体育祭が終わると、俺達はすぐにテスト勉強に追われる羽目になった。
ここの学校は俺達を殺す気か?
「だー、終わったー」
最後のテストが終わり、俺は気怠そうに机に突っ伏した。
数日は気を張りっ放しだったからな。
「お疲れ様~」
同じくテストを終えたつかさ達が寄ってくる。
流石に分からない部分が多かったので、俺達は何度か勉強会を開いていた。ほぼみちるとみゆき、やなぎ、かがみに教わっていただけだが。
おかげで、テストを無事に乗り切ることが出来た。
「さて、後は冬休みを待つのみ!」
あきが喧しく言うが、それには賛成だ。
去年の冬休みは、家でゴロゴロしながら除夜の鐘を聞いて過ごすだけだった。
クリスマス? 正月? 何それ美味いの?
「去年までは世に蔓延るリア充を冷やかしながら、爆発しろと書き綴っていた……」
何をしていたんだ、お前は。
「だが今年は違う! 俺の隣には可愛い彼女がいる! クリスマスデートをするリア充に俺はなったんだ!」
じゃあお前が爆発しろよ。
浮かれまくるあきは、恋人であるこなたに近寄る。
「こなた、クリスマスには何処に行きたい?」
「あ、ゴメン。バイトだ」
ざまぁ。あきを指差して、ぷくくっと笑う俺。
「チクショォォォ! メイド喫茶行ってやるぅぅぅ!」
「待ってるよ~」
商魂逞しいな、こなた。相手が彼氏であっても。
「相変わらず騒々しいな」
そこへ、別のクラスからもう1人のリア充が現れた。
体育祭明けに、既にやなぎとかがみが付き合っているって聞いた時はかなり驚いた。
「聞いてくれよやなぎん」
「断る」
「ぐはっ!」
泣き縋るあきを一刀両断するやなぎ。聞くだけ無駄だしな。
「どうせお前等、クリスマスデートするんだろ! バーカバーカ!」
「放っとけ!」
顔を赤くするかがみ。煽られるとまだまだ恥ずかしいらしい。
ったく、俺達からリア充が2組も出来るなんてな。
「クリスマスは久々にみゆきとみなみと過ごしたいな~」
「はい。みなみちゃんも喜ぶと思います」
みちるはみゆきといい感じではある。
みゆきがあの要塞を攻略するにはまだまだかかりそうだけど。
となると、残されるのは俺達だけか……。
「?」
チラッとつかさを見ると、頭に疑問符を浮かべている。人の気も知らないで……。
とはいえ、この手の話は俺に似合わない。
何も言わず、去年通り過ごしますとも。
それから、あっという間にクリスマス。
昼間からバイト……のはずが、今日に限ってシフトもない。
完璧に暇になっていた。
「はぁ~……」
毛布に包まり、溜息を吐く。
海崎さんはバイトだし、ウチにはテレビなんてものもない。
自転車もないから遠くにも行けないし、そもそも寒いから行く気すら起きない。
まぁ、手詰まりって奴だ。
「…………」
一瞬、本当に一瞬だけ家に帰ってみようかと考えてしまった。
父さんがいるとも限らないし、確かに暖房もまともな食事もあるだろう。
「……却下だ」
俺は小さく呟いた。
ここで寒いし暇だから帰って来ました、なんて言ったら出て行った意味がない。
「買い物にでも行くか」
クリスマスだし、スーパーは混んでいるだろう。
人混みは嫌いだが、仕方なく財布とチラシを持ちスーパーへ向かおうとした。
Prrrr
俺の携帯が珍しく鳴った。以前つかさに言われてから、一応まめに電源のチェックはしてたしな。
「もしもし?」
〔あ、はやと君? よかった、今度は繋がったよ~〕
掛けてきた相手はつかさだった。
「どうした? 何か用か?」
つかさには暖かい家族がいる。クリスマスが暇だなんてことはないはずだ。
〔うん、今晩クリスマスパーティーしないかなって〕
クリスマスパーティー? んなもん家族だけでやりゃいいじゃねぇか。
「誰と?」
〔えっと、こなちゃん達はデートだし、ゆきちゃんも向こうで祝うって言ってたから……〕
必然的に俺とやなぎだけになる。
だが、やなぎもかがみも2人で過ごしたいだろう。
「余ってんの俺だけだぞ?」
〔う、うん……〕
電話の向こうで困っているようだった。オイオイ、誘っといて困るな。
〔でも、はやと君寂しそうだったし……〕
「ぼっちで悪かったな」
〔はうっ! ご、ごめんね! そんなつもりじゃ……!〕
「分かってるよ」
つかさがそんなことを言う奴じゃないことは承知済みだ。本当に俺を心配してるんだろ。
だから、俺は敢えて断った。
「俺の世話なんて焼いてないで、家族と楽しく過ごせよ」
〔でも……〕
「俺は俺で何とかする。じゃあな」
一方的に電話を切り、俺はスーパーへ向かった。
勿論、つかさには感謝している。誘われた時はかなり嬉しかった。
けど、ここで誘いに乗ったらまたあの家族に甘えてしまう。
俺は部外者なんだ。何かある度にあの家族を頼ったらダメなんだ。
外は曇っていて、一段と寒かった。
☆★☆
去年までは魔のXデー。それが、今年からは彼女と過ごすラブラブデー……になるはずだった。
「お帰りなさいませっ」
なのに、俺は今、彼女であるこなたのバイト先のメイド喫茶に来ていた。
いや、これはこれで目の保養になるよ?
