昨日はそれなりに堪えた日だった。
しかしだからといって塞ぎ込んでいる余裕など俺にはない。
弾の家から帰った翌日。
俺はいつも通りに起き、いつも通りに鍛錬をして朝食を食べ、今はリビングにいる。
そこで何をしているかというと・・・・・・
夏休みの宿題である。
IS学園がいくら特殊な所とは言え学園である以上、当然学業もあるのだ。
そして何よりも不味いことに・・・・・・俺の学力は低い。
よく考えてもらいたい。
中学一年の後半に拉致されたのちに湊斗家に向かい二年間修行に明け暮れる日々。
つまり中二から中三のまでの勉強を全くしてこなかった。
当然ながら学力が低いのだ。
師匠の受け売りで色々読んだりした結果、語学だけが妙に付いてしまい英語やドイツ語、中国語などを読み書き出来るようになったのだが、逆に数学や物理などがからっきしに駄目になっていた。
なのでIS学園に行く前に一番苦労したのは勉強だ。
何とかマシなくらいにはなったが、それでも毛が生えた程度であり、学校の授業について行くのに必死なのだ。
そんな人間にきた高校の夏休みの宿題。
当然ながら苦戦する。
そんな訳で俺はリビングで宿題を睨みながら唸っていた。
そんな時に家の呼び鈴が鳴り訪問者が来たことを知らせる。
煮詰まっていた俺には丁度良く、さっそく玄関へと向かった。
「えへへへ・・・・・・来ちゃいました」
玄関を開けた俺の目の前には、太陽の日差しより眩しい笑顔の真耶さんが立っていた。
水色のプリーツスカートに夏らしい淡い色のサマーセーターを来ていた。
何というか・・・・・・直視できない。
少し若い人向けの格好だが、元々幼い顔つきの真耶さんには似合いすぎていた。
というか、少しばかり衝撃的だった。
もともとスタイルがかなり良いのだ。サマーセーターでもその大きさはかなり良くわかり、スカートから伸びる真っ白な足はとても魅力に溢れていた。
見た瞬間から胸がドキドキと鳴りっぱなしだった。
「ど、どうしたんですか、急にっ!?」
何とか声をひり出す。
しかし目がちらちらと真耶さんを見てしまう。
「昨日の一夏君は何だか疲れてた感じがしたんで、励ましたくて来ちゃいました」
顔を赤らめながら真耶さんは恥じらいつつ言う。
すみません、それはもう反則ですよ真耶さん。
可愛いその姿に俺はクラクラときた。
「す、すみません、ありがとうございます」
何とか声を出し真耶さんを家に招いた。
客人が来たのだからもてなすのは当然のことであり、俺は真耶さんをリビングに招きソファまで案内するとさっそく台所から麦茶を取り出す。
お茶菓子には水ようかんを用意してさっそく真耶さんにもっていく。
「暑いところをどうもありがとうございます。これはつまらないものですがどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
真耶さんは出された麦茶をさっそく飲み始めた。
外が暑かったのだろう、結構勢い良い。
しかし喉はこくこくと小さく動く。
両腕でコップを持って飲むその姿が可愛らしくて頬が緩んでしまう。
そして今度は出した水ようかんに口を付ける。
「ふわぁ、これ、凄い美味しいです!」
子供のように無邪気な笑顔で喜ぶ真耶さん。
本当に可愛いなぁ。
「喜んで頂けて嬉しいです」
「もしかしてこれって一夏君が」
「はい、恥ずかしながら手作りです」
そう言うと真耶さんは感動したらしく、頬を上気させて喜ぶ。
料理人というのは料理だけが出来れば良い訳では無く、こういった違う物も作れなくては仕事にならないのだ。今日辺りに千冬姉が帰ってくる予定なので念のために作っておいたものだが、真耶さんが喜んでくれたのなら良かった。
「一夏君は本当に凄いですねぇ~。こんな美味しいものも作れるんですから」
尊敬を込めた視線がこそばゆい。
「一夏君はもう食べたんですか?」
「いえ、味見はしましたが、まだ食べてはいませんよ」
そう答えると真耶さんは何かを考えては赤くなると、
「で、でしたら是非食べて見て下さい、美味しいですよ。は、はい、あーん」
恥ずかしさから真っ赤になりつつも水ようかんを一口大の大きさにスプーンですくうと此方に差し出してきた。
前のデートの時にもしたが、これは慣れるものではない。
差し出された瞬間に俺も赤面してしまう。
しかもあのときは恥ずかしさで頭が回らなかったが、よくよく考えて見れば差し出されたスプーンはさっきまで真耶さんが使っていたわけで・・・・・・
詰まるところ間接キスなわけで。
そう意識すると恥ずかしさに拍車が掛かり頬が燃えるように熱くなる。
しかし今ここは自宅で誰にも見られていない。
そう思えば外でするのに比べれば楽なわけで、俺は真っ赤になりつつも口を開ける。
「あ、あーん」
口を開ける俺に真耶さんは嬉しそうに水ようかんを口に入れる。
ドキドキしすぎて味なんて分かるわけがない。
「どうですか。美味しいですか?」
真耶さんは真っ赤になりつつも俺に感想を聞いてくる。
「すみません、ドキドキしすぎて味なんて分かりませんでした」
そう素直に言うと、真耶さんもくすくすと笑い出した。
「すみません、私もです」
そういたずらが成功したように笑う真耶さん。
本当にこの人は可愛いことばかりしてくれる。
俺はさっそく真耶さんを抱きしめる。
「い、一夏君っ!?」
いきなりなことに驚く真耶さんを尻目に俺は笑いかける。
「さっきのお返しです。本当に真耶さんは俺をドキドキさせっぱなしなんですから」
抱きしめられている真耶さんは顔を真っ赤にしつつも俺に微笑みかける。
「だって私は一夏君の『彼女』なんですから」
そう言って俺の頬に軽いキスをする。
御蔭で俺はまた顔が熱くなってしまった。
本当にこの人にはドキドキさせられっぱなしだ。
「真耶さん、大好きです」
俺はそう言ってさっきの仕返しとばかりに真耶さんにキスをする。ただし頬ではなく唇に。
マシュマロみたいな柔らかな感触で先程から食べていた水ようかんの甘い味を感じた。
俺はそれらを胸一杯に感じて唇を離すと、真耶さんは真っ赤になっていた。
「もう、一夏君ったら・・・・・・私だって大好きです!」
そう言って今度は真耶さんからキスをしてくる。
あぁ、本当に幸せだ。
真耶さんの御蔭で滅入っていた気分は消し飛んでしまった。
き、・・・・・・きついかも・・・・・・