すた☆だす   作:雲色の銀

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第31話「やなぎ、柊家に行く」

 今年も残すところ、あと一月と僅か。この時期には3年生は入試に加えて、期末テストの対策にも追われ大忙しになる。

 最も、俺とかがみ、更に同じクラスのしわすは推薦枠を確保しているので、テスト勉強も楽に行えるのだが。

 

「ずるいぞー」

「そうだそうだー」

 

 そんな余裕の俺達に、不服そうに口を尖らせるこなたと日下部。

 普段から勉強もろくにしない奴等が何を言っているんだ。

 ……ん? こういう時、普段ならあきも一緒にブー垂れてるはずだが。

 不思議に思いあきの方を見ると、なんと真剣な表情でノートに書き込んでいた。

 

「あ、あき……アンタ、熱でもあるんじゃないの!?」

 

 俺と同じく驚いていたかがみが、あきの体調を心配する。

 あの「赤点に近い男(ミスターレッドライン)」と称されるほど勉強が苦手なあきが、真面目に勉強しているなんて、あり得ない話だ。

 皆もあきの様子に気付き、心配を露わにする。

 しかし、肝心のノートの中身を見た途端、その心配は徒労に終わることが分かった。

 

「ん? あぁ、今度のこなたとのデートをどうしようかと」

 

 あきは勉強していたのではなく、こなたとのデートプランを考えていただけだった。

 しかも、書かれていた内容には「秋葉原」や「池袋」と、どう見てもオタク方面の目的しか含まれていない。

 

「いいから勉強しろ!」

 

 無駄に驚かされたことと、関係ないことをしていたことで、俺はあきの頭を殴っておいた。

 これでまた赤点スレスレだったら、処刑方法を考えておく必要があるな。

 しかし、デートか……。最近は勉強で忙しかったからな。主に教える側でだが。そろそろ、何か考えておいた方がいいのかもしれんな。

 

「と・こ・ろ・で~、やなぎんとかがみんは何処まで行ったのかな~?」

 

 そんなことを考えていると、拳骨で沈んでいたはずのあきが気味の悪い笑みを浮かべて聞いてきた。

 何処までって何だ、何処までって。

 

「だから、柊家への挨拶は済ませたのかって」

「「なっ!?」」

 

 あきの発言に、俺とかがみが赤面しながら絶句する。コイツ、意味分かって言ってるのか!?

 しかし、確かに俺はかがみの家族に会ったことがなかった。

 姉が2人いることも知ってるし、体育祭の時に姿を見たことはあるけど……それっきりだ。

 けど、高校生の付き合いで、流石にそれは早いんじゃ……?

 

「因みに、俺はもう済ませたぜ!」

「会って話すまで逃げ腰だった癖に」

 

 偉そうにするあきに、こなたの冷たい突っ込みが入る。

 そういえば、去年にこなたの父親に会ったとか言ってたな。

 

「僕はゆかりさんとは顔見知りだったから」

 

 話に乗ってきたみちるは、現在の彼女であるみゆきとは幼馴染同士だ。今更挨拶も何もないのだろう。

 そして、俺ははやとの方に顔を向ける。

 コイツはかがみの妹、つかさと交際している。つまり、はやとも挨拶に行く先は同じという訳だ。

 ……ま、まぁ、付き合い出したのは俺達の方が先だし。

 

「去年から世話になってるし、付き合うことになってからもキチンと挨拶は済ませたぜ」

 

 そうだった。はやとが報告しに柊家に上がったことを、かがみから聞いてたんだった。

 そもそも、体育祭の二人三脚の練習の時、はやとは境内の掃除をやらされていた。ここの家には世話になったから、と。

 

「進路の話もその内、な」

「う、うん……えへへ」

 

 はやとはそう言いながら、つかさの頭を優しく撫でる。つかさも、頬を染めながら蕩けた笑顔ではやとに身を預ける。

 漸く分かった。自分ははやと達に出遅れてしまっているのだと。

 ……これは不味い。このまま会わないでいたら、ハードルは上がっていく一方だ。

 

「も、もう! いいから勉強しなさい!」

 

 無駄にイチャ付くはやとをどつきながら、かがみは場を収集させようとする。

 けど、きっとかがみも焦っているんじゃないだろうか。

 それなら、俺は彼氏失格だ。何とかしないと……。

 

