すた☆だす   作:雲色の銀

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第2話「顔合わせ」

 初日から面倒な奴に絡まれてしまったと、教室に着いてからもつくづく実感させられた。

 霧谷かえでと俺、湖畔つばめは、よりにもよって名前順で前後の位置となってしまったのだ。

 

「おー、こりゃ運命的だ。あっはっは!」

 

 呑気に笑っているコイツを殴り飛ばしたい。

 これから四六時中、コイツの話し声を聞きながら過ごさなければならないと思うと、憂鬱になる。

 イライラしながらも席に付き、HR(ホームルーム)が始まるのを待つ。

 

「お、さっきの」

 

 後ろを向いて勝手に話していたかえでが、何かを発見したようだ。

 俺も振り向くと、2つ後ろの席には先程俺にぶつかって来た女子が座っていた。

 

「あ……どうも」

 

 向こうもこちらに気付いたのか、挨拶を交わしてきた。

 静かに過ごしたいというのに、余計なことを……。

 

「いいなー、可愛い女子が近くでさー。俺なんか無愛想な野郎が真後ろだぜ?」

 

 悪かったな、無愛想で。

 コイツ、いい加減に殴り飛ばしても問題ないと思う。

 握り拳を押さえていると、後ろの女子は右前の席、つまり俺の右後ろの女子と会話していた。

 

「……お腹の調子、平気……?」

「うん、ただのトイレだったから大丈夫だよ~」

 

 見た目が小さいと思ったら、どうやら病弱らしい。

 

 で、右にいるエメラルドグリーンの髪の女は俺と同様に無愛想だ。

 ただ、友達を心配している辺り悪い奴ではないらしい。

 

「皆席に付けー」

 

 と、ここで教師らしき眼鏡を掛けた男がやって来た。やっとHRか。

 

 

 高校最初のHRは自己紹介だった。

 人と関わりたくない俺にとって、全く無意味なことだ。

 

 まずはダークグレーの髪に群青色の眼の、これまた無表情な男子が前に立った。

 このクラスは静かそうな奴が多くて助かる。

 

石動(いするぎ)さとる」

 

 それだけ言うと、石動は軽くお辞儀をして席に戻った。

 あんなモンでいいのか。俺もそうしよう。

 

「もうちょい何か喋れよー」

 

 簡素な紹介が気に食わないのか、かえでが野次を飛ばした。迷惑な奴だ。

 石動は数瞬考え、再び壇上に立つ。余計なことを……。

 

「趣味は読書だ」

 

 ただそれだけ言って、自己紹介を終わらせてしまった。

 いいぞ、アイツとは気が合いそうだ。

 

「え、えっと……次!」

 

 困った様子の教師は自己紹介を次に回した。

 初めがあんな自己紹介では困るのも無理はない。俺は気に入ったけど。

 

 

 順番が回って来た、右後ろの無愛想な女が前に立つ。

 

岩崎(いわさき)です……よろしく……」

 

 コイツも石動と同様に、簡単な自己紹介だけして戻って来た。

 こんな奴ばっかりのクラスなら、俺も満足なんだけどな。

 

「あの子、結構可愛いじゃん」

 

 ふと、近くの男子の話し声が聞こえて来た。

 興味はないが、確かに顔は悪くはない。変わらない表情とツリ目が冷たい印象を与えるけど。

 

「俺同じ中学だったんだけど、アイツ喋んないし暗いし、いつも本読んでばっかで気味悪いぜー?」

 

 ところが、違う男子からはキツい評価が下された。

 喋らないし暗いし、いつも本を読んでいたら気味悪いのか。そうかそうか。

 じゃあ、俺にも人は寄り付かなくなるな。安心した。

 

「ほぅ……」

 

 だが、極度のお節介野郎のかえでは目を光らせていた。

 コイツも今の話が聞こえたんだろうが、何を企んでいるのやら……。

 ま、岩崎に標的が移れば俺の被害は減るからいいことではあるな。

 

