのコンでもできたんだ。

 桂の萌えもんにできないはずがない!

 だが、あの時と違うのは、こっちが氷タイプもあるってことだ!

 

「慌てるな! 冷凍ビームでなぎ払え!」

 

「りょ、りょうかいですわ!」

 

 波乗りから吹雪へ。

 ブーバーに今にも迫ろうとしていた大量の水は、瞬時にして個体へと変わる。

 加え、火炎放射によって蒸発した水蒸気は一気に冷却され水滴へと転じていく。

 

「まだだ、吹雪!」

 

 シェルの周囲に猛烈な吹雪が吹き荒れる。

 しかしブーバーは炎タイプ。効果などほとんどありはしない。

 

「遊んでいるのか、小僧! 構わんブーバー、その氷を溶かし尽くせ!」

 

 ブーバーの火炎放射が、凍った()()()を溶かしていく。

「わ、わわわ! ファアル、何だか良くありませんことよ!?」

 

 いや、これでいい。

「な、なんだあれ。雲なのか……?」

 

 会場の誰かが声を上げる。

 それに反応したのは、他の誰でも無い、桂だった。

 

「雲……? っ、そうか小僧!」

 

 シェルとブーバーの戦いによって、大気の状態は不安定な状態となっていた。 

 急速に冷やされた空気は、ブーバーと会場の設備によって暖められ、上昇気流を作る。

 上昇した水蒸気を含む空気――空気塊は、上空へ行くにつれて気体が凝結し、水滴となる。

 

 このジムは元々、空調設備が整っていた。それは上から冷気を吹き付けて、観客を守るために作用している。つまり、上空に行けば行くほど空調は冷えた空気を吐き出している。

 これだけの暑さだ。空調はさぞかし設定温度を下げていることだろう。

 

「だから吹雪を放ったのか。ふ、ふ、はははははははは!」

 

 冷やされた空気は、暖気によって上へ上へと押し上げられる。

 上空へ滞留した空気塊は、冷やされたことでその姿を変える。

 即ち――

 

「雨乞い! 貴様、技と登録せず、事象を起こしたか!」

 

「はっ、借り物だがな」

 

 毒をまけば接触したものは毒になり、ヘドロをまけば足場がなくなり動きが悪くなる。

 全て享から学んだことだ。

 

「戯け、借り物とて使いこなせば己の物になろうよ!」

 

 会場が暗がりへ包まれ始める。

 

「だが、炎を防いだところでな! ブーバー、サイコキネシス!」

 

「シェル、吹雪!」

 

 サイコキネシスの弱点は知っている。

 それは、見える範囲の物にしか効果が及ばないということ。

 そして、吹雪は視界を――塞ぐ!

 

「くっ、視界が!」

 

 ブーバーが悲鳴を上げる。

 だがまだシェルの姿はある。見えているはずだ。

 

「構わん、ぶつけるのだ!」

 

 ブーバーが操れたのは、一個の火成岩のみ。

 その大きさたるや、シェルよりもなお大きい。

 

「そいつを――待ってたぜ! シェル! ハイドロポンプを岩に当てろ!」

 

「承知ですわ!」

 

 劣悪な視界の中での攻撃は一辺倒になりやすい。

 ましてやブーバーは炎タイプ。エキスパートじゃない。

 必然、真っ正面から火成岩が向かってくる。

 その火成岩へ、シェルのハイドロポンプが炸裂する。

 

「押し勝ちますのおおおおお!」

 

 シェルの叫びと同時、関を切ったように雨が生じる。

 

「小癪な……! ブーバー、サイコキネシスを切るのだ!」

 

 ブーバーとて、不利な状況で押し合いをする理由も無い。

 桂がサイコキネシスを捨て、別の行動に出るのは当然の選択だ。

 

「しかし、何も見えません!」

 

 そう、ブーバーは動けない。

 視界不良に加え、足下が不安定なのだから当然だ。

 シェルが凍らせた波乗りは、ブーバーの火炎放射によって徐々に溶かされている。

 

