すた☆だす   作:雲色の銀

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第3話「ストレンジゾーン」

 今日の天気は快晴だ。なんか良いことがありそうだな。

 俺は今屋上にいる。が、別に授業をサボっている訳じゃない。

 今は昼休み。何故か屋上で昼飯を食おうというこなたの提案に乗っただけだ。

 ……ま、その後サボらない保障はないが。

 

「皆さ、今日私のバイト先に来ない?」

 

 全員飯を食い終わった後、突然こなたが提案をして来た。

 こなたのバイト先……? ってか、コイツを雇ってくれた場所があるのか。

 

「行く行くー!」

 

 まず、いつも通りあきが話に乗った。女子のこととなると食い付きがいいよな。

 

「何だか、面白そうだね」

「私達はいいわよ」

「はい、是非」

 

 次に女子組が全員OKを出す。

 

「……今日は暇だしな」

「うん、行かせて貰うよ」

 

 やなぎとみちるも行くか。俺も特に用もないし、たまには遠出も悪くない。

 

「俺もいいぜ」

「はいはーい、7名様ごあんなーいっ!」

 

 ご案内? 喫茶店とかなのか?

 この後、良いことがありそうなんて言ったことを後悔することになる。

 

 

 

 こなたの指示に従い電車に乗って、俺達がやって来たのは

 

「アキバよ、私は帰って来たー!」

「あき、うるせぇ!」

 

 そう、秋葉原だ。まぁ、こなたのことだから予想はしてたが……。

 

「この前行ったばっかなんだけどな」

「じゃあ今叫んだのはなんだ」

 

 今度はかがみからツッコミが入る。あきの扱いに慣れたなー、アイツも。

 

「んで、何処な訳?」

「えーっと、少し待ってろ」

「早くしろよ」

 

 あきの持ってる地図を覗き込む。そこには、小学生が描いたような落書きが記されていた。

 何だコレ、本当に地図なのか?

 

「こなたが描いた地図だ」

「アイツ、絵は下手だから」

 

 下手って、これは壊滅的だな。現在地すら分からん。

 

「すいません、写真撮ってもいいですか?」

「えっ、えっと……」

 

 立往生していると、突然どっかのヲタクがつかさに絡んでいた。

 つかさの返答を待たず、男は写真を撮り始めた。

 

「こっちも1枚」

 

 って、いつの間にか増えてるし。ドイツもコイツも遠慮なくつかさにカメラを向ける。

 

「じゃあ、浩之ちゃんって」

「嫌がってんだろうが」

 

 最初からいた奴に、俺はベルトから下げたホルダーに入ったダーツをぶっ刺した。

 刺したダーツの針先には、自分で作った睡眠薬が塗ってある。暫く寝てろ。

 更に俺はダーツをもう3本構えて、まだいる奴等を睨んだ。

 

「散れ」

「は、はいぃぃぃぃ!」

 

 俺にびびって、奴等は一目散に逃げていった。ふん、雑魚共め。

 

「大丈夫か?」

「うん、ありがとうはやと君」

 

 つかさは何ともないようだ。よかった。

 

「男の嫉妬は、みっともないぜ?」

「は?」

「と、冗談抜きにああいうのはいるからな。つかさなんて某ゲームキャラそっくりだから、コスプレと間違えられたんだろ」

 

 俺はあきにそのゲームキャラの画像を見せてもらった。た、確かに似てる……。

 

「早いとこ行こうぜ」

 

 地図を解読したあきに付いて、俺達はこなたのバイト先へ向かった。

 

 

 

「お帰りなさいませっ、ご主人さまっ!」

 

 唖然。その一言に尽きる。

 こなたのバイト先、そこは所謂「コスプレ喫茶」だったのだ。

 

「ただいまっ!」

 

 素で返すあき。お前本当にすごいな、ある意味で。

 

「えと、た、ただい」

「やらなくていいぞ、みちる」

「奴が特別すぎるんだ」

 

 あきに習って実行しようとするみちるを、俺とやなぎで阻止した。

 あんな特別、いらんがな。

 

「ささっ、座って座って」

 

 出て来たこなたの服装は、ウチのとはまた違う制服。これもコスプレなのか?