 

「俺の出番だな」

 

 俺達は名字順では早めに順番が回ってくる。

 言い換えればさっさと終わらせられるってことだ。面倒なことは早く終わらせるに限る。

 

「俺は霧谷かえで! 好きなものは笑顔! 特技は笑わせること! 座右の銘は「笑う角には福来たる」! 皆、スマイルスマイル!」

 

 笑う笑うと連呼する自己紹介に、俺は耳を塞ぐ。

 鬱陶しいことこの上ないな、全く。

 

「そして、俺には目的がある!」

 

 まだ続けるか。長い自己紹介に、俺はかえでをキツく睨む。

 

 

「それは、岩崎みなみを笑わせることだ!」

 

 

 高らかに宣言するかえで。

 いきなり名指しされた岩崎は疎か、教室内の人間全員がポカンとしていた。

 何だコイツ、バカなのか?

 

「ついでにつばめ、お前もだ! 以上!」

 

 ついでかよ。こっち見んな、指差すな。

 宣言し終わると、遣り遂げたと言いたげな表情でかえでが戻って来た。

 

「何のつもりだ」

「俺は岩崎の笑顔が見てみたい。それだけだ」

「黙れ」

 

 俺は俺を指差したことについて尋ねたつもりだったが、バカ野郎は岩崎について答えやがった。

 当の岩崎はかえでを見ないようにしている。間違いなくドン引きされたな。

 

 それより、次は俺なんだが……あの自己紹介の後だと、気まずくて仕方がない。

 この男は何度俺に恥をかかせれば気が済むのか。

 

「ほら行けよ」

 

 かえでが肩を叩きながら俺を促す。

 そろそろ顔面をグーで殴っていいレベルだな。

 

 俺は気怠そうに前へ出ると、改めて1年共に過ごすクラスメートの顔を拝んだ。

 欠伸を欠いてる奴、ヒソヒソ話している奴、まともにこちらを見ている奴、ケラケラ笑いながら眺めるバカ、色々だ。

 そうだな……本心でも述べておいてやるか。

 

 

「湖畔つばめ。本ばかり読む気味悪い人間だ。よろしくしないでいい」

 

 

 そう言って、俺は席に戻った。

 これで俺と関わり合いたい奴はこれ以上出て来ないだろう。

 

「何だアイツ?」

「感じ悪ー」

 

 案の定、周囲の俺を見る目は冷たいものへと変わった。

 

「お前なぁ……」

 

 流石のかえでも、俺の自己紹介に呆れている。

 

 これでいい。俺は誰とも関わらないで済む。

 上辺だけ見る奴とも、暑苦しく馴れ合おうとする奴とも親しくする気はない。

 

「くくく……っ」

 

 何故か石動にはウケていたようだが。

 笑う所じゃないぞ、お前。

 

『そろそろ私の番だ……』

 

「お、あの子の番だぜ」

 

 気付くと、後ろの席の小さい女子が前に立っていた。

 

『最初が肝心だよね……明るく振舞わなきゃ……』

 

 何やら俺を見て考えているらしい。

 ま、第一印象は大事だからな。俺みたいなのは反面教師にすることだ。

 

「小早川ゆたかですっ。こんななりですが、飛び級小学生とかじゃないですよー。なーんて……」

 

 と、顔を赤くしてダボついた袖をヒラヒラと振りながら話す。

 何だ、今の。ギャグのつもりか?

