桜藤祭が終わり、また日常が帰ってきた。
黒井先生の授業、眠る徹夜組、鉄拳制裁。
で、俺は屋上でシエスタを楽しんでいる。
「平和だな……」
こうして、ここで昼寝をするのも久々だ。
だが、そう思っているのも束の間。
「はやと君!」
バンッ!とドアを開け、連れ戻し部隊がやってきた。
「授業サボっちゃダメだってば~!」
頬を膨らまして怒るつかさ。
ぶっちゃけ怖くもなんともない……が、俺はどうもコイツに弱いらしく。
「へーへー、分かりましたよ」
観念して体を起こし、入り口の上から降りた。
桜藤祭後の一件以来、どうも俺が変わったと言われている。
そこそこに優しくなったとか、笑うようになったとか、つかさに逆らえなくなってるとか。
事情を知らないと、好き勝手言えるモンだな。
が、皆の予想は大体合っていた。
つかさのおかげでちょっとは角も取れ、俺はつかさが好きになっていた。
目の前には姉という、巨大な壁が立ちはだかっているが。
あきでさえ、こなたと付き合えたんだ。俺にもチャンスは……
「はやと! また屋上!?」
とか思っていると、つかさに続いてかがみまでやって来た。
出たよ、過保護が。
「つかさの手を患わせる真似はやめなさいよ!」
「呼びに来なきゃいいだろ」
「ダメだよ~」
両側から責められて、耳を塞ぎたくなる。
もし翼があったら、楽に逃げられるのになぁ……。
☆★☆
今の俺は、正に幸せの絶頂だった。
一月前までは「爆発しろ」と言う側が、まさか言われる側になるなんてな~。
「で、具体的にどうなんだ」
浮かれる俺に、やなぎが尋ねてくる。
「そうか、聞きたいか! 俺とこなたのイチャイチャぶりを!」
「いや、やっぱ別にいい」
話を振ってきたくせに冷たいな~。
「まず登下校!」
「勝手に話すのかよ」
やなぎんのツッコミを軽くスルーし、俺は話し始めた。
「勿論一緒! 通学路で手を繋いだり!」
「いや、家違う方だし」
「昼! こなた手作りの愛妻弁当を」
「「愛妻」じゃないし、そもそも私弁当作らないよ」
「放課後! 人気のない教室でキャッキャウフフの」
「さっさと帰るじゃん」
「……その後はラブラブデート!」
「ゲマズやメイトだけどね」
理想と現実のギャップに泣きそうになる。
……こなたさん。あなたは本当に俺の彼女さんでしょうか?
「以前と何一つ変わらないじゃないか」
「そーなんだよねー」
現実に打ち拉がれる俺を前に、こなたはアッサリと言い放つ。
「大体あっきー、ウチにすら来てないじゃん」
「ぐはっ!?」
はい、トドメの一言貰いましたー!
そう、俺は泉家にまだ行っていない。
理由は……あの父親だ。
ノコノコ出向いて「娘さんとお付き合いさせてもらってます」なんて言ってみろ?
二度とお天道様を拝めなくなる。
「要するにヘタレているのか」
「どうしようもないよね~」
凹んでいる俺に容赦ない言葉を投げ付ける2人。
あーもう! 分かりましたよ!
「行きゃいいんでしょ! 今日の帰りにこなたン家に寄ってくから!」
「……え? マジ?」
勢いで言うと、何故かこなたが狼狽えた。
「えっと……急だから、その……」
何だ? いきなり萎らしくなったな。
「部屋が汚いとかなら気にしないぜ?寧ろ下着とか持ち」
次の瞬間、強烈なアッパーを食らった。
あの動き……世界を狙える!
この後土下座し、「良いというまで家に入るな」ということで許してもらった。
「へっくし!」
で、外で待たされること30分。
流石に家には入れてくれてもいいんじゃないスかねぇ!?
もう肌寒くなる季節。他人の家の前で30分も待たされる高校生。
「洒落になんねぇ……」
その時、ガチャリと泉家の堅い扉が開かれた。
「もういいよ~」
そこには、すっかり普段着に着替えたこなたの姿が!
