すた☆だす   作:雲色の銀

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星屑のようにちっぽけな俺達の出会いは、奇跡なのかもしれない……。


陵桜学園に通う少年、白風はやとはいつも通り校舎の屋上で寝ていた。すると、黄色いリボンが印象的な少女、柊つかさと偶然出会う。
話もせず、すれ違っただけの2人だったが、お互いに強く印象に残っていた。
そして、2年生の始業式の日。新しいクラスの教室で、はやとはつかさと再会する。

それは、仲間達を含めた彼等の色濃い青春に満ちた日常の始まりでもあった。


すた☆だす 1st Season
第1話「色々と、始まり」


 俺は奇跡なんてもの信じない。

 ドラマなんかでよくやる「奇跡」。俺はそれが嫌いだ。

 奇跡なんてあんなに頻繁にあってたまるか。

 だから奇跡なんて安っぽいもの、俺は信じない。

 

 

 

「雲はいいよなぁ……」

 

 大空を見上げて、俺は呟いた。

 3月、天気は晴れ。青い空の所々に雲が浮いている。

 まだ少し肌寒いが、陽の光が温かさをくれる。絶好の昼寝日和だ。

 

「もし翼があったら、俺も空を自由に飛びたいなぁ……」

 

 ここは学校の屋上の入り口の上。今は丁度昼休みになった所だな。授業? 勿論、サボりだ。

 よって、ここには俺以外誰もいない。いるとすれば、精々鳥の群れぐらいだ。

 

「よっと」

 

 昼飯時になったので起き上がり、下に飛び降りる。周りにいた鳥達も一斉に飛び立った。

 その時、下に人がいることを初めて知った。

 外見は黄色いリボンをカチューシャみたいに着けている、紫色の髪と瞳の女子。顔付きはやや可愛い方に分類されるだろう。

 上から降ってきた俺に驚いたらしく、キョトンとしている。何処かほんわかしている雰囲気から、かなり鈍い性格なことが伺える。

 その証拠に、女子の頭の上にさっきの鳥の羽が乗っかったままなことに気付いた。本人は気付いていないだろうから、俺は手を伸ばして羽を取ってやる。

 

「付いてたぞ」

 

 羽根を渡し、それだけ言い残して俺は教室に戻っていった。

 特に親しくもないし、今後会うかどうかも分からない相手だ。

 

 

 もし俺に翼があったら、この時既に羽撃いていたのかもしれない。

 この何気ない出会いが俺を変えることになるとは、この時は全く気付きもしなかった。

 

 

☆★☆

 

 

 学校のチャイムがお昼休みの時間を知らせる。

 私、柊つかさは仲のいいお友達と、屋上でお弁当を食べることになった。

 でも、こなちゃん――泉こなたちゃんは

 

「ごめん、コロネ買ってくるから先行ってて!」

 

 と言っていなくなっちゃうし、お姉ちゃん――柊かがみは

 

「私も飲み物買ってくるから、悪いけど先に行ってて」

 

 ってこなちゃんの後を追って行っちゃった。

 ゆきちゃん――高良みゆきちゃんは委員会の仕事で遅くなるって言ってた。

 だから、今は私一人で屋上にいる。

 他に屋上に来るかもしれない生徒も、購買でパンとかを買いに並んでいるから今は誰もいない……と思ってた。

 

「雲はいいよなぁ……」

 

 不意に、男の人の声がした。

 周囲を見回すけど、誰もいない。そこで、私は入り口の上を見上げた。

 

「もし翼があったら、俺も空を自由に飛びたいなぁ……」

 

 入口の上、給水塔のある方には、鳩に囲まれて寝転んでいる人がいた。どんな人かは見えないけど、足がぶら下がってる。

 あの人の言ってること、何だかロマンチックだなぁ。

 

「よっと」

 

 その人が急に起き上がり、私の目の前に飛び降りた。すると周りの鳩達も飛んで行く。

 その時、一瞬だけど、まるでその人に翼が生えているように見えて、綺麗だった。

 驚いて、何も言えなくなった私にその人が気付いた。

 そして、これまた急に私に向かって手を伸ばす。思わず目を瞑ってしまう私。

 

「付いてたぞ」

 