 

 

 その日の夜、俺は自室でメールを打っていた。勿論、相手はかがみだ。

 放課後に話をしなかった理由は、他に人間がいたからだ。あきやこなた辺りに聞かれたら、俺達は一瞬で恥晒しになる。

 

「……ふぅ」

 

 メールを送信し、溜息を吐く。

 送った内容は、今度の休みにかがみの家族と会ってもいいかというものだ。

 全く、もうすぐテストだというのに、何をやっているんだか。けど、このまま何もせずヘタレ扱いも困る。

 待っている間、緊張する心を落ち着かせるために、チェスの駒を動かす。詰めチェスの本に書かれた問題の盤面を再現し、自分で最短の手を考えていく。問題に集中することで、自分の中に冷静さが帰ってくるのだ。

 2問目を解き終わったところで、かがみからメール……ではなく電話が来た。

 

「もしも」

〔やなぎ!? さっきのメールって、本気!?〕

 

 余程焦っていたのか、電話の向こうからいきなりかがみが怒鳴り込んできた。

 ぐおお、鼓膜に響く……。

 

「ほ、本気じゃなかったら、あんなメール送らない」

〔うぅ、だって……〕

 

 急に怒鳴ったと思ったら、今度は可愛い声で恥ずかしそうに言葉を詰まらせた。

 確かに、かがみも恥ずかしいに決まってる。親に恋人を紹介しなくてはならないのだから。

 

「遅かれ早かれ、結局はしなきゃいけないんだし。頼むよ、かがみ」

〔その言い方、ズルい……はぁ、分かったわよ〕

 

 優しく頼み込むと、最後にはかがみは小さい声で了承してくれた。

 きっと、今頃かがみは顔を真っ赤にしているだろう。って、人のことも言えないか。

 そして、日曜日はあっという間に来た。

 こういうイベントが来る度に、時間が過ぎるのが早く感じる。

 俺は菓子折りを持ち、柊家の前に来ていた。

 鷹宮神社には何度も来ているが、家の中はこれが初めてだ。

 うぅ、もう既に緊張で心臓が破裂しそうだ。

 

「はいー?」

「ふ、冬神やなぎです。かがみさんのか――友人の」

「あ、ちょっと待ってくださいねー」

 

 インターホンを鳴らし、家人が出るのを待つ。彼氏と言いかけたが、友人と言い直してしまった。自分が情けない……。

 落ち着いた若い女性の声が聞こえたから、きっと姉のどちらかがいるのだろう。出来ればかがみが出てくれると入りやすいのだが。

 そうこう考えている内に、ドアが開かれて。

 

「何やってんだ、お前」

 

 はやとが出て来た。

 いやいやいや!? こっちの台詞だそれは!

 何でいきなり家人でもない奴が玄関から出迎えてくるんだ!

 

「んなっ!? お、お前こそ何やってんだよ!」

「俺は昼飯をご馳走になってただけだ。あと、これからつかさとデートの予定……だった」

 

 そういえば、これもかがみから聞いたことがある。

 はやとはつかさと付き合ってから、休日は昼食を柊家で取って、デートに行くことが多いと。

 はやとは自分の予定を言うと、ニヤリと笑みを浮かべた。いい玩具を見つけた、意地の悪い子供のような笑顔を。

 

 

 

 それから数分後。

 柊家の茶の間に、かがみを含めた柊家6人と俺、何故かはやとが集まっていた。

 かがみと隣り合わせに正座をしている俺は、周囲から集中的に受ける視線に、思わず体が小さくなっていた。

 出だしから酷く躓き、多勢に無勢の今、俺はもうチェックに近い心境だった。

 

「俺がこっち側になるなんてな~♪」

 

 はやとは一度この洗礼を受けているからか、終始楽しそうに俺とかがみを見つめている。

 というか、部外者が何で一番楽しんでいるんだ。

 

「いかにも頭よさそうだよね。ちょっとヒョロイけど」

「逆にいいんじゃない? かがみに引っ張られる感じで」

 

 はやとやつかさのの向かい側に座る姉2人、いのりさんとまつりさんは、俺のことをジロジロ見回しながら評価を下していた。

 ヒソヒソ話しているけど、残念ながら丸聞こえです。

 そして、俺達の正面には真剣な表情の父親、ただおさんと温和な母親、みきさんが座っていた。

 みきさんが母親だと聞いた瞬間、俺はかなり驚いた。みちるの母親もそうだったけど、外見が若すぎる。

 

