俺(我)は引き千切った右腕をその場に放り捨てると青江と対峙する。
『これで貴様を遠慮無く破壊することが出来る。覚悟しろ、この外道!』
『ちっ、面倒なことを・・・・・・だがその程度で俺が殺せると思うなよ、正宗ぇええええ!!』
青江は右腕をもがれたのにもかかわらず、まったく怯んでいない。
劔冑は鉄の塊故、痛覚を持たない。武者が怯んだりするから動きが鈍るが、こいつは仕手を言わば乗っ取って動かしているため仕手の意識がない。だから仕手がどんなに負傷しようと動ければ問題無いのだ。
青江は残った左腕で刀を握ると俺に向かって上段から振るう。
未だ俺(我)は丸腰故に無手、圧倒的に敵側が有利。
しかしそれはさっきまでの話だ。
人質がいない以上此方も抵抗出来るのだ。
元々武者には武者式組打ちもあるので戦えないこともない。
何より・・・・・・此方は無手でさえ最強の武者から手ほどきを受けた者。
つまりは・・・・・・
『嘗めるな!』
俺(我)は左腕を手刀の形に、右腕を拳にし白羽取りの要領で刀を受け止める。
結果は・・・・・・
『何っ!? 刀がっ』
刀は受け止められた先からへし折られた。
事実に驚愕している青江に向かってさらに回し蹴りを放ちアリーナの壁まで吹っ飛ばす。
『吉野御流合戦礼法、逆髪』
いつもより格段に威力が違う逆髪に胸部甲鉄を砕かれる青江。
既に俺(我)の能力は百%以上、その威力は尋常ではない。
俺(我)は青江に向かってゆっくりと歩いて行く。
その際に斬馬刀を回収しておくことも忘れない。
『己の優位に溺れたな、この痴れ者め! 貴様はあくまでも劔冑に過ぎない。劔冑は武者と合わさって初めて性能を十全に発揮できる。仕手の自我を殺し業すら使えぬ貴様に負ける正宗ではないわぁ!!』
劔冑はあくまでも劔冑であり、武術を使うのは武者の仕事だ。
劔冑は武術を使うことは出来ず、武者は劔冑のようには出来ない。
互いに力を合わせることによって、武人たり得るのだ。
青江の前に立ちまた俺(我)は対峙する。
『かぁ、かかか、貴様こそ俺の事を嘗めるな! まだこの青江貞次は貴様に陰義を使っていない!!』
青江は立ち上がると此方に向かって、あの特徴的な顔の面を此方に向ける。
『可! 可! 可可可可可可可可可可可可可!!』
そして陰義を発動する。
その面を見た者は幻覚により悪夢にうなされる。
しかし・・・・・・
俺(我)はまったくかかわらずに斬馬刀を青江に振るい、甲鉄を切り裂く。
『なっ、何故俺の陰義が効かない!?』
俺(我)の攻撃を受けて青江は驚愕し戦く。
『貴様に見せられた悪夢など、山田先生を怖がらせたもの以上のものなどない。俺(我)を怒らせたのは間違いだったな、俺(我)はもう貴様を殺す事以外気にならん! 何より、貴様の陰義は生物にのみ作用するもの、心鋼一致をなした俺(我)等にはそのようなものなど効かん!!』
陰義が効かないことに怯え始めた青江に向かって刀を、拳を放ち甲鉄を破砕していく。
『これでもう終わりだ・・・・・・貴様には苦しみながら死んでもらう』
俺(我)は斬馬刀で斬りつけると、吹っ飛んだ青江に向かってゆっくりと歩いて行く。
その様子はもはや正義などとはかけ離れ、青江には幽鬼のように映った。
『ひっ、ひぃいいいいいぃいいいいいいいいいいいいいいい!!』
俺(我)のその様子を見て恐怖し、装甲を解除して独立形態であろう蛾の姿になり逃げようとする。当然仕手は置き去りにされていた。
『逃がすかっ! 割腹 投擲腸管ッ!!』
逃げようとする青江に向かって鋼鉄化した腸を飛ばし絡め取り捕縛する。
『言ったはずだ・・・・・・貴様には地獄よりも酷い目に遭わせ破壊すると。逃げられるなどと思うな!』
俺(我)は腸を引きこんでいく。
『嫌だ、嫌だ! やめろ!』
青江の悲痛な悲鳴がアリーナに響く。
確実に逃げられないよう捕らえるとさらに七機巧を使う。
『隠剣・六本骨爪!!』
鋼鉄化したあばら骨が青江に向かって飛んで行き突き刺ささり、さらに締め上げる。
通常なら痛みで既に動けなくなっているが、今の俺(我)等はには問題にならない。痛みすら感じられないのだから。
『この程度で済むなどと思うな!』
左手を青江に向け、
『無弦・十征矢!!』
さらに左腕全部を消耗させ肘を向ける。
肘から砲身がせり出された。
『連槍・肘槍連牙!!』
発射された弾丸と指が青江を蹂躙していく。
『がぁああぁあああああああぁあああああああああ!!』
さらに右腕に握られた斬馬刀へ熱量を送っていく。
次第に刀身が灼熱となっていく。
『朧・焦屍剣』
『ぎゃぁあああぁああぁああああああああああ!!』
朧・焦屍剣を青江に突き立てて刺す。
痛覚がない劔冑だが、恐怖はある。
青江は自身が破壊されていくのに恐怖した。
『これで終わりだ! 貴様の振りまく悪夢に決着をつける。これでやっと貴様が消え失せると思うと清々するわ! 消えろ青江、永遠に!!』
右腕全部を使って砲弾を作り、青江に向かって砲を向ける。
『飛蛾鉄砲・弧炎錫ッ!!』
発射された砲弾が青江に向かって飛んで行く。
『嫌だっ、嫌だぁあああああぁ! 俺はこんなところで終わりたくない! 嫌だぁああああぁあああ!!』
近距離で爆発し辺り一面を真っ赤染め上げ、青江の最後の悲鳴をも飲み込んでいく。
爆発が収まったときには、もう青江は存在しなくなっていた。
青江がいたところには只物言わぬ鉄屑が転がっているだけだった。
青江が消滅したことを確認して俺(我)は『心鋼一致』を解いて装甲を解除する。
正宗が俺から離れると俺はすぐに山田先生の元へ走り・・・・・・
山田先生を抱きしめた。
「い、一夏君!? あの、その」
山田先生は俺の行動に驚いていたが、俺は何も言わずに力を込めてさらに抱きしめた。
「い、痛い、痛いですよ、一夏君・・・」
山田先生は痛がったが俺はそれでも構わず抱きしめた。
山田先生が無事で本当に良かったと、心から思った。
胸の中にいる山田先生の存在を感じてやっと安心した。
そうしてしばらく、山田先生は俺のされるがままになっていた。
次回はたぶん、ブラックコーヒーが必要かもしれないです!!