すた☆だす   作:雲色の銀

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第6話「興味津々」

 最近、妙な異変が2つあった。

 1つはかえでが明らかに以前よりベタベタ引っ付かなくなってきたのだ。

 

「昨日のドラマ見たか? いやぁ、ありゃハズレだな」

 

 それでも俺からすればウザいことに変わりはない。だが、笑顔を強要したり過剰なボケをされるよりはマシになった。

 かえでの急な変化に、一体何があったのかは知らない。聞く気もないしな。

 

「ドラマは見ない」

「ふーん、原作が小説だって言うから見たと思ったんだけどな」

 

 人の会話が嫌いな俺はドラマは疎か、テレビもニュース以外は見ない。聴く音楽もインストゥメンタルだけだ。

 それに、原作が自分の愛読書ならイメージが崩れるし、ロクなことはない。

 

「岩崎達はどうだ?」

「……昨日は見てない」

 

 そしてもう1つの変化。それは、岩崎みなみがかえでと会話をするようになったことだ。

 以前までは一目で分かるように避けていたが、最近になってまともに話してるのだ。

 相変わらず、かえでの言うような笑顔ではないがな。

 

「私も見てないかな。昨日は宿題もあったし」

「ゲッ!? すっかり忘れてた! つばめ~」

「黙れ」

 

 宿題を忘れたことに気付いたかえでは俺に泣きついてきた。少しでも変化を認めてやったらこれだ。

 騒がしいかえでを押さえていると、チャイムが鳴る。残念だが、自業自得だ。

 

「席付けー」

「ぐはっ!?」

 

 死亡確定したかえでは力なく机に突っ伏した。ご臨終だ。

 そういえば、かえでと岩崎の変化はほぼ同時期だったはずだ。本当にコイツ等に何かあったのか?

 ま、俺にとってはどうでもいい話だが。

 

 片や、さとるはかえでとは対照的にいつも静かに本を読んでいる。

 教室内がどんなに騒がしくとも、奴は書いてある内容に集中していた。時々俺とかえでのやりとりに笑ったりするけど。

 静かな奴の方が俺にとって印象がいい。

 

「なぁなぁ、さとるの奴何考えてんだろうな?」

 

 授業が始まったにも関わらず、かえでが前から話しかけてきた。

 知るかよ、そんなこと。いいから前向け。

 

「ああ見えて、実はヤバいこと考えてたりな。読んでるのも官の」

「黙れ」

 

 かえでの変な妄想に付き合うのもバカバカしい。俺はかえでの言葉を遮ってお決まりの台詞を言い放った。

 

 けど、ここまでノーアクションな奴も珍しい。見習いたいくらいだ。

 少しだけなら、さとるが何を考え、日々に何を思っているか気になった。だが、俺は他人に干渉はしないしさせない主義だ。

 黙々とノートを取るさとるを横目で見つつ、俺も授業に集中した。

 

 

☆★☆

 

 

 本のページをめくる。

 

 俺、石動さとるは本に書かれている内容を記憶していた。

 気になった知識は吸収しないと気が済まない、俺の癖は周囲から散々不思議がられた。何故そんなに気になるのか?どうして調べたがるのか?

 

 本のページをめくる。

 

 俺には能力が2つある。1つは覚えた知識は忘れず何時でも引き出せること。この能力のおかげで進学校である陵桜学園にもすんなりと入れた。

 もう1つは、他人の考えていることが大体読み取れること。細かくは無理だが大ざっぱな考えならば表情から分かる。

 

 本のページをめくる。

 

 例えば、つばめは今日もイライラしている。これはいつもと変わらない。

 だが、かえでは今までと違う。笑顔への執着が薄れ、相手を楽しませようとしている。つばめと本当に仲良くなろうとしていた。

 更に、岩崎みなみとの関係。みなみは他人との隙間を必要以上に埋めようとしていたかえでを苦手としていた。

 しかし、それを辞めただけで会話をするようにまで親しくなった。

人間はそこまで早く変われない。かえでの変化もみなみの変化も、意識して行われたものだ。

 

 本のページを閉じる。この本の閲覧は終えた。

 

 今、俺の興味をそそっているのは2人の変化だ。

 早速、俺はかえでに何があったかを問うことにした。

 

