すた☆だす   作:雲色の銀

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第21話「正直なあなた」

 桜藤祭が終わり、また日常が帰ってきた。

 黒井先生の授業、眠る徹夜組、鉄拳制裁。

 で、俺は屋上でシエスタを楽しんでいる。

 

「平和だな……」

 

 こうして、ここで昼寝をするのも久々だ。

 だが、そう思っているのも束の間。

 

「はやと君!」

 

 バンッ!とドアを開け、連れ戻し部隊がやってきた。

 

「授業サボっちゃダメだってば~!」

 

 頬を膨らまして怒るつかさ。

 ぶっちゃけ怖くもなんともない……が、俺はどうもコイツに弱いらしく。

 

「へーへー、分かりましたよ」

 

 観念して体を起こし、入り口の上から降りた。

 

 桜藤祭後の一件以来、どうも俺が変わったと言われている。

 そこそこに優しくなったとか、笑うようになったとか、つかさに逆らえなくなってるとか。

 事情を知らないと、好き勝手言えるモンだな。

 

 が、皆の予想は大体合っていた。

 つかさのおかげでちょっとは角も取れ、俺はつかさが好きになっていた。

 目の前には姉という、巨大な壁が立ちはだかっているが。

 あきでさえ、こなたと付き合えたんだ。俺にもチャンスは……

 

「はやと! また屋上!?」

 

 とか思っていると、つかさに続いてかがみまでやって来た。

 出たよ、過保護が。

 

「つかさの手を患わせる真似はやめなさいよ!」

「呼びに来なきゃいいだろ」

「ダメだよ~」

 

 両側から責められて、耳を塞ぎたくなる。

 もし翼があったら、楽に逃げられるのになぁ……。

 

 

☆★☆

 

 

 今の俺は、正に幸せの絶頂だった。

 一月前までは「爆発しろ」と言う側が、まさか言われる側になるなんてな~。

 

「で、具体的にどうなんだ」

 

 浮かれる俺に、やなぎが尋ねてくる。

 

「そうか、聞きたいか! 俺とこなたのイチャイチャぶりを!」

「いや、やっぱ別にいい」

 

 話を振ってきたくせに冷たいな~。

 

「まず登下校!」

「勝手に話すのかよ」

 

 やなぎんのツッコミを軽くスルーし、俺は話し始めた。

 

「勿論一緒! 通学路で手を繋いだり!」

「いや、家違う方だし」

「昼! こなた手作りの愛妻弁当を」

「「愛妻」じゃないし、そもそも私弁当作らないよ」

「放課後! 人気のない教室でキャッキャウフフの」

「さっさと帰るじゃん」

「……その後はラブラブデート!」

「ゲマズやメイトだけどね」

 

 理想と現実のギャップに泣きそうになる。

 ……こなたさん。あなたは本当に俺の彼女さんでしょうか?

 

「以前と何一つ変わらないじゃないか」

「そーなんだよねー」

 

 現実に打ち拉がれる俺を前に、こなたはアッサリと言い放つ。

 

「大体あっきー、ウチにすら来てないじゃん」

「ぐはっ!?」

 

 はい、トドメの一言貰いましたー!

 そう、俺は泉家にまだ行っていない。

 

 理由は……あの父親だ。

 ノコノコ出向いて「娘さんとお付き合いさせてもらってます」なんて言ってみろ?

 二度とお天道様を拝めなくなる。

 

「要するにヘタレているのか」

「どうしようもないよね~」

 

 凹んでいる俺に容赦ない言葉を投げ付ける2人。

 あーもう! 分かりましたよ!

 

「行きゃいいんでしょ! 今日の帰りにこなたン家に寄ってくから!」

「……え? マジ?」

 

 勢いで言うと、何故かこなたが狼狽えた。

 

「えっと……急だから、その……」

 

 何だ? いきなり萎らしくなったな。

 

「部屋が汚いとかなら気にしないぜ?寧ろ下着とか持ち」

 

 次の瞬間、強烈なアッパーを食らった。

 あの動き……世界を狙える!

 

 この後土下座し、「良いというまで家に入るな」ということで許してもらった。

 

 

 

「へっくし!」

 

 で、外で待たされること30分。

 流石に家には入れてくれてもいいんじゃないスかねぇ!?

 もう肌寒くなる季節。他人の家の前で30分も待たされる高校生。

 

「洒落になんねぇ……」

 

 その時、ガチャリと泉家の堅い扉が開かれた。

 

「もういいよ~」

 

 そこには、すっかり普段着に着替えたこなたの姿が!