 彼の言葉を聞き、目を開けると彼の手には鳩の羽根が。さっき飛んで行った拍子に、頭に落ちてきたのかな。

 綺麗な空色の髪に翠色の眼をしている彼は、私に羽根を渡して行ってしまった。

 第一印象は、不思議な雰囲気を持った男の人だった。

 

 

 

 あれから3日が経ったけど、一度も彼の姿を見ていない。

 名前も知らないけどあの不思議な雰囲気が忘れられず、私は窓から屋上を見てはどうしても気になってしまっていた。

 

「ねぇねぇ、つかさ最近どうしたの?」

「分からないのよ。空を見ては溜め息を吐くし」

「もしかして、恋でしょうか?」

「「恋!?」」

 

 うわっ!? びっくりした~。

 だって、お姉ちゃんとこなちゃんが急に大きな声出すんだもん。

 ボーっとしていたから内容は分かんないけど、お姉ちゃん達は何かを話していたみたい。何だろ、私と関係があるのかな?

 

「つかさ!」

「な、何?」

「今気になる人がいるの!?」

「う、うん」

 

 勢いに押されて正直に頷くと、お姉ちゃんはショックを受けたように落ち込んで、こなちゃんとゆきちゃんは目を輝かせていた。

 えっと……未だに事情が飲み込めないんだけど。

 

「そっか~、つかさにも春が来たか~」

 

 え? 今、春じゃないの?

 こなちゃんの言葉にますます話が分からず、首を傾げてしまう。

 

「そんな、つかさが恋……」

「……えっ!?」

 

 そしてお姉ちゃんの呟きに、やっと皆が話していた内容に気付いた。

 確かに私は彼が気になっていた。でも多分、恋とかとは違うと思う。

 例えるなら、本屋さんでたまたま見かけた本が後で気になって、いざ買おうと思ったら中々見つけられない、そんなもどかしさ。

 

「ち、違うよ~。ちょっと気になってただけ」

「本当に?」

「うん」

「な、なーんだ」

 

 ちゃんと違うって言ったら、お姉ちゃんはまた元気になった。

 心配させちゃって、何だか悪かったかも。

 

「でも、気になる人というのは?」

「不思議な雰囲気を持った人で……」

 

 私は皆にその人のことを話した。ほんの少ししか顔を合わせてないけど、すごく印象に残った人。

 けど、結局彼とは終業式になっても、あの日以来会うことはなかった。

 

 

☆★☆

 

 

 春休みなんてあっという間に過ぎ、今日は始業式だ。

 今日から2年生だ! ……って感じはまったくもってない。

 俺、白風(しらかぜ)はやとは1年の時と変わらず、欠伸をかきながら登校していた。

 

「よっ! はやと!」

 

 今日みたいに温かい気候なら、屋上で気持ち良くシエスタ出来るんだろうなぁ。

 なんて考えていると、後ろから声を掛けられる。振り向くと、3人の顔見知りが揃っていた。

 

「屋上で寝てるかと思ったぜ」

 

 俺に最初に声を掛けた、赤い短髪に黄昏色の眼の煩い奴は天城(あまぎ)あき。

 見た目通りの底抜けに明るい性格の持ち主で、運動神経も抜群な典型的な体育会系だ。

 が、同時にアニメやゲームが大好きなヲタクでもある。本人は隠そうともせず、美少女キャラのストラップを携帯や鞄に取り付けている。

 

「流石にそれはないだろ」

 

 俺達の中で一番背の高い、長い茶髪にアクアブルーの眼をした真面目そうな奴が冬神(ふゆがみ)やなぎ。

 真面目な性格通り頭脳明晰で、テストでは学年トップクラスに位置している。

 反面、ヒョロイ体型通り運動が苦手で、もやしと呼ばれる程体力がない。あきとは好対照で、奴へのツッコミを担当しているのもやなぎだ。

 

「クラス替えの紙、もう見た?」

 

 最後にクリーム色の髪に藍色の眼を持った、人畜無害そうな奴が檜山(ひやま)みちるだ。

 コイツは運動も学業も出来る完璧超人で、性格も純粋無垢のいい奴だ。おまけに金持ちのお坊ちゃんと非の打ちどころが見当たらない。

 純粋過ぎてあきのジョークを真に受けてしまうのは短所に含んでもいいかもな。何でこんないい奴が俺達のグループにいるのやら。

 俺達4人は、1年の時に同じクラスだった。屋上で寝てることが多かった俺にとって、比較的他のクラスメートよりつるむ時間が多かった、仲間みたいなモンだ。

 