「かえで、聞きたいことがある」

「おっ、珍しいな。さとるの方から話しかけてくるなんて」

 

 かえではいつも通りの笑顔で対応した。が、どうやら俺が声を掛けたことに驚いているようだ。隣にいたつばめも、目を見開いて驚いていた。

 ふむ、そういえば俺からこの2人の会話に加わることはなかったな。だが、そんなことは今はどうでもいい。

 

「かえで、お前最近岩崎みなみと何かあったか?」

 

 俺の率直な質問に、かえでの笑顔が凍る。予想外の質問だったらしい。

 つばめもかえでの方を向いていることから、コイツ等の変化が気になっていたようだ。

 

「さ、さぁ? 何のことやら」

 

 しかし、かえではバレバレの嘘で誤魔化そうとした。聞かれたくない内容のようだ。ますます気になる。

 

「答えろ。お前が答えないのなら、みなみに聞くまでだ」

「げっ!?」

 

 みなみの名前を出され、更に狼狽えるかえで。

 まぁ、みなみに聞いたところで、彼女も答えないだろう。俺がまずかえでに聞いたのも、みなみより答える可能性があるからだ。

 

「……言わなきゃダメか?」

「ああ。気になって仕方ないんだ」

 

 打つ手がないかえでは悔しそうな顔で俺とつばめを見る。そこまで話したくない理由なのか。

 

「ん?」

 

 ふと視線を逸らすと、名状し難い謎のオーラを放つ物体が目に入った。

 それはこちらを見ながらも必死にメモのようなものを取っている。

 

「くぅぅ、これはイケる!」

 

 そのダークマターの正体は、俺のクラスメイト、田村ひよりだった。

 先程まで、ゆたかやみなみと談笑していたと思っていたのだが……。怪しげに光る眼鏡の奥からは確実にこちらを見ている。

 

 気になる。

 

 かえでの精神変化も気になるが、ひよりから溢れる悍ましい邪気のような何かにも魅かれる。

 

「……さとる?」

 

 すっかり放置されたかえでが葛藤する俺に心配そうに声を掛ける。

 ああ、俺はどうすればいいんだ! どちらを優先させればいい!

 

 

「なぁ、さとる。手分けしようぜ?」

 

 

 頭を抱える俺に、珍しくつばめが提案する。

 

「俺がかえでから聞き出すから、お前はあっち行って来い」

 

 俺が何に悩んでいるか察したつばめは、俺にひよりの方へ行くよう言った。

 そうか、その手があったか。思えば、つばめもかえでの変化が気になっていた。これは好機だ。

 

「任せた。感謝する」

「いいって」

 

 いい案を出したつばめに礼をいい、俺は未だメモを取り続けているひよりの方へと向かった。

 

「さーて、かえで君。1度お前より優位に立ってみたかったんだよなぁ」

「ま、待てつばめ。落ちつ」

「今日は黙らなくていい。さっさと吐け」

 

 俺が去った後では、つばめによる拷問が行われたそうだ。

 

「ひより」

 

 俺が名前を呼ぶと、さっきまで邪気を纏っていたひよりはパッと元に戻り、同時に顔を青白くした。

 

「い、石動君!? 何時からそこに!?」

「今だ」

「えーと、決して如何わしい妄想をしてた訳じゃ……」

 

 俺がまだ質問をしていないのに、あたふたと言い訳を述べるひより。一体何を焦る必要があるんだ?

 

「何をメモしていたんだ? どうやったらあんな奇妙なオーラを出せる?」

「へ!? い、いやぁ……」

 

 俺が聞きたかったことを質問をすると、ひよりは更に顔色を悪くし、汗を滝のように流した。

 どうやら一連の理由はメモの内容にあるらしい。

 

「そのメモ、見せてくれ」

「だっ、ダメ! これだけはどうか許して!」

「えっと、石動君。その辺にしておいた方が……」

「本気で嫌がってるから……」

 

 ひよりは必死にメモを隠す。すると、近くにいたゆたかとみなみが静止に入った。

 

「……確かに嫌そうだが、何故そこまで拒否する? 見せるだけならば大して損にもならないだろう?」

 

 ひよりが秘密を守ろうとすることに、俺は首を傾げる。

 メモの中身は国家機密でもないだろう。仮に著作物だとしても、俺はその中身を閲覧するだけだ。興味のない内容ならばすぐに忘れるし、興味があろうと盗むことはしない。

 

