すた☆だす   作:雲色の銀

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第7話「連絡つかない」

 さーて、夏休みも始まったことだし!

 俺、天城あき様は冷房の利いた部屋でゴロゴロ過ごすぜぃ!

 

「まずはっ! 溜まっていたゲームを全てクリアするのだ!」

 

 お菓子、飲み物の貯蓄は万全。

 アッキー、これより任務に入ります!

 

「ギャルゲー祭・夏の陣じゃーっ!!」

〔いーじゃん! いーじゃん! スゲーじゃん?!〕

 

 勢い良くPCの電源を入れると同時に、携帯の着信音が空気を打ち壊すかのように鳴り響いた。

 

「……ったく、よくねぇよ! 誰だ?」

 

 空気をぶち壊され、憤慨しながら画面を見ると、そこには親友の名前が出ていた。

 

「みっちーじゃん? 珍しいなー」

 

 みっちー、檜山みちるからだった。みちるから電話がかかってくるなんて滅多にないことだ。

 人畜無害な親友の顔を思い浮かべると怒りも治まり、俺は電話に出た。

 

〔もしもし、あき?〕

「みっちー、どうしたん?」

〔実は、今度家の別荘に行くことになったんだ〕

 

 みちるは「檜山グループ」っていう大きな財閥の御曹司だ。別荘の一つぐらいは持ってるだろう。

 これがやなぎだったら今から殴りに行く所だけど、みちるが自慢するような奴じゃないのは知っている。

 

〔それで、皆も一緒にどうかなって。あきは行く?〕

 

 ほら。

 青い海。美少女4人とその他と過ごす、夏のひと時。

 

「行きます! 行かせて貰います!」

〔本当!? じゃあ皆にも連絡してくれるかな? 僕はみゆきを誘って来るから〕

「りょーかい!」

〔あ、それと海が近いから水着も持って来てね〕

「オッケー! じゃな!」

 

 ギャルゲー祭・夏の陣は別荘から帰って来てからにしよう。

 むっふっふー! 皆に連絡だー!

 

「えーと、まずははやと、と」

 

 みっちーは坊っちゃまだから別荘はでかいんだろうなー!

 ……あれ? すぐ出ると思ったが、中々出ない。

 

〔お掛けになった電話は、電波の……〕

 

 何だよ! 出ないじゃん! はやとの奴、もしかして充電忘れてるのか?

 その後、何度掛けても結果は同じだった。

 

 

☆★☆

 

 

 はぅー、今年の夏も暑いなー。

 私、柊つかさは今、スーパーにお買い物へ行くところだった。

 クーラーの利いた部屋から一歩も出たくなかったけど、お買い物に行かなくちゃ。

 

「あちっ!?」

 

 日向に出ていたから、サドルが熱くなっちゃってる。帰ったら日陰に置こう。

 自転車を扱いでいると風が気持ち良かったりするんだけど、やっぱり暑い。

 やっとスーパーに着いて、自転車を自転車置場に停めに行く。

 

「あれ? はやと君?」

 

 すると、意外にもはやと君に会った。

 

「はやと君もお買い物?」

 

 はやと君は……歩き?

 すごいなぁ。私ならすぐにバテちゃうよ。

 

「よぉ。俺はもう終わった所だ」

「私はこれから~」

 

 あれ? 何だか、いつものはやと君と違うみたい。

 

「はやと君、大丈夫? 顔色悪いよ?」

「そうか?」

 

 少し気分悪そうだけど、はやと君は何ともない素振りを見せた。

 

「水分補給ちゃんとしてる?」

「まぁな。平気だろ」

「んー、それならいいけど……」

 

 本当に大丈夫かな? 足取りもフラついてるみたいだし。

 

「じゃーな」

「うん、またね」

 

 はやと君と別れた後、スーパーの中で必要な物を買い物籠に入れていく。

 それにしてもはやと君、やっぱり具合悪そうだったなぁ。

 すると、電話が鳴り出した。えっと……買ってもらったばっかだから、携帯電話の扱いはまだ慣れないや。

 

「もしもし?」

〔やほ~〕

 

 電話の相手はこなちゃんだった。

 

「こなちゃん、どうしたの?」

〔今度皆でみちる君の別荘行くことになったんだけど、つかさも行く?〕

 

 別荘かぁ。いいなぁ~。

 

「うんっ! 行く行く~!」

〔おk。因みに、海近いらしいから水着持参ね〕

「分かった~」

 

 へぇ~、海近いんだ。ますます羨ましいよ~。

 

〔ところでつかさ、はやと君ン家知らない?〕

「えっ? 知らないけど何で?」

〔いやさー、携帯繋がんなくて連絡つかないんだよー〕

 

 ええっ!? でも、さっき会ったから……また忘れてるのかな?

