すた☆だす   作:雲色の銀

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第13話「星屑」

 今はもう何時になったんだろう?

 明かりのない部屋で皆が寝静まっている中、私だけが寝付けないでいた。

 

 私達はみちる君の別荘に遊びに来ていた。

 初日の今日は、去年の約束通りはやと君はクロールを教えてくれたり、大浴場でみちる君がうつろ君になって騒ぎになったり、バーベキューを楽しんだりした。

 その後、遊び疲れたのか皆すぐに寝ちゃったんだけど……。

 

「寝れない……」

 

 私だけ、どうしても気になることがあって眠れなかった。

 私は隣の部屋がある方に顔を向ける。

 気になっていたのは、はやと君のことだった。

 いつもの態度ではあったんだけど、お風呂から上がってから私に素っ気無かったような気がしていた。

 勿論、普通に話はしてくれるんだけど、私と視線を合わせないようにしていたような……勘違いならいいんだけど。

 

「はやと君」

 

 ポツリと、私は彼の名前を呟く。

 今のはやと君は、昔からは考えられないくらい笑うようになったと思う。

 面倒臭がりでちょっとだけ意地悪な所は変わらないけど、本当は優しい男の子。

 

 私は、彼のことが好き。

 けど、告白する勇気が出なかった。

 一度だけ、バレンタインの時に告白しようとしたことはある。

 本命チョコを渡して告白する……つもりだったんだけど、何故か義理チョコと勘違いされて、そのまま流れてしまった。

 それから三年でも同じクラスになって、一緒にいられる反面、告白の機会を作れないままでいた。

 

「あぅ……」

 

 きっと、今の私は顔を真っ赤にしていると思う。

 壁一枚を隔てて眠っている彼を想いながら、もう暫くは寝れないままの私だった。

 

 

☆★☆

 

 

 別荘2日目。

 流石に連日海水浴だけでは何とも言えないので、昼食後に近くの山を散策することになった。

 この辺は海だけじゃなくて山まであるのか。

 

「あ、でも今から行く山はウチのじゃないから、山菜とか勝手に取っちゃダメだよ」

 

 山の麓まで行く車の中、みちるに注意される。

 ま、近くと言ってもビーチから車で行く程離れてりゃあな。

 

「……チッ」

「はやと!?」

 

 視線を逸らし、軽く舌打ちする。

 自然溢れる山の野菜……いい天麩羅になりそうだと思ったのにな。

 

「雑草とかこっそり取ってくのも」

「ダメだってば!」

 

 雑草ならばと提案したが、透かさずみちるに却下される。

 何だよ、その山の持ち主は意外とケチだな。

 

「冗談はそのくらいにしなさいよ」

「いいや、あの目は本気で取っていくつもりだったな」

 

 冗談だと思っているかがみの横では、やなぎが呆れ顔で俺を見ていた。

 放っておけ。雑草の天麩羅で食い繋ぐ俺の苦労が分かるかっての。

 

「お、ここっぽいな」

 

 そんなやり取りをしている内に、前を走っていたたけひこさんの車が駐車場に入っていく。

 後に続いていた海崎さん率いる俺達も、麓の駐車場へと向かった。

 

 

 

 山と言うだけあって、木々が生い茂った空間はさっきまで俺達がいたビーチとはまた違う空気が流れていた。

 

「うーん、自然の中って感じがまたいいな!」

 

 我等が特攻隊長、天城あきはスイスイと先へ進んでいく。

山登りのような、体力を使うことが得意なだけあってまだまだ余裕だ。

 

「ぜぇ、ぜぇ……」

 

 一方で、我等がもやしの冬神やなぎ君はものの見事にへばっていた。

 登り始めてまだ30分も経ってないはずなんだけどな。

 

「ほら、しっかりしなさい」

「スマン……」

 

 息を切らすやなぎの傍にはかがみが付いている。

 こうして見ると、豪腕な妻の尻に敷かれているダメ夫の図のようである。

 

「キキィーッ! アーマーゾーンッ!」

「鍛えてますから、シュッ!」

 

 前方では、こなたが腕を斜めに交差させていたり、あきが指で空を切るようなポーズを取っていたりしていた。

 何をしているのか、今の俺には理解出来ない。

 

「元気だね」

 

 みちるはそんなヲタカップルを見て呑気に微笑んでいた。元気すぎる気もするけどな。

 

「キャッ」

 

 その時、みゆきが小さな悲鳴を上げた。

 どうやら、足を滑らせたようだ。日の当たらない山の地面は、湿って滑りやすくなってるからな。

 

