すた☆だす   作:雲色の銀

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第12話「まずは話し合い」

 今、思った。桜藤祭、つまり学園祭とは何だろうか。

 「祭」と入ってるのだから学園全体でワイワイハシャぐものだろうか。

 だとすれば、人混みが嫌いな俺にとっては面白いものではないだろう。

 

「ってな訳で、俺はお役立ち度0なので屋上」

「ちょっと待てや!」

 

 正論を言ったはずが、何故かあきに止められた。何だよ、文句あんのか。

 

「確かにお前は役に立たない」

 

 そこ、はっきり言ってんじゃねぇよ。お前に言われるとムカつくから。

 

「だがお前は勘違いしている。学園祭、それは結束なのだ!」

 

 あきがいいことを言った為、クラス内がざわめく。

 結束、ねぇ……。

 

「クラスの誰かが欠ければ、それは完成しない! 例え、お前であっても!」

「ほぅ」

「参加することに意義があるという奴がいるが、それだけじゃない! 皆で団結して1つのことを全力でやることこそ意義があるんだ!」

 

 力説するあきに、周囲から拍手が湧き上がる。なるほど、熱血漢が言いそうな台詞だ。イイハナシダナー。

 

 

「そこまで言うんなら、お前がクラス委員になってくれるんだな」

「だが断る!」

 

 

 オイ、ふざけんなテメー。

 

「結束なんだろ? お互いが出来ないことをやろうぜ?」

「お前はやらないだけだろうが!」

 

 当たり前だ。面倒臭いことはやらないに限る。

 

「お前だって一緒だろ?」

「人間って譲り合いが大事だと思うんだ」

「話変わってるぞ。それに俺が既にお前に譲っている」

「そして俺はお前に盥回しに」

「すんなバカ」

 

 俺達の頭の悪そうな会話は一方通行のままだった。

 やれやれ、これじゃあ埒が明かない。

 

 現在、俺達のクラスでは陵桜学園(りょうおうがくえん)の学園祭、桜藤祭(おうとうさい)についての話し合いの真っ最中だった。

 まずは、クラス委員を男女2人ずつ出すというのだが……。

 

「あき、お前が適任だ」

「決まる瞬間まで寝てた奴が何言ってんだ!」

 

 そう、こんな面倒な役をやりたがる奴などいない。

 

 そこで、黒井先生が寝ていた俺に目を着け、勝手に決定しようとした。

 だが、直前で目覚めた俺は勿論拒否。生贄として、代わりにあきを勧めた結果、今のような状況に。

 

「あぁ、ところで女子は誰がやるんだ? 相手次第じゃ、お前の役得じゃないか?」

「む……」

 

 俺達で押し付け合っても仕方ない。女子から先に決めることを提案する。

 普段からイベントがどうのこうの言ってる奴だ。このチャンスを逃すはずはない。

 

「むにゃむにゃ……」

 

 ……ん?

 静まり返った教室に、明らかに俺のではない寝息が聞こえた。

 

「先生、つかさが寝てます」

「じゃ、女子の方は柊に決定な~」

「ふぁぁ……ふぇ?」

 

 オイオイオイ!? 何でアイツまで寝てるんだよ!?

 普段俺に寝るなって言ってんだろ!

 目覚めた本人は、何が起こっているのか分からず呑気に欠伸をかいている。

 

「つかさかぁ……ここは保護者のはやとが適任じゃないか?」

 

 勝手に保護者にするな。

 だが、コイツ等の組み合わせじゃ不安なのも確か。けど、面倒だ……。

 

「ここで委員になれば、クラスの出し物はサボれるぞ?」

「どっちにしろ仕事すんじゃねぇか」

「当日にゃ、仕事はほぼなしだって聞いたぜ? 実行委員じゃないから普段の仕事も少ないし、この後の会議も楽だ」

 

 む……そう考えると一種の回避策であると考えられるな。

 

「……仕方ない、俺の負けだ」

 

 こうして、黒板に俺とつかさの名前が書かれた。

 ふぅ、これでこの後の会議に参加しなくてもいいんだな?

 

「ほな、クラス委員2名。司会進行よろしゅうな」

 

 何……だと……?