 

「はやと君見かけたら伝えといてねー」

「う、うん……」

 

 はぅー、もっと早く言ってよー。

 

 

☆★☆

 

 

「暑い……」

 

 まぁ、夏だからな。

 前回の夏祭りからやることのない俺は、毎日をだらだらと過ごしている。

 何か忘れている気もするが、正直どうでもいい。今はこの暑さを何とかしよう。

 もし翼があったら、涼めたかもなぁ。

 

「冷凍庫の中にアイスが」

 

 ……ない。ってか中身がない。

 

「仕方ない、冷蔵庫に冷えたジュースが」

 

 ……やはり何もない。ここまで何一つないと却って清々する。まるで新品みたいだ。

 

「……ははは」

 

 って笑っていらんねぇ。このクソ暑い中、買い物に行かねばならんとは。

 はぁ……もし翼があったら、簡単に買い物に行けただろうに。

 

「自業自得、か」

 

 確かスーパーのチラシが来てたはず。金は何とかあるから、1週間分は買い溜めしておこう。

 俺は立ち上がり、外に出る為に着替え出した。

 

「おっと……」

 

 足がフラつく。何か体もだるい……。この暑さの所為だな。

 部屋の中であの暑さだ。外に出ればもっと暑いことぐらい分かっていた。

 

「だが、暑すぎだろ……」

 

 家から出て10分ちょいでもうバテていた。いかん、このままでは第2のもやしになってしまう。

 気力を振り絞り、何とかスーパーまで辿り着いた。

 

「涼しい~……」

 

 冷房の涼しさが、暑さに耐えぬいた戦士の体を癒してくれるようだ。

 さて、少しは元気になった所で、買い物開始だ。

 

 

 

 レジ打ちを済ませ、荷物を袋に入れる。

 思わずいっぱい買ってしまったが、これで食料に困ることはない。

 暫く外には出たくないし、夏は備蓄するに限るな。

 

「ふぅ……」

 

 荷物を詰め終わり、ビニール袋を持ち上げた。が、その拍子に足がフラつく。

 そんなに荷物重かったか? やっぱ買いすぎたな。

 自動ドアが開き、外の熱気が体を打つ。うわぁ、またこの中を歩かなければならんのか。

 

「あれ? はやと君?」

 

 ふと、自転車置場から俺を呼ぶ声がした。

 

「はやと君もお買い物?」

 

 声の主はつかさだった。自転車か……いいよなぁ。

 

「よぉ。俺はもう終わった所だ」

「私はこれから~」

 

 見りゃ分かるよ。お前もこの暑い中ご苦労なことだ。

 

「はやと君、大丈夫? 顔色悪いよ?」

「そうか?」

 

 確かに少しダルいが、暑さの所為じゃなくてか?

 

「水分補給ちゃんとしてる?」

「まぁな。平気だろ」

「んー、それならいいけど……」

 

 心配してくれるのは素直に嬉しいけどな。

 

「じゃーな」

「うん、またね」

 

 つかさと別れ、再び熱気の中を歩き出した。

 

 何故か行きよりも帰りの方が長く感じる。たったこれだけで疲れたのか、俺?

 

「買い物帰りか?」

 

 早く帰ろうとすると、アパートの前で海崎さんとバッタリ会った。

 

「そうです」

「ちゅーか歩きか。自転車は?」

「ありませんよ。金ないから」

 

 いつか欲しいとは思うけど。その為に貯金もしてるしな。

 

「ふーん、じゃあな」

「はい」

「アイスご馳走さん」

 

 ……えっ!?

 気付くと、アイスバーが1本なくなっていた。俺の大切な備蓄が……。

 

「何時の間に!?」

 

 あのクソ大家……! いつかシバいてやる。

 

「ただいま」

 

 とりあえず家に入り、中身を冷蔵庫や冷凍庫にぶち込んだ。これで任務完了だ。

 

「さて、麦茶でも飲むか」

 

 早速、買って来た麦茶に手を伸ばした。

 しかし、突然視界が歪む。

 

「へ……?」

 

 次に頭がぼうってなり、何も考えられない。

 何が起こったか分からないまま、グラリと体が倒れる。

 そして、そのまま気を失った。

 

 

 

 薄暗い。

 何処だここは……?

 

「……う夫よ、はやと」

 

 誰だ、俺の名前を呼ぶ奴は?

 

「……ってたんだよ! アンタは!」

 

「言いわ……て聞きた……ない!」

 

 何なんだ、ここは? 壊れたテープのように、叫び声が飛び飛びで響く。

 やめろ! 頭に響く声をやめろ!