 俺の考えとは裏腹に、ひよりはメモを抱えたまま教室を飛び出してしまった。

 

「……分からない。何故ひよりはあれほど必死に」

「そりゃお前、プライバシーの問題だろ」

 

 思考する俺に答えたのは、さっきまでと違い真面目な表情をしたかえでだった。

 

「中身はどうあれ、人には他人に見られたくないモンを一つや二つ持ってんだよ。お前だってそうじゃないのか?」

 

 確かに、プライバシーの意味は分かる。人間は羞恥心などから趣味や性癖を隠すものだと。

 だが、俺にはどうしても理解出来ないものがあった。

 

 

「俺にそんなものはない」

 

 

 かえでの質問に答え、俺はひよりを探しに教室を出た。

 

 

 俺は「感情」というものが理解出来ない。

 相手の表情から読み取れても、それがどんなものかを理解出来ない。

 喜怒哀楽や羞恥心、恋愛。持っていない訳ではないのだろうが、俺にとって感情とは極めて薄いものだった。

 俺を占める要素の大半が知識欲と記憶だからかもしれない。

 

 俺は質問をするとよく人の顰蹙を買う。もしかしたら、ひよりも怒っていたのかもしれない。

 それでも俺はこの知識欲を押さえられなかった。

 

 

 ひよりを探す為に校内を歩き回る。

 もしも怒りを買ったなら謝る必要がある。だがひよりが隠しているものを知りたい気持ちは押さえられない。

 これでは堂々巡りだ。

 

 俺がよく行く場所、図書室へ向かう。ここならば、ひよりが好きなライトノベルもある為、いるかもしれない。

 

「……いないか」

 

 だが、いたのは図書委員と数人の一般生徒。メガネを掛けた1年女子の姿は見えなかった。

 

 

 

「よう、1年」

 

 

 

 踵を返そうとする俺に、誰か知らない男子が声を掛ける。

 空色の髪に緑の瞳を持った男は、何故か植物図鑑を開いている。実験にでも使う気か?

 

「お前だよ、今入ってきた黒髪の」

 

 反応を返さなかったからか、男子は明らかに俺を指して呼んだ。

 俺の知った顔ではないはずだが、向こうは俺を知っている。

 

「誰だ?」

「俺は白風はやと。3年だ」

 

 白風はやと、と名乗った人物は俺に対し確信を持ったように頷く。

 というか、先輩だったのか。

 

「白風先輩、何の用ですか? それに何故俺のことを知ってるんですか?」

「質問は1つずつにしろ。あと、俺のことははやと先輩でいい」

 

 先輩は付けるんですか。

 はやと先輩はイマイチ考えが読めない人物だった。

 

「では……何故俺のことを知ってるんですか? 初対面のはずですが」

 

 言われた通り、俺はまず先輩が俺を知っていた理由を訪ねた。

 すると、はやと先輩は携帯電話を取り出す。

 

「お前の友人、つばめの知り合いだからだ。お前のことはメールで聞いたぞ。知識欲の塊だってな」

 

 なるほど。つばめの差し金だったか。しかし、あの人付き合いの悪そうなつばめにこんな先輩がいたとは。

 

「そういや、かえでの変化の要因を知りたがってたらしいな。あれも俺だ」

「何ですって?」

 

 かえでとみなみを変えたのが、この先輩だと?

 俺の興味の対象がかえでからはやと先輩へとシフトする。

 

「教えてください。何をしたのか」

「やだ」

 

 しかし、俺とは逆に先輩は興味なさそうに図鑑のページをめくった。

 何故、この学校には秘密にしたがる人間が多い?

 

「何故です? 秘密にするほどの内容なんですか?」

「秘密にする気はねぇよ。かえでもつばめにゲロったみたいだし」

 

 もう聞き出した後だったか。メールには先輩がかえでに関与したことへの内容も書いてあったのだろう。

 しかし、俺は段々モヤモヤしてきていた。はやと先輩はどうして俺に教えてくれないのか。

 

「俺はただ、お前には教えたくない。それだけだ」

 

 はやと先輩は軽い態度でそう言った。

 教えたくない? たったそれだけの理由で俺の知る権利を奪うと?