「大丈夫?」

 

 しかし、みゆきは隣にいたみちるに腕を支えられていた為、転ぶことはなかった。

 さり気ないところでこういうエスコートが出来る辺り、みちるはやっぱり王子だよな。

 

「は、はい……ありがとうございます」

「どういたしまして」

 

 意中の相手に助けられ、みゆきは頬を染める。

 これで平然としていられるみちるもまた、流石の鈍感っぷりである。

 

「みちる、また滑ったら危ないし手を繋いであげたら?」

「うん、そうだね。みゆきが嫌じゃなければ」

「はっ、はい! 是非お願いします!」

 

 たけひこさんのナイスな提案のおかげで、みゆきはみちると手を繋いで歩くこととなった。これで少しは進展できるといいんだけどな。

 

 

 あきとこなた、やなぎとかがみ、みちるとみゆき。それぞれが仲良く山登りを楽しんでいる。

 そんな中で、俺はつかさの隣を歩くことしか出来ずにいた。

 

「……疲れてないか?」

「うん、平気だよ」

 

 交わす会話と言えば、こんな素っ気無いものばかりだ。

 

 昨日、つかさに告白すると決めてから、俺はずっと悩んでいた。

 一体、なんと告白すればいい?

 どうやって、俺の想いを伝えればいい?

 こういうことに疎かった俺は、どうすればベストなのか分からずじまいだった。

 

 俺はどうせ、具体的な取り柄なんて持ち合わせていない男だ。

 あきのように運動神経抜群でスポーツ万能ではない。

 やなぎのように頭脳明晰で学年トップクラスの秀才でもない。

 みちるのように容姿端麗でお金持ちの完璧超人なんかじゃない。

 つかさは俺に頼ってくれるが、目立つ長所なんてないし付き合うメリットなんてまるでない。

 なので、せめて告白のシチュエーションの力ぐらいには頼りたいのだ。

 

 いっそ、山の頂上で告白なんてのも考えた。

 だが、今は回りに大勢いる。特に、かがみの前で告白なんてすれば、上から突き落とされるかもしれない。

 第一、そんな大胆な真似が簡単に出来たら苦労なんてしない。

 結局、いい案が1つも浮かばないまま時間だけが過ぎていた。

 こんなことなら、やっぱり告白は後回しにするか……?

 

 

「ゆきちゃん、すごく嬉しそうだね」

 

 

 考えを巡らせていると、つかさが小声で話し掛ける。視線の先には、仲良く歩くみゆきとみちる。

 コイツ等は付き合っている訳ではないが、理想のカップル像に見えなくもない。

 

「だろうな。こんな時ぐらいしか積極的になれなさそうだし」

 

 つかさに返した自分自身の言葉にハッとする。

 自分にはこんな時ぐらいしかチャンスなんてないんじゃないか?

 俺はふと、あき達に目をやる。

 カップル同士、楽しそうな時間を過ごしている。昨日のビーチでも、去年以上にコイツ等は楽しんでいた。正直、少しは羨ましく思える程。

 何より、昨日のうつろの騒動だ。うつろだけでなく、他にもつかさを狙っている奴が陵桜にいるとしたら?

 こんなに近くにいるのに、何時の間にか他の奴に取られたなんてことになれば笑えない。

 

 自分で決めたじゃないか。つかさに告白すると。

 

「つかさ」

「何?」

 

 俺は何も考えが浮かばないまま、つかさの名前を呼ぶ。

 どうせなら、ここでわざと皆とはぐれて告白するなんて卑怯なこともしていいかもしれない。

 

「俺に」

「頂上だぁぁぁぁっ!」

 

 俺の言葉を遮るかのように、前方から叫び声が聞こえる。

 一足先に進んでいたあきたちが頂上に到達したらしい。

 

「はやと君、頂上だって!」

「あ、あぁ……」

 

 すっかりはぐれるタイミングを逃した俺は、喜ぶつかさに苦笑で返すことしか出来なかった。

 

 

 

 頂上から覗く景色は最高、とは言いがたかった。

 

「雲で何も見えないねー」

 

 こなたの言う通り、山頂を覆う雲が景色を阻んでいたのだ。

 ま、唐突な山登りなんてこんなもんだよ。

 

「うーん、もうちょっと天気がよければ緑いっぱいの景色が見れたんだけどね」

 

 たけひこさんも残念そうに首を傾げる。俺達はハズレを引いたってことか。

 