 だが、吹雪によって急激に冷やされたことで、液体は再び固体へと変わる。

 そして、シェルは常にブーバーの視線を上へと向けていた。

 つまり――

 

「足下がお留守だってこった! シェル!」

 

「はいですの!」

 

「波乗り!」

 

 天からの雨に加え、膨大な量の水がブーバーへと押し寄せる。

 その波は溶けきれずに残っていた氷すらも飲み込み、ブーバーへと殺到した。

 

「四体目――」

 

「――撃破ですわ!」

 

 これで、残り二体。

 こちらは三体。

 有利なのは間違いないが、ただそれだけだ。油断すれば、あっという間にひっくり返される。

 しとしとと雨が降る中、桂はブーバーをボールへ戻す。

 

 ――何を出す?

 

 雨が降っていて、フィールドには氷・水タイプのシェル。

 こっちにはサンダースにリゥもいる。

 おまけにフィールドはガタガタだ。

 リザードンにしろウインディにしろ、どちらも出すにはデメリットが存在する状況。

 さあ、どう出る、桂。

 

「……ふむ」

 

 桂はちらりとこちらを――いや、シェルを見た。

 次いで視線を俺へと。

 思考は一瞬だった。

 

「行くのだ、ウインディ!」

 

 出てきたのはウインディ。

 神速で動いて相手を翻弄する炎タイプの萌えもんだった。

 やはり出したのはウインディだったか。

 だがそれならシェルの波乗りで封じられる。

 

「シェル、波乗り!」

 

「了解ですわ!」

 

 再び、シェルが波を起こす。

 しかし、

 

「遅いわ! ウインディ、吠えろ!」

 

 フィールドをウインディの咆哮が支配した。

 

「う、うるさいですわぁぁ!」

 

 たまらず耳を塞ぐシェル。

 

 ――吠える。

 

 萌えもんを強制的に怯えさせて戦意を消失させる技。

 コンが野性時代に頼っていた技はしかし、

 

「なっ……!」

 

 ウインディの神速を持ってすれば、強力な武器になりえた。

 耳を押さえていたシェルへ、ウインディは一瞬で距離を詰めるや否や、

 

「火炎放射!」

 

 シェルへ向かってゼロ距離で放った。

 

「あ、びゃああああああ!」

 

「シェル!」

 

 至近距離で火炎放射を浴びたシェルは、そのままノックダウン。

 これで、ストライクを除けば残り二体。リゥとサンダースだけだ。

 ウインディに素早さで勝負ができるのはサンダースのみ。しかしサンダースは既に一戦交えていて、ウインディの一撃を耐えられるほどじゃない。

 かといって、リゥではあの素早さに追いつけない。

 迷いは一瞬だった。

 

「頼む、リゥ!」

 

「諒解」

 

 リゥがフィールドに躍り出るや否や、桂は感心した様子で声を上げた。

 

「ほう、てっきりサンダースかと思ったが」

 

「サンダースを倒したいのが見え見えだからな」

 

 桂は否定しなかった。

 現状、桂が警戒しているのはサンダースだろう。

 ウインディと同じかそれ以上の素早さを持ち、飛行タイプを持つリザードンにも有効打があるとなれば、早々に落としておきたいはず。

 手持ちが二体となった今、その誘いに乗ってやるわけにはいかなかった。

 

 何としてでも流れをこちらへたぐり寄せる。

 そのために取れる選択肢は、リゥより他になかった。

 だがそれも――桂の戦略のひとつなのだろう。

 どちらにせよ、シェルを倒した時点で流れは桂へ変わっている。

 

「リゥ、竜巻を!」

 

「任せて!」

 

 ならこちらは、少しでもウインディの行動を阻害し、もう一度こちらへ勝利をたぐり寄せるだけだ!