「いや、まだだ」

「んじゃ、早速見に行こーぜ」

 

 クラス替えか……俺は別に誰が一緒でもいいんだけどな。折角だし、あき達の誘いに乗って俺はクラス表を見に行くことにした。

 掲示されたクラス表の前には案の定、人で混み合っていた。人混みは嫌いだから早く教室に行きたいぜ。

 さて、白風は……あった。E組か。

 

「おっ、はやとと同じクラスか!」

 

 俺が名前を見つけると、隣であきが喧しく言った。

 ってことはあきもE組か。天城で確認すると、確かにE組の欄にあきの名前が載っていた。

 

「あ、僕もE組だ」

 

 続いて、みちるも同じクラスで名前を見つける。

 1年の時同様、メンバー勢揃いだな。親しい奴がいると安心感がある。

 ……ん? 誰か足りないような。

 

「……俺だけDか」

 

 どうやら、やなぎだけは違うクラスに振り分けられてしまったらしい。

 おーおー、可哀想に。達者でな。

 

「あはははは! やなぎ、お前だけ1人か!」

「うるさい!」

 

 思い切り笑っていたあきを関節技でシバくやなぎ。それなりにショックだったんだな、ご愁傷様。

 ま、コイツ等がまた一緒なら賑やかなクラスになるだろ。やなぎいないけど。

 

 

 

 2-Eの教室内はあまり人がいなかった。早く来過ぎたか。

 周囲を見回すと、1年時に同じクラスだったような奴等がチラホラと居た。正直、そこまで面子に変化はないみたいだ。

 

「なぁ、ここで運命の出会い! とかねぇかな?」

「ねぇよ」

「例えば?」

 

 退屈なのか、あきがまた騒ぎだした。みちるも便乗するなよ。

 重度のヲタクであるコイツは、その手のよくある出会い系イベントを夢見ては俺達に語っていた。

 ってか、食パン咥えた転校生と曲がり角でぶつかるとか、現実的にありえねぇから。

 

「学校のマドンナに一目惚れをされ、そのまま付き合うとかな!」

「へぇ~」

「夢は寝て見ろ。俺みたいにな」

 

 本人もネタ半分のつもりで話しているんだろう。

 が、バカの話には付き合いきれん。俺は席を立ち、教室を出ようとした。

 

「オイ、何処行くんだよ?」

「やなぎン所」

 

 まだ時間はありそうだしな。やなぎの新しい門出を茶化してやるか。

 俺はドアを開けようと手を伸ばした。

 しかし、ドアは勝手に開いた。向かい側にいた奴が開けたんだろう。

 話に夢中になっていたソイツは、そのまま俺にぶつかって来た。

 

「わわっ、ごめんなさい!」

 

 相手はぶつかってから漸く俺に気付き、慌てて頭を下げて謝った。

 黄色いリボンと紫色の髪が揺れる。何処かで見たような……?

 ソイツが頭を上げると、顔を見て俺はやっと思い出した。

 

「……あっ!」

「あ、あの時の」

 

 何時だか忘れたが、屋上にいたリボンの女子。

 顔が可愛いからか、頭に乗っけた羽根が間抜けで印象的だったからか。

 とにかく、ごく最近だったこともあって覚えていた。

 

「なになに? 知り合い?」

「前に話した不思議な人だよ」

 

 後ろにいた、青い長髪の小さい奴がリボンの女子に聞いた。

 不思議な人って……変人扱いか?

 

「オイはやと! 何、運命の再会イベントやってんだよ!」

 

 何時の間にか、あきが俺の隣で羨ましそうに喚いていた。

 つーかイベントって、初対面の奴の前でゲーム脳みたいな台詞吐くなよ。

 

「で、アンタがここにいるってことは同じクラスか」

「あ、そうですね~」

 

 外野のせいで気の抜けた雰囲気になってしまったが、気を取り直して尋ねて見た。

 すると、ぽんやりした様子で答えるリボンの女子。とりあえず敬語止めろ。

 けど、まぁこれも何かの縁だ。折角だし、お互いに知り合っておくのも良いだろう。

 

「なら、自己紹介を」

「あっ!」

 

 うわっ! 今度は何だよ?