 司会進行なんて聞いていない。俺は慌ててあきの顔を睨んだ。

 

「計 画 通 り」

 

 よし、アイツ後で殺す。

 渋々、俺は未だに状況が把握出来ていない寝呆け娘を連れて黒板の前に立つ。

 

「で、出し物は何がいいんだ?」

 

 決めるべき事項はクラス委員だけではない。クラスでやる、出し物も決めなくてはならない。

 ……が、クラス内からは意見の挙手が挙がらなかった。アレか、静寂という名の暴力って奴か。

 

「ハイ!」

 

 しかし、この気まずい状況の中でで手を挙げる猛者が1人。

 さっき席に戻ったばかりの、学級委員のみゆきだ。

 

「流石みゆきだ。何がしたい?」

 

 きっと楽しい出し物を用意してくれるんだろうな。

 

 

「桐箪笥の歴史と作り方なんてどうでしょう?」

 

 

 一瞬、教室内の時が止まった。

 き、桐箪笥……? ネタか何かなのか?

 

「?」

 

 いや、ガチだ。

 あの無垢な笑顔は、間違いなく桐箪笥でウケると思ってやがる!

 

「は、はは……」

 

 俺は苦笑いしながら黒板に項目を書く。

 一文字一文字を書く程、周囲に緊張が走る。

 そして、俺はトドメの一言を放った。

 

「他に案がないなら、これになるけど?」

 

 今、教室内の空気が変わる……!

 

 

 

「じゃ、多数決の結果演劇で決定な」

 

 黒板には、演劇と桐箪笥の歴史と作り方の2つしか書かれておらず、圧倒的多数によって演劇に決定した。

 

「残念です……」

 

 自分の案が却下され、落ち込み気味のみゆき。

 

 いや、アンタはよく頑張ったよ。

 やる気に欠けていたこのクラスを、案1つで纏めたんだからな。

 

「んで、演目は?」

 

 演劇といえばまず演目だろ。ただ演劇やりますってだけじゃ通じない。

 ま、俺は何もしないがな!

 

「じゃあナウ○カ!」

「消失だろ!」

「ディ○ニーの何か!」

「おいやめろ、消されるぞ」

 

 様々な案が上がるが、イマイチ纏まりがない。

 やはりここで意見が割れるか……。こりゃ、多数決取っても無駄だな。幅があり過ぎる。

 

「つかさ、何かいい案あるか?」

 

 ここまで、横に突っ立ってるだけのつかさに話を振ってみた。

 

「えーと……昔話は? 桃太郎とか?」

 

 しかし、効果はないようだ。お前、それみゆきレベルじゃねぇか。

 

 仕方ない、最終手段だ。俺は深呼吸をする。

 

「注目しろオラァ!!」

 

 黒板をぶっ叩き、ガヤガヤと騒ぐ連中を黙らせる。

 騒音は騒音で制す。この手に限るな。

 

「今から紙配るから、やりたい演目を1つだけ書け。回収後、箱に入れて混ぜて、つかさが1枚引くからそれに決定な。異論は認めない」

 

 俺は唯一公平な決定方法を皆に告げる。要するに抽選である。

 つかさにくじを引かせる理由は、一番不正をしそうにないからだ。

 

「え? えっ!?」

 

 やっと事情が飲み込めたつかさは戸惑っている。ま、注目を浴びる役だしな。

 

「肩の力を抜け。別にお前に責任がある訳じゃないが、少しぐらい働け」

「あ、う、うん……」

 

 緊張を解く為、一応耳打ちしておく。すると、つかさは何故か顔を赤くして頷いた。

 緊張すんなってのに、困った奴だ。

 

 

 紙を回収し終わり、箱にブチ込んで振った後にお待ちかねの抽選タイムだ。

 俺はつかさに箱を差し出す。

 

「つかさ」

「えっと、ひ、引きます!」

 

 つかさは顔を赤くしながら箱の中に勢いよく手を突っ込んだ。

 注目を集めているからか、余計に緊張しているような……まぁ、いつもは目立たない立ち位置だからな。

 

「……これ!」

 

 つかさは腕をゴソゴソと動かし、箱の中から1枚の紙を引いた。

 うん、不正はなかった。

 

「へぇ、これは……」

 

 紙に記入してある題名を、黒板に書き写していく。

 ま、大抵の人間は内容を知らないだろうな。俺はガキの頃に見たことあるから知ってるけど。

 ってかこれ書いた奴、表出ろ。絶対ネタだろ。

 

「あれ? 俺がネタで書いた奴じゃん」

 

 声の主は前の席に座った奴だった。どうやらコイツが元凶のようだ。

 

