すた☆だす   作:雲色の銀

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第26話「年末年始」

 12月31日、大晦日。

 一年の終わりの日も、俺にはあまり関係なかった。

 だって、テレビもラジオも炬燵もねぇし。

 因みに、携帯の……ワンセグだっけ?は使ったことがない。

 

「寒ぃ……」

 

 ガタガタと震えながら、俺は布団に包まっていた。

 部屋は密室だが、暖房もない為冷たい空気のままだ。

 去年はこれで乗り切った。

 

「……そろそろ沸いたか」

 

 しかし限界が近いので、お湯を沸かす。

 風呂に入るか、暖かい茶を飲むかすればまだなんとか耐えられる。

 

「……去年は何ともなかったんだけどな」

 

 去年は生活費を稼ぐのに、バイトをしまくって忙しかったし、日に当たって少し眠れば寒さなんて感じなかった。

 だが、今年は何をしても寒い。

 

 理由ならとっくに分かっていた。つかさや、柊家の暖かさを知ってしまったからだ。

 心の中でどうしても求めてしまう。

 

「はぁ……」

 

 風呂に浸かりながら、弱い心を振り払おうとする。

 クリスマスだって、結局は世話になってしまった。だからって、自分から頼ろうとするのは愚の骨頂。

 都合良く泊まらないか? なんて誘いもある訳ないんだし、甘えた考えは捨てるべきだ。

 

 

 風呂から上がると、携帯の着信が鳴る。

 タオルを投げ捨て、俺はすぐに携帯を取った。

 

「もしもし?」

〔あ、はやと? 珍しく出たな~〕

 

 だが、相手は俺の期待していた人物とは違った。

 ……何を期待してたんだ、俺は。バカか?

 

「用件を40秒以内で言うか、俺にカイロ詰め合せを寄越せ」

〔うおっ、何キレてんだよ!?〕

「別に。何の用だよ?」

 

 イライラしながら、俺はあきの話を聞くことにした。

 

〔今日さ、深夜に鷹宮神社に初詣に行かないかって話になっててさ〕

「ほぅ」

 

 鷹宮神社、つまりはつかさの家の神社だ。

 地元民じゃないみちるとみゆきは来れないらしいが、あき、こなた、やなぎと面子は揃っている。

 

〔で、お前は来るよな?〕

「何で?」

〔えっ?〕

 

 俺は正直、神頼みなんて真似したくはない。

 ましてや、叶わない願いに賽銭を出すなんて惜しすぎる。

 

〔いや、だって見たくないのか?〕

「何を?」

 

 獅子舞でもやろうってか?

 俺の気を惹かせるようなものなんて、そうないぞ。

 

〔つかさの巫女姿〕

 

 ぐああああああ!? かなり迷ってしまった! けど、けど……!

 

「……行く」

〔そうこなきゃな! じゃ、23時に現地集合で!〕

 

 一方的に電話を切られると、俺は床に膝と手を付いた。

 ここまで、つかさが俺の中で大きなウェイトを占めていたとは……。

 

 

 

 23時。俺は重い足取りで鷹宮神社に足を運んでいた。

 

「来た来た! 何浮かない顔してんだ!」

「寒いんだよ!」

 

 この場でカイロを持ってる奴は爆ぜろ!

 とはいえ、俺もコートに手袋、マフラー着用なんだけどな。でなきゃ、この季節に外を出歩く気にならない。

 

「まぁまぁ、巫女目当て同士。仲良くやろうぜ?」

「「お前と一緒にするな」」

 

 やなぎと声をハモらせて突っ込む。ま、お互い「ただの」巫女が目当てじゃないしな。

 さて、俺達3人がこの場にいるのはなんら問題ない。

 

「……このおっさん誰?」

 

 俺はこなたの隣にいる、いかにも怪しいおっさんを指差す。

 

「ウチのお父さん」

「娘が世話になってますー」

 

 こなたよ、父親を連れてきたのか。

 あきと似たような雰囲気から、何が目当てなのかはすぐ分かった。こなたの親父だしな。

 

「じゃ、行こうか」

「おぅ!」

 

 こなたは親父の目の前であきと手を繋いで先に行ってしまった。

 オイ、お前の親父が嫉妬に歪んだ表情になってるぞ。

 

 

 石段を登ると、境内は参拝客で溢れていた。普段は閑古鳥が鳴いてるってのに。

 

「ありがとうございましたー」

 

 いのりさんとまつりさんも、巫女服を着てお守りやらの販売をやっていた。忙しいんだろうな。

 

「おーい」

 

 こなたが手を振って何処かへ行く。つかさ達を見つけたんだろうか。

 

「かがみー、つかさー、あけおめー」

「お」

 

 やっぱりいた。

 かがみはツインテのリボンまで紅白にしていた。

 ふーん、まぁ似合ってんじゃね?

