すた☆だす   作:雲色の銀

47 / 76
第16話「合流」

 2学期が開始してから、早一週間。

 校内は桜藤祭への準備に、本格的に動き出していた。

 昼休みになれば、演劇をやるクラスは教室内で練習に励み、他の出し物でも小道具の制作や各プランを練るのに四苦八苦する生徒の姿を見かけるようになった。

 そして、各クラス委員も休み時間に集められ、桜藤祭運営の注意事項や当日の予定等を話し合うことになった。

 

「悪いな、つかさ。俺の所為でまたこんな面倒なことに巻き込んで」

 

 集合場所の教室で、俺は改めて相方のつかさに謝る。

 今回つかさがクラス委員を押し付けられたのは、俺があきとのじゃんけんに負けた所為だ。

 好きな奴を巻き込み、俺としては罪悪感を感じていた。

 

「ううん、去年は私の所為ではやと君がクラス委員だったし、これでお相子だよ」

 

 だが、優しいつかさは俺を笑顔で許してくれた。

 去年はつかさが居眠りしていた為に押し付けられ、保護者役と化していた俺が相方として務めることになった。

 しかし、あれは別に俺が勝手にやったことだ。

 

「それに、はやと君と一緒ならいいかなって……」

 

 つかさは続けて、モジモジしながら可愛いことを言ってくれた。

 まぁ、何だかんだ言ってもつかさと桜藤祭を回れることに変わりはないんだし、そう考えるとクラス委員も悪くない気がしてきた。

 

「サンキュ、つかさ」

 

 恋人の可愛さと傍にいてくれることへの嬉しさに堪え切れず、俺はつかさの頭を撫でる。

 抱き着かなかったのは、ここが教室内だからだ。我ながらそこはよく制御出来たと思う。

 撫でられたつかさも、頬を赤く染めながら表情を緩ませる。ふにゃけた笑顔もまた可愛い。

 

「……そろそろ始めてもいいですか?」

 

 そのままつかさの頭を撫で回していると、冷たく声を掛けられる。

 教室の前を見ると、クラス委員を集めた実行委員代表が眉をヒクつかせながら俺達を見ていた。

 周囲も注目している辺り、どうやら俺達の雰囲気の所為で会議が始められなかったらしい。

 

「あー、はいはい。気にしないでどーぞ」

 

 じゃれ合いを邪魔された身としては不愉快でしかない。

 俺はやる気なさ気に手を振り、会議を進めるよう言った。

 

 

 

 会議が終わると、実行委員代表は何やらぶつぶつと小言を言いながら去って行った。

 俺がつかさとじゃれ合っていたのが羨ましいのか、そーか。

 

「やっ、はやと先輩」

 

 窮屈な時間を終え、漸くつかさとイチャイチャ出来る。そう考えていると、一組の男女が俺達の方に来た。

 

「かえでとみなみか」

 

 顔馴染みの後輩、霧谷かえでと岩崎みなみだ。

 ここにいるってことは、コイツ等もクラス委員として招集されたのだろう。1年からクラス委員とは、ご苦労なことだ。

 

「みなみちゃん達もクラス委員?」

「はい……」

 

 知っている顔がいて嬉しかったのか、つかさは俺の気になったことを即聞いた。すると、みなみが小さく頷く。

 無口で表情の薄いみなみと、ウザい程明るく表情豊かなかえで。実に好対照すぎる組み合わせだ。

 

「しっかし、はやと先輩とつかさ先輩って本当に付き合ってたんですね」

 

 さっきのやり取りを見ていたかえではまじまじと俺等を見る。

 そういえば、後輩達にはまだ言ってなかったっけ。

 

「この前からな。言っとくがやらんぞ」

 

 釘を刺すように、俺はつかさの肩を抱く。一応冗談のつもりだが、コイツを誰にも渡さないってのは本気だ。

 

「そんな面白い笑顔、奪いませんよ~」

「惚気……」

 

 かえでは若干引きつった顔で返してきた。振った話を惚気で返されるとは思わなかったようだ。まだまだ甘いな。

 その隣では、みなみが少し目を輝かせて眺めていた。女子たる者、恋話には興味あるか。

 

「んじゃ、お前等も頑張れよ」

 

 休み時間も終わりに近い。俺は適当に言葉を残し、つかさを連れて自分の教室に戻った。

 

 

☆★☆

 

 

 桜藤祭の準備期間でも、通常通り授業があるように掃除当番も必ず巡ってくる。

 順番が回ってきた俺とひよりは、現在溜まったゴミ袋を捨てようと裏庭を目指していた。

 

