装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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帰省 その3 孫思いの祖父の一撃は重い

「ちょっと、お兄! うるさいんだけど!」

 

あまりの騒がしさに我慢ならず兄の部屋の扉を乱暴に開けた蘭が見たものは・・・・・・

 

腹を押さえながら悶絶している兄だった。

 

 

 

あれから暴れ狂う弾を静めるのにはかなり大変だった。

先程と同じように顎を打ち抜こうとしたのだが、興奮のしすぎで打ち抜いても止まらなかったのだ。

仕方なく鉄床を手加減しつつも打ち込む羽目に・・・・・・

結果弾は今床に這いつくばっている。

そして扉が開けられ、そこには二年ぶりに会った友人の妹がいた。

 

「む、蘭か? 久々だな、元気にしていたか」

「え・・・・・・えぇえぇえええええ、い、一夏さん!?」

 

目の前の赤髪の少女、今床に這いつくばっている弾の妹である蘭は俺を見て驚いていた。

 

「い、いつ此方に・・・・・・」

「つい二時間前くらいにお邪魔させてもらったんだ。しかし・・・・・・大きくなったなぁ。前あったときはもっと小さかったからな」

 

俺が蘭と初めて会ったときはたしか小学生だったな。もう中学三年だったか・・・・・・二年も会わないと人間成長するものだ。

 

「い、いえ、そんな・・・」

 

蘭は顔を赤らめながら恥ずかしそうにしていた。さすがに昔のことを言われては恥ずかしいのかもしれないな。

 

「・・・・・・あのぉ~、蘭さん? 痛みに悶えている兄のことは突っ込まないのですか~」

 

弾がよろよろと起き上がってきた。どうやら正気? に戻ったらしい。

 

「あ、起きたんだお兄。そのまま寝てればいいのに」

「ひどっ!? 俺の妹がこんなに冷たいわけがない!!」

「何馬鹿なこと言ってんのよ」

 

さっそく兄妹仲良く話していた。仲良きことは良いことだ。(ぱっと見漫才にしか見えない)

 

「しかもお前のその格好は何!? だらしなさ過ぎてお兄ちゃんは恥ずかしいぞ」

「え・・・きゃあ!?」

 

蘭は自分の格好を見て、今度は俺を見ると顔を真っ赤にして部屋から出て行ってしまった。

蘭の格好はいわゆるラフな格好であり、人前に出れるような格好とは言いがたい。

さすがに恥ずかしかったのだろう。

そして少しすると蘭は着替えて戻ってきた。

格好は清楚な感じの白いワンピースだった。

 

「よく似合ってるな」

「そ、そんなぁ・・・」

 

蘭は嬉しそうに喜んでいるようだ。褒められて喜ばない人はそうはいない。

弾はそんな蘭の様子を見て頭を抱えていた。何故だろうか?

 

「あ、そう言えばそろそろお昼食べちゃえ、てお祖父ちゃんが言ってたよ。一夏さんもよろしければどうですか」

 

そう言えばもうお昼時になっていた。

厳さんの料理かぁ・・・・・・久々に食べたいな。

 

「それではご相伴にあずからせてもらうよ」

「やった」

 

蘭は嬉しそうに小さくガッツポーズを決めていた。本人は見られないようにしているようだが、丸見えであり微笑ましく感じる。弾が頭を抱えてのたうち回っていた。

そして俺達は家を出て家のもう一つの入り口である、五反田食堂の入り口ののれんをくぐった。

 

「おう、一夏か! 久しぶりじゃねぇか」

「あら、久しぶりね、一夏君」

 

厨房から威勢のよい声を上げて俺を見るのは、弾の祖父にしてこの店の店主である五反田 厳さんだ。齢八十を超えているとは思えないほどの筋骨隆々とした肉体を持つ料理人だ。

そしておっとりとした声をかけてきた女性は弾の母親でこの店の看板娘? の五反田 蓮さん。

とても高校生と中学生の子供をもっているとは思えないほどに若々しい人だ。

本人曰く、『二十八から歳をとっていない』

二人とも二年前とまったく変わらない。

 

「ええ、お久しぶりです厳さん、蓮さん」

「おう!」

「それじゃあ一夏君の分も用意するわね」

 

挨拶もそこそこにすると俺達は席に着いた。

その際にお代を払うと言ったら怒られてしまった。

子供が遠慮するなと言われた。

久々に子供扱いされたことに少しだけ気恥ずかしくもあったが、嬉しくもあった。

そして待つこと少し・・・・・・三人前の定食が出された。

この店でも不人気で有名な南瓜の煮付け定食だ。

 

「えぇ~、またこれかよぉ」

「文句があんなら喰うな! 寧ろ店を手伝え、この馬鹿もんが」

 

文句を垂れる弾に厳さんは叱りつける。

食事を作ってもらえるだけでも有り難いのだから、あまり文句を言うものではないと思う。

そして俺達は出してもらった料理に箸を付け始めた。

うん、この甘すぎる南瓜の煮付けの味は・・・・・・懐かしいな。

お世辞にも美味いとは言えないが、懐かしい味で嫌いじゃない。

俺達は食事を行儀よく食べながら会話に花を咲かせる。

話題は主にIS学園のことや、劔冑のこと、武者のことが殆どだ。

差し障りないことなら話せるのでそれなりに話した。

蘭は特に学園の話を聞きたがっていたので学園に興味があるのだろう。

弾は蘭が喜ぶと気まずそうにしていた。

そして何かを決意したのか、蘭はIS学園に受験すると言って来た。

 

