もう10月も半ば。1年と言うものは過ぎるのも早い。
ついこの前まで夏休みだったと思えば、桜藤祭が終わり、あっという間に冬の到来だ。
秋とは一体なんだったのか。かがみにとっては食欲の、あきにとってはスポーツの、もやしにとっては読書の秋なのだろうが、俺には今年もまるで分からないままだ。
「もうすぐハロウィンだねー」
四季の1つを憂う俺に、隣を歩くつかさが話しかける。あぁ、このほわほわとした声がいつでも聴けるのなら、四季なんてどうでもいいかもしれんな。
そして、つかさの視線の先にはカボチャやコウモリ等でおどろおどろしく飾った街並みが広がっていた。
……ハロウィン?
「何だそれ」
「え?」
今まで十数年生きて来た中で、ハロウィンなんて言葉を聞いたことがない俺は首を傾げてしまった。
何だ、お化け屋敷みたいな奴か?
ってか、カボチャって皮は緑じゃなかったか?
「はやと君、知らないの?」
全く何が何やら分からない俺に、つかさは驚いていた。
何だよ、新聞もテレビもない生活の俺が最近出来た祝い事なんか知る訳ないだろ。
「知らん」
「そ、そっかー。ふーん、しょうがないなぁ。じゃあ私が教えてあげるね!」
俺が首を横に振ると、つかさはまるで勝ち誇ったような風に言ってきた。きっと俺の知らないことを知っていたことが余程嬉しかったらしい。
これがかがみなら嫌味にしか聞こえないが、相手はつかさだ。偉そうな態度も逆に可愛らしい。
自慢げなつかさと共に柊家に立ち寄った俺は、改めてハロウィンについて教えて貰うことになった。
ハロウィンとは外国の祭で、最近日本でも流行り出したものらしい。カボチャを提灯にして飾ったり、お化けの仮装をしたりして楽しむらしい。
仮装をした子供達は家を練り歩き、「トリックオアトリート」と言ってはお菓子を貰っているようで、ハロウィンのイベントにはお菓子が欠かせないようだ。
「……なるほど」
ここまでしか分からなかったのは、つかさの説明が下手だったからである。
しかし、俺相手に胸を張るつかさも珍しく、分からんと正直に言っては落ち込ませてしまうので、とりあえず頷いておいた。
詳しいことは今度こっそりとやなぎ辺りに聞いておこう。
「で、柊家でもハロウィンはやるのか?」
「うん。近所の子供が集まって来るから、ハロウィンに因んだお菓子を作ってあげてるの」
ほぅ、近所のガキ共はつかさの手作りお菓子を無償で貰っていると。
よし、ならば俺がガキ共を脅かしてお菓子を強奪してやろうじゃないか。決して羨ましいからではないぞ。
「あ、今年ははやと君の分も作ってあげるね!」
仕方ない、ガキ共から強奪するのは辞めだ。
内心、幽霊ではなく天使のようなつかさを崇めながら、俺はハロウィンの日を心待ちにするのであった。
☆★☆
そして、10月31日。
「……で、何でお前等もいるんだ?」
「堅いこと言うなよ~」
「そうそう、ハロウィンなんだし」
若干不機嫌な俺の横では、あきとこなたが馴れ馴れしく話していた。
そう、学校でつかさが余計なことを喋ってしまった為に、今日は泉家でハロウィンパーティーをすることになってしまったのだ。
つかさはちゃんとお菓子を作ってくれたようだし、夕食も女子メンバーでご馳走してくれるというので、まぁ不満はないのだが。
「それに、ウチならハロウィン用の仮装も用意出来るしね!」
「ハロウィン用……?」
どう考えても、アニメキャラのコスプレしかなさそうだが。
因みに、こなた達は既に着替え終わっている。
こなたは桜藤祭でも見た、魔女っぽい衣装。というか帽子とマント。
あきは上下黒いタイツの上に、腕だけの部分の赤いジャケットと同じ色の布を腰に巻いている。「アーチャー」とかいうキャラの衣装らしい。
「楽しめよ。固有結界使っちまうぞ?」
「手に持った剣、顔にぶっ刺してやろうか?」
あきは両手に色の違う剣を持って俺を挑発してきた。コスプレに何処まで徹底するのか、コイツは。
「こなた! 何なのよこの衣装!」
「ちょっと、お恥ずかしいですね」
