標的1 並中生徒会長来る!!
「ではこれで、今回の会議は終了します。 最後に配布したプリントの二学期の委員会の部屋割りについて、何か意見のある方はいるかしら? あるなら早く言ってね、もう終わりたいの」
「あの……応接室を使う委員会があるんですけど……ずるくないですか?」
「あー、そこはヒバリが使いたいらしくてね、ちょっと我慢してくれないかしら? 校長先生の許可はきちんと取ってあるし」
「何か?」
「ヒィッ!? スイマセン!!」
「こら、脅さないの。 代わりに風紀委員が使ってた空き教室を使いたいなら使わせてあげるけど、どう? 部屋の中改造されてるから結構快適だと思うけど」
「えーっと……いいん……です……か?」
「構わないよ、捨てた縄張りに興味はないから」
「じゃあ、決定ということで。 それじゃ、これで今回の会議を終わります。 解散解散」
ホワイトボードの前にある席に座っている左眼に眼帯を付け、腰まで届く黒髪をポニーテールに纏めた彼女が気怠げな号令とともに軽く手を叩くと、彼女の向かい側のテーブルに座っているヒバリと呼ばれた学ランを羽織り、腕に風紀委員の腕章を付けた黒髪の少年以外は安堵の息を吐いた後、急いで立ち上がり、部屋から早足で出ていく。
「……さてと、それじゃ帰りますか」
「行かせると思う?」
「……ですよねー」
「君を咬み殺す、今日こそね」
言葉と共に少年はミーティングテーブルに立ち上がり、どこからともなく取り出したトンファーを両手に構え向かい側の彼女を笑みを浮かべながら見据える。
彼女は完全に戦闘態勢の少年を前に冷や汗を流す。
「……ねぇ、せめて場所変えない?」
「いやだ」
その言葉と共に少年はテーブルを弾丸のように駆け抜け、彼女のこめかみを目掛けトンファーを横薙ぎに振るう。
「ワオ」
「……何でアンタは顔ばっかり狙うのよ……しかも女子の顔」
「君を女だと思ったことは一度もないよ」
彼女はイスをリクライニングさせ、トンファーの一撃を避けると同時に強烈な蹴りを少年の鳩尾に向けて放つが、少年はトンファーを楯にして防ぎ、その勢いを使ってテーブルの上に軽やかに着地する。
軽口を叩き合いながらではあるが確実に相手の急所を狙う彼女たちの動きは、その身に付けている制服通りの中学生とは思えない。
「……リクライニングチェア壊れちゃった、お気に入りだったのに」
「行くよ」
「あんたはホント……」
溜め息とともにやれやれと頭を振り、少年と同様にテーブルの上に立ち上がる。
「……請求書と事後処理の書類全部風紀委員に送りつけるから」
「僕に勝てたのなら考えてあげる」
彼女は、もう一度吐いた溜め息とともに左手で顔を覆う。
直後、彼女の気配が一変し室内の空気が凍りついた。
「やれやれだわ」
「咬み殺す」
彼女はテーブルにトントンと靴を叩き、上体を落とし少年を見据える。
少年は両腕に構えたトンファーを数度回転させた後、彼女を見据える。
両者の殺気がぶつかり合い、どちらも構えたまま動かない。
ぶつかり続ける殺気は次第に激しさを増してまるで渦を巻いているかのような錯覚すら覚えさせる。
膨れ上がる殺気と闘気。
緊張感が張り詰める。
瞬間。
スピーカーから唐突に鳴り響いた下校を告げる並中のチャイム。
その音と同時に2人の殺気が、爆発した。
◆
「……ご無事ですか、恭さん」
「問題ないよ」
並盛中学校風紀副委員長である、咥えた草とリーゼント頭がトレードマークの草壁哲也は、金属の衝突音と破壊音が鳴り止んだ会議室に入り、彼が最も尊敬する並盛中学校風紀委員長、雲雀恭弥の姿を確認し、安堵のため息を吐く。
雲雀はボロボロの制服と折れたトンファーをぶら下げたまま、テーブルが折れ、ホワイトボードは砕かれ、窓ガラスが割れている荒れ果てた室内の窓際でつまらなそうに外を眺めている。
「また逃げられた」
「……風花会長は本当に人間なのでしょうか」
「さあ?」
雲雀の呟きを聞き、草壁が呆れ果てるのも無理はない。
先程までここで雲雀と死闘を繰り広げていた、並盛中学校生徒会会長である
彼女は猫のように着地後、雲雀と同様ボロボロの制服のまま、何事もなかったかのように校門前に向かって走って行く。
「……追いますか?」
「行かないよ、明日咬み殺せばいいだけだから」
(……毎日見事に逃げられているのですが)
草壁は雲雀に対する言葉を寸前で呑み込む。
言ったら何かしらの琴線に触れそうだからだ。
先日、同じことを口走った風紀委員が見事に咬み殺されていたのを彼は覚えていた。
「草壁、明日までにこの部屋の修理をお願い」
「……またですか」
「駄目かい?」
「……いえ、すぐに頼んでおきます」
「よろしくね、僕は並盛の見回りに行ってくる」
そう言って、足元に落ちている学ランを拾い上げ肩に羽織った雲雀は、心なしか満足そうな顔とともに会議室を出て行く。
残ったのは悲惨な状態の部屋のみ。
「……毎日大変ですね、風花さん」
草壁はそう呟き一度校門に目を向けた後、大きな溜め息を吐きながら携帯電話を取り出し、部屋の修理のために業者に電話を掛け始めた。
◆
「……酷く疲れたわ……ヒバリの奴め、呪ってやる」
「またヒバリさんと!? 大丈夫!?」
「ヒバリのヤロー! また姐さんに手ぇ出しやがって!!」
「ははっ、けどピンピンしてる辺り、マジ風花はバケモンな!」
校門前でひと悶着起こしていた、待ち合わせていた学生たちと合流してヒバリに対しての怨嗟の声を呟くと、心配の声と怒りの声と気楽な声がそれぞれ返ってきた。
名前は上から順番に沢田綱吉、獄寺隼人、山本武である。
特徴を言っていくならば、やれば出来るかもしれない子、番犬型中二病チンピラスモーカー、超天然スポーツマンである。
大体これで人となりの説明が付くと思う。
悪口が混ざってる?