 

「遅くなかったか!?」

「ごめんごめん、あき君のこと忘れてたよ~」

 

 ……段々とあなたの恋人であることに自信がなくなります。

 家に入ると、普通に片付いていた。

 

「親父さんは?」

 

 ここで最大の障害物について尋ねてみた。

 

「買い物だと思うよ」

 

 イエス! これはもしやチャンス!

 

「あ、変な真似したら社会的に殺すから」

 

 俺の嬉々とした雰囲気を察したのか、こなたは振り向きもせずに恐ろしいことを言い放った。

 

 

 こなたの部屋に入ると、正座して待つように言われた。

 

「予想はしていたが、なぁ……」

 

 俺はこなたの部屋のクオリティに驚いていた。勿論、俺の部屋だって負けちゃいない。

 フィギュア、PCゲー、ラノベ、ポスターetc。

 正直、女の子の部屋じゃない。

 けど、それ以外は汚れた感じが一切ない。

 恐らく、待たされていた30分の間、必死に掃除したのだろう。

 

「……素直じゃないな」

 

 そこが可愛いんだけどな。

 

「お待たせ~。何か触ってないよね?」

「どんだけ信用ないんだ、俺は」

 

 言われた通り正座で待ってたぞ!

 

 

 それから、こなたの淹れてくれたコーヒーを飲みながら、今期のアニメや新発売のグッズの話で盛り上がり、ゲームでの対戦に熱中していると時間はあっという間に過ぎていった。

 

「カモン! 真紅眼の闇竜!」

「じゃあ超融合で」

「Noooo!?」

 

 カードゲームに夢中になっていると、下の方でドアの開く音がした。

 

「ただいまー」

 

 音と声から分かる通り、親父さんが帰宅してきた。

 あれ、やばくね?

 

「こなたー、お友達が来てるのかー?」

 

 親父さんはこちらに近付いてくる。

 ってか、靴が明らかに男物だから気付いてる可能性大。

 アレ、ヤバクネ?

 

 しかも、桜藤祭の劇で顔が割れてる挙げ句、キスシーンまで披露している。

 ウン、ヤバイネ!

 

「おかえりー。うん、ちょっと待っててー」

 

 こなたはいつもの調子で声をかける。

 すると、親父さんは戻っていった。

 流石に娘の部屋に入っては来ないか。ヒヤヒヤしたぜ。

 

「じゃ、挨拶に行こうか」

 

 えええぇぇぇぇぇぇ!?

 危機を乗り越えたかと思いきや、死の宣告!?

 

「だって、そういう話だったじゃん」

 

 チクショー! すっかり忘れてた!

 

「で、でも心の準備が……」

「今から彼氏紹介するからー」

 

 こなたぁぁぁぁぁぁぁ!?

 下では、盛大にずっこけるような物音がした。

 ……遺言でも考えておこう。

 

 

 

 楽しいはずの彼女のお宅訪問。

 

「え、えー……こなたとお付き合いをさせて頂いてます、天城あきです」

 

 それが、一瞬で修羅場に。

 俺は親父さんの部屋(書斎?)で正座していた。

 痛い。親父さんの視線が痛い。

 

「君は確か、劇でこなたと……」

「はい……」

「うん、キスしたよ」

 

 何でこなたはあっけらかんとしてるの!? 緊張しろよ!

 

「あれはやっぱり本当に……い、何時からなんだ?」

 

 親父さんの肩が震える。

 うわぁ、めっちゃ動揺してるよ……。

 

「こ、告白したのは劇のすぐ後で」

「じゃあキスした責任を取るつもりで付き合ったのかい?」

「それは違います!」

 

 親父さんの言葉に、俺はすぐに反応した。

 

 告白は後出しだったけど、それは絶対に違った。

 キスしたから付き合う、なんてバカみたいな真似を、俺もこなたもしない。

 俺はキスシーンを意識して、バカみたいに失敗を続けた。

 それは、それより前からこなたを意識してたからであって。

 

「あき君……」

 

 気が付くと、こなたが顔を赤くしてこっちを見ていた。

 親父さんも目を見開いている。

 

「……もしかして、今の口に出てた?」

 

 こなたはコクリと頷いた。

 うわぁぁぁぁぁぁ!?

 めっちゃ恥ずかしっ!?