「えーと……まずはこれをどうぞ」

 

 出鼻を盛大に挫かれた俺は、せめて挽回しようと持ってきた菓子折りを渡す。因みに中身は近所の和菓子屋で買ってきた最中だ。

 

「わざわざご丁寧にどうも」

 

 みきさんが箱を受け取ると、何故かはやとが若干顔を顰めた。

 あぁ、コイツは菓子折りを用意しなかったのか。

 

「それで、君はかがみと何時から付き合ってるのかな?」

 

 しかし、ただおさんは菓子折りに興味を示さず、俺に鋭く質問を投げかけた。

 いや、菓子で気を逸らそうとか考えたつもりではないが。

 

「……去年の、体育祭からです」

「そうか、去年か」

 

 クリスマスにデートしたことも知ってるはずだし、分かってはいたと思う。

 では、何が言いたいか。来るのが遅いんじゃないか、ということだろう。

 

「あ、あの、挨拶が遅くなってしまい、すみませんでした!」

「私も、ごめんなさい!」

 

 先に言われる前に、俺は頭を下げた。

 当然だ。人として筋を通さないような奴に、交際を認める親はいない。

 すると、俯いたままだったかがみも同じく頭を下げた。

 

「……頭を上げて、冬神君」

 

 多少は怒られるのを覚悟してはいたが、ただおさんは落ち着いた様子で話してくれた。

 顔を上げると、誰一人として責めるような視線を向ける者はいない。

 

「君の話は、かがみやつかさ、はやと君からも聞いてるよ。成績が学年トップなんだってね」

「まぁ、頭いいのね」

 

 はやとが、俺の話を?

 思わずはやとの方を向くと、つまらなさそうな表情で俺を見ていた。

 その隣に座るつかさの困ったような笑顔を見るに、本当に悪評は流していないらしい。

 つまり、最初から第一印象は思ったほど悪くはなかったのだ。

 

「去年の二人三脚も、かがみと一緒に頑張って走ってくれてたね」

「あぁ、そういえば! しかも1位だったし」

 

 そもそも、この家族は体育祭を見に来ていたのだ。俺とかがみの二人三脚も当然見ていた訳で。

 無駄に気張っていた俺は、体から力が抜けていくのを感じていた。

 

 

 

 結局、「今後もかがみをよろしく」と言われ、俺は柊家を後にした。

 柊家は俺が思っていたよりも遥かに寛大で、はやとが度々世話になっていると言う理由も何となく分かった。

 

「まぁ、よかったわ。何事もなくて」

 

 隣を歩くかがみも、安堵しているようだった。

 話も終えたので、俺達もはやと達に肖ってこのままデートをすることにしたのだ。何事も、ね。

 実はかがみがデートの為に着替えている間、俺はいのりさんとまつりさんに質問攻めにあっていた。

 キスはもうしたのかとか、初デートはとか、フリーのイケメンは知り合いにいないかとか、もう色々だ。

 

「いい家族じゃないか」

「まぁね」

 

 家族を褒められて、かがみは素直に嬉しそうにした。

 ……今後は、俺も家族の仲間入りを検討する、のか?

 

「……きょ、今日はケーキバイキングにでも行くか?」

「え、いいの!?」

 

 頭に浮かんだ恥ずかしい考えを揉み消そうと、慌てて提案すると、かがみは目を輝かせた。

 うーん、食べ物のこととなるとかがみは恐ろしい程興味を示すな。そこも可愛いんだけど。

 

「あぁ、かがみにも迷惑かけたし」

 

 こうして、俺達はケーキバイキングをやっているレストランに行くことにした。

 後日、かがみが体重のことで鬱になったり、将来はやととの関係に気付いて俺も憂鬱になるが、それば別の話。




どうも、雲色の銀です。

第31話、ご覧頂きありがとうございました。

今回はやり残した、やなぎんが柊家に行く話でした。

やなかがは一番普通なカップルなだけに、何をしていいものやら分からなかったりします。
自分の中では、かがみはそんなにツンデレではなかったりします。寧ろこなたやみさおの方がツンデレかと。

次回は、いよいよつばめ編!すた☆だすもラストスパート!

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