すた☆だす   作:雲色の銀

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第5話「我が魂の一撃」

 暑い。もうすぐ夏休みなのはいいが、暑い。

 屋上で寝ていたら干上がってしまう。

 ので、冷房の効いた教室で寝るのが1番だ。お休みー。

 

「寝るなっ!」

 

 気持ちよく寝ようとしたら、後頭部をハリセンで殴られた。痛ぇな。

 

「何だよかがみ」

「だーかーらーっ! 授業サボんなっ!」

「今授業じゃないからいいだろ」

「アンタそのままずっと寝てるだろ」

 

 チッ、バレたか。

 大体他クラスの奴が注意するのがおかしいと思うんだ。

 

「つかさからも言ってやってよっ!」

 

 だからって同じクラスの奴を駆り出すとは……。

 

「つかさも冷房の効いた教室で寝ることはあるよな」

「うん、でも授業にはちゃんと出ようね」

 

 懐柔失敗か。つかさは根は真面目だからなー。

 梅雨の時に一緒にだらけてたとは思えないぜ。

 

「……分かったよ。出ます、授業受けます」

 

 最近つかさに逆らえなくなってるのは気の所為……だよな?

 おっと、次は体育か。しかも体育館。熱が篭もるから好きじゃねぇんだよな。

 さ、屋上に――。

 

「…………」

 

 隣でニコニコしているつかさに、何故か威圧感が。

 分かったよ! やればいいんだろ!

 

「ほら、着替えるから外出てろ」

「あ、うん」

 

 気付けば他の女子いないし。やっぱつかさは天然だな。

 

 

 

 今日の体育はドッジボールである。

 隣で女子が同じくドッジボールをやっているから男子の士気も上がる。

 が、俺にとってはどーでもいい。いいところ見せてモテたい、と思ったこともないし。

 さて、肝心のチーム分けだが。

 

「我が勝利の礎となれぃ!」

「あき、頑張ろう」

 

 敵チームにあき、みちる、その他。

 

「もし翼があったら……あっちのチームに行きたい」

「無理、勝てないな」

 

 味方チームには俺と……やなぎ、その他だ。

 因みに、体育はD組と合同だ。

 やる気を失くし、ふと女子の方に目をやる。すると、つかさを見つけた。

 あ、こっち気付いた。しかも呑気に手振ってるよ。

 

「……やるか」

 

 天然の威圧をくらいたくねぇし。

 何か、今の笑顔ででやる気が出た。

 

「もやし、行くぞ」

「もやし言うなっ!」

 

 ボールが高く舞い上げられる。

 ジャンプして、先に手が触れたのは……相手か。

 

「It's show time!」

 

 な、何が起こったか一瞬分からなかった。

 ボールを拾った相手が投げたと思ったら、こちらの1人を当てていた。

 

「速ぇな」

 

 コイツ、モブキャラの癖にやるな。

 ボールがこっちに転がってきたので拾う。

 

「白風! ボール寄越せ!」

 

 味方が叫ぶが、無視した。どうせ俺は戦力外とか思ってんだろ。その通りだが。

 とりあえず気に喰わないモブキャラAにでも当てるか。

 

「調子に……乗るなっ!」

「ぐはっ!?」

 

 俺が投げたボールは見事、脚に命中した。ダーツだけだと思ったか?

 

「白風……この借りは返すぜ」

「いらん」

 

 さっさと外野に出やがれ、名もなきモブキャラよ。

 

「はやと君すごーい!」

 

 どうやら俺の活躍を見ていたらしく、つかさからの黄色い声があがる。

 ……悪くないな。

 そんなことを考えていた直後、女子の方でかがみが当てていた。

 オイ、すごい音したけど相手大丈夫か?

 

「…………」

 

 調子に乗るな、という意味だろう。こっちすごい睨んでるから。

 

「っしゃあ! 俺のターンだ!」

 

 ボールを持って前に出て来るのは、あきか。

 バカだが、運動神経はあるから厄介だな。

 

「必殺、俺の必殺技!」

「うわっ!?」

 

 あきの投げたボールは味方の男子Bに命中した。

 ってか、技の名前ダサっ。

 

「さぁ、俺に黄色い声援が!」

 

 女子は自分達のドッジボールに夢中で、あきの活躍を見ていなかった。

 虚しい奴だな、お前。

 

「……あれ? ぎゃん!?」

 

 ポカーンとしている内に、あきは当てられてしまった。

 本当に虚しい奴。

 

「あきくーん」

 

 ある女子からの呼び掛けに、当てられて地に伏していたあきが復活する。

 