 

「……嫌がらせですか?」

「どう取るのもお前の自由だ。因みに俺はお前の探してる奴の居場所も知ってる」

「ふざけないでください」

 

 俺ははやと先輩を睨む。この人は何がしたいんだ? 俺をからかって楽しんでるのか?

 

「へぇ、なんだ。ちゃんと持ってんじゃん」

「何がですか」

 

 するとはやと先輩は俺の様子を見るなり態度を変えて言った。訳が分からない。

 だが、次のはやと先輩の真意が分かった。

 

「「怒り」だよ」

「え?」

「感情、ちゃんと持ってんじゃん」

 

 そう言われ、俺はハッとする。理解出来なかったはずの怒りを、自分の中に感じていた。

 はやと先輩は、俺に本当に感情がないのかを試していたらしい。

 

「読んだものを記憶出来る。表情が読める。そこまで出来て感情の理屈が分かんないなんて、ただの機械と変わんねぇ」

 

 はやと先輩は植物図鑑を閉じ、俺を見る。

 

「お前が今やるべきなのは知識を学ぶことじゃない。感情を学ぶことだ」

「感情を学ぶ……?」

「いや、正確には思い出すだな。持ってはいる訳だし」

 

 はやと先輩の言葉を聞き、俺は思い返した。何故、感情を忘れてしまったのか。

 

 

 

 幼い時より、俺は知識を吸収していた。己の欲に従いながら。

 俺は……得た知識で誉められるのが嬉しかった。俺の持つ知識は学校でも役に立っていた。

 

 だが、人間には負の感情が存在する。俺の知能を妬んだクラスメートは、段々と俺を無視し始めていった。

 それでも知識の収集欲は年を重ねるごとに大きくなり、遂には親まで何でも知りたがり覚える俺の存在を気味悪がり、疎ましく思った。

 

 どうしてこうなったのだろうか。俺は誉めて貰いたかっただけなのに。

 

 考えた結果、感情を不必要なものだと判断し捨てた。知識を得るのに感情は邪魔だった。

 知る喜びも、邪魔されることへの怒りも、分からないことへの悲しみも、調べることの楽しさも実感することはなくなり、とうとう俺は感情が分からなくなった。

 

 

 

「頭で考えるより、感情に従うことで学べることもあるぜ?」

 

 今まで思考と欲で行動していた俺に、はやと先輩は助言する。

 

「お前もそう思うだろ?」

 

 そして、はやと先輩は本棚の方に呼びかける。

 奥からは、俺が探していた女子が現れた。

 

「ひより……」

 

 ややバツが悪そうな表情で、ひよりはこちらに歩いてきた。

 

「じゃ、後は2人で話し合え。それともう1つ。感情を理解出来なきゃ、お前は話す相手のことも一生分からないままだ」

 

 はやと先輩は植物図鑑を本棚に戻し、メモを持って出て行ってしまった。

 最後にヒントのような言葉を残して。

 

「…………」

 

 残された俺に、ひよりは何も話しかけてこない。

 怒らせるようなことをしたのなら怒ればいい。哀しいのなら泣けばいい。俺を糾弾すればいい。

 今までもそうされてきた。その度に受け流していたが。

 

「……どうした? 怒らないのか?」

 

 反応のないひよりに、一応聞いてみる。

 

「いや、怒ってはないけど……」

 

 やっと言葉をひねり出したひより。どうやら、怒り以上に困惑の方が強いようだ。

 どう怒っていいのか分からない、という風な感じなのだろう。

 

 

『中身はどうあれ、人には他人に見られたくないモンを一つや二つ持ってんだよ』

 

 

『感情を理解出来なきゃ、お前は話す相手のことも一生分からないままだ』

 

 

 ひよりの表情を眺めながら、俺はかえでやはやと先輩の言っていたことを思い浮かべる。

 

 まず、ひよりはメモを見られたくなかった。

 理由は関係なく、だ。

 そして感情を理解する。ひよりは俺に無理矢理詰め寄られ、逃げ出した。感じたものは、恐怖。怒りではない。

 まとめると、俺が彼女にとって嫌なことをしたために恐怖を感じ、ひよりは逃げ出した。

 

 相手の嫌がる行動をした時、それを諌める方法は……。

 

「……すまなかった」

「えっ」

 