「重い」

 

 ゴミ袋を持ち運ぶ俺は、その重さと悪臭に顔を顰める。すると、隣を歩いていたひよりは珍しそうな表情で俺を見ていた。

 

「何だ?」

「あ、いや……石動君もそんな顔するんだなぁって」

 

 そんな顔、とは不快感に歪めている顔だろうか。

 今ここに鏡がないからどんな顔をしているのか自分では見られない。が、別に見る価値のある表情ではないだろう。

 

「俺の顔の何を気にする必要がある」

 

 寧ろ、俺が興味をそそられたのは、俺の他愛のない表情をひよりが気にしていることだった。

 

「いや、特に意味はないんだけど……石動君、感情が分からないって言ってたから」

「……ああ」

 

 なるほど。俺はひよりの言いたいことが何か理解した。

 つまり、俺が一時の感情を表情に出したことが珍しかったのだろう。

 

 俺は確かに「感情」を理解出来ない。喜怒哀楽や羞恥心、そして不快感等の原理が分からない。

 以前はそれが原因で、ひよりと騒動を起こしたこともあった。しかし、あのことを切っ掛けに、俺は感情を学ぶことにしたのだ。

 

「最近では、感情が表に出るようになった……かもしれない」

 

 今みたいに自然と出て来るものであって、俺が意図して出している訳ではない。

 なので、俺は未だに自分が感情に対して希薄なのだと考えていた。

 

「あれー、ひよりんじゃん」

 

 とりあえず、「不快感の表情」だけでも学んでおこうとさっきまでの感情を思い浮かべる。

 すると、廊下の向こう側から見知らぬ女子生徒にひよりが話し掛けられた。

 癖のある金髪に琥珀色の瞳、褐色肌の女子。何かの文献で見たことがある「ギャル」というものによく一致する特徴だ。

 

「あ、こうちゃん先輩。どうもッス」

 

 ひよりの方も相手を知っているらしく、頭を下げる。

 相手は先輩なのか。それにしても「こうちゃん先輩」とは変な呼び方だ。向こうも「ひよりん」と仇名で呼んだ辺り、仲の良い関係みたいだな。

 

「あー、掃除当番か。んで、そっちは?」

「同じクラスの石動さとる君ッス。石動君、こちら2年で漫研会長の八坂こう先輩」

「よろしくお願いします」

「おー、よろしく!」

 

 ひよりからの紹介を受け、頭を下げる。八坂先輩は中々フレンドリーな性格のようだ。

 しかし、まず第一に俺が気になったのは「漫研会長」の単語。ひよりが所属している漫画研究会の会長が、目の前にいる。

 

「実は、漫研に興味があります」

「おおっ!」

 

 興味があることを伝えると、八坂先輩は目を輝かせた。

 自分の会のことだ。興味を持たれればまず嬉しい……はず。

 

「ひよりん、新しい部員ゲット? やるじゃん~」

「いや、多分違うかと……」

 

 八坂先輩は喜ぶと同時に、ひよりの肘を小突く。実に明るく表情豊かな人だ。かえでに近い性質かもしれない。

 が、ひよりは困惑した表情で俺と八坂先輩を交互に見ていた。まぁ、部員になりたいと言った覚えはないのだが。

 

「んでっ、さとっちはどんなジャンルが得意?」

「ジャンル?」

 

 八坂先輩はひよりに構わず、俺に対して質問を投げかけて来た。……さとっちとは俺のことだろうか。

 ふむ、ジャンルと言われても多様にあるからな。

 

「サイエンスフィクション、史実を元にしたドキュメンタリー、ミステリーは得意といえば得意です」

「おおっ! かなり硬派だね~」

 

 読んだことのある文庫のジャンルを言うと、八坂先輩は満足気に頷いた。ひよりの言う「BL」や「GL」でなければダメ、ということでもなさそうだ。

 

「ってことは、もしかして原作を担当したり? それとも硬派な漫画を書けたり?」

 

 だが、八坂先輩のこの言葉に、俺の中の漫研への興味が一気に薄れていった。

 原作を担当や漫画を書く。これだけで、漫研が俺に何を要求しているのか分かったからだ。

 

「すみませんが、俺に物語は書けません」

「え?」

 