 

「ふむ、ふむ。そうなるだろうなぁ!」

 

 リゥが生み出した竜巻は、都合4つ。

 これ以上の数は、リゥも厳しいようで、険しい表情を浮かべている。

 竜巻は散開し、ウインディへと迫る。

 

「お得意の手段では、わしらは止められんぞ! ウインディ!」

 

「火炎放射っだぁぁぁぁ!」

 

 中距離で止まったウインディから、火炎放射が放たれる。

 それを――

 

「リゥ!」

 

 身をよじって回避したリゥは、

 

「電磁波!」

 

「諒解!」

 

 待ってましたとばかりにウインディへ向けて電磁波を放つ。

 いくらウインディが素早くとも、電気が進む速度には敵わない。

 

「むっ」

 

 ――これで、楔をひとつ打てた。

 

 素早さが武器のウインディも、電磁波を食らえば元のようには動けまい。

 加えて……、

 

「リゥ、竜巻を!」

 

「ええ、わかってる!」

 

 ウインディへと竜巻が集合する。

 竜巻へと閉じ込めてしまえば、こっちのもんだ。

 桂の判断は一瞬だった。

 

「ウインディ、後退だ! 征けぃ、リザードン!」

 

 ウインディを手持ちへ戻すと、リザードンを繰り出す。

 飛行タイプをも持つリザードンは、その翼を優雅に羽ばたかせながらフィールドに降り立つや否や、

 

「地震じゃ、リザードン!」

 

「――っ、リゥ、跳べ!」

 

 リザードンが地震を繰り出すより一瞬前にリゥは飛び上がったものの、

 

「……ゲームオーバーよ、ハクリュウ!」

 

 リザードンが開いた口には、赤く燃えさかる炎が既に吹き出されるのを待っていた。

 

「くっ!」

 

 負けじと息を吸い込んだリゥだったが、その鼻筋に大きな水滴が落ちた。

 

「水……?」

 

 リザードンも感じたのか、動きを止めて上空を見上げる。

 そこには、先ほどと違い黒ずんだ大気の層が存在していた。

 

 ――ここしかない!

 

 桂とリザードンが動き出すより先に動く!

 

「リゥ、竜巻を!」

 

「っ、諒解!」

 

「むっ」

 

 リザードンが動き出すより僅かに早く、リゥの竜巻がリザードンを飲み込む。

 

「ぬあははは、こんなもんで私はどうにもならんぞ!」

 

 余裕をぶちかますリザードンをよそに、桂は俺をじっと見つめ、

 

「……小僧、キサマずっとこれを狙っておったか」

 

 俺の返事を待たず、フィールドに大粒の水滴がいくつも降り注ぎ、本格的な豪雨となるのに時間はかからなかった。

 

 ――雨乞い。

 

 炎タイプの攻撃を弱らせ、水タイプを活性化させるフィールド技。

 だが、シェルは覚えていなかった。

 だから、作らせてもらった。

 

 仲間たちが戦う中、一瞬でも雨雲ができる瞬間を。

 持てる戦力でリザードンを圧倒できるこの瞬間を。

 俺たちが唯一、炎タイプのエキスパートである桂に勝てる瞬間を!

 

「リゥ、下がれ!」

 

 そして、このタイミングで出せるやつはお前しかいない!

 

「サンダァァァァス!」

 

 展開したボールから飛び出した黄色い暴れん坊は、

 

「雷ぃっ!」

 

「おおっ!!」

 

「あんぎゃああああああああっ!」

 

 過たず、リザードンを飲み込む竜巻に雷を打ち付けた。

 逃げ場を失った電気はあちこちに飛び、フィールドを真っ白な空間へと染め上げる。

 轟音と共にリザードンの悲鳴が聞こえ、やがてフィールドに静寂が戻る。

 

「――五体目」

 

「撃破だああああ!」

 

 雨が降り注ぐ中、俺たちの言葉が轟く。

 満身創痍だが、まだ勝てる。

 勝ち目はある。

 