けど、何か違う気がする。
「あき君、元気がないよ~?」
従業員であるメイドちゃんに話しかけられる。
俺もすっかりここの常連となり、顔を覚えられていた。
初めて来た時の騒動で、俺のファンになった娘もいるようだ。悪くない。
「泉さんを独占出来ないのが寂しいとか?」
図星を突かれる。流石はベテランのメイド!
「そうなんよ~。もう寂しくて浮気しちゃいそう!」
「ほう?」
メイドちゃんに手を出そうとすると、横から指をパキポキ鳴らす音が。
ギギギッと首を向けると、小さなSOS団長さんが修羅のオーラを纏ってました、ハイ。
「冗談だって! 大人しく待ってますから!」
「本当に~?」
疑わしい視線で俺と、メイドちゃんを見るこなた。
……はは~ん。
「本当だって。だからオムライスプリーズ」
「はいはい。分かりました~」
俺が注文すると、こなたはツンとした態度のまま厨房に戻る。
やれやれ、こなたも嫉妬深いね~。
「泉さん、裏ではそわそわしてるんですよ~」
早く上がりたいんだと思います、とメイドちゃん。実は、今の様子で俺も分かってしまった。
素直じゃねぇよな、アイツも。
やっとこなたが上がる頃には、既に外は真っ暗になっていた。
「ごめんね、あき君」
「んーや、一応一緒にはいたからいいさ」
俺達は手を繋いで歩く。端から見たら兄妹かもな。
「さて、何処に行きますか」
「んー……ウチ!」
えー、そうじろうさんいるからイチャイチャ出来ねーじゃん!
「じゃあ、あき君の家?」
俺の家も両親がいる。
こんな日に彼女なんて連れて帰ってきたら大騒ぎするに決まっている。
脳筋親父には「まだ早い!」って殴られるかもな。
「ラブホ、なんてどうだ?」
「却下」
ですよねー。
ノープランだけど、こんなやり取りをしているのが一番楽しかったりする。
「アキバをブラブラしますか」
「だね」
俺達には豪華な食事やしんみりムードなんて似合いっこない。
ファミレスで飯を食ったり、電気街でフィギュアを眺めたりしている方がいい。
「行こうぜ」
「うん」
俺達は一風変わったクリスマスデートを最高に楽しんだのであった。
☆★☆
俺には付き合って日の浅い恋人がいた。
気が強く、真面目だけど何処か抜けた所のある可愛い彼女だ。
「お待たせ、やなぎ!」
紫色のツインテールを揺らし、こちらに駆けてくる。
俺は駅前でかがみと待ち合わせをしていた。
俺がかがみの家に行ってもよかったんだが、姉妹がつかさ以外にもいるらしく、からかわれるから嫌だとのこと。
かがみがしっかりした性格になったのも頷ける気がする。
「ああ」
「……へ、変な所とかない?」
モジモジし出すかがみを、俺は眺めた。
黒のコートに赤いマフラー。別におかしな所はない。
「ああ、可愛い」
「っ!」
素直な感想を述べると、かがみは更に顔を真っ赤にした。
「あ、あ、ありがとう……」
付き合っても、恥ずかしがり屋なところは健在のようだ。
俺は俺で、2人きりでいる時は恥ずかしく感じなくなっていた。
勿論からかわれたら恥ずかしくなるが……多分、自信が付いたおかげだろう。
「じゃ、行こうか」
「う、うん」
手を差し伸べると、かがみは俺の予想に反して腕を組んできた。
前言撤回、俺もまだまだ恥ずかしいようだ。
初々しいカップルは、顔を真っ赤にしたまま街中へ繰り出した。今日だけは知り合いに出くわしませんように。
☆★☆
今日はクリスマス。
僕は久々にみなみの家に行った。
みゆきと岩崎みなみ、そして僕は小学校の幼馴染みだ。
転校が決まった時、みなみは泣いてくれたっけ。
最後に見た時と変わりない大きな家。庭には、大きなシベリアンハスキーが横たわっていた。
「チェリー!」
名前を呼ぶと、ピクッと反応する。
僕が最後に見た時はあんなに小さかったのに、かなり立派に育ったんだね。
僕のことを覚えているといいけど。
「チェリー、久しぶりだね」
手を出すと、チェリーは僕の匂いを嗅ぐ。
そして、僕に擦り寄ってきた。覚えててくれたんだ!