 リボンの女子の連れである、眼鏡を掛けたピンク髪の女子が大声で叫んでいた。その視線の先には……。

 

「みちるさん!」

「あ、みゆき!」

 

 みちるがいた。みちるも相手の名前を知っている辺り、2人は深い知り合いのようだ。

 

「みっちーも知り合い?」

「うん、幼馴染。小学校の時まで近所に住んでたんだけど……」

「みちるさんが引っ越されてしまって」

 

 あきの質問に、2人が答える。因みに、「みっちー」とはみちるの愛称だ。

 なるほどな、みちると眼鏡の女子は小学校以来の再会になる訳だ。

 それが本当なら、あきの言う運命の再会イベントって奴がよく似合うじゃねぇか。

 

「おっとー! ここでまたフラグが立った!」

「人畜無害な坊っちゃまが幼馴染のお嬢様と再会イベント!」

 

 あきと小さい女子までがみちる達を囃し立てる。

 どうやらコイツ等はコイツ等で波長が合うらしいな。

 

「やるね、君!」

「お前もな!」

 

 終いにゃ、意気投合しやがった。あまり関わりたくないタッグだ。

 

「あ、チャイムだ。詳しい挨拶はまた後でね!」

「おう!」

 

 ここでチャイムが鳴り、俺達は一旦分かれてそれぞれの席に付いた。

 ……が、おかしい。すぐ来るはずの先生が現れない。

 

「皆席につけーっ!」

 

 と考えていると、勢い良くドアが開かれて金髪の女教師が慌てて入って来た。いや、もう全員席についてるけどな。

 

「あっぶな、ギリギリセーフやっ!」

 

 汗をかき、息を荒くして教卓に立つ。かなり急いで来たんだろうな。つーか、何で関西弁?

 

「あー、ウチが担任の黒井やっ! 皆学年も上がったことやし、いつまでも休み気分でおらんで心機一転頑張るよーにっ!」

 

 遅刻ギリギリでやってきた我らの担任教師、黒井ななこ先生は誤魔化すようにやや早口でそう言い放った。

 この時、クラス全員こう思ったであろう。

 

『せ、説得力……ねぇ!!』

 

 誤魔化せてもいねぇし。生徒達の冷たい視線を気にしないよう、黒井先生は明るくホームルームを始めた。

 こんな愉快な担任で、ウチのクラスは大丈夫なんだろうか。

 

 

 

 それから休み時間になり、さっきの面子+2人で改めて自己紹介を始めた。

 因みに、プラス分の1人はやなぎで、もう1人は向こうの知り合いだそうだ。

 

「まず1番! 俺は天城あき! 容姿端麗、頭脳明晰の人気者!」

「っていう夢を見たんだそうだ」

 

 俺達の一番手、あきの痛い自己紹介に相槌を入れてやる。花を添えてやったんだ、感謝しろよ。

 

「で、もう終わりか?」

「……サーセン! とりあえずよろしく!」

 

 コイツの長所は明るい所だけだな。短所でもあるけど。

 初対面の女子達も、このバカがどういう奴か一瞬で分かっただろう。今後も容赦なく扱ってやってくれ。

 さて、席の順番から言って次は俺か。

 

「俺は白風はやと。好きなものは空、嫌いなものは奇跡。以上」

「お前、もっと言うことがあるんじゃねーのか?」

 

 特にやる気もないので簡単に自己紹介を済ませると、あきに突っ込み返された。

 言うことなんかあんまねーよ。クラス内での自己紹介もこんな感じだったし。

 まぁ、よくよく考えるとこれから仲良くやっていく友人達だ。淡泊過ぎてもどうしようもないか。

 

「彼女募集中とか?」

「そーそー!」

「違うだろ!」

 

 珍しくあきの言葉に乗ってボケてみると、俺達の中でのツッコミ役、やなぎに突っ込まれた。真面目だねぇ、やなぎ君は。

 とにかく、俺の番はコレで終わり。次はツッコミ担当のやなぎだ。

 