「ま、自然を満喫出来たってことで!」

「そ、そうだな……」

 

 残念な結果でも、あきは元気そうに頷いた。満喫どころか、死にかけてる(もやし)が一名いるんだが。

 

「じゃ、写真でも撮りますか」

 

 海崎さんが珍しくいいことを言ったので、俺達もそれに肖る。

 折角の山頂だし、集合写真ぐらいは撮ってもいいだろう。

 

 

 

 山からの帰り道。

 登山に疲れて眠っているあき達を他所に、俺は海を眺めながらあることを思い出していた。

 去年、夜明けの海でこなたと話した時のことだ。

 珍しく朝早くに目が覚めた俺は、夜が明けたばかりの海を眺めていた。そこは波の音が静かに響く不思議な空間だった。

 ああいうのも、きっとロマンチックとかいうものに入るのだろう。

 

「……ま、文句はあるまい」

 

 あのねぼすけに夜明けはキツいので、夜中に呼び出すことにした。

 ここから先は、俺の真剣勝負だ。

 

 

☆★☆

 

 

 二日目もあっという間に過ぎてしまった。

 山から戻るとすっかり日が暮れていて、女子が先にお風呂を貰うことになった。

 因みに大浴場は男女で別れていたんだけど、昨日のうつろ君の騒動もあって、入るのは別にしようってなったの。

 

 夕食のバーベキュー後には皆でゲームをしたり、怖い話で盛り上がったり……私は怖い話苦手なんだけど。

 とにかく、寝る時間まで盛り上がった。……はやと君以外は。

 はやと君もゲームや話に混じって楽しんでいたのだけど、少し時間が出来ると珍しく携帯を眺めていた。

 はやと君、普段は携帯なんて電気を食うからあまり使わないって言ってたのに。

 

「はぁ……」

 

 布団の中で、今日もはやと君が気になって眠れないでいた。

 山登りの時も、いつも以上に素っ気無かったし。ひょっとして、私が何か怒らせるようなことをしたんだろうか。

 

ヴヴヴヴッ

 

 その時、私の携帯がメールを受信した。

 こんな時間に誰からなんだろう?

 

「え……?」

 

 確認すると、メールははやと君からだった。

 さっき、携帯を眺めていたのはこの文を送る為だったのかな?

 私はドキドキしながら、書かれていた内容を読む。

 

〔用がある。今から誰にも気付かれずに外の一番高い木まで来い〕

 

 今から、という部分にビックリしつつも、私はすぐに外に出る準備をし始めた。

 何も疑問に思わなかったのは、はやと君のことがずっと気になっていたからかもしれない。

音を立てないように部屋の外に出てから、私は急いではやと君の元へ向かった。

 

 

☆★☆

 

 

 夜の浜辺、湿っぽい暑さに冷たい海風が心地よく感じる。

 

 俺は別荘から少し離れた場所で、木に寄り掛かりながらつかさを待っていた。

 別荘のすぐ傍でなんて待っていたら、誰かに見つかって末代までネタにされるからな。

 最も、呼び出しておいてなんだが、つかさが誰にも見つからずにここまで来れるかという心配もあるけど。

 

「はぁ……」

 

 メールを送り終えた携帯で時間を確認しつつ、溜息を吐く。

 今からしようとしていることに、改めて顔が熱くなる。

 何時から、俺はつかさのことを見ていたんだろう。

 自覚したのは父さんとの件で世話になった時。あれはつかさや、柊家にかなり心配を掛けた。

 気付けば、つかさの優しさにどっぷり浸かり込んで、甘えっぱなしだったな。

 

 お前はどうしてそんなに優しいんだ?

 どうして無様な俺に寄り掛からせてくれるんだ?

 

 

「はやと君、お待たせ」

 

 

 思い返していると、いつものほんわりした声が掛かる。

 つかさはやや息を切らしながら、こちらに駆け寄ってきた。その様子だけで、急いで来たことが分かる。

 ふとつかさの後ろに目をやる。しかし、後を付けられている気配はない。俺の心配は杞憂に終わったようだ。

 

「それで、用って何?」

 

 こんな夜中に、俺が呼び出す用事なんて、見当もつかないだろう。

 俺は役目を終えた携帯をポケットにしまうと、浜の方へ歩き出した。

 

「ちょっと、散歩をしないかってな」

 

 火照る体に風を受けて冷ましながら、俺は首を傾げるつかさに微笑んだ。

 

 

 