そんなこんなで、俺たち以外でまず広間に入って来たのはかがみとみゆきだった。
かがみは髪の色を緑に変え、ノースリーブのジャケットにミニスカート、何故かネギを持ってこなたに文句を言っていた。
対するみゆきは、青い軍服のような感じで、ズボンは太股の部分が肉抜きになっていて黒いスパッツが左右から丸見えの状態だった。
2人共中々の露出度だ。これ、外歩いたら寒そうだな。
「かがみっくはやっぱり似合ってるね」
「みゆきさんのシェリルも中々。胸のボリュームなんて最高じゃね?」
批判も気にしないオタク達のトークに、俺達は諦めの溜息を吐いた。
更に犠牲者は増える一方だった。次に出て来たのはやなぎとみちるだ。
「この仮面はいらないんじゃないか?」
やなぎの格好はデカい黒マントの下に上下とも紫色のタイトな服装。更に変な仮面まで持たせていた。
これ、仮面を被ったら間違いなく不審者である。
「僕のは、ちょっと……」
しかし、今までのはみちると比べればささいなものであった。
みちるは亜麻色のツインテールのかつらを被せられ、白いロングスカートのワンピースを着せられていた。胸には赤いリボンを付けており、やたらとヒラヒラしているのが目立つ。手には金色の杖を持ち、杖の先には赤い玉が収まっている。
これ、完全に女子用の衣装だ。ってか、魔法少女って奴か?
「やなぎんはゼロの格好似合うな」
「みちる君いいよ~。「全力全開!」って言ってみて」
この場にいる全員が、この2人の玩具扱いになっていた。
あぁ、うん。泉家に来た時点でこうなることは分かってたよ。
ついでに、俺は衣装チェンジを全力で拒否した。何で俺の衣装が緑色のタンクトップに短パンなんだか。
「お待たせ~」
んで、つかさはというと、全く変わりのない制服姿だった。
若干陵桜のとはカラーリングが違うが、殆どが変わらず、頭のリボンすら変化がなかった。
えっと……どういうコスプレだ?
「やはりつかさは神岸しか有り得んでしょ」
「東鳩か。やはりな」
やはりな、じゃねぇよ。
これもアニメキャラの衣装らしい。まぁ、普段と大差ないし普段から天使のように可愛いから問題ないけど。
着替えを終えた俺達は、お待ちかねのつかさのカボチャパイを頂くことになった。うむ、甘さ控えめで美味い。
「あ、そういやつかさ」
「何?」
パイを味わっていると、俺はふと頭に過ぎったことが気になった。
ハロウィンのことだし折角だからつかさに聞いてみよう。
「トリックオアトリートってどういう意味だ?」
「えっと、「お菓子か悪戯か」だよ」
ハロウィンの日、ガキ共がお菓子を貰う時に言う台詞だ。
なるほど、それでお化けの仮装をするのか。随分セコイ手だな。
が、俺はそこで一つ悪戯を思い付いた。
「つかさ。トリックアンドトリート」
「え?」
俺は台詞を吐くと、つかさを抱き寄せた。
突然のことでつかさは顔を真っ赤にするが、すかさず俺は耳元で意図を教えてやった。
「けどパイを貰っちまったし、俺に悪戯されるしかないよなぁ。それとも、つかさが俺の甘いお菓子になるか」
「はぅ……!」
トリックアンドトリート。つまり、お菓子も悪戯もだ。ぶっちゃけ、つかさに悪戯したくなっただけだが、いい口実が出来た。
このまま甘い甘い時間を過ごすと
「させないわよ?」
しようとしたら、何処かから湧いて出た鬼に首根っこを掴まれた。
あぁ、またかがみ達の存在を忘れてた。彼女に夢中になり過ぎるのも考え物だな。
「いい加減にしろ!」
鬼にネギで殴られ、悪戯どころじゃない仕打ちを受けた俺のハロウィンだった。
どうも、銀です。
第EX2話、ご覧頂きありがとうございました。
今回も番外編、ハロウィン回でした。
ハロウィンが近いので書きました(笑)。
時期的には第23話と第24話の間くらいです。
特に内容のないネタでしたが、軽い気持ちで書いたものですのであまり気にせず読んで頂けると幸いです。まぁ、(どの面下げて)帰ってきたはやと、ハロウィン編ということで。
ではまた。