 そう思った瞬間だった。

 

「なっ――!?」

 

 リザードンを中心に爆発が起こった。

 

「な、何の光……!?」

 

 爆発の余波で発生した炎がサンダースを一瞬にして飲み込み、一瞬にしてフィールドを灼熱の地獄へと変えた。

 

「良うやった、小僧」

 

 果たして桂のその言葉は、心からの賞賛だったのか。

 

「ブラストバーン。炎タイプの大技よ」

 

 おそらく、雷と発動が同時だった。

 

「乗せられたのは俺か」

 

 桂にしてみれば、サンダースはウインディにとって唯一先手を取られかねない相手。電磁波を食らっていたならなおさらだ。

 そのために、リザードンというサンダースにとって相性の良い相手を出し、その上で倒す。リザードンが勝てば良し、相殺なら行幸。敗北したとしてもサンダースをウインディで仕留められる状態に持って行ける。

 どう転んでも、自分が有利になれる戦法。

 

「さてな。わしは驚いておるのだぞ、これでもな」

 

 桂はフィールドへ最後の萌えもん――ウインディを展開し、告げる。

 

「小僧、儂らが何故、ジムリーダーと呼ばれるか知っておるか?」

 

 気のせいだろうか。

 ウインディの周囲が陽炎のように揺れ始めている。

 

「ジムリーダーとは、己の"道"を極めたもとに与えられる称号」

 

 その気迫に、俺の後ろにいたストライクが項垂れる。

 

「それでは……あまりにも……」

 

 その声はか細く、俺とリゥの耳にしか届かなかっただろう。

 

「ジムリーダーとは、トレーナーの見本であり、常に背中を見せる者」

 

 桂が、真っ直ぐに俺を見る。

 

「そのジムリーダーが! この程度の雨で! 力を出し切れぬと思ったかぁ!」

 

 ウインディの周囲で水蒸気が発生していく。

 おいおい、マジかよ。

 

「はは、めちゃくちゃじゃねぇか」

 

 呆れて何も言えない。

 どこの世界に、気合いで自分の周囲の水を蒸発させる萌えもんがいるんだ。

 とんでもねぇ化け物だ。

 

 これが、桂。

 これが、グレンタウンジムリーダー。

 これが、炎タイプのトレーナーが憧れる、頂点にいる男の姿。

 

 ――ったく、

 

「勝てる気がしねぇな」

 

「ふぁ、ファアル殿……?」

 

 だけど、

 

「面白ぇじゃねぇか!」

 

 そんなあんたに勝ってこそ、意味があるってもんだ。

 

「頼むぜ、リゥ!」

 

「あんたはいつだってギリギリすぎるのよ!」

 

 文句を言いつつ、リゥが前線へと躍り出る。

 後はもう……リゥしかいない。

 

「……ファアル殿、あちしは」

 

 ストライクへ視線を向けるが、虫タイプで炎タイプは相性が悪すぎる。

 これまで何度も相性が悪い戦いを制してきたが、今度ばかりは別だ。

 何一つとして勝つための布石を敷いていない。

 

 というよりも、桂のウインディが規格外すぎる。

 他の萌えもんなら何とかなったかもしれないが、ウインディは違う。

 

「万が一お前を出すようなことになったら、大人しく負けを認めるさ」

 

 ストライクはただの旅の道連れだ。俺のわがままに付き合わせるわけにはいかない。

 それに――

 

「まだ負けたわけじゃねぇ。勝てる勝ち筋が一本でもありゃ、十分だ。無かったとしても、作りゃいい」

 

「――っ」

 

 ストライクは何やら驚いたように目を見張っていた。

 

「で、どうすんの?」

 

 眼前のウインディから視線を外さずにリゥが言う。

 リゥが登録している技で、現在頼れるのは、龍の息吹と叩きつけるのみ。竜巻はウインディの動きを阻害できるが、発動に難がある。あの神速を超えられるかと考えると、まず無理だ。