 だが、周囲は全くウケていない。寧ろ白けている。

 

「っ! く、くく……!」

 

 唯一、石動のみ腹を抱えて声を出さずに笑っていた。アイツの笑いのツボは分からん。

 

『あ、あれ!? お姉ちゃんの影響受けて、マニアックになっちゃってるのかな……』

 

 笑いを取れず、落ち込んだ様子で戻る小早川。

 あの落ち込み様、慣れない真似をしたな。哀れな……。

 

 その後もとんとん拍子に自己紹介は行われていった。

 覚える気もないから大半は聞き流したがな。

 

 

☆★☆

 

 

 3年生開始早々、怠さがピークに達した。

 俺の目的である「つかさと同じクラスになる」が既に達成されたからだ。

 初日なんだし、さっさと解散しようぜ。

 

「まぁ勉強せぇと口喧しくは言わんけど、高校最後の年やし有意義に過ごすよーに」

 

 でも、まさか今年度も黒井先生が担任だとはな。

 周囲の奴等も去年とあまり代わり映えのしない連中ばかりだ。

 

「さて……ほいじゃ早速、役割分担やけど……」

 

 

 

 ……ハッ!?

 しまった、つい居眠りをしてた。

 

 気付けば黒井先生はおらず、皆帰り支度をしていた。

 何だ、もう終わったのか。

 けど何か重要なことをする直前だったような……?

 

「よぅ、保険委員」

「あ?」

 

 カバンを持ったあきが話し掛けてくる。

 保険委員? お前、それ去年の話だろ?

 

「はやと君、また寝てて……」

「勝手に決められてしまったんです」

「……え?」

 

 つかさとみゆきが補足説明をした。

 って、またかよ!? また居眠りした所為で保険委員かよ!?

 

「ま、頑張りたまへ~」

 

 こなたの一言に、俺はガックリ頷垂れる。

 拒否権すら行使してねーぞ……もし翼があったらなぁ。

 

 

☆★☆

 

 

 予想外の出来事が起こった。

 目の前には深緑の髪にダークブラウンの鋭い眼、頬には3本の傷がある男。

 

「月岡、しわす」

 

 月岡はカタコトに喋り、自分の席に付く。

 

 アイツは確か、陵桜でも札付きの不良だと噂されている。

 あのガタイの良さと獣のような眼光、何より喧嘩の跡と思える傷跡から容易に推測できる。

 まさかそんな危険な奴と同じクラスになるなんて……。

 

 月岡の一挙一動で教室内が不安そうにどよめく。

 かがみに危険が及んだ時に俺が守り切れるかどうか……。

 

「アイツの傷跡、何か格好良くね?」

 

 唯一、日下部のみ平気そうにしていたが。

 というか、何故面白そうに指を差していられるのか。

 

「……えー、自己紹介は以上だな。次は役員決めだが……」

 

 桜庭先生も月岡を気にせず、いつもの面倒臭そうな様子で進行している。

 ……問題ないのか? あの危険そうな人物が。

 

 

 

「……ということがあったんだ」

 

 役員決めを終え、今日の授業は終了。

 俺達ははやと達のクラスへと足を運び、月岡について話していた。

 

「そんな奴なら学校来なくなるんじゃねーの?」

 

 あきが気楽そうに話す。ああ、コイツも日下部と同類のバカだったな。

 

「妙な因縁を吹き掛けられたら怖いだろう」

 

 相手は不良。何をしでかすか分からない。今も、堂々とタバコを吸っているかもしれん。

 

「じゃあ(つつ)かないことだ。月岡と関わろうとしなければ平気だろ」

 

 はやとも何でもないかのように言った。

 コイツ等、他人事だからって……!

 

「んなことより、カラオケにでも行こうぜ!」

「いいねー!」

 

 俺の話を打ち切り、カラオケに誘い出す能天気なあき。その軽さが羨ましいよ、全く。

 

「あ、悪ぃ。俺は用事があるんだ。じゃあな」

 

 だが、はやとはカバンを持ってさっさと帰ってしまった。

 妙に浮かれているようだが、何かあったのだろうか?