細かいことは気にしない方が人生楽しいと思う。
「毎日毎日、顔を合わせれば襲われ、目が合えば襲われ、なんなのよホントに。 いつも備品が壊されるせいで書類が面倒くさいったらありゃしない」
「備品の心配ーーーっ!?」
「ヒバリを全く意に介してねーっ! 流石っス姐さん!!」
「ははっ、スゲーな!」
「あんたら3人が破壊したのも含まれてること忘れんな、コノヤロー」
最近になってこのトリオが大暴れし始めたせいで、その事後処理で書類の量が会長に就任した頃よりも倍くらい増えていたりする。
ただ、一度その手伝いをさせた時に、書類が減ると思っていたらいつの間にか増えていた、というどこぞのスタンド使いのような状況になったため諦めた。
「……えーと、その、ごめん」
「10代目は悪くありません!! 責任は全て10代目の右腕であるこのオレに!!」
「あー、わりぃな。 あと右腕はオレな!」
「……反省してんのならこの惨状はなんなのよ」
先程から直視しないようにしていたのだが、並中の校門が今朝とは全く違う形に変形している。
どうみても爆破された痕があるので犯人は一択。
「スイマセン姐さん!! 10代目に絡んできたヤローを吹き飛ばそうとしたら山本のヤローに邪魔されて…」
「さすがに校門で花火は不味いと思ってな!」
「んだと、テメー! そのせいで校門吹っ飛んじまったんじゃねーかっ! てか花火じゃねーっ!!」
「ご、獄寺君落ち着いて!」
「無事か沢田ーーーっ!?」
「……またややこしいのが」
乱闘寸前のこの場に新しい参加者が登場。
名前は笹川了平。
並盛中学校ボクシング部主将。
あたしたちの一学年上で、とりあえず説明は『極限』で済む。
大会でも優秀な成績を残しているため、部費などは結構優遇している。
オールKO勝ちで大会を制しただとか、殴られた相手が一回転しただとか、修行のために山籠もりした際に熊を殴り倒しただとかいろんな噂が飛び交っているが嘘だと思いたい。
それは別の雑誌の漫画の話である。
「お兄さん!? なんでここに!?」
「パオパオ老師が沢田の身体が校門前で吹き飛んだと言っておってな、心配になり極限に急いできたのだ! それよりも沢田! ボクシング部に入らんか!?」
「入りませんって!!」
「……身体吹き飛んだら死んでない?」
「そーいやそーだな」
「おい、うっせーぞ芝生メット!」
「何だとやる気かタコヘッド!!」
「……もう面倒くさいから止めないわよ」
「いや、止めてよ!?」
その場で睨み合い喧嘩し始めるバカ二人。
面白そうに眺める山本と、オロオロしている沢田が対照的である。
なんかもう全体的にどうでもよくなってきたわね。
とりあえず獄寺が懐からダイナマイトを取り出したあたりであたしはこの場から一目散に去ることに決めた。
「ぐえっ!?」
「一抜けよ」
「んじゃ、オレ二抜けな!」
沢田の制服の襟首を掴み、爆音を背に走り出す。
山本も危険を本能的に察知したのか笑いながらついて来た。
「ちょっ!? 待ってくださいよ10代目! 姐さん!」
「待たんかタコヘッド!!」
「うっせーっつってんだろ芝生メット!!」
こちらに気付き、言い争いながら追ってくる獄寺、笹川先輩。
けどきっと手遅れね。
「逃げなくても良かったんじゃ……」
「……あいつらの後ろ見てみなさい」
「へ?」
「ブッ!?」
「ブハッ!?」
あたしの言葉の直後に聞こえてきた断末魔。
沢田が後方に目を向ける。
後ろの二人がいつの間にか倒れ伏せている。
そしてこちらに向かって疾走してきている人物が1人。
「ひ、ヒバリさんーーーっ!?」
「おいおい、マジ?」
沢田が驚愕の声をあげ、山本も口調は軽いが若干表情が青ざめている。
羽織った学ランをたなびかせ、血の付いたトンファーを回転させながら向かってくる笑みを浮かべているその姿は恐ろしいったらありゃしない。
「あんだけ校門前でドンパチやってりゃ、そりゃヒバリもキレるわよね。 流石に二回戦はゴメンだわ」
「ハハッ、だな!」
「何でそんな余裕なのーーーっ!?」
沢田の叫び声が虚しく響きわたる。
一緒に叫び出したくなるのをこらえ、後ろの鬼神から逃れるために速度を上げていく。
「逃がさない」
「わーーーっ!?」
「逃げるが勝ちってな!」
「……やれやれだわ」
眩い夕陽が地平線の上から街を染め上げる。
綺麗な夕焼け空に包まれた帰り道。
裏腹なバイオレンスな状況にあたしは溜息と共にそう呟いた。
親愛なるイタリアの兄さんへ。
なぜこう、毎日あたしは苦労しているのでしょうか。
教えてください。
風花愛美
P.S まだあたし未成年なのでワインは送らないでください。
何かしら設定について聞きたい場合、今後のお話に関係しない範囲で説明しようと思います。
原作キャラの喋り方これであってるかどうか不安。