 

「ウインディ!」

 

 桂が指示を飛ばす。

 火炎放射、神速――桂が見せた手札はこれだけ。

 しかし、ウインディは陸上の萌えもんだ。リザードンみたいに空を飛ばないのなら、付け入る隙はある。

 

「神速じゃあ!」

 

「あいよ!」

 

 ウインディの姿が消える。

 先ほど食らったであろう電磁波の影響を受けてなお、その素早さは健在だ。

 

「リゥ、龍の息吹! なぎ払え!」

 

「諒解っ!」

 

 リゥが大きく息を吸い込み、黒炎で前方をなぎ払う。

 ウインディに直撃するとは思っていない。だが、これで奴の選択肢を少しでも狭められる。

 

 問題は次の手。

 龍の息吹は一瞬だ。

 神速で直進していたのなら直撃を回避するために回り込んでいるだろうし、お構いなしならそのまま向かってくる。

 

 どっちだ?

 黒炎が消える中、その瞬間を見極めようとする俺の視界に飛び込んできたのは――

 

「五体、だと……?」

 

 正面一体。

 左右四体。

 都合五体のウインディがそこにいた。

 これは――

 

「影分身か!」

 

 素早い動きで分身を作り、相手を欺く技、影分身。

 ウインディの素早さも相まって、同時に動くそれらは見分けがつかない。

 だが、五体に増えたわけじゃない。

 四体は分身に過ぎない。

 

 電磁波を使うか? いや、偽物ならすり抜けるだろうが、次の瞬間には本物になっているかもしれない。

 大人しくこちらの手に引っかかってくれるわけもない。

 逆に相打ちさえ狙えれば、ストライクがいるこちらの勝利だ。

 

 だがそれでは、勝ちにはならない。結果だけ勝っただけだ。そんなのは認められない。

 なら、竜巻でリゥの前に壁を作れば……!

 

「リゥ、竜巻を正面に!」

 

「諒解!」

 

 まだ正気が見える!

 

「甘いと言ったぞ! 日本晴れ!」

 

 刹那、ウインディの背後で雨雲が晴れ、強い日差しが照りつける。

 リゥにとっては完全に逆光だ。

 

 ――まずい!

 

 あれじゃリゥは目潰しされたも同然だ。

 

「捕まえたぞ、小僧! ウインディ!」

 

「くっ」

 

 リゥが条件反射で身構えるも、ウインディの方が速い。

 

「火炎放射ァっ!」

 

「あああぁぁぁぁっ!」

 

「リゥ!」

 

 ウインディの火炎放射を至近距離で浴びたリゥは、悲鳴と共にフィールドへと倒れる。

 リゥが敗北した。

 俺は動かないリゥをボールへ戻す。

 残るは――

 

「いや」

 

 終わった。

 桂との戦いは、もう勝てる道筋が見えない。

 何より戦える仲間がもういない。

 

「どうした、小僧。まだいるだろう?」

 

 わかってる。

 わかってるが……それは。

 

 

『主様……』

 

 

 主を想い、涙を流すストライクの姿が思い浮かぶ。

 そんなストライクを戦わせるのか……?

 俺は――

 

「もう、大丈夫です。あちしは――ファアル殿の味方ですから」

 

 一陣の風が吹いた。

 言葉と共に、さっきまで後ろにいたはずの萌えもんが、フィールドに立っていた。

 

「ストライク、だけど」

 

「――ハヤテ」

 

 ストライクは淡い笑みを浮かべ振り返り、

 

「ハヤテ、と読んでください。それが、主様があちしにくれた名前なので」

 

 ストライク――いや、ハヤテは眼前へ視線を向けると、

 

「ファアル殿。あちしは技を4つしか覚えておりません」

 

 言われ、登録時に言われた技名を思い出す。

 居合い斬り、燕返し、連続斬り、劔の舞。

 何とも攻撃的な技だと思ったが、そういうことだったのか。

 