 

「あ、はやと君!」

 

 俺を呼ぶ声がして、振り向く。

 

「あけましておめでとう」

 

 そこには、いつものリボンをかがみと同様に紅白にした、巫女服姿のつかさが立っていた。

 

「ああ……ってまだ早くないか?」

 

 年明けにはまだ数十分早い。あけおめを言うのはそれからだ。

 

 そんなことより、巫女姿のつかさを見て思っていた以上に、俺は冷静でいられた。

 多分、ある程度予想通りだったからだろう。勿論、似合ってはいたが。

 

「おや、はやと君は思う所なしか」

 

 あきが不思議がる。余計な御世話だ、ほっとけ。

 

「けど、よく来たわね。寒いし、面倒がると思ったけど」

「いやまぁそうだけど」

 

 かがみの問いかけにこなたが答える。

 

「1年の計は元旦にあるから初詣に行って1年の英気を養おうって」

「へぇ、殊勝じゃない」

 

 そんなご立派な理由じゃないと思うぞ。

 

「お父さんが。私はこたつでぬくぬくしてたかった」

「どもー」

「あ、あけましておめでとうございます」

 

 ほらな。かがみも急に何か引っ掛かったらしく、微妙な表情になった。

 

「因みに俺は」

「もういいから」

 

 あきの答えも、概ねこなたの親父と同じだろう。

 

「ちゃんと初詣に来たのはやなぎとはやとだけか」

「いやぁ、それはどうかな」

 

 急にこちらに話を振られ、遠目で見ていた俺達はあきの指摘に固まる。

 

「アイツ等もああ見えて巫女服目当てかもしれないぞ~」

「「お前と一緒にするなっての!」」

 

 再び、俺とやなぎは強くあきに突っ込む。

 くっ、何故だか知らんがムキになってしまった……ああ、そうだよ! 図星だよ!

 

 軽く会話していると、間もなくカウントダウンが始まるとの知らせが入った。

 

「今年も色々あったなぁ」

 

 そうだな。去年と比べ、3倍は内容が濃かった気がしていた。

 

 つかさ達と出会い、同じクラスになった。

 あの頃はまさか2組もカップルが出来るなんて想像もしてなかったな。

 そして、俺がつかさに惚れるなんて全く思っていなかった。

 

 夏休みは祭に合宿……ああ、看病もしてもらったっけ。

 初めてだらけの出来事を俺に体験させたのもつかさだった。

 一緒に花火を見たり、泳ぎを教えたり……。

 

 桜藤祭……の後には、今年最大の出来事があった。

 父さんとの約1年ぶりの再会と、一端仲直り。

 それと、柊家に最初に世話になったのもあの時だ。

 あれからずっと、みきさんには息子扱いされている。いのりさんやまつりさんにもつかさの彼氏扱いだし、正直心臓に悪い。

 

 んで、つかさへの想いに気付いたのもこの時か。

 結局年内に告白はしなかった。こんな俺じゃあ、告白自体が無理な話だ。

 自分とも、母さんとも、父さんとも向き合わないとな。

 

 なんだかんだで、1年間俺の隣にはつかさがいてくれた。

 つかさだけじゃない。皆が俺に楽しい毎日をくれたんだ。

 俺の高校生活も、捨てたもんじゃなかった。

 

「10!」

 

 カウントダウンが始まった。

 

「9! 8! 7! 6!」

 

 来年もまた、皆と一緒にいたい。

 

「5! 4! 3!」

 

 許されるのなら、つかさに想いを伝えたい。

 

「2!」

 

 俺なんかが、いいのかな? 母さん。

 

「1!」

 

 気付けば、俺はつかさの頭に手を置いていた。

 

「ハッピーニューイヤー!」

 

 

 

 

 

 

 さて、帰るか。

 

「はやと君!?」

 

 帰ろうとする俺を、つかさが呼び止めた。

 何だよ。寒いんだよ。新年迎えたんだから帰らせろ。

 