「冬神やなぎです。このクラスじゃないけど、よろしくお願いします。柊さんと」

「かがみでいいわよ」

「じゃあ、俺もやなぎでいい。かがみとは同じクラスだよな」

 

 順番が回ってきたやなぎは、一足先に新顔の紫のツインテールが特徴的な、気の強そうな女子と名前を呼び合うこととなった。

 へぇ、コイツ等同じクラスだったのか。

 

「おっと、やなぎ君はかがみんルート突入か?」

「もやし君は見た目ツンデレっ娘を攻略出来るか!?」

「「そこ、何話してるっ!?」」

 

 あき達に同時にツッコミを入れるやなぎ達。

 あ、この2人も性格似てるかも。良いバランスだ。

 

「檜山みちるです。新学期から可愛い女性達と仲良く出来て光栄です」

 

 男子陣のトリを飾り、屈託のない笑顔を見せるみちる。俺達、いや恐らくクラス1のイケメンであるみちるから可愛いと言われ、女子達は頬を赤く染めている。

 金持ちかつイケメンであるみちるは、女子の扱いも完璧なようで「王子」と呼ばれる程だ。

 しかし、唯一の欠点として性格がド天然で純粋無垢なところだ。詐欺とか絶対引っかかるタイプだな。

 その天然さが原因で、本人が無自覚でも女性を魅了してしまうのだ。

 

「お前、坊っちゃまとホストどっちだよ」

「?」

「くそっ、俺もそっちにしときゃよかった!」

 

 悔しがってるバカは放っといて、みちる……恐ろしい奴!

 さて、次は女子達の紹介だな。

 

「ども、泉こなたです。これでも高校2年生だよ~」

 

 最初は青い長髪にアホ毛がピンと跳ねた、気の緩そうな女子が自己紹介する。さっきあきと一緒になって騒いでたところから、コイツもヲタクらしい。

 驚くべきは小さい身長。同い年どころか、高校生にすら見えないんですけど。

 

「最後に、貧乳はステータスだ! 希少価値だ!」

「いよっ、こなた! 輝いてる!」

 

 こなたは最後に自分の薄い胸を叩いて、すごいのかすごくないのか分からない言葉を残した。

 それに便乗し、間の手を入れるあき。ある意味すごいな、お前。

 

「柊つかさです。よろしくお願いします」

 

 次に俺が最初に出会った、リボンがトレードマークで温かい雰囲気の女子、つかさは相変わらずぽんやりした雰囲気でお辞儀した。

 女子達4人の中では、つかさが一番女の子っぽい性格をしていそうだ。

 

「ところで、はやと君。屋上で何してたんで」

「敬語やめろ」

「あ、うん……何してたの?」

 

 同い年に無理に敬語を使われたくない。

 俺が注意すると、つかさは改めて俺に聞き直した。

 そういや初めて会った時、つかさから見たら上から降って来たようなモンだもんな。そりゃ気になるか。

 

「昼寝。つかさもやってみたらどうだ?」

「わ~、気持ち良さそうだね~」

 

 教えるのとついでに、つかさに屋上の昼寝を進めてみた。すると、つかさは興味を示す。

 よし、昼寝仲間が出来た。屋上での昼寝は気持ちいいぞ。特に授業中は変な騒音がないから伸び伸びと快眠出来る。

 

「やめなさい、つかさ。アンタそれサボりでしょーがっ!」

「えっ!?」

 

 チッ、バレたか。ツインテール女子の指摘に、つかさは目を丸くしていた。

 気付かない方も気付かない方でどうかとは思うけど。やっぱりつかさは何処か抜けている。

 そのツインテール女子に、今度は順番が回ってくる。

 

「あたしは柊かがみ。つかさの双子の姉よ」

 

 気の強そうな性格通り、キッパリと自己紹介するかがみ。

 あぁ、双子ね。だから同じ髪の色してるのか。性格は全然似てねーけど。

 

「クラスは違うけど、よろしく。ところではやと」

「何だ?」

 

 初対面ということもあり、あきややなぎたちには笑顔で話す。が、紹介が終わると急に俺に向き直った。

 そういえば、さっきからかがみからの視線がキツい気が。初対面のはずのコイツに何かした覚えはないんだけどな。

 

「つかさに近付いたらコロスワヨ?」

 

 男子勢の中だと俺がつかさに一番近いからなのか、かがみは圧倒的な威圧感で俺にそう告げた。

 つーか一瞬、目が紅く光ったような気がしたんですけど。怖っ!?