「ですので」

 

「話している暇があるか! 火炎放射!」

 

 ウインディの火炎放射へ向かって、ハヤテは右腕を静かに逆袈裟に斬り上げた。

 

「なっ――!?」

 

 その声は、果たして誰のものだったか。

 

「あちしには、これくらいしか出来ません。主様と研鑽しか行っていなかったので、この程度なのです」

 

 火炎放射を容易く斬り割いておいて、そんなことを平然と言ってのけていた。

 

「はは……いや、十分だ!」

 

 ハヤテの主は相当な変わり者だったらしい。

 いや、武芸者だったそうだから、技を極める道を選んだのか。

 俺たち萌えもんトレーナーなら、満遍なく技を覚えさせてあらゆる状況に対応するが、その逆を行っている。

 ハヤテのトレーナーは、あらゆる状況をたった4つの技で対応してみせようとしたのだ。

 

「ハヤテ、ウインディの動きについていけるか!?」

 

「問題ありません!」

 

 言うや否や、ハヤテがウインディへと一瞬で距離を詰めた。

 なんつー速さだ。

 

「ウインディ、神速!」

 

 しかし桂とウインディは歴戦の猛者だ。当然のようにその動きへ対応してみせる。

 神速を使って後ろへ跳んだウインディは、お返しとばかりに火炎放射を放つ。

 が、

 

「無駄です」

 

 ストライクへ直撃する前に切り伏せられる。

 

「小僧、何という隠し球を持っておる!」

 

 俺だって今知ったんだよ!

 そう言いたいのをぐっとこらえる。

 ストライクの身体能力がずば抜けているのはわかったが、このままじゃお互い決め手に欠ける。

 

 後一手――それさえあれば勝てる。ハヤテにはそれだけの強さがある。

 ウインディの神速を超えて、ハヤテがしとめられる何かさえあれば……!

 

「なぜ、何故当たらん!」

 

 ハヤテは、ウインディが繰り出す神速を、紙一重で避けている。

 まるで踊るように――舞うように。

 

 ――剣の舞。

 

 それは、戦いの踊りを踊って、気合いを高めて一撃の威力を高めるという技。

 近距離しか攻撃手段を持たないハヤテにはこれ以上無いほどマッチした技だ。

 

「火炎放射!」

 

「無駄と言いました」

 

 ハヤテは難なく火炎放射を斬り割くも、その顔には僅かながら疲労が見える。そうそう何度もできる芸当じゃないんだろう。途方も無い集中力でできる曲芸みたいなものだ。

 ウインディとて体力が無限にあるわけでもあるまい。

 だがウインディは蒸しタイプのハヤテにとって特攻――座して待てばじり貧だ……しかし、

 

「――見えた」

 

 思いついたのは、極めてシンプルな方法だ。

 ウインディの姿を何度も観察して確定に至った、たった一本の線。

 だが、ハヤテなら――その速さなら、先手を取れる。

 

「ハヤテ!」

 

 一瞬こちらへ視線を向けたハヤテへ、わかるようにジェスチャーを示す。

 得心がいったハヤテは小さく頷くと同時、

 

「ウインディ、最大火力で燃やしつくせ! 火炎放射!」

 

 桂の指示が下ると同時、チロリとウインディの口に炎の花が咲く。

 どれだけ神速で移動し続けていたとしても。

 どれだけ日本晴れで炎タイプの技の威力が上がっていたとしても。

 

 ――見えていれば、

 

「止まっているのと同じです!」

 

 叫びと共に、ストライクが右足を踏み込む。

 狙うは眼前。

 どんな高威力な技であろうと、必ず隙は存在する。

 ウインディの動きを何度も見ていてわかった。

 

 ウインディは、火炎放射を放つ瞬間、必ず動きを止める。

 なら、その刹那こそ。

 

 決定的な隙となる!