「ふっ、遅いぜ」

「だっさーい!」

「ぐはぁっ!?」

 

 その女子はこなただった。

 こなたのキツイ一言にあきは再び沈んだ。いいから外野行けよ。

 

「次は、僕だね」

「頑張ってください、みちるさん!」

「ありがとう、みゆき」

 

 みゆきからの声援を受けるみちる。周囲からの嫉妬の視線が怖い。

 どう頑張ってもみちるには勝てないだろ。ルックスも財力も。

 だが、今の相手の戦力も気付けばみちるのみ。

 みちるを潰せば大して強い奴はいなくなるだろう。

 

「行くよっ!」

 

 いつものニッコリ笑顔でボールを投げるみちる。

 

「んぎゃっ!?」

 

 は、速い!?

 ってか顔と動作が合ってないぞ!

 みちるの投げた剛速球は、男子生徒Cを軽く当てていた。

 

「っと、そんなことよりボールは……」

 

 みちるに気を取られてボールを見失ってしまった。

 周りを見回し、探すとすぐに見つかった。

 

「捜し物は、これか?」

 

 既に外野にいたあきが持っていたが。

 

「うおっ!?」

 

 ギリギリで避けれたが、その所為で後ろにいた奴に当たってしまった。

 

「チッ」

 

 内野に戻ってきたというのに舌打ちするあき。

 そんなに俺に当てたいか。あきの癖に生意気な。

 さて、ボールは現在……。

 

「ん?」

 

 やなぎが持っていた。お前まだ生き残ってたのか。

 

「もやし、こっち寄越せ」

「もやし言うなっ! そこまで言うなら俺だってやってやるよ!」

 

 あーあ、変な抵抗心持ちやがって。

 

「やなぎっ!」

 

 その時、女子の方からかがみの声が聞こえた。

 

「頑張んなさいっ!」

「かがみ……よしっ!」

 

 やなぎは今のでやる気が出たらしく、前に出た。

 

「そこだっ!」

 

 狙いを定め、投げる。だが、あきやみちるの球と比べるとやや弱い。

 

「なっ!?」

 

 しかし、相手はボールを拾えず当たってしまった。

 ほ、本当に当てたよ……。

 

「ふっ、作戦通り」

 

 作戦? ……なるほど。

 やなぎの投げた球は相手の取りにくい脚に当たっていた。

 これなら力はいらない。つまりは戦略勝ちだな。

 

「御見逸れした」

「ふっ、当ぜ」

「我が魂の一撃、受けてみよっ!」

 

 勝利の台詞を遮って、変な台詞と共に投げられた球がやなぎに当たった。

 

「っしゃあ! やなぎゲット!」

 

 あき、空気読めよ。

 もや……やなぎが頑張って当てたんだからさぁ。

 

「……後で潰す」

 

 あーあ、俺はもう知らん。

 しかし、厄介なのがまだ2人もいるのはマズいな。

 1人は俺を狙ってるし。

 

「ここはアレで行くぞ!」

「アレって何だ?」

 

 この状況を打破する秘策を使うしかないな!

 20秒位前に考えた奴だけど。

 

「はやと、討ち取ったっ!」

 

 あきからのボールが来る。

 残念だが、アイツのボールはまともに取れないだろう。

 だが、この秘策ならっ!

 

「協力技、モブガード!」

「ぶへっ!?」

 

 ボールは後ろで押さえ付けた男子Dに当たり、宙を舞う。

 俺は盾を退かすと、ボールが地に着く前に拾った。

 

「もし翼があったらシュート!」

「わっ!?」

 

 いつもながらの鋭いスイングでみちるに命中させた。

 これなら味方はいくら当たろうと、アウトにならない。俺に危険も伴わない。

 

「白風、テメー……!」

「立て、次が来るぞ」

「シバくぞ!」

「分かった、悪かったって」

 

 チッ、使えると思ったんだけどな……。

 

「よし、はやともゲットだ!」

 

 とか考えていたら、あきの投げた球が当たってしまった。あの野郎……!

