告白から三日が経った。
アレが夢ではないかと思う程に幸せな気持ちに満たされていた。
胸が常に温かくて、山田先生の顔を思い浮かべるだけで微笑みが浮かんでくる。
そんな俺が今、何をしているのかというと・・・・・・
「345、346、347、348、349、349、350・・・・・・」
背中に十キロの重しを乗せて腕立てをしていた。
『随分と精がでるな、御堂。てっきり我は腑抜けると思っておったぞ』
いつも以上に精を出し体を鍛えている俺に正宗が失礼なこと言う。
「何でそう思ったんだ?」
回数を数えつつも正宗に聞き返す。
『うむ。恋人同士になった者はお互いのことしか考えられなくなって他のことに手が付かなくなるという』
「めずらしいな、お前がそんなことを言うなんて。そういったことには興味なんてないだろうに」
正宗は正義を成す事以外に興味がないはずだった。よく考えたら告白のときも俺の事を助けてくれたのは、いつもなら有り得ないことなのに。
『確かに我は恋愛事などに興味などない。しかしあの娘には色々と世話になったのだ、御堂もあの娘のことが気になって仕方ないこと故、手伝ったまでのことよ」
「具体的にはどう世話になったんだ」
気になって聞いてみると、
『「まんがぼん」なる物を借りたり、体を拭いてもらったりしたのだ』
と答えてきた。こいつは俺が見てないうちに何をしてもらっているのやら。
お前は体を拭かなくても勝手に汚れなんて落ちるだろ。しかも漫画なんて普段読んでなかったじゃないか。
後でお礼を言わないと。
まぁ、それで山田先生に会えると思うと、それはそれで嬉しいものだが。
「まさか漫画の影響でそんなことを言っているのでないだろうな」
『そうだ。まんがでは恋仲になったものは総じて腑抜けになっておった。まったく情けないことよ』
こいつは恋愛にどんな偏見をもってるんだ。
確かに正義を成すこいつにはそう映るのかもしれないけどなぁ~。
『その点、御堂は腑抜けずに寧ろ精をだして鍛えておる。さすがは御堂だ。しかし何故腑抜けぬのかは少し気になるのう』
こいつの中では恋愛にかまけると腑抜けになるらしい。
それはそれで少し腹が立つものだ。
俺は隠しても仕方ないので正直に話す。
「確かに山田先生と恋人同士になったのは凄く嬉しい。しかし俺はそれでも武者なんだ。今回の件、青江に不覚を取り山田先生を酷い目に遭わせてしまったのは此方の未熟が原因。俺は武者として、山田先生の恋人としても二度とあんな目に遭わせたくない。だからこそ、より鍛えるんだ」
『その心意気や天晴れなり! 少しばかり余計なものが入っているが、それでも関心する』
「・・・・・・そうか・・・・・・」
正宗の反応に呆れつつも俺は腕立てをしていった。
「うふふふふふ」
所変わって職員室で山田 真耶は仕事をしていた。
生徒は夏休みでも教師は夏休みではない。
夏休みになっても仕事があるため、職員室に籠もっていた。
しかしそんなことにもまったくめげた様子は無く、幸せ一杯な笑みで仕事をしていた。
今彼女は一夏との交際を始めて幸せ一杯であり、一夏にすぐにでも会おうと仕事を終わらせるのに頑張っていた。
どこからどう見ても幸せ一杯な彼女を、職員室にいる同僚の教師はそんな彼女を半分は祝福し、半分は呆れ返り、そのまた半分は羨ましそうな目で見ていた。
件の事は既に職員には全員に知れ渡っていた。
「あ~、その、山田先生? もう少しは押さえたほうが良いと思うのだが」
さすがの千冬もこの状態には少し引け気味だった。
「え? 何のことですか、織斑先生」
その事にまったくわからないといった感じに真耶は反応するが、その溢れんばかりの幸せオーラにその場の全員は戦いた。
そして千冬以外の全員がこう思った。
(やっぱり彼氏が欲しぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!)
