今回の話は作者の心そのものな気がしてきます。
皆さんもきっとそう思うはず!
十時頃に俺は中学からの友人である五反田 弾に連絡を入れた。
本当はIS学園に行く前に挨拶をしたかったのだが、中々に忙しくて挨拶に行けなかったのだ。
それで今から弾の家に向かうことを伝え家を出た。
弾の家はそこまで遠くはないのでそこまで時間は掛からないのだが、手ぶらで訪問などと恥知らずな真似をするつもりはないので少し遠回りして和菓子屋に行き菓子折を買ってから行く。
中身は今の季節に合わせて水ようかんと水饅頭の詰め合わせだ。
その菓子折を持って俺は五反田宅へと訪問しにいった。
五反田宅につくと、弾が出迎えてくれた。
二年前と変わらない赤髪の長髪だった。
「久しぶりだな一夏! 元気だったか」
「ああ、久々だな、弾。すまないな、挨拶が遅れてしまって」
「そう堅苦しいこと言うなよ、早く上がれよ」
そう言われ五反田宅に俺は上がった。
五反田宅は入り口が二つあり、家の表と裏にある。
表は大衆食堂『五反田食堂』を営業していて、お客さんが入る店の入り口。裏は五反田家の人達の居住区となっている。
この二つは繋がっていないらしく、まったくの別空間となっているので生活に仕事が混じることはないらしい。
俺は裏の入り口から入り、弾の部屋へと向かった。
その際に菓子折を渡すと弾は俺に大層驚いた顔を向けてきた。
何をそんなに驚いているのやら。
弾の部屋で談笑もそこそこ、テレビゲームで遊ぶことになった。
テレビゲームなど二年ぶりだな。
そしてプレイしてみると・・・・・・
「なぁ、一夏・・・・・・」
「なんだ、弾」
「何でそんなにへたになってんだよ! これ前にお前とやったときは接戦だったやつだぞ!」
そう怒られても困る。
久々にプレイしたゲームは、とてもじゃないが見れた物では無かった。
弾にどうやっても勝てないのだ。
弾が強すぎるのではなく、俺が弱くなりすぎていて。むしろ俺はゲームの操作の殆どを忘れていた上に、コントローラーを握るが違和感がありすぎてまったく馴染まない。
詰まるところ駄目駄目になっていた。
「二年もやってないとこうなるんだな」
「そんなにやってないのか・・・・・・普段お前何してるんだよ」
そう弾に呆れ返られつつも俺は即答する。
「鍛錬と修練だな」
「お前は武闘家か何かかよっ!」
「武者だが何か?」
「・・・・・・何でもない・・・・・・」
そう突っ込まれても此方は困る。
そもそも湊斗家にいたときは毎日鍛錬漬けであり、遊んでいる暇どころか休む暇すら少なかった。
福寿荘の修行もあったために睡眠時間は良くて二時間、酷いと無しだったりもした。
普通の人間だったらまず持たないが、生憎武者故にタフなので無茶が効く。それが分かっているので限界ギリギリまで突き詰められたのだ。
強いて娯楽と言えば、たまに師匠と指す将棋や囲碁、師匠から借りて読む学術書などだろうか。
師範代との野球は娯楽とは言えないし、師匠の周りの女性が起こす騒動のせいでゆっくりした記憶がない。
IS学園に行ってもあまり娯楽とは縁がなく、鍛錬や勉強ばかりしていたな。
ゲームでは相手にならないという事で仕方なく弾に将棋をだしてもらった。二年前にも指していたことがあるので、将棋なら弾と遊べる。
そしてさっそく始める。
最初は出始めなのでそこまで戦局はかわらない。
俺達は指しながら談笑をしていた。
「しっかし・・・・・・お前変わったなぁ」
「そうか?」
「自覚がないのかよ! 寧ろ誰が見たって変わり過ぎだってわかるだろ!」
そんなに俺は変わっただろうか? 自分ではよくわからんな。
「お前、口調も態度も変わりまくってるぞ! 二年前はそんな固い口調じゃなかったし、そんなに落ち着いた感じじゃ無かったぞ! 久々に会ったときはマジで年上かと思ったぞ」
弾は突っ込みどころ満載だ! と言う。
う~む・・・そういわれてもな~。
二年前の自分がどんな感じだったのかまったく思い出せない。
「まぁ、武者になったからこうなってしまったんだろう。そこまでのことではないので気にするな」
俺がテレビに出た事は既に知っているらしい。俺はあまりテレビを見ないから知らなかったが、俺のドキュメンタリーやら特番やらが度々放送されているらしい。なので弾は俺が武者であることは知っている。臨海学校の件もあって正宗のことも知れ渡っているので、さっそく呼んでくれと頼まれたときは機密だ何だと言って断った。呼ぶと面倒なことになりそうだからだ。
「そりゃそうだけどよ~」
弾は納得がいかない感じに歯切れ悪く答える。
さすがに気まずくなったのか話題を変えることにしたようだ。
「そういえばお前って今、あのIS学園に通ってるんだって。いいよなーIS学園。女の子しかいないんだろ、モテモテハーレムじゃないか」
弾は興味津々な視線でこちらに話かけてきた。
ISは女性にしか動かせないから実質女子校と変わらない。
俺が通っているのは特例であり、本来ならありえないことだ。
