福寿荘で働いて一週間が経ち俺は学園に戻ることにした。
山田先生達がきた後も地獄は続き、俺も龍さんも何度も力尽きた。板長だけはまったくそんなことがないのだから本当に驚かされたものだ。
その一週間の間に俺は皆から茶化され冷やかされ・・・・・・よりにもよって板長にまで言われる始末。
何とも気まずい一週間だった。
しかしその茶化しのせいか、頭の中から山田先生の笑顔が浮かんで離れない。
思い浮かべると顔が熱くなってくるが胸が暖かくなる。
それを自覚出来るって事はやっぱり俺は・・・・・・
そう考え込みながら歩いていると、急に携帯が鳴り始めた。
画面を見ると『千冬姉』の名が出ていた。
千冬姉から携帯というのは珍しいな、そう思って携帯を出た。
「千冬姉、一体どうしたんだ?」
『一夏か! すまない、すぐに学園に戻ってくれ!』
千冬姉の声から焦っている様子を感じた。
ここまで焦るのはただ事じゃないな。
「・・・・・・何があった」
『いきなりよく分からない劔冑がアリーナに出現して暴れ始めた。「正宗を出せ」の一点張りで今もアリーナに立て籠もっている』
「何だって!?」
いくら劔冑とは言え、IS学園に侵入出来るのはそう簡単ではない。
師範代のような異常な強さなら気付かれずに侵入することもできるかもしれないが、普通の劔冑の騎航速度ならレーダーに引っかかるはずだ。
『清掃業者の人間がアリーナに来たらいきなり武者に変わったんだ』
しまった・・・・・・人はさすがにレーダーには映らない。しかしその欠点を補うために警備員の数を増やしているのだが、何故気付かなかったのか・・・・・・まさか隠密行動が得意な劔冑か!? それなら陰義を使って姿を隠して動ける。
『代表候補生達と教師陣制圧班が向かったが全員無力化された』
「みんなは大丈夫なのか! 怪我は!」
『それが・・・全員外傷はない。しかし全員意識がおかしい』
「どういうことだ?」
『わからない。何かに怯え、まるで悪夢にうなされているようになってしまったんだ。敵からは攻撃を一切受けてないのに。それで・・・・・・山田先生が人質として捕まってしまった』
それを聞いた瞬間に胸に刃が突き刺さったような衝撃に襲われた気がした。
「なっ、ど、どういうことだ、それはっ!? 山田先生は無事なのか、怪我は! 何か酷いことはされてないのか!!」
『お、落ち着け一夏! 取りあえずは無事だ、外傷も無い。ただ未だに捕まっている』
取りあえずの無事に安堵するが、それでも心配で仕方なくなってくる。
「分かった、すぐそっちに向かう。だからアリーナのシールドは