 暫くの時間、俺達は浜と海の間を気ままに散歩していた。

 電灯もない海辺では月の淡い光が周りを照らし、夜空を星々が煌めく。

 都会じゃ絶対見られない幻想的な光景の中、波の音をBGMにして俺とつかさはゆっくりと流れる時間を楽しんだ。

 

「夜の海も綺麗だよね~」

 

 つかさはスカートの裾を上げながら、パシャパシャと海水を踏む。

 動きはぎこちないが、踊っているようにも見える。

 

「わっ!?」

 

 その時、つかさが砂で足を踏み外す。このまま転べば、全身に海水を浴びてしまうだろう。

 しかし、つかさがびしょ濡れになることはなかった。

 

「気を付けろよ」

「え? あ……」

 

 つかさが恐る恐る目を開けると、目の前には呆れている俺の顔。

 転んだつかさの身体を俺が抱き支えていたのだ。

 傍から見れば、夜の海で抱き合っているようにしか見えないだろう。

 

「ご、ゴメンね!」

 

 現状を把握したつかさは、闇夜でも分かる程顔を真っ赤にして、慌てて俺から離れた。

 俺としては少し残念なような、可愛いつかさを見れて得したような。

 

「ほら、行くぞ」

 

 俺は呆れ顔のまま、先へ歩き出した。

 内心、滅茶苦茶恥ずかしかったけど。

 ハプニングとはいえ、抱き合う所まで行ったのだ。あのまま告白出来れば、どんなに楽だったことか。

 

 

 どのくらい歩いただろうか。

 俺は歩きながら想いを言葉にしようと試行錯誤を繰り返していた。

 しかし、中々形にすることが出来ない。

 「好きだ」の一言だけでは、殺風景すぎるし、凝り過ぎた言葉ではつかさが理解出来るかどうかも分からない。

 格好付けて玉砕、は一番あんまりな結果だし。

 

「はやと君、あそこ」

 

 考えが堂々巡り気味になり出した時、つかさがある場所を指差す。

 そこは、去年皆で探検した洞窟だった。多少入り組んでいたが、結局何もなかったんだよな。

 

「覚えてる? 結構ワクワクしたよね」

「ああ」

 

 思い出話に花を咲かせるつかさ。ワクワクって、終始ビビってたじゃねぇか。

 けど、確かに楽しかった。ガキの頃みたく冒険してるって感じがした。

 

「あの時は……はやと君に傍にいてもらってたよね」

 

 俯き、頬を染めながらつかさは話を続ける。

 ビビりまくった挙げ句、俺の手をずっと握ってたっけなぁ。

 

「けど、俺の所為で皆とはぐれたしな」

「そ、それははやと君が私を心配してくれてたからだし!」

 

 軽い自虐で返すと、つかさは慌てて俺のフォローに回った。

 けど、つかさが俺を頼ってくれたのは素直に嬉しかったな。

 

「あの時だけじゃなくても、はやと君にはお世話になりっぱなしだったし……」

 

 つかさの言葉に、俺はコイツとの出来事を改めて思い返した。

 俺が恋心を自覚する前から、俺はコイツとずっと一緒にいた。

 

 最初は放っておけない危うさみたいなのを感じたからか、手のかかる妹みたいなものとして面倒を見てきた。

 それが、何時の間にか俺がつかさに甘える形になっていた。

 互いが互いを必要とするようになり、そんな関係が当たり前になっていた。

 

「そうだな」

「え?」

 

 俺はつかさの言ったことに対して頷く。

 

「けど、俺もお前に世話になりっぱなしだった。これでお相子だ」

 

 ああ、そうか。

 いつから好きかなんて関係なかった。

 俺はつかさと触れ合っていく内に、自然と好きになって行ったんだ。

 それはきっと、つかさも同じなのかもしれない。

 

「去年の三月」

「え? ……あっ」

 

 唐突に話を変えた為、つかさは目をパチクリとさせる。

 だが、すぐに話の意図に気付いたようだ。

 

 去年の三月。それは、俺とつかさが初めて出会った時だ。

 俺がいつも通り屋上で寝ていて、昼飯を食いに起きた時。丁度、つかさも同じ場所にいたのだ。

 お互いに名前も顔も知らない。あの一瞬、初めて顔を合わせただけなのに、やけに鮮明に印象に残っていた。頭に鳥の羽根を乗っけていたからか。

 

 ともかく、あの出会いがなければ、今こうして一緒によるの浜辺を歩くことなんてしていなかった。

 俺達の出会いがなければ、俺と父さんの関係も変わらなかった。

 