 

「俺は……く。ア……んかもう……もない」

 

 やがて、テレビの砂嵐のような音が聞こえて来た。

 突然、誰かの映像が頭の中に流れる。緑色の長い髪の女性がベッドに腰掛けている。

 

「奇跡が起これば」

 

 ……っ!!

 聞き覚えのある声で、俺の一番嫌いな言葉を口にする。

 

「奇跡が」

 

 やめろ! そんなまやかしの言葉繰り返すな!

 

「奇跡」

「きせき」

「キセキ」

 

 やめてくれ……やめろぉぉぉぉっ!!

 

 

 

「ん……?」

 

 ゆっくりと、目が覚めた。ここは……布団の上?

 確か、俺は急にフラついて……気を失ったはずだよな? 誰が布団なんか敷いたんだ?

 それに台所から聞こえる、グツグツという音……何かを煮てるのか?

 俺は体を起こし、周りを見た。ここは、俺の部屋であることは間違いなさそうだ。

 だが、布団を敷いた覚えはないし、額の上に濡れタオルを乗せた記憶もなかった。

 何より頭が上手く働かない。まだボーっとする。

 

「あ、起きた?」

 

 台所から声がした。誰だか分からんが、適当に返事しておくか。

 

「おう……」

「待ってて。今お粥持って行くからね」

 

 お粥……? ああ、あの音は粥を作ってたのか。

 トタトタと足音がした。やっと声の主が見れる。

 

「はやと君、調子はどう?」

「つかさ……つかさっ!?」

「ひゃう!?」

 

 漸く、頭が働き出した。

 俺がいきなり大声出したからつかさはビックリしたようだ。

 ……じゃなくて!

 

「何でつかさがここに!?」

「えっと……話が長くなるけどいい?」

「ああ」

 

 頭が痛いとか、今はどうでもよかった。

 つかさが何で家にいるのか、そもそもどうやって入ってきたのか。

 重要な話を聞く方が先決だ。

 

「さっき別れた後、こなちゃんから電話があって、はやと君にも連絡しようと思ったんだけど電話が繋がんなくて……」

 

 あー、電池の消費抑える為に電源切ってたの忘れてた。

 

「そこで丁度海崎さんに会ったから、はやと君のアパートの場所教えてもらったの」

 

 またあの人か。今度のバイトはあのスーパーかよ……。

 

「それではやと君の部屋に来ても、はやと君出ないし鍵開いてたから」

「勝手に入ったのか」

「悪いと思ったけど……。でも、はやと君倒れてたから」

 

 なるほどね。つまり夏風邪引いて倒れてた俺の看病をずっとしてくれてたと。

 

「ご、ごめんね?勝手に入って」

「んなこと気にすんなよ。むしろこっちは感謝してる。ありがとな」

 

 まだ体は怠いけどな。

 そうだ、つかさの作ってくれた粥でも食べるか。

 

「つかさ~、粥くれ~」

「あっ、はい」

 

 笑顔で粥を差し出すつかさ。

 

「……食べさせてくれないのか?」

「ええっ!?」

 

 つかさは顔を真っ赤にした。さて、からかうのはこれくらいにしてと。

 俺はつかさから粥を受け取り食べた。

 

「うん、美味いな」

「ほ、本当? 良かった」

 

 冗談抜きに美味い。ただの粥がこんなに美味いとは……。

 寝て体力が回復したおかげか、食欲がありすぐに完食してしまった。

 

「ご馳走様」

「お粗末様でした」

「んで、俺に伝えることがあったんじゃないか?」

 

 俺の看病に集中してたからか、つかさは本来の目的をすっかり忘れていた。

 

「あっ、そうだった! みちる君の別荘に皆で行くんだけど、はやと君もどうかなって」

 

 みちるの別荘か。行かない理由もないだろ。

 

「勿論行く。それまでに風邪を治さなきゃな」

「うん!」

 

 そういえば、つかさはいつからここにいたんだ? 随分いてもらった気がするが。

 

「つかさ、もう帰っていいぞ。風邪を移すかもしれないし」

 

 大分調子も戻ったし。風邪を移して、つかさが旅行に行けなくなったら本末転倒だ。

 

「平気だよ~。私あまり風邪引かないもん」

 

 へー、俺と違って丈夫だな。

 

「……じゃあ、もうちょっとだけ頼めるか?」

「うん!」

 

 頼もしい限りだ。ここは病人らしく、つかさに甘えることにした。

 こうしてみると、たまに引く夏風邪も悪いものじゃない。

 次の日には、つかさの看病のおかげですっかり治っていた。


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