「お前、主役決定」

「ちょ!?」

 

 ネタで書いた奴の運命だ、諦めろ。早速、黒板にそいつの名前を主役として書き込む。

 

「異議は?」

「なし!」

「MA☆TTE!」

 

 約1名、反論が聞こえたが無視無視。

 

 その後もトントン拍子に役が決まっていった。

 ヒロイン、悲劇の青年、敵のボス、英語話すトンファー使い……。

 

「実際の映画は視聴覚室を借り次第見る! それからサボった奴は桐箪笥に詰めるので覚悟しておくように!」

 

 これにて本日の話し合いは終了した。ふぅ、まとめ役って奴はどうも疲れる。

 

 

 

 昼休みになり、いつものメンバーで談笑する。

 ここで、俺はある復讐を実行した。

 

「あき」

「ん?」

「このキムチお前にやるよ」

「おっ、マジか! サンキュー!」

 

 小さなタッパーに詰めたキムチを頬張るあき。

 実はそれ、賞味期限が3ヶ月以上前なんだよな。さっきの恨みはこれでチャラにしてやるぜ、ケケケ。

 

「そういえば、やなぎんとかがみんの所は何するの?」

 

 こなたが話を振る。ま、劇だろうな。

 

「私等はただの喫茶店よ」

 

 何……だと……? 

 つかさならまだしも、かがみが喫茶店? 食い意地の固まりが接客なんて出来んのか?

 

「えー、メイド喫茶じゃないのー?」

「アンタじゃないんだから」

 

 そういやこなたはメイド喫茶でバイトしてたっけな。って、メイドの滑降してたっけ?

 しかし、喫茶店とはまた無難な出し物だな。

 

「ちょっとしたゲームもあるしな」

「どんなの?」

 

 やなぎがニヤリと笑いながら言う。

 

「チェス大会だ。俺に勝てれば食事がタダになる」

「それは楽しそうですね」

「僕も参加してみようかな」

 

 勝ち目のない戦いを挑め、と。

 ってか、どう見てもやなぎがやりたいだけですね。本当にありがとうございました。

 やなぎのチェス時に見せる本性を知らない、みちるとみゆきは楽しそうに話す。

 

「お前等もどうだ?」

「「「お断わりします」」」

 

 俺とあきとこなたは口を揃えて断った。

 こんなん、鮫がウヨウヨいる海に飛び込めって言ってるようなもんだろ。

 

「そういうアンタ等は何よ?」

「劇だ」

 

 俺が素直に明かすと、かがみもやなぎも特に驚かなかった。演劇というのは学園祭の出し物として定番だからな。

 

「実は私達がクラス委員になっちゃって……」

 

 つかさ、余計なことは言わなくていい。

 

「どうせ寝ている間に押し付けられたんだろ」

 

 ギクッ! よ、よく分かったな。

 

「はぁ、図星みたいね」

「俺は違う! ギリで起きた!」

「そもそも授業中に寝るな!」

 

 俺達の痴態に、優等生2人は呆れ顔だった。

 自分と関係ない会議は眠くなるだろうが。これ、世界の心理だぞ?

 

「いやぁ、私も危なかったよ~」

 

 そういやこなたもウトウトしてたよな。つかさを盾にしたけど。

 

「で、演目は……」

 

キーンコーン

 

 演目を言おうとしたところで、丁度良くチャイムが鳴った。ま、コイツ等も演目の内容は知らなそうだし、当日までのお楽しみでいいか。

 

「じゃ、詳しい話はまた後で」

 

 そういって、かがみとやなぎは自分のクラスに帰っていった。

 

「う……は、腹が……」

 

 突如、あきが腹を押さえて呻き出す。

 さぁ、地獄を楽しみな。

 

 さーて、俺は屋上で寝るか。

 

「あ、はやと君ダメだよ~!」

「チッ」

 

 屋上に逃げ出すところをつかさに見つかり、渋々俺は席に着いた。

 結局、この日あきはトイレから帰ることはなかった。

 




どうも、雲色の銀です。

第12話、御覧頂きありがとうございます。

今回から桜藤祭編です。今回は演目と役決めで終わりました。

しかし、何をやるのかは秘密です(笑)。
分かる人なら、役を見ただけで何やるか分かると思います。

次回は練習風景です。ついでに、これから演劇に参加しない主人公の出番が大幅に減ります。

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