 先輩の期待を裏切ることになり、俺は謝罪を口にする。

 知識を得るだけの俺は、何かを新しく生み出すことは出来ない。それこそ、感情を理解していない俺には無理な話だ。

 そもそも、俺が漫研に興味を持ったのもひよりの頭の中のように、俺がまだ知らぬことを見れると思ったからだ。それを作れとなれば話は違う。

 

「あの、石動君は読み専なので、部員として興味があるってことじゃなくて!」

「あー、なるほどね。早とちりしてゴメンね!」

 

 ひよりのフォローに八坂先輩も納得し、勝手に盛り上がったことを詫びる。

 普通なら落胆するところだが、謝る辺りはやはりいい先輩なのだろう。

 桜藤祭でも漫研は作品を出すとのことで、読みに来ることを約束して、俺達は八坂先輩と別れた。

 

「済まない、手を煩わせた」

「へ?」

 

 ゴミを出し終えた帰り、俺はひよりにも謝罪した。

 俺の予想だが、あの時ひよりのフォローがなければ、俺と八坂先輩の話は拗れていた。

 何度も言う通り、俺は感情が理解出来ない。だから、俺の物言いは人の感情を逆撫ですることがよくあるのだ。

 

「適切なフォロー、感謝する」

「あ~、アレ? 気にすることないよ」

 

 苦笑するひよりだが、フォローの仕方が手馴れているようにも見えた。

 それも、人の感情をよく理解しているひよりならではなのだろうか。

 

「桜藤祭、待ち遠しく思えるようになった」

「そう?」

 

 きっと、桜藤祭の漫研にはひよりの作品も置いてあるはず。

 人の感情を心得ているひよりの作品だ。面白く、俺の興味を引くに値する作品に違いない。

 

「それが、「楽しみ」って感情だよ」

 

 ひよりはやや得意な顔で俺に教える。

 そうか……この待ち遠しい感情が「楽しみにする」か。また一つ勉強になった。

 

「ありがとう、ひより」

「どういたしまして」

 

 ひよりと話すようになってから、俺は感情の勉強が捗っている気がした。ひよりは正に名教師だ。

 

「ついでに質問、ヅカ喫茶の「ヅカ」とは何だ?」

「グッ!? そ、それは……」

 

 しかし、名教師にも教え辛いことがあるようだ。

 俺が感情を学び切るまで、まだまだ時間が掛かりそうだ。

 

 

☆★☆

 

 

 桜藤祭の出し物がお化け屋敷に決まったウチのクラスでは、各チームでギミックを組むことになった。

 大勢で仕掛けを決め、一斉に準備に取り掛かるのもいい。が、一度チーム別で取り掛かった方が効率が良かったのだ。

 

「被らないように考えるのは、中々骨が折れるけどね」

 

 苦笑するかがみも、チーム別の行動に賛成派だ。

 同じチームとなった俺とかがみ、日下部、峰岸、しわすは使えそうなギミックについて考えていた。

 が、かがみの言う通り他のチームと被ってしまっては元も子もない。

 各チームのギミック発表は明後日。万が一被ってしまった場合はそこで調整することになっているが、どうせなら被らない方が客の想像を超え、驚かせ易くなる。

 

「うーん、やっぱしわすが一発吠えればいいんじゃね?」

「それの何処に仕掛け要素があるんだ」

 

 考えることが苦手な日下部は、一番安直な方法を出すが、とても採用出来たものではない。

 まず、かがみのツッコミ通りギミックがない。お化け屋敷なのにただ人が吠えるだけでは話にならない。

 次に、しわす1人で吠えに行けば間違いなく不良と間違えられる。そうなれば、不良が屯してるお化け屋敷に入りたがる客もいないだろうし、しわす本人の評価も落ちる。

 

「月岡君は、何かいい案ある?」

 

 峰岸が尋ねると、しわすは何時にも増して険しい表情を浮かべていた。

 

「う~……鮫、蛇、皆怖がる」

 

 しわすの案は動物絡みのものだった。確かに、動物を題材にしたホラー映画は多くある。少なくとも、日下部の案よりは遥かにマシだ。

 しかし、しわすの案はお化け屋敷としてはイマイチだった。

 

「屋敷、しかもこの狭い教室内だ。鮫や大蛇は出しにくいんじゃないか?」

「ダメか……」

 

 苦言を呈すと、しわすは少し落ち込んでしまった。頑張って考えてくれたのだろう、俺はしわすに少し罪悪感を感じてしまう。

 しかし、いよいよ行き詰まりになってきた。

 在り来たりなホラー要素では、被るか費用不足で再現不能なのが殆どだ。

 