 俺は頭を下げて謝った。自分が悪い時にはこうした方がいい、と本で読んだからだ。

 すると、ひよりは意外だったのか変な声を出す。

 

「……む、じゃあこっちか」

「ちょっ!? もういいから! 分かったから!」

 

 ひよりがまだ俺を許さない、と判断した俺はもう1つの謝罪方法、土下座をしようと床に膝をついた。

 それがさっき以上に予想外だったようで、ひよりはいいと言ってくれた。

 

「はぁ……石動君て、本当に変わってるよね」

「……そうか?」

 

 膝に付いた汚れを払いながら、俺はひよりの言葉に首をかしげる。

 まぁ、確かに普通とは変わっているかもしれないがな。

 

「でだ、俺はまだメモの中身を諦めてない」

「ええええっ!?」

「……が、中身までは覗こうとはしない。せめてどんなことを書いたのか簡単に教えてくれ。勿論、ひよりが嫌でない限りでな」

 

 知識欲には逆らわない。俺の基本スタンスはそう簡単に変わらないようだ。

 しかし、感情について考えた結果、ある程度の自重は出来るようになった。そのことに、ひよりは少し安心していた。

 

「……湖畔君と霧谷君には言わない?」

「ああ」

 

 観念したように、ひよりは俺の耳元でメモの簡単な中身を言った。

 その内容とは、俺とつばめがかえでを攻める……BL? とかいうものだった。

 

「ごめんなさい! ごめんなさい!」

 

 俺で卑猥な妄想をした、ということで見られたくなかったらしい。

 必死に謝るひより。勿論、俺にこんな趣味はないが……あのやりとりだけでそんな妄想が出来るひよりの頭に興味が移りそうだった。

 

「ふむ、ひより」

「はい……?」

 

 恐る恐る頭を上げるひより。眼鏡の奥にある瞳は、恐怖で揺れている。

 そんなひよりの様子が面白く感じる。

 

「俺ははやと先輩から「感情を学べ」と言われた」

「え? あ、うん……」

 

 今ならはやと先輩の言っていたことに共感できるかもしれない。感情から学ぶこともある、と。

 

「「萌え」とは感情だな? それを教えてくれ」

「うぇっ!?」

「時間が掛かってもいい。是非とも教えて欲しい、頼む」

 

 ひよりの言う「萌え」が分かれば、ひよりの頭の中が分かるかもしれない。それに、感情が豊かなひよりからなら他の感情も思い出せるかもしれない。

 顔を青ざめさせるひよりを前に、俺は新たな興味に興奮を抑えられなかった。

 

 

☆★☆

 

 

「何か違うけど……まぁ、いっか」

 

 さとるが眼鏡を掛けた女子と仲直り出来たことを確認し、俺は教室に戻る。

 食える雑草のデータも集め終わったしな。

 

 湖畔つばめ、霧谷かえで、石動さとる。

 曲者揃いだが面白い後輩が出来、俺の毎日も更に賑やかになりそうだ。

 

「はやと君~!」

 

 間延びした声で後ろから呼ばれる。振り向くと、つかさが走ってやってきた。

 

「もう、授業始まっちゃうよ」

「サボる」

「ダメだってば~!」

 

 相変わらずのやり取りに、小さく笑う。

 後輩の面倒を見るのもいいが、俺は俺のやるべきことをしなきゃいけなかったな。

 

「つかさ」

 

 走って探してたからか、息を切らすつかさを真剣な表情で呼ぶ俺。

 う、ジッと見つめてるとこっちが恥ずかしくなる。

 

「俺」

 

キーンコーン

 

 まるで言わせないとばかりに、休み時間終了のチャイムが鳴る。

 ベタな展開だな、オイ。

 

 結局告白は出来ず、授業に遅刻してつかさと仲良く黒井先生の説教を食らう羽目になったのだった。




どうも、雲色の銀です。

第6話、ご覧頂きありがとうございました。

今回は知識欲の塊、さとるの話でした!

さとるはキャラ自体は決まっていたものの、主役として動かすには難しいことが判明しました。自分で作った癖に上手く動かせずお恥ずかしい……。

感情の薄いさとると、感性豊かなひよりん。性格が真逆なキャラですが、いい組み合わせになるといいですね!(他人事)

次回は3年生サイドと1年生サイドの日常生活!

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