 

「燕」

 

 瞬時にして距離を詰めたハヤテの左の鎌が逆袈裟に振り上げられ、

 

「返し――!」

 

 のけぞったウインディめがけて更に踏み込まれた左足。振り抜いたはずの左腕は刹那の内に向きを変え、今度は振り下ろされた。

 

「ま、だぁっ!」

 

 だがまだウインディは倒れない。

 せめて道連れと言わんばかりに火炎放射を吐き出そうとしたウインディに告げられたのは、

 

「遅すぎます」

 

 大上段で振り下ろされたハヤテの右腕だった。

 

「――居合い切り」

 

 静寂がフィールドを包み込む。

 程なくして、ドサリと倒れたのは――ウインディ。

 ハヤテは――立っていた。

 

 俺たちの勝利だ。

 

「六体目――」

 

「――撃破です」

 

 俺とハヤテの声が、フィールドに木霊した。

 

 

   ■■■■

 

 

「まさか、ストライクがあれほど強いとわなぁ。儂もまだ見る目がたらん」

 

 ジム線が終わり、桂はどこから晴れやかな表情で、口ひげを撫でた。

 

「いや、俺も正直ビックリしてる」

 

「なんじゃ、小僧。お前の萌えもんだろうに」

 

「いや……」

 

 居心地悪そうな様子でリゥたちに囲まれているハヤテを見る。

 

「大切な預かりもんでな。きっと今頃、遠くで見て喜んでるんじゃねぇかな」

 

「ふむ」

 

 きっとハヤテの中でも何かが変わったのだろう。

 ハヤテが主と呼んでいたトレーナー。

 不器用で、技を研鑽することしか頭になかったであろう武芸者。

 

 たぶん、そいつも――ハヤテには笑って生きていて欲しかっただろうから。

 チャンピオンを目指す俺みたいな奴に自慢の相棒が拾われたことを、せいぜい恨んでおいてくれ。

 

「受け取れ、小僧。儂に勝った証、クリムゾンバッジじゃ」

 

 桂からバッジを受け取る。

 燃えさかる炎を模した、まさしく桂に相応しいバッジだ。

 

「それを持っておれば、萌えもんの特殊能力が上がる。まぁ、あのストライクには不要じゃろうがの」

 

「確かに」

 

 うちなら誰に身につけさせようか。

 そんなことを考えていると、

 

「トキワジムのジムリーダーが帰ってきたと聞いた」

 

「……ああ」

 

 トキワジム。

 一年を通して閉鎖されているジムだが、唯一、萌えもんリーグが近付いた時だけ開くジムだ。

 

 そのジムを治めるリーダーは――榊さん。

 ロケット団の長で、リゥを攫い、シルフカンパニーを占領した男。

 そして、親父の親友であり、俺にとってはもうひとりの親父のような人。

 

「お主なら勝てるじゃろ。リーグ戦を楽しみにしておるぞ」

 

 ニカっ、と桂が豪快に笑った。

 ったく、この爺さんは……。

 

「任せろ。期待しくれていいぜ」

 

「かかっ、言いよるわ!」

 

 桂に背を向け、リゥたちの元へ向かいながら、思う。

 トキワシティジムリーダーの榊。

 地面タイプを使う、カントー地方でも最強クラスのトレーナー。

 

 そして、親父と共に研鑽を積んだ男。

 俺は榊さんを――超えられるのだろうかと。

 

「ファアル、ねぇちょっと私より強いのに弟子入りされたんだけど!?」

 

「あ、あああああ。それはですねリゥ殿ぉ」

 

 こいつらとなら何とかなるかもしれない。

 ふくれっ面の相棒を宥めながら、俺は一路、マサラタウンを目指すのだった。

 




ストライクは、登場させた時から「クッソピーキーなキャラにする」と決めていたので、こんな感じで落ち着きました。

6年越しの更新、楽しんでいただけたのなら、これに勝る喜びはありません。


ではまた次回、お会いできることを願って。

おそらく9月末~10月頭には投稿できると思います。

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