 

「姉バカだから気にすることな……やっぱ気にした方がいいかも」

 

 姉バカを見兼ねてこなたが加勢するも、かがみの一睨みですぐに退いてしまった。

 ここは逆らわない方がいいな。とりあえず頷いて、かがみを宥めた。

 大体、近付くって言ってもそこまで親しくもないんだけど。

 

「高良みゆきです。どうぞよろしくお願いします」

 

 最後にピンク色のウェーブが掛かった長髪に眼鏡を掛けた、何処かのお嬢様風の女子、みゆきが自己紹介を済ませる。

 この中では一番大人びているようで、こなたとは別の意味で同年代なのかと疑ってしまう。

 おまけに、学年内でもとびきりの美人でスタイルもいいので、クラスの男子からの人気が非常に高そうだ。この辺は女子人気の高いみちると対照的だ。

 

「よろしくするす」

「お前は引っ込んどけ」

 

 相手が美人だからか、積極的に仲良くなろうと喧しくするあき。そんなバカをやなぎが容赦なく殴り伏せた。よくやった。

 因みに、みゆきの敬語は全員に等しく使うそうだからスルー。親にまで敬語なんだそうだ。

 

「先程言ったように、みちるさんとは幼馴染です」

「うん。みゆきと再会出来て嬉しいよ」

「私もです……」

 

 さっきと同じように、笑顔で再会を喜ぶ2人。こうして美男美女が並ぶと、中々絵になる。

 ん? みゆきの頬が若干赤いな。もしかして……。

 

「気付いたか、はやと」

「あき、こなた。あれは」

「うん、みゆきさんはみちる君に惚れてるね」

 

 な、なんだってー!

 いち早く気付いていたあきとこなたは、当人達に聞こえないよう俺に伝える。

 

「だが当のみちる君は全く気付いていない!」

 

 ほ、本当だ。みちるは、いつも通りの人畜無害な笑顔でいる。

 みちるの天然な性格は恋愛に対して鈍感であるという、欠点まで生み出しているらしい。じゃなきゃあんなホストみたいな真似しないよな。

 

「まさかみゆきさんが攻略する側だったなんてね」

「しかも相手は鉄壁の城塞みたいな奴だ」

 

 相当苦戦しそうだな……応援してるぞ、みゆき。

 

「じゃ、私達はそろそろ戻るわ」

「また後でな」

 

 一通り自己紹介が済んだところで、やなぎとかがみがD組に帰って行く。

 お前等違うクラスだったな。すっかり忘れてた。

 ここで丁度よく休み時間終了のチャイムが鳴り、俺達も自分の席に戻って行く。

 

「はやと君」

 

 これで話は終わりと思ってたら、つかさが声を掛けてきた。

 

「何時か、飛べるといいね」

 

 つかさが言ったことの意味がすぐには分からなかったが、少し考えて納得した。

 初めて会った時の少し前、屋上で俺が呟いたことか。聞いてたんだな。

 

「ああ」

 

 お人好しだな、つかさは。バカにする訳でもなく、俺にそう返したのはつかさが初めてだった。

 

 

 

 始業式を終え、自宅のアパートに帰ってくる。簡素なアパート「夢見荘(ゆめみそう)」に俺は一人で暮らしていた。

 いつも通り、夕飯のカップラーメン用に湯を温めながら、色々とあった今日一日を思い返す。

 あき達とまた同じクラスになって、屋上ですれ違っただけだったつかさに再会して、つかさやその仲間達とも友達になった。

 これからより色濃くなって行くであろう高校生活、本当に退屈しなさそうだ。




どうも、雲色の銀です。

すた☆だす第1話、ご覧頂きありがとうございます。

このお話はまるで主人公らしくない主人公、白風はやとのネガティブな台詞から始まります。
はやとの主人公らしくないところを上げると、キリがありません。(笑)

チート能力も、主人公補正も、何もないはやとが、つかさと出会いどう変わっていくのかがこの物語の主軸となっていきます。
皆様に気に入って頂ければ幸いです。

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