「お、お前、何言って!」

 

弾が驚いて大声を上げたせいでお玉が飛んできて弾に直撃した。

痛みで床にのたうち回る弾。

五反田家は食事のマナーに厳しく、行儀が悪いと厨房の厳さんからお玉が飛んでくるのだ。

二年前は俺もよく喰らっていた。

今では余裕を持って躱せるくらいに見えるということは、成長したということだろうか。

 

「やめとけ、蘭。絶対に後悔するぞ・・・・・・」

 

弾が何とか復帰してよろよろと立ち上がる。

 

「何でよ! お兄には関係ないじゃん!」

 

蘭は弾を睨みつける。普通なら止めなければならないのだろうが、俺は少し微笑ましく感じる。

俺と千冬姉は歳が少し離れているから兄妹喧嘩になったことがない。

昔では力の差がありすぎて喧嘩にならず、今では出来るほど幼稚というわけにもいかない。

なのでちょっとだけ羨ましくも感じた。

弾はそんな蘭の反応を見て、

 

「あぁあああああああああああああああああああああ!! もうっ」

「うるせぇぞ、弾! 騒ぐなっつってんだろうが!!」

 

と叫び、厳さんからまたお玉をもらった。

また床でのたうち回ったのちに何とか起き上がり、少し苦悩し頭を抱える。

そして弾は意を決したように蘭に向き合う。

 

「蘭、一夏のことは諦めろ! こいつ、もう彼女いるぞ!」

「え・・・・・・・・・?」

 

唐突に言われたことに蘭の顔が固まる。

弾はまくし立てるように言い放つ。

 

「こいつはもう彼女がいるんだよ! 年上でお前なんか比べものにならないくらい巨乳で、滅茶苦茶可愛い彼女がなぁ!!」

 

友人から彼女のことをそう評価されるのは少し嬉しいがこそばゆいな。

 

「悪いことは言わない! こいつはもう諦めろ。お前に勝ち目なんてほぼねぇよ、マジで」

 

弾がそう言い切ると、蘭は表情を固めたまま此方に顔を向ける。

 

「ほ、本当ですか・・・一夏さん・・・・・・」

「ああ、本当のことだ。俺には恋人がいる」

 

聞かれたことに素直に答える。

ここで言いよどんでは真耶さんの彼氏とは言えない。自信を持って堂々答えられてこそ恋人だと俺は思う。

 

「・・・・・・・・・」

 

蘭は下を向いてしまい、弾は目頭を押さえてなにやら疲れた顔をした。

そして・・・・・・

 

「そ、そんなぁ・・・そんなぁああああああぁあああぁああああああああああ!!」

 

蘭は泣き出して店から飛び出してしまった。

弾は、あぁ~、とうなだれた。

そして俺と弾は肩を掴まれた。

振り向くと、そこには厳さんの鬼のような形相があった。

 

「何お前等蘭を泣かせてんだあぁあああああぁあああ!!」

 

飛んできた豪腕が弾の顔捕らえた。

 

「俺もかよぉおおおおおおおお!」

 

弾はそう叫びながら店の壁に叩き付けられた。

どうやら蘭を傷つけてしまったようだ。

厳さんは弾を吹っ飛ばすと俺に向かって豪腕を振るう。

昔ならいざ知らず、今の俺には見切れる。

だが・・・

グシャァ、という音が鳴るかのように厳さんの拳が俺の頬にめり込む。

しかし俺は厳さんを顔を見据えながら堪える。

 

「何で避けなかった。今のは見えてただろ」

「これは俺が受けるべき罰だと思いました。だから避けません」

 

そう、躱すことは簡単だ。しかしこれは自分へのけじめでもあるのだ。

相手を傷つけて自分がのうのうとしているわけにはいかない。(蘭が何かしらで傷付いたために厳が怒っていることは理解しているが、恋愛感情云々は二人ともわかってない。一夏は真耶のことで一杯である)

 

「そうか」

 

厳さんは俺にそう言うとまた厨房に戻っていった。

 

「あらあら、男前になったわねぇ~」

 

蓮さんは俺を見てそんなことを洩らした。

その後復活した弾は蘭を追っかけ、俺も行こうとしたら連さんに止められた。

理由を聞くと、『これは仕方ないことだから』と言っていた。

何か分かっているのだろう、そう分かってる人に言われては仕方ない。

俺は引き下がり、残りの食事を片付けることにした。

二十分ほどして弾が帰ってくると、弾は謝ってきた。

別に弾が悪いわけではないと言うと、弾はそうか、と言って納得した。

 

 

 

その後俺は弾と少し話したのちに五反田家から帰った。

その日の夜に蘭からメールがきて、謝罪の言葉が送られてきた。

何だか罪悪感を感じてしまい、申し訳無い気持ちにさせられた。

しかし弾からも励ましのようなメールが来て少しは気分がマシになった。

 

俺はその日、無性に真耶さんの声が聞きたくなって電話をかけた。

 




次回はまた、『甘いっ!!』

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