 

 

「あの星屑のようにちっぽけな俺達の出会いは、奇跡なのかもしれないな」

 

 

 

 俺は夜空に輝く星々を見上げる。

 世界の人口は当然、陵桜の生徒数なんかと比べても、俺とつかさはあの星屑のようにちっぽけなものだろう。

 そんな俺達の繋がりは、もしかしたら奇跡の産物かもしれない。

 俺がかつて、親の仇のように嫌っていた「奇跡」。正直、今も嫌いだ。

 けど、その「奇跡」が俺と、俺の好きな奴との繋がりだとしたら、信じない訳にはいかない。

 

 

「つかさ。お前に会えて良かった」

 

 

 俺はつかさの眼をじっと見つめる。暗い夜の中でもハッキリと分かる紫の瞳は、まるで吸い込まれそうな程美しく感じた。

 

 愛おしい。コイツの全てが愛おしい。

 もし翼があったら、コイツを抱き締めて飛び立ちたい。

 ……いや、違うな。

 

「つかさ。お前が、俺に翼をくれていたんだな」

 

 俺に「父さんと自分を許せる強さ」と「誰かを愛する勇気」をくれたのは、他でもないつかさだった。

 つかさが、俺の翼になっていたんだ。

 

 

「つかさ。俺は……」

 

 

 涼しい夜風も、静かな波音も、揺らめく海に反射する月明かりすら、俺の背中を後押ししてるように感じた。

 つかさは何も言わず、優しい笑顔で俺の言葉を待つ。

 

 

「お前が好きだ」

 

 

 俺が告白をすると、つかさは答えるより先に涙を流した。

 少し前の俺なら慌てていたんだろうが、今なら分かる。この涙は、驚きと喜びから溢れ出たものなんだと。

 

「ぐすっ、ごめんね、急に泣いちゃって。嬉しくて、でも止まんなくて……」

 

 言葉を紡ぎながら、涙を拭うつかさ。

 謝る必要なんかない。分かってるから。

 

 

「私も、はやと君のこと……好きです」

 

 

 つかさは拭いきれない涙を流したまま、微笑んで返事をくれた。

 漸く想いが通じ合った。そう思った時、俺はつかさを強く抱き締めていた。

 転んだつかさを支えた時よりも強く、俺なんかよりも細くて華奢な体を抱える。

 

「は、はやと君……」

「あ、悪い。苦しかったか?」

 

 つかさが声をあげ、俺は腕の力を弱める。

 いかん、感極まっていきなり抱き付いてしまった。

 しかし、つかさは首を小さく横に振る。

 

「ううん……その、もっとして?」

 

 至近距離での上目遣いに、俺はノックアウトされかけた。

 反則だ。卑怯なくらい可愛い。

 俺がもう一度強く抱き締めると、今度はつかさも腕を回して来た。

 

「俺、あきみたいに運動神経よくないぞ」

「私より体育上手だよ」

「やなぎみたく頭もよくない」

「私もだからお互い様」

「みちるみたいにお金持ちでもイケメンでもない」

「私にとっては誰より格好良いもん」

 

 不安要素を取り除くように、1つずつ尋ねていく。自分がアイツ等より劣っていることを知っていたし、今まではどうでもいいとも思っていた。

 けど、つかさは俺の言葉を優しく消してくれる。特に最後の言葉はかなり嬉しい。

 あぁ、コイツはこんな俺のこと好いてくれているんだな。

 

「つかさ、好きだ。愛してる」

「私も。はやと君大好き」

 

 お互いに耳元で愛を呟き合う。ムズ痒くも、幸せな2人だけの時間。

 

 夜の浜辺で結ばれた星達を、月の光が祝福するように照らしていた。




どうも、雲色の銀です。

第13話、ご覧頂きありがとうございました。

今回は待ちに待った、はやとの告白回でした。
連載開始時から練りに練りまくったシチュエーションでもあります。
世界から見れば星屑のようにちっぽけな存在だった2人が、偶然の出会いからこんなにも深く繋がれたことは奇跡に等しい素晴らしいことだった。この小説のタイトルの由来も、実はここから取っています。

また、この回は1st Seasonでのはやととつかさの集大成ですね。
母親を亡くし、父親と奇跡に絶望したことで「翼」を失ったはやとが、つかさと触れ合ったことで取り戻していた。この件は1stの第11話を読み直すと、意味がよく分かると思います。


次回は別荘最終日!

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