普段は見えない、聞こえないことに興味を持つことは当たり前とも言えることだ。
「ハーレムなんて、そんなわけないだろう。あれはあれで結構大変なんだ。トイレが少ないし女性集団の中に一人だけだぞ、居心地が悪いし気まずくもなる」
「う・・・まぁ大変ではあるんだろけどさ」
実際に想像してみて俺の苦労を少しは理解したらしい。
「それにハーレムなんて不純ではないか。男たるもの、好きな女性に一途であるべきだ」
俺がそう真顔で答えると、弾は驚愕に顔を凍り付かせていた。
将棋を指していた手を止め、俺のデコに手を当て熱が無いかどうか調べ始めた。
「お、お前・・・本当に『あの』一夏なのか!?」
「『あの』ってなんだ、『あの』って」
「マジで言ってるのか!? あの、『キング・オブ・唐変木』の織斑 一夏が・・・・・・信じられねぇ~」
「弾・・・・・・お前は失礼って言葉を考えるべきだと思うのだが・・・・・・」
二年ぶりにあった友人の失礼なことに少しだけむ、となる。
「そう言ったってな、だってお前、有名だったんだぞ! 『織斑 一夏は女の子の気持ちがわからないのです』なんてネタにされるくらい。お前の唐変木は筋金入りで不治の病扱いされてたんだぞ。その一夏がそんなことを言うなんて、天変地異の前触れじゃねぇのか!?」
「お前が俺のことを二年前にどう思っていたのがよく分かった。しかし今の俺はそこまで酷くはないと思うぞ」
俺がそう答えるが、弾はお化けでも見るような目で俺を見る。
「それになぁ、昔はどうだかは覚えていないが、今の俺には大切な女性(ひと)がいるんだ。だからそのようなことはない」
「・・・・・・・・・・・・・・・はぁっ!?」
そう答えると弾は固まった。
「どうしたんだ、弾? 固まって」
すると弾はぎ、ぎぎ、と音がなりそうな感じに首を動かし俺の方に目線を向けた。
「それ・・・・・・マジか・・・・・・」
信じられないような顔で此方を見る弾。
「本当のことだ」
普通に答えると弾の体がふるふると震え始め・・・・・・爆発したかのように立ち上がった。
その際に将棋板をひっくり返してしまい駒が飛び散った。
「マジかよっ!! あの、あの一夏に彼女がぁ!? これって夢じゃないよな? どっきりとかないよなぁ!」
「お、落ち着け、弾」
「これが落ち着いていられるか! 誰だよ、知ってる人か! 鈴から聞いたけど、お前の周りに鈴も含めてよりどりみどりだって言ってたからな! まさかあの『キング・オブ・唐変木』に彼女が出来るなんて・・・・・・・・・先をまさか、こんな奴に越されるなんて・・・・・・畜生・・・・・・畜生めぇええええええええええええええええ!!」
弾は半ば狂乱状態になってしまい、落ち着けるのに苦労を要した。
具体的にはかなり手加減して武者式組打術で顎を打ち抜いた。
そうでもしないと暴れ狂う弾を止められなかったのだ。
少しして回復し始めた弾は、俺の彼女について、根掘り葉掘り、それこそ隅から隅まで聞こうと齧り付いてきた。
「それで、お前の彼女ってどんな人なんだよ!」
「落ち着け、鼻息が荒いぞ、まったく・・・・・・この人だよ」
俺はそう言って前に携帯で撮った写真を弾に見せる。
「なっ、滅茶苦茶可愛い!? 誰、この子! 同じクラスの子かよ」
「いや、年上の人だ」
さすがに教員とは言えない。
弾は携帯を食い入るように見ていた。
「しかも・・・・・・滅茶苦茶胸でかくねぇ!? サイズどれくらい」
何やら写真の真耶さんを見て鼻の下を伸ばし始めた。
俺は瞬時に腕を動かし弾の喉仏を掴む。すぐにでも握りつぶせるかのように。
「人の彼女をいやらしい目で見るんじゃない」
「す、すんません・・・」
殺気が漏れてしまい弾の顔が引きつっていた。
俺は弾から手を離すと弾はまた俺に彼女について聞きまくってくる。
さすがに大切な部分やらまずい部分はぼかしたが、大体は説明させられた。
そして何を思ったのか俺の携帯の中を見始めた。
「何している、プライバシーの侵害だぞ」
「別に減るモンじゃないだろ。少しくらい見せろよ」
そして弾は俺の携帯の受信メールボックスを開いてしまった。
中にあるのは今日の朝の前からもらっている真耶さんとのメールの数々。
『おはよう、一夏君! 今日も元気よく頑張ろう。追伸 愛してます、大好き♡』
などなど。
それを見た弾はまた凍り付く。
「・・・・・・だ、弾?」
話かけるが反応がない。
顔の方を見ると・・・・・・
血の涙を流していた。
そしてまた・・・・・・
「ち、ち、ちくしょぉぉおおおおおおぉおおおおおぉおおおおおおぉおおおおお!! このバカップルめ! このリア充め! なんだよ、この砂糖が吐き出したくなるほどの甘いメールはぁ!! 死ね、死んでしまえぇえええええぇええええ! リア充は滅びてしまえぇええええ! く、悔しくなんかないぞぉ、うわぁあああぁあああああぁあああああぁあああんんんんんんんん!!」
暴れ狂いに狂い始めた。
もう手のつけような暴れっぷりに俺は唖然としてしまった。
まさに男の叫びそのものかと