「遅くなかったか!?」
「ごめんごめん、あき君のこと忘れてたよ~」
……段々とあなたの恋人であることに自信がなくなります。
家に入ると、普通に片付いていた。
「親父さんは?」
ここで最大の障害物について尋ねてみた。
「買い物だと思うよ」
イエス! これはもしやチャンス!
「あ、変な真似したら社会的に殺すから」
俺の嬉々とした雰囲気を察したのか、こなたは振り向きもせずに恐ろしいことを言い放った。
こなたの部屋に入ると、正座して待つように言われた。
「予想はしていたが、なぁ……」
俺はこなたの部屋のクオリティに驚いていた。勿論、俺の部屋だって負けちゃいない。
フィギュア、PCゲー、ラノベ、ポスターetc。
正直、女の子の部屋じゃない。
けど、それ以外は汚れた感じが一切ない。
恐らく、待たされていた30分の間、必死に掃除したのだろう。
「……素直じゃないな」
そこが可愛いんだけどな。
「お待たせ~。何か触ってないよね?」
「どんだけ信用ないんだ、俺は」
言われた通り正座で待ってたぞ!
それから、こなたの淹れてくれたコーヒーを飲みながら、今期のアニメや新発売のグッズの話で盛り上がり、ゲームでの対戦に熱中していると時間はあっという間に過ぎていった。
「カモン! 真紅眼の闇竜!」
「じゃあ超融合で」
「Noooo!?」
カードゲームに夢中になっていると、下の方でドアの開く音がした。
「ただいまー」
音と声から分かる通り、親父さんが帰宅してきた。
あれ、やばくね?
「こなたー、お友達が来てるのかー?」
親父さんはこちらに近付いてくる。
ってか、靴が明らかに男物だから気付いてる可能性大。
アレ、ヤバクネ?
しかも、桜藤祭の劇で顔が割れてる挙げ句、キスシーンまで披露している。
ウン、ヤバイネ!
「おかえりー。うん、ちょっと待っててー」
こなたはいつもの調子で声をかける。
すると、親父さんは戻っていった。
流石に娘の部屋に入っては来ないか。ヒヤヒヤしたぜ。
「じゃ、挨拶に行こうか」
えええぇぇぇぇぇぇ!?
危機を乗り越えたかと思いきや、死の宣告!?
「だって、そういう話だったじゃん」
チクショー! すっかり忘れてた!
「で、でも心の準備が……」
「今から彼氏紹介するからー」
こなたぁぁぁぁぁぁぁ!?
下では、盛大にずっこけるような物音がした。
……遺言でも考えておこう。
楽しいはずの彼女のお宅訪問。
「え、えー……こなたとお付き合いをさせて頂いてます、天城あきです」
それが、一瞬で修羅場に。
俺は親父さんの部屋(書斎?)で正座していた。
痛い。親父さんの視線が痛い。
「君は確か、劇でこなたと……」
「はい……」
「うん、キスしたよ」
何でこなたはあっけらかんとしてるの!? 緊張しろよ!
「あれはやっぱり本当に……い、何時からなんだ?」
親父さんの肩が震える。
うわぁ、めっちゃ動揺してるよ……。
「こ、告白したのは劇のすぐ後で」
「じゃあキスした責任を取るつもりで付き合ったのかい?」
「それは違います!」
親父さんの言葉に、俺はすぐに反応した。
告白は後出しだったけど、それは絶対に違った。
キスしたから付き合う、なんてバカみたいな真似を、俺もこなたもしない。
俺はキスシーンを意識して、バカみたいに失敗を続けた。
それは、それより前からこなたを意識してたからであって。
「あき君……」
気が付くと、こなたが顔を赤くしてこっちを見ていた。
親父さんも目を見開いている。
「……もしかして、今の口に出てた?」
こなたはコクリと頷いた。
うわぁぁぁぁぁぁ!?
めっちゃ恥ずかしっ!?