「はぁ、良い案ないかしらねー」

 

 案が中々浮かばず、溜息を吐くかがみ。

 だが同時に、大きな腹の音のようなものも聞こえてきた。

 周囲が考え込み、静かになっていた為に余計によく聞こえ、それは紛れもなくかがみの腹から聞こえたものだった。

 

「おー? 柊もしかしてまたダイエットかー?」

「いや、違っ! 今のは!」

 

 日下部に指摘され、かがみは狼狽えながら否定しようとする。

 男の俺にはよく分からないが、かがみは体重をよく気にする。1キロ増減するだけで一喜一憂し、ダイエットを心掛けようとするのだ。

 彼氏目線だが、全く太っているように見えないんだけどな。

 

「いやいや、今すごい音しただろー。どれどれ」

「ひ――ひやあああっ!?」

 

 にへら、と笑いながら日下部はかがみの脇腹を摘む。

 その瞬間、かがみは凄まじい悲鳴と共に日下部の頬を引っ叩いた。

 一瞬のショッキングな出来事に見ていた俺達は呆然とし、自業自得とは言え引っ叩かれた日下部は口をパクパクと動かしながら涙目で峰岸に縋っていた。

 

「ご、ごめん。つい……」

 

 かがみもショックが大きかったからか、すぐに日下部に謝った。

 日下部にとっては軽いスキンシップのつもりだったのだろう。やりすぎではあったが。

 

「痛そう」

 

 暴力沙汰が嫌いなしわすも目を点にして日下部を心配していた。

 うーん、どちらも悪いので片方に味方出来ないな、これは。

 

「かがみー、ダイエットしてるんだってー?」

「何度目ー?」

 

 と、そこへ空気を読まないこなたとあきがやってくる。どうしてそこでその話を掘り返すんだ、お前等は。

 

「お前等、大声で言うなっ」

「どれどれ、どのくらい育ったのかなー?」

 

 怒るかがみをスルーし、よりにもよってこなたは先程の日下部と同じようにかがみの脇腹を摘んだ。

 だから何で状況をより悪い方に持って行こうとするんだ!

 

「やると思ったけどな……お前等一度拳で教育が必要か?」

「「かがみん凶暴ー」」

 

 しかし、かがみはこなたを引っ叩きはせず、2人を叱るだけで済ませた。

 日下部のことがきっかけでクールダウンしたのだろう。惨事にならなくてよかった。

 しかし、ふと日下部の方を見ると、先程以上に落ち込んでしまっていた。

 

「あやのー……これもコミュニケーションの長さの差じゃろか」

「よしよし」

 

 自分との扱いの差に、別の意味でショックを受けてしまったようだ。

 俺の聞く話だと、日下部と峰岸はかがみと5年間同じクラスだったらしいが……。

 その内に、気付けばはやと達も合流し、C組にいつものメンバーが揃う形となった。

 そういえば、日下部達とこなた達は面識ないんじゃないか?

 

「やなぎー」

 

 本当に3年生メンバーが合流した現状を考えていると、あきが袖を摘んでくる。

 その視線の先には、しわす。それだけで、何が言いたいのかすぐに分かった。

 

「安心しろ。月岡しわすはお前等の思うような悪い奴じゃない」

 

 何故俺達のグループに、不良と恐れられている月岡しわすがいるのか。

 事情を知らないB組の面々なら、しわすを奇異の目で見るのは仕方ないと思う。少し前まで、俺等も同じ風にしわすを見ていたのだから。

 天原先生との約束を少し早く破ることになってしまうが、あき達なら何の心配も要らない。

 かがみとアイコンタクトを取り、俺はしわすを傍に手招きした。

 

「皆、月岡しわすは不良じゃない。しわすの噂には、大きな事情があるんだ」

 

 俺はしわすが校舎の裏庭で子犬を隠して面倒見ていること、しわすが育ってきた環境、不良と呼ばれてしまうようになった勘違いを洗い浚い説明した。

 最初は疑い半分で聞いていたあき達だが、真剣な表情の俺達に、信じざるを得なくなっていった。

 

「それがマジなら、俺……」

「最悪、だな」

 

 しわすの説明ならともかく、長い付き合いの俺やかがみの話だから、信じる気になったのだろう。

 疑っていたあきも、捻くれ者のはやとですら、罰の悪い表情で自分を責めていた。

 

「ゴメンね、月岡君……変な誤解をして」

「すみません、月岡さん」

「ごめんなさい」

 