 

「ハルヒか」

「流石はあき君」

 

 ……もういいや。奴等の会話に付いていけない俺は考えることを放棄した。

 しかしアレだ。空気が濃いというか……あまり慣れそうもないな。慣れたくもないが。

 

「アンタ達、飲み物何にする?」

 

 メニューを眺めていると、突然こなたの態度が豹変した。

 何だ? 学校でもこんなこなた見たことねぇぞ。

 

「早くしなさいよ。遅いと罰金よ罰金!」

 

 こなたは眉間に皺を寄せて注文をせかす。なんかすごい腹立つんだが。

 

「それが客に対する態度なの!?」

「ここではそれが仕様なの」

 

 ああ……そうですか。

 

「もう決まったわよね?」

「私、メロンソーダ」

「ただのメニューには興味ありません」

「へ?」

 

 オイ、それでいいのか店員。

 

「俺コーラな!」

「では、私はミルクティーを」

「僕はアイスティーを」

 

 俺はアイスコーヒーでいいや。

 

「アンタ達はどれがいいの?」

「ちょっと待ってよ!」

「団員にあるまじき遅さね」

「いつから団員だっ!」

 

 勝手に団員にされた、かがみとやなぎが突っ込む。

 

「ここではそういう設定なの」

 

 なんか面倒だな。一々会わせにゃならんこっちの身にもなれ。

 

「団長に逆らうなんて100年早いわよ」

「じゃあアイスコーヒーでいいわよっ!」

「はぁ……俺も同じ奴で」

「団長命令よ、待ってなさい」

 

 疲れる店だな。けど、こういうのが好きな奴もいるんだろう。

 

「ふざけてんじゃねぇぞ!」

 

 ん? 今度はあっちで何やら騒ぎみたいだ。

 

「俺の服にジュース掛けやがって! 弁償だな!」

「す、すいません……」

 

 体躯のいい男が店員の娘に怒鳴っている。服にジュースを掛けられたらしい。

 今度こそ、店側のミスみたいだな。

 

「あー、またあの人か」

「知ってるの?」

「ジュースを運ぶ店員をわざと転ばせて、服に掛けさせて高いクリーニング代を出させてるんだよ」

 

 最悪だな。って事は今被害者はあっちの娘か。

 

「ちょっとやめさせてくる」

「ちょっ、こなた!」

 

 かがみの制止も聞かず、男の方に向かうこなた。

 

「今、わざと転ばせましたよね?」

「あぁ? 何だテメー?」

「迷惑ですから止めてください」

 

 体格さがあるにも関わらず啖呵を切る。

 

「うるせぇんだよ!」

 

 ヤバい! 男が逆ギレしてこなたに殴り掛かった!

 急いでダーツを構えるが、それより先に動いた奴がいた。

 

 

「やめろよ」

「あき、君……」

 

 

 あきはこなたの目の前で、男の拳を完全に止めていた。

 普段のふざけた様子からは、想像も出来ない程の鋭い眼光で男を射抜く。

 

「表出ろ。ここじゃ迷惑だからな」

「っ! 上等だ!」

 

 あきが手を離すと男は外に出た。

 

「こなた、大丈夫か?」

「あ、うん」

「そっか。ちょっと待ってろよ」

 

 いつもの調子で外に出るあき。

 けどアイツが大丈夫か? 男の方は強そうだったし、俺が助太刀した方がいいんじゃねぇの?

 ま、俺はダーツを投げることしか出来ないがな。

 

「あきは平気だろ」

 

 そう言うのはやなぎ。あぁ、コイツ等確か腐れ縁だっけ。

 お互いのことは何でも知ってる。だから、あきが出た時もやなぎだけは動じていなかった。

 

「アイツは友達に手を出す奴には容赦ないからな。心配なら外を見ろ」

 

 やなぎ以外は全員外を見た。俺もみちるもあきがキレた所見たことないからな。

 

「おら、来いよ」

 

 男は指を鳴らしてあきを挑発している。

 

「まぁ待て」

 

 一方、あきは何故か変なポーズを取り出した。

 左前に伸ばした右腕を右横方向に、右腰に伸ばした左腕を左横方向に、それぞれ移動させる。

 

「変身!」

 

 そして、声と共に左腰に右腕を移し、両腕を下に広げた。

 その時、何故かキュインキュインと何かが回る音まで聞こえて来た。

 

「おおっ、あれはクウガの変身ポーズ!」

「音はマイティかー。妥当だよな」

「タイタンは俺の嫁!」

 

 こなたや周りの奴等が騒ぎ出した。

 いや、知らんよ。ってか、やってる場合か。

 

「うし、行くぜ!」

 

 あきは何故か持っていた携帯をしまい、ボクシングみたいなファイティングポーズを取った。

 どうでもいいが、どうやらさっきの音は携帯から出していたようだ。

 

「ふざけてんじゃねぇ!」

 

 ごもっともだ。けど、あきの挑発は成功したみたいだな。頭に血が上った男はあきに襲い掛かった。

 あきは相手の体格差を活かし、懐に入り込むと腹に一発叩き込む。

 

「がはっ!」

 

 男が悶えている所を、その辺に落ちていた木の棒で鳩尾をぶっ叩いた。

 その時の構え方はまるで剣道みたいだった。

 

「ぎゃああっ!」

 

 苦痛で悲鳴を上げる男を今度は足払いで転ばせる。

 

「お次はっ!」

「イデデデデッ!」

 

 続いて足を4の字に固めた。あれは確か柔道の技だよな。

 

「やなぎ、あれは」

「あきは殆どの格闘技を経験したことがある」

 

 やなぎから告げられる、驚きの事実。いつもアホなことをやっては突っ込まれるあきが、こんなに強かったとは。

 

「ぐうっ、クソッ」

「まだまだ」

 

 逃れようと必死な男に、あきは馬乗りになり殴り始めた。

 

「ま、待っ……ぶっ!」

「俺の友達に手を出そうとしておいて、これで終わる訳ねぇよな?」

 

 本当にあそこにいるのは普段のあきなんだろうか?