 

 

☆★☆

 

 

 役員決めも済み、今日は解散となった。

 全く、散々な初日になった。

 

「お前はどうして愛想よく出来ないかね~」

 

 その7割5分がコイツの所為であることは間違いない。

 霧谷かえで。コイツはこの1年で確実に俺の障害になる。

 

「オイ、顔面殴らせろ。グーで」

「何故に!?」

「黙れ」

 

 とりあえずは今日の鬱憤を一発晴らしておこう。

 俺はかえでの肩を掴み、右拳を握る。

 

「やめとけ」

 

 すると、意外な方から制止が入った。

 散々俺の紹介で笑っていた、石動さとるだ。

 

「おおっ! お前良い奴だな!」

 

 救われたかえでは早速絡んでいた。

ウ ザいことこの上ない。

 

「殴ってもこの男は黙らない」

「……だな」

「アレー? 俺、微妙に貶されてない?」

 

 石動の言い分も一理ある。殴ったところでますます喧しくなるだけだ。

 俺は石動の言葉を聞き入れ、拳を解いた。

 

「まあいいや。えーと、さとるだっけ? お前も笑顔にするからな!」

「もうなった。お前等を見ていると退屈しない」

 

 堂々と宣言するかえでに速答する石動。

 さっきまで笑っていたのに気付かなかったのか?

 

「つばめにかえで、お前等は面白いな」

「ああ!」

「一緒にするな。吐き気がする」

 

 何考えているのか分からないが、石動――さとるなら話し相手ぐらいにはいいかもな。

 

「あの~……」

 

 今度は後ろから声が掛けられる。振り向くと、小早川と岩崎が立っていた。

 何なんだ。俺と話しても得なんかまるでないぞ。

 

「さっきはぶつかってごめんなさい!」

 

 小早川は深々と頭を下げた。何だ、あんなことをまだ気にしていたのか。

 

「……別に。こっちこそ悪かったな」

 

 別段気にしていなかった俺は適当に返す。

 すると、小早川から予想外な言葉が飛び出した。

 

「やっぱり、湖畔さんはいい人ですね!」

「……はぁ?」

 

 純粋無垢な笑顔を見せ、小早川は岩崎と共に教室を出て行ってしまった。

 俺が、いい人……?

 

「あははははっ! つばめがいい人ってありえブッ!?」

 

 精神を落ち着ける為、ウザいかえでをやっぱり殴っておいた。

 何なんだ、いい人って!?

 

 

 

 若干キレ気味で、俺は今後暮らすことになるアパートに向かっていた。

 その道中、ずっと小早川の言葉にイライラしていた。

 

 何故、俺がいい人なんだ?

 何故、俺の周りには喧しい奴が集まるんだ?

 俺はただ、静かに暮らしたいだけなのに。

 

「ここか……」

 

 人の気配がまるでしないアパートの前に俺は足を止める。

 デカい荷物は既に送っており、後は手に持っている小さい荷物を広げれば引っ越し完了になる。

 

 俺は階段を登り、自分の部屋の鍵を開けた。

 

「オイ」

 

 右側からいきなり呼ばれ、俺は顔を声のした方へ向けた。

 隣の部屋の前に立つ、空色の髪の男。

 着ている制服から、陵桜の生徒であることはすぐに気が付いた。恐らく先輩で、このアパートの住人だろう。

 ならば、 挨拶しない理由がない。

 

「お前が新住人で新入生の湖畔か」

「はぁ」

 

 男は気怠そうな風に喋る。そして、俺が湖畔つばめだと確認すると、近付いて来た。

 

「俺は白風はやとだ。ま、気楽にやろうぜ」

 

 先輩、白風はやとはそう言ってニィッと笑った。

 




どうも、雲色の銀です。

第2話、ご覧頂きありがとうございました。

今回は1年サイドの紹介がメインで、3年が少々でした!

つばめ、かえで、さとるとゆたか、みなみに今回登場しなかったひよりともう1人のオリキャラで1年生サイドは進行していきます。
しかし、つばめは仲良くする気0。どうなることやら……。

そしてはやととの顔合わせ。
どうしようもない2人の絡みはどうなるかは次回をお楽しみに!

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