「お、お茶淹れてくるね!」
そう言って、こなたは部屋を出た。
ちょ、逃げるな! 親父さんと2人にするなぁぁぁぁぁぁ!
「…………」
この沈黙が怖い! さっきと比べて目付きが悪くなってるし!
「天城君、だっけ?」
「……はい」
「君の趣味は?」
「……ゲームとか、アニメです」
ジッとこっちを見ている。
こなたがああだから、通じると思ったが……ここはマトモなのを答えるべきだったか!
「そうか、君も……」
再び沈黙が続く。こんな空気、もう耐えられない!
クソッ、何か話題を……。
キョロキョロ部屋を見回すと、親父さんの後ろにある本棚に知っている本があった。
「えっと……そ、そうじろうさんも読むんすか? その本」
純文学っぽい本で、俺はあまり読まないんだけど、俺の親父に勧められて読んだことがあった。
「あぁ、これ? これは俺が書いたんだ」
な、えええぇぇぇぇ!?
親父さん、小説家だったの!?
「でも、天城君ぐらいの子が読むなんて珍しいね」
「はぁ、親父に勧められて……」
今だけ俺のアホ親父に感謝するぜ!
そして、俺は親父さんに他の著書を勧められたり、サブカル的な話題で盛り上がってしまった。
これで、親父さんは俺とほぼ同類だということが分かった。
「何時の間にか仲良くなったみたいだね~」
すると、こなたがお茶を持って戻ってきた。
お茶淹れるにしては長すぎませんかぁ!?
「……コホン。でもあき君、こなたはそう簡単に渡せないぞ!」
すぐに父親らしい感じに戻った親父さん。
でも、いくらかトゲは取れたっぽい。
「……俺も諦めませんよ」
不適な笑みで答える俺。
こうして、挨拶は一応無事に済んだ。
ついでに新しいヲタ仲間も増えた。
「いや~、一時はどうなることかと」
「それ、俺の台詞だから!」
いきなり仕組んだのもこなただろうが!
部屋に戻り、一息吐くこなたに突っ込む。
「……でも、あき君が私を大事」
「こりゃ、お仕置きの1つでもいれなきゃな~」
「…………」
手をワキワキさせながら考えを巡らせていると、こなたにジト目で睨まれた。
「な、何だよ?」
「はぁ~……」
何で飽きられてるの!? おーい!?
結局、お宅訪問の定番であるえっちいことは出来ませんでした。トホホ……。
「って訳で、こなたの家でイチャイチャしてきたんよ」
「どの辺がだよ」
翌日、早速やなぎん達に俺の武勇伝を聞かせてやった。
「親父さんに真摯に向き合い、愛を語ったじゃん」
「胡散臭い」
はやと、お前にだけは言われたくない。
「でも、彼女がいるって楽しいんでしょ? いいな~」
いやいや、みっちーはより取り見取りでしょうが。
「更に、今日はこなたからお弁当をもらがべっ!?」
大声でお弁当自慢をしようとしたら、何処かから筆入れが飛んできた。
「あき君、そういうのは大声で言わないようにね~」
「イテテ……すみません」
こなた、恐るべし。
とりあえず怖かったので、謝っておいた。
「だが、愛妻弁当があれば、俺は復活出来る!」
俺は勢い良く弁当箱の蓋を開けた。
そこには、こなたお手製のご飯が……
「菓子パンだな」
「菓子パンだね」
「菓子パンだ」
声を揃える3人。ま、まっさか~。
しかし、どう見ても袋に入ったアンパンが弁当箱に納まっていた。
な、何だこの手の込んだ手抜きはぁぁぁぁぁ!?
「てへっ」
「てへっ」じゃねぇぇぇぇ!
翌日から、愛妻弁当は消滅したのであった。
堂々としたラブラブ生活にゃ、まだまだ遠いか……。
どうも、雲色の銀です。
第21話、ご覧頂きありがとうございます。
今回はあきとこなたの話でした。
こなたのあきへの態度は、そうじろうへのそれと近くしています。もっとキツいかも(笑)。
そうそう、「すた☆だす」。
あと9話で終わります。
次回からは、体育祭の話です。