 

「言っただろ、容赦ないって」

 

 後ろから、落ち着いた様子のやなぎの声が聞こえた。

 

 

☆★☆

 

 

「皆、お待たせーっ!」

 

 数分後、俺は爽やかな笑顔で、酷く殴られたさっきの男と店に入った。

 

「この人、話してみたら案外いい人でさー、服にジュース掛けたの許してくれるって。なっ!」

「は、はいっ!」

「それと、今までのことは認めて反省してるそうだからそっちも許してやってくれな」

「スイマセンデシタ……」

 

 謝る男。ちょっとやり過ぎたかな? まぁ一件落着ってことで。

 

「ふぅー、何か喉乾いちゃった。こなた、お水ちょーだい!」

「…………」

 

 あれ? さっきからこなたがやけ静かだな。今度はどんなキャラなんだ?

 

「あき君のバカっ!」

「うおっ!?」

 

 急に怒鳴られた。そ、そんなキャラいたっけなぁ……?

 

「心配、したんだよ?」

「…………」

 

 コスプレじゃない。本当に心配してくれたんだな。

 

「わ、わりぃ」

「許すっ!」

 

ドサッ!

 

 全員思わずずっこけた。あっさり許すんかいっ!

 

「お水ね! 今持ってくるから待っててね!」

 

 いつもの調子に戻ったこなたが店の奥に向かった。

 

「……ちょっと、フラグ立ったよ」

「ん? 何か言ったか?」

「何でもないよ~!」

 

 振り向き際にこなたの呟いた言葉は、俺には聞こえなかった。

 

「あ、あの……」

 

 首を傾げてると、さっき男に絡まれていた娘が話し掛けてきた。

 ほほう。定石のメイド服、しかもミニか。

 

「さっきはありがとうございました!格好良かったです!」

「いやいや、気にする事はないよ。可愛い女の子を守るのは男、いや漢の勤めだからな!」

 

 ああ、こういうのいいなぁ。

 黄色い声に包まれる英雄……そしてそこから恋が

 

「わっととぉ!」

 

 なんて妄想していると、こなたに水をぶっ掛けられた。

 

「あっ、ごめーん。つい滑っちゃって」

 

 あれっ? 棒読みですよこなたさん?

 

「今拭くから動かないでねー」

「痛っ!? 痛いって! ねぇ!?」

 

 あ、あれ? 拭くと言うより殴ってませんかこなたさん?

 結局、この後何故かこなたにボコボコにされる俺であった。

 

 

☆★☆

 

 

 数日後。あの時の出来事について、俺達は学校であきに問い詰めた。

 

「お前、あんな強かったのな」

「んーや、弱いよ」

 

 は? また何言ってんだコイツは。

 体格の違う男を簡単に倒すくせに、弱いだなんてどの口がほざくんだか、

 

「だって殆どの格闘技の経験があるってやなぎが言ってたよ」

「いや、まぁ確かに合ってるんだけどな」

「では、何故弱いと?」

「総合的にはそんなに強くないって事だよ」

 

 総合的に? どういうことだ?

 含みのある言い方に、みちるやみゆき達も首を傾げる。

 

「俺は小学生の時に、違う格闘技をそれぞれ1年ずつやらされたんだ」

 

 な、何ぃ!?

 あきの予想外の経歴に、俺達は驚愕する。

 

「だからどれに特化した訳でもなく、個人の強さはそこそこ強い程度だ」

 

 なるほど、だから「総合的に弱い」ね。

 

「因みにカポエイラは中学の時な」

「聞いてねぇよ」

「でも、今やらされたって言ったよね」

 

 みちるの言った通りだ。あきが自分から……やる訳ないよな。

 

「親父にやれって。その代わり達成したらPC買ってくれるって約束したしな」

 

 あきの使い方うめぇな。

 

「んなことよりもさ! これを見ろ!」

 

 あきが天にかざしたカード。それは……?

 

「あ、ウチの常連カード」

 

 こなたのバイト先の常連の証……らしい。

 

「あの店気に入った! 可愛い知り合いもいるしな!」

 

 そう言ってこなたに親指を立てるあき。

 

「グッジョブ! 流石はあき君!」

 

 こなたもあきに親指を立てた。

 

「でも割り引きはしないよ」

「えぇ~」

「!」

「どうしたの?はやと君」

「いや、何でもない」

 

 今、気の所為か、こなたの頬が一瞬赤くなったように見えた。

 

 


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