そしてお昼の時間になり次第・・・・・・
「それじゃ、私はお昼にいってきます!」
と真耶は明らかに弾んだ声で食堂へと行く。
無論聞くまでも無く、一夏とお昼を一緒に過ごすのは言うまでもなかった。
俺はこの三日間、山田先生と食堂の前で待ち合わせをし、一緒に昼食を取っている。(朝は時間の都合上仕方ないが、夕飯も一緒)
こう言っては惚気と言われても仕方ないが、少しの時間でも一緒にいたいのだ。
文句なぞ例え師匠でも師範代でも言わせる気はない。
先程までシャワーを浴びていた事もあって少し遅れてしまった。
食堂に行くと既に山田先生が扉の前で待っていてくれた。
「すみません、山田先生。少し遅れてしまって」
「いえ、良いんですよ。私もさっき来たばかりですから」
山田先生の顔を見る度に頬が緩んでしまう。
このやり取りも何だかデートの待ち合わせのようで気恥ずかしいが嬉しい。
とは言えこのままと言うわけにも行かないので早速二人で食堂に入る。
夏休みと言うこともあって生徒はまばらだが、それでも幾人かはいるのでその目が俺達に向けられる。
既にこの三日間で俺と山田先生が恋仲だということは結構知れ渡ってしまい、結構恥ずかしかったりする。
注文を頼もうと向かうと、早速食堂の従業員の方々から冷やかしのお言葉をもらってしまった。
「今日もお熱いねぇ~お二人さん」
「お似合いよ、お二人さん」
「若いっていいわねぇ~」
「「いや、そんな・・・・・・」」
そう言われ俺と山田先生は恥ずかしさから顔を赤くしてしまう。
顔を赤くして恥じらう山田先生の何と可愛らしいことか。
二人っきりだったら抱きしめていたことだろう。
危うくしかけたが・・・・・・
しかし恥じらってても余計酷くなるだけなのでさっさと注文することにした。
俺がカレーライスを選ぶと、山田先生もカレーライスを選んできた。
何故同じものを、と聞いたら、
「だって・・・・・・一夏君とお揃いが良いですから」
との返事が返ってきた。
恥じらいながらもそう言う山田先生の可愛らしさに危うく失神しかけた。
その後も俺は他の料理も頼み(武者は熱量の消費が激しい)六人前ほどの量になったトレーを運ぼうとしたところで呼び止められた。
「ちょっと織斑君、これおまけね」
そう従業員の方に渡されたのはラッシーと呼ばれる飲み物。
カレー専門店なんかに行くと一緒に付いてくる代物だった。
おまけには有り難いのだが・・・・・・
ストローが二つ入っていた。
山田先生はそれを見て、このおまけの意図に気付き顔が真っ赤になった。
無論俺も同じである。
前ならふざけないで下さいと言ってストローを一本外して一人で飲んでいるのだろうが・・・・・・
「あ、ありがとうございます・・・・・・」
俺は恥ずかしがりながらそれを受け取った。
席に着きさっそく食べ始める。
山田先生の食べ方は改めて見ると、品があってやはり大人の人だと思わされた。
俺が見ていると、山田先生はスプーンを動かすのをやめて、
「あ、あまりじろじろ見ないで下さい、は、恥ずかしい・・・・・・」
と恥じらいながら言う。
こういったことを言われ、聞かされる度に俺は思う。
俺はどれだけこの人にドキドキさせられるんだろうか、と。
そう、俺は山田先生に合う度にドキドキさせられっぱなしだったりする。
でもこの感覚が気持ちよくて仕方ない。
今回もドキドキしながら食事を取り、食後のお茶としてラッシーを目の前においていたところで話を振られた。
「そう言えば明日は休みなんですよ。だから一緒にでかけませんか」
「え、それっていわゆる・・・・・・デートというものですか?」
「はい!!」
そう嬉しそうに答える山田先生。
これはいかんな、デートには男から誘うべきだと思っていたのに気を遣わせてしまった。
そう内心で反省しつつも嬉しいのだから自分の心とは始末に負えないものだ。
この申し出に言う答えはもちろん決まっている。
「わかりました。明日、一緒に出かけましょう」
「本当ですか! やったぁ」
俺がそう答えると山田先生は心底嬉しそうに笑った。
ああ、この人は本当・・・・・・どこまで人を魅了すれば気が済むのだろうか。
俺は山田先生を見る度にクラクラさせられっぱなしだと思った。
最後に二人で赤面しながらラッシーを飲んだのは言うまでも無い。
その日の夜、俺はドキドキしっぱなしで眠れなかった。
うっぷ・・・・・・
これだけでも作者のライフがゼロになりそうです。
だ、だれか~、ブラックコーヒーを・・・いっそのことセンブリ茶を・・・・・・