翌日、俺は駅前の噴水で山田先生を待っていた。
せっかくの初デートということで、場所を決めての待ち合わせという、まさに『デート』っぽいことをお互いしてみたかったのだ。
俺は武者ではあるが、やはり一人の男としてこういうのにはそれなりの憧れもある。
先生の提案に即座に同意した。
微妙に複雑なことだが、正宗は当然俺に付いてきている。
武者と劔冑は常に共にある。それは武者ならば当たり前のことであり、どこだろうと一緒だ。
恋人が出来ようが、そのスタンスは変わらない。
山田先生と二人っきりの方がこういうときは絶対にいいのだが、武者である以上そういうことも出来ず・・・・・・何とも言えないものがある。
しかし山田先生とデート出来ると考えれば、そんなことさえも些細なことに思えてくる。
俺は駅前で山田先生が早くこないかと、そわそわしていた。
デートの鉄板である、時間より少し早めにくるというのをしてみたかったからだ。(普通は十分前、少し早くても三十分なところ、一時間前からいる)
『御堂、もう少し落ち着いたらどうだ』
俺が落ち着いてないのを見ていられないらしく、正宗が声をかけてくる。
「(そ、そんなことないぞ! 俺は落ち着いている)」
『・・・・・・御堂よ。今の御堂の状態を何というか知っておるか?』
「(何が言いたい)」
『間抜けと言うのだ! もう少ししゃっきりとせぬか! 浮かれすぎだ』
実は少し自覚があったりした。
「(・・・・・・すまん・・・・・・)」
『自覚があるのならよいのだ』
そう正宗は俺に言うとまた喋らなくなった。たぶんどこかに隠れて俺のことを見ているんだろう。
正宗に言われて少し深呼吸、そして精神を少し集中させることで何とか落ち着き始めた。
今からこれでは、デートではどうなってしまうのかわかったものではない。
しかしそれでもやはり気になってしまうものなのだから、大目に見てもらいたい。
駅前に人が増え始めると、否応無しに人の目が集まってきた。
「見て見て、あれってもしかして・・・」
「最近テレビで取り上げられてる人なんじゃ・・・」
「もしかして、織斑 一夏じゃないのか・・・」
そう、どこかの誰かのせい(主に劔冑推進派)で俺は世間に知れ渡ってしまっていた。
御蔭で今ではあっちこっちから人に見られることが多くなっている。
主に男性からの支持が多く、以外なことに女性からの支持も悪くなかったりする。
そのせいもあって、福寿荘では満員御礼の地獄を見させられたわけだが。
人の噂も七十五日というものだからすぐに沈静化すると願いたいものだ。
俺は昔から人に見られるのはあまり好きじゃない。
見られるのなら山田先生だけに・・・・・・おっといけないな。また正宗に怒られるところだった。
そう考え人の視線に耐えながら待っていると、
「お、お待たせしました!」
声がかけられる。振り返らなくてもわかる声に頬が緩む。俺が待っていた人だと。
「いえ、さっきついたばか・・・・・・り・・・」
振り返った俺は言葉を途中で中断してしまった。
俺の目に入ってきた山田先生の姿に言葉を失ってしまったのだ。
山田先生は真っ白なワンピースに真っ白なトップスを上から羽織った姿だった。手にかけた薄ピンク色の小さなバックが服装と相まってかわいらしさをより醸し出している。
山田先生の格好は深窓の令嬢を彷彿とさせる。
「・・・・・・・・・可憐だ・・・・・・」
見て出た感想がこれだ。
そうとしか言いようがないくらい似合っている。
「どうかしましたか、一夏君?」
山田先生が心配して俺の顔を覗き込んでくる。
薄手に化粧がしてあって綺麗だ。しかも、これは香水をつけているのだろうか? ふわりと香る柑橘系の匂いに少し胸が高鳴った。
「い、いえ、大丈夫です」
「そうですか。あ、この服はどうですか?」
山田先生が気になるといった感じに聞いてきた。顔を赤らめながらそう聞く山田先生は綺麗で、可愛い。
「はい、似合ってます。とても綺麗です!」
「そ、そうですか! よかったぁ~」
聞かれて速攻で答えた。
本心を言うのにためなど必要ないと言わんばかりに言うと、山田先生は花が咲いたかのような笑顔で喜んでくれた。
「い、一夏君の服も、お、お似合いですよ」
「あ、ありがとうございます」
山田先生は熱を込めた瞳で俺を見つめる。
少し気恥ずかしいが嬉しい。
俺の格好はというと、カジュアルスーツを着てきた。
昨日は服装について悩みに悩み抜いたところ、師匠に相談を電話で持ちかけた結果こうなった。(こういうときにこういうことを相談出来る相手が一夏には少なすぎるため。景明か中学の友人くらいしかいない)
「そ、それじゃあさっそく行きましょうか、山田先生」
お互いに真っ赤になってても始まらないので動こうとするが・・・・・・
「あ、ちょっとまって下さい、一夏君」
「ど、どうしたんですか、先生」
呼び止められてしまった。
山田先生は顔を真っ赤にしながら俺の顔を見つめると
「ここは学園じゃないんですから、先生って呼ばないで下さい」
といたずらをした子供を優しく叱る母親のように言ってきた。正直可愛くて全然叱られた感じがしない。
「えっと、それじゃ何と・・・」
「『真耶』って呼んで下さい」
顔を赤くしつつもお願いする山田先生から目が離せなくなる。少し必死な感じにお願いする姿のなんと可愛らしく美しいことか。
「いや、だって、その、」
「お願いします! だって・・・せっかく恋人になったんですから」
そうお願いされて断れる人間なんているのだろうか(一夏限定)。いるわけがない。
人前でなければ抱きしめていたところだ。
前も同じような事があったが、前の時は断ったな。昔の俺に今すぐ七機巧をたたき込みたい気分になった。
今の俺は考え込むまでもない。
「そ、それじゃあ・・・・・・行きましょうか・・・『真耶』さん」
「はい!」
俺は『真耶』さんの腕を取って、さっそくデートをすることにした。
男なのだから、リードせねばとさっそく腕を繋いだら真耶さんは真っ赤になりながら恥ずかしがりつつも俺の腕を握ってくれた。
握った腕が熱くなってくるが、それが心地よく感じる。それはやはり真耶さんだからだと思うと胸が幸せで一杯になる。
しかしすぐに腕同士を絡ませてきた真耶さんに、俺はたじたじだったりするのだった。
おうふ・・・・・・
砂糖が止まりそうに無いです・・・・・・