「お参りしてかないの!?」

 

 お参りぃ? だから賽銭にやる金はないっての。

 第一、俺は神頼みしない主義だ。

 

「見事に雰囲気ブチ壊しだね」

「はやとェ……」

 

 あきとこなたが俺に冷たい視線を送る。

 

「15円ぐらいケチんな」

「今日ぐらい神頼みしなさいよ」

 

 やなぎとかがみも俺を引き留めようとする。

 

「はやと君……」

 

 トドメに、つかさが心配そうな表情で俺を見つめてきた。

 

「……へいへい、分かりましたよ」

 

 俺はポケットから15円取り出し、参列客の一番後ろに並んだ。

 人混みは嫌いだっつーのに……。

 

「はやと君も素直じゃないねー」

 

 こなたが呆れ顔で言った。何がだよ。

 

「最初からやる気満々だったんだろ? そうなんだろ? そうなんだろって?」

 

 今度はあきが鬱陶しく、歌っているかのように俺に聞いてきた。ウザい。

 

「じゃなきゃ、ポケットに丁度15円が出て来るはずないしな」

 

 チッ、バレてやがったか。ポケットの15円は予め用意したものだ。もう帰りたいのは本当だけどな。

 

「今年もおみくじとかやってかない?」

「そうだね。折角だし」

 

 適当なお参りを済ました後、つかさの勧めでおみくじをやることになった。

 

「はい、はやと君」

 

 いや、俺は金がないんだっての。

 と、断ろうとしたらつかさが笑顔で箱を差し出してきた。

 コイツ、まさか狙ってやってるんじゃねぇだろうな?

 

「ったく……」

 

 渋々財布から100円を出し、俺はおみくじを引いた。

 

「!?」

 

 先に引いたこなたは凶を引いていた。

 一方、こなたの親父は大吉だった。

 

「新年早々最先いいですねっ」

「本当、いいものも見れたし。今年はいい年になりそうだね」

 

 つかさが笑顔で相槌を打つと、おっさんは更に気を良くする。

 次に、つかさはこなたにもフォローをした。

 

「大丈夫だよ。今が最低なら後は運気上昇していくだけだもん。いいことあるよー」

「うん、何て言うかものは言い様だよね……」

 

 流石は神社の家の娘、それなりのフォローの仕方は身に付けているようだ。

 

 因みに、俺は中吉だった。

 巫女つかさからのありがたい言葉は

 

「今年1年安定した運気でいられそうだね」

 

 だった。安定してるならまぁいいかな。

 

 それから甘酒を飲んで体を温めたり、司祭姿のただおさんを見てきたりしながら時間は過ぎて行った。

 すぐに帰る予定だった俺も、すっかり長居してしまった。

 

 こなたは父親からお年玉を貰うとかで先に帰った。

 あきとやなぎも、家族との新年の挨拶があると言い、何時の間にか俺だけが残っていた。

 

「アンタは帰んないの?」

 

 参拝客もかなり減った頃。かがみがボーっとしていた俺に話しかけた。

 別に俺にはお年玉を貰う相手も、新年の挨拶をすぐにするべき相手もいないしな。

 

「いや、帰って寝る」

 

 手をヒラヒラと振りながら帰路に着こうとすると、今度はつかさがやってきた。

 

「はやと君、今年もよろしくね!」

 

 今年も、か……。

 

「ああ。そのつもりだ」

 

 最後につかさの巫女姿を脳裏に焼き付けて、俺は帰った。

 

 

 

 途中、ふと俺はある家の前に立ち止まる。

 標識には「白風」の文字。

 

「……あけましておめでとう。父さん、母さん」

 

 俺は小さく呟く。すると、何処からか、女性の声がした。

 

 

『今年も頑張ってね』

 

 

 聞き覚えのあった声で、応援されたような気がした。

 幻聴でも、悪い気はしない。俺はフッと微笑みながらアパートに向かった。




どうも、雲色の銀です。

第26話、ご覧頂きありがとうございます。

今回は年明けの話でした。

神頼みが嫌いな主人公の所為で、内容を練るのに苦労しました(笑)。
はやとの中では、つかさの存在がかなり大きなものとなってきています。次の年では結ばれるのでしょうか?

次回はかなり飛んでバレンタイン!いきなり告白チャンス到来です!

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