「あははっ、久しぶりだね!」
チェリーとじゃれていると、家から薄緑色の髪の女性が出て来た。
「チェリー、誰か来て……!」
彼女は僕を見て驚いていた。
あの時から大きくなったのは彼女も同じだった。
「みちる、さん……」
あ、あれ? 昔は僕をお兄ちゃんって呼んでたと思ったけど……?
とにかく、彼女は僕の名前を呼んだ。
「ただいま、みなみ」
僕は微笑んで、みなみにそう言った。
みゆきとゆかりさん(みゆきのお母さん)は既に岩崎家に来ていた。
「あらあら、大きくなったわね~」
「でも可愛さは変わらないわ~」
ほのかさん(みなみのお母さん)とゆかりさんにそう言われ、思わず嬉しくなる。
でも可愛さはあまりいらないかなぁ。
「彼女とかいるの?」
「あはは、いませんよ~」
ゆかりさんは相変わらず若々しい。勿論ほのかさんもだけど、ゆかりさんは性格も……なんて考えるのは失礼かな。
彼女……あきとやなぎにも出来たし、僕も度々羨ましく思う。そろそろ欲しいな、なんて。
「あら、じゃあみゆきなんてどう~?」
「お、お母さん!」
ゆかりさんに勝手に勧められ、慌てるみゆき。
みゆきなら引く手数多だし、僕よりいい人を見つけられるだろうな~。
「わ、私みちるさんのフルート聞きたいです!」
みゆきが急に話題を変える。
そういえば、まだみゆきの前で演奏してなかったっけ。
「じゃあ、みなみとデュエットしよっか」
「!?」
今度は僕がみなみに振ってみる。
みなみは予想してなかったらしく、かなり驚いていた。
口数が少ないのも、変わらないなぁ。
その後は、僕とみなみの演奏会をしたり、プレゼントを交換したり、まるで子供の頃に戻ったかのように楽しんだ。
☆★☆
俺は今、猛烈に困っていた。
スーパーに来たのはいい。
人も沢山いる。それも問題はない。
けど、そこでみきさんと遭遇するのは予想外だった。
「あら、はやと君もお買物?」
「えぇ、まぁ……」
相変わらず若々しい笑顔で尋ねてくる。
余計なことを言われる前にさっさとこの場から消えないとな。
「そういえば、つかさから電話は掛からなかった? 今夜ウチでパーティーするから誘うって言ってたけど」
言われちまった……。
ニコニコと、俺の返事を待っているみきさん。
一体なんて言って断りゃいいんだ!?
「……来ました」
「あら、じゃあ待ってるわね」
勝手に行くことにされた!?
ここで断んなきゃ、本当に行くことに……!
「いや、あのっ」
「遠慮しなくていいのよ?」
俺の言葉を遮って、みきさんは言った。
「はやと君はもう家族も同然なんだから」
……ダメだ。
俺はこの家族に勝てそうもない。居心地が良すぎるんだ。
「……はい。料理、楽しみにしてます」
「うん。じゃ、後でね」
嬉しそうにみきさんは会計に向かっていった。
買った物を冷蔵庫にぶち込むと、恥ずかしながら俺は柊家に向かった。
「はやと君! いらっしゃい!」
とびきりの笑顔で迎えるつかさ。
「ああ、悪いな。また世話になる」
罰の悪そうに俺はあがろうとする。
「悪いだなんて、思ってないよ? はやと君は大切なお友達だもん」
そんな俺の心を、コイツは更に溶かそうとする。
そんなに俺の弱みをみたいのかって位に。
「……お邪魔します」
「どうぞ~」
もう、余計なことを考えるのはやめにしよう。
つかさの人の良すぎる笑顔を見ていたら、強がる自分がバカらしく思えてきた。
「お、いらっしゃい」
「今年はかがみがいないから物足りなくて……おのれ、抜け駆けしおって」
かがみはやなぎと出掛けたんだろう。
それにしても、この人達は何時になったら相手を見つけるんだろうか。
「さ、座って座って」
みきさんに言われ、遠慮がちに座る。
やっぱり、ここはいつも暖かい。
「揃ったところで、乾杯でもしましょうか」
そういや、神社の家でクリスマスなんてやっていいのだろうか?
ふと、ただおさんと目が合う。
ただおさんは俺の考えていることを察したのか、苦笑しながら首を横に振った。
……この際野暮な話は抜きでいいか。
みきさんが注いでくれたコーラを持つ。
もし許されるなら、来年もまたこうして集まれますように。
「メリークリスマス!」
どうも、雲色の銀です。
第25話、ご覧頂きありがとうございます。
今回はそれぞれのクリスマスでした。
はやともみちるも、フラグは立ってるのにバキボキ折っているので、クリスマスまでにリア充になれませんでした。来年はどうでしょう?
あと、みなみがちょっとだけ登場しました。後輩組では1番好きなキャラだったりします。
次回は年明けのお話!