 

「んじゃ、後は任せた」

 

 当てられたことですっかりやる気をなくした俺は、外野で女子の方を見ていた。

 こっちの試合は誰かが盛り上げてくれるだろう。

 

「おまっ、さっさと戻って来い!」

 

 アーアー、何も聞こえないっと。

 そんなことより、女子の方もそれなりに盛り上がっているようだ。

 

「くらえ! 私のスーパーウルトラミラクルシュート!」

 

 このやたら長くて痛い名前は……こなただな。

 しかもそれで当てれるのがすごい。

 身体能力ことごとく無駄にしてるよなー、アイツ。

 

「でりゃあっ!」

 

 これはかがみか。掛け声が可愛気のないというか、勇ましいというか。

 

「はやと、何か言った?」

「イエ、ナニモ」

 

 ……地獄耳め。

 

「えいっ!」

 

 次はみゆきの出番だな。みゆきも何気に運動神経いいんだよなー。

 どうして俺の周りには完璧超人が集まるのやら。

 

「そして、あのボールを投げる時に揺れる胸がたまらん」

 

 いつの間にかあきが背後で解説していた。

 危ないおっさんか、お前は。

 

「いや、男として絶対目に留ま」

 

 横から飛んで来たボールが危ないおっさんに命中した。ざまぁ。

 

 そして、これは想像通りだが、つかさは投げない。ボールを取れないからだ。

 ま、ぽんやりしたつかさには無理だろうな。

 

「はわわっ!」

 

 必死に逃げるつかさ。ああいうのを見てると、何故か応援したくなる。

 掃除機相手に逃げるペットみたいな感覚か?

 そんなバカなことを考えていた所為で、油断していた。

 

「つかさ! 前っ!」

「へ?」

 

 ボールが、しかも速い球がつかさの顔に直撃したのだ。

 この事態に、男子達の動きも止まる。

 

「つかさ? つかさっ!」

 

 かがみが声を掛けるも、返事がない。どうやら気絶しているらしい。

 気付いた時には、俺は動き出していた。

 

「はやと……」

「保健室に連れて行く」

 

 何故こんなに反応したかは分からないが、俺はつかさを抱えて保健室に向かっていた。

 

「今の、お姫様抱っこだったよね?」

「白風君、速かったね」

「そういえば保健委員って誰だっけ?」

 

 周囲のざわつきも、今の俺の耳には入らなかった。

 

 

 

 普段、保健室には天原ふゆきという大人しそうな教諭がいる。

 だが、今はいなかったので、勝手につかさをベッドに寝かせてやる。

 

「ったく、前方不注意にも程があるだろ」

 

 隣の椅子に座り込み、脱力。

 天原先生がいない以上、誰かがいないとダメだな。

 

「ま、これで授業サボれるか」

「はやと君、ダメだよ~」

「んな堅いこと言うなよ。つかさの付き添いなんだから」

 

 ……ん?

 今の間延びした声は誰だ? って、1人しかいないか。

 

「わ、私の付き添い?」

 

 いつの間にか、つかさは起きていた。

 

「ああ。平気か?」

「うん」

 

 ボールの後が赤くなっているが、笑顔を見せる。

 あ、鼻血出てる。

 

「ぷっ、くく……」

「えっ、えっ?何?」

 

 急に吹き出したからつかさが戸惑ってしまった。

 

「待ってろ、今ティッシュ持って来てやるから」

「あ、うん……」

 

 ティッシュというワードにつかさも気付いたようだ。

 恥ずかしさのあまり、ボールが当たった箇所以外も真っ赤にした。

 

「ほら、あとこれで頭冷やせ」

 

 ティッシュ箱と冷却パックを渡す。勝手に持って来たけど、別にいいよな。

 

「は、はやと君」

「ん?」

「皆に今の……い、言わないでねっ?」

 

 つかさは涙目になりながら、上目遣いでお願いしてきた。

 な、何だ!? 今、一瞬つかさがめちゃくちゃ可愛かったんですけど!

 

「わ、分かった……」

 

 こっちまで顔を赤くしてしまう。いや、何でか分からないが。

 

 その後、授業が終わってかがみ達が来た。

 聞いた話だと、どうやら委員決めの時に寝ていた俺は、勝手に保健委員にされていたらしい。閑話休題。

 次の授業も休むと伝えてあるので、再び保健室は俺とつかさの2人だけになった。

 和やかな時間が流れる。

 

「はやと君、ごめんね」

「気にすんな。むしろ授業がサボれるんだから感謝してるぜ」

「も~っ」

 

 サボり目的だと分かり、少しムッとするつかさ。あんま怖くないぞ。

 

「ねぇ、はやと君」

「ん?」

「もうすぐ夏休みだね」

「ああ」

「でね、一緒にお祭りに行ってくれる?」

 

 爽やかな空気の中、俺とつかさはゆったりと会話する。

 夏祭りか。あまり楽しんだ記憶はないが、つかさと行くのは悪い気がしないな。

 

「いいぜ」

 

 それに、今年は何だか楽しめそうな気がする。

 こうして、俺の波乱に満ちた夏休みが幕を開けたのだった。


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