 みちる、みゆき、つかさはすぐ、しわすに頭を下げてくれた。

 頭を下げられることに慣れてないしわすは、困った風な表情を浮かべていたが。

 

「俺、気にしない。けど、これで皆、友達?」

「勿論!」

「おう! よろしくな、しわす!」

 

 みちるとあきが満面の笑みでしわすに答える。他の皆も、頷いてくれた。

 また一度に大勢の友達が出来、しわすは嬉しそうに笑った。

 しわすの誤解も解いたところで、改めてB組とC組の顔合わせをすることになった。

 

「こっちがオタクのこなた、改めて妹のつかさ、学年トップのみゆき」

「体力バカのあき、面倒臭がりのはやと、お坊ちゃんのみちるだ」

 

 まずはB組の面子を簡単に紹介する。こうして見ると、濃い人物ばかりのような気がしないでもない。

 次にC組。こちらも濃さでは負けていないだろう。

 

「グータラの日下部……の保護者の峰岸、動物好きの月岡よ」

「よろしく」

「うん!」

 

 一通り紹介し終えると、早速みちるとしわすが仲良く握手を交わしていた。この2人、根は純粋だから仲間意識を感じるのかもしれないな。

 

「おう、ちびっ子。普段「ウチの柊」が世話んなってるみたいで。こんな時期だけどよろしくなっ」

「いやいや、こちらこそ「ウチのかがみ」がクラスで仲良くして貰ってるみたいで。よろしく~」

 

 一方、こなたと日下部は仲良くする素振りを見せつつ、何故かかがみを取り合っていた。どちらも「ウチの」を強調しているし。

 うーん、お気に入りの玩具を取り合う子供同士に見えなくもない。

 

「アホらし」

 

 当のかがみはというと、呆れ返っていた。本人の意見ガン無視だからな。

 ……彼氏の立場としては、ここで取り合いに参戦するべきだろうか。

 

「柊ちゃん、人気者だね~」

「えっ!? んなこと言われても、大体アイツ等は何か間違っていると言うか、所有権主張されても嬉しくないわよ」

 

 しかし、峰岸に指摘されるとかがみは照れくさそうに髪を指に絡めながら、素っ気無い態度で振舞おうとした。

 照れてるかがみは、正直に言って可愛いな。

 

「んー? 柊照れてんのー? 嬉しいのー?」

「かがみは可愛いね~」

「だからそんなんじゃ……さわんな!」

 

 そんなかがみの可愛さと本音はこなたと日下部にもバレバレだったようで、双方からからかわれることになったのだった。

 終いには髪で遊ばれる始末だ。やっぱ、かがみは玩具の扱いな気がする。

 何はともあれ、知り合い同士が仲良くなり、一層賑やかになったような気がする。

 特に、しわすが改めて俺達の輪の中に入れたことはとても喜ばしいことだ。

 

「一件落着、だな」

 

 こなたと日下部、かがみのやり取りを眺めていると、あきが話しかけてきた。

 確かに、一件落着で肩の荷が下りた感じはあるな。

 

「しわすのこと、話してくれてありがとな」

 

 あきは珍しく、真面目な態度で話した。それもそのはず、あきは友人に対しての情は厚い。いつもはふざけているが、友人のことを思いやることの出来る奴だ。

 

「そう思うなら、お前が子犬を引き取ってやれよ」

「いやぁ、ウチはペット禁止なんよ。親父が食いそうになるから」

 

 どれだけ豪快なんだ、お前の父親は。

 犬を食いそうな人間のいる家には預けられない。そんなことをすれば、しわすはショックで寝込みそうだ。

 

「……ま、今後はアイツの手助け、何か考えとくよ」

「不用意に秘密をバラすなよ」

「お、おう」

 

 あきのことだ、きっと何かの拍子に秘密をベラベラと話すかもしれない。

 一応忠告しておくと、あきは顔を引き攣らせながら頷いた。コイツは……。

 合流し、仲良く談笑する仲間達を見ながら、山積みになっている問題を憂う俺であった。




どうも、雲色の銀です。

第16話、ご覧頂きありがとうございました。

今回は桜藤祭編2nd、3年合流回でした!

原作では冬辺りに顔を合わせていましたが、今後の展開用に早めさせて頂きました。
友達増えるよ!やったね、しわすちゃん!

あと、こうちゃん先輩が初登場しましたが、特に役割はないです。
絡む相手が少ないのが悩みどころです。

次回は、いよいよ桜藤祭編メインで動く2人の回!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。