 

「お、お茶淹れてくるね!」

 

 そう言って、こなたは部屋を出た。

 ちょ、逃げるな! 親父さんと2人にするなぁぁぁぁぁぁ!

 

「…………」

 

 この沈黙が怖い! さっきと比べて目付きが悪くなってるし!

 

「天城君、だっけ?」

「……はい」

「君の趣味は?」

「……ゲームとか、アニメです」

 

 ジッとこっちを見ている。

 こなたがああだから、通じると思ったが……ここはマトモなのを答えるべきだったか!

 

「そうか、君も……」

 

 再び沈黙が続く。こんな空気、もう耐えられない!

 クソッ、何か話題を……。

 キョロキョロ部屋を見回すと、親父さんの後ろにある本棚に知っている本があった。

 

「えっと……そ、そうじろうさんも読むんすか? その本」

 

 純文学っぽい本で、俺はあまり読まないんだけど、俺の親父に勧められて読んだことがあった。

 

「あぁ、これ? これは俺が書いたんだ」

 

 な、えええぇぇぇぇ!?

 親父さん、小説家だったの!?

 

「でも、天城君ぐらいの子が読むなんて珍しいね」

「はぁ、親父に勧められて……」

 

 今だけ俺のアホ親父に感謝するぜ!

 そして、俺は親父さんに他の著書を勧められたり、サブカル的な話題で盛り上がってしまった。

 これで、親父さんは俺とほぼ同類だということが分かった。

 

「何時の間にか仲良くなったみたいだね~」

 

 すると、こなたがお茶を持って戻ってきた。

 お茶淹れるにしては長すぎませんかぁ!?

 

「……コホン。でもあき君、こなたはそう簡単に渡せないぞ!」

 

 すぐに父親らしい感じに戻った親父さん。

 でも、いくらかトゲは取れたっぽい。

 

「……俺も諦めませんよ」

 

 不適な笑みで答える俺。

 こうして、挨拶は一応無事に済んだ。

 ついでに新しいヲタ仲間も増えた。

 

 

「いや~、一時はどうなることかと」

「それ、俺の台詞だから!」

 

 いきなり仕組んだのもこなただろうが!

 部屋に戻り、一息吐くこなたに突っ込む。

 

「……でも、あき君が私を大事」

「こりゃ、お仕置きの1つでもいれなきゃな~」

「…………」

 

 手をワキワキさせながら考えを巡らせていると、こなたにジト目で睨まれた。

 

「な、何だよ?」

「はぁ~……」

 

 何で飽きられてるの!? おーい!?

 結局、お宅訪問の定番であるえっちいことは出来ませんでした。トホホ……。

 

 

 

「って訳で、こなたの家でイチャイチャしてきたんよ」

「どの辺がだよ」

 

 翌日、早速やなぎん達に俺の武勇伝を聞かせてやった。

 

「親父さんに真摯に向き合い、愛を語ったじゃん」

「胡散臭い」

 

 はやと、お前にだけは言われたくない。

 

「でも、彼女がいるって楽しいんでしょ? いいな~」

 

 いやいや、みっちーはより取り見取りでしょうが。

 

「更に、今日はこなたからお弁当をもらがべっ!?」

 

 大声でお弁当自慢をしようとしたら、何処かから筆入れが飛んできた。

 

「あき君、そういうのは大声で言わないようにね~」

「イテテ……すみません」

 

 こなた、恐るべし。

 とりあえず怖かったので、謝っておいた。

 

「だが、愛妻弁当があれば、俺は復活出来る!」

 

 俺は勢い良く弁当箱の蓋を開けた。

 そこには、こなたお手製のご飯が……

 

 

 

「菓子パンだな」

「菓子パンだね」

「菓子パンだ」

 

 

 

 声を揃える3人。ま、まっさか~。

 しかし、どう見ても袋に入ったアンパンが弁当箱に納まっていた。

 な、何だこの手の込んだ手抜きはぁぁぁぁぁ!?

 

「てへっ」

 

 「てへっ」じゃねぇぇぇぇ!

 翌日から、愛妻弁当は消滅したのであった。

 堂々としたラブラブ生活にゃ、まだまだ遠いか……。




どうも、雲色の銀です。

第21話、ご覧頂きありがとうございます。

今回はあきとこなたの話でした。
こなたのあきへの態度は、そうじろうへのそれと近くしています。もっとキツいかも(笑)。

そうそう、「すた☆だす」。
あと9話で終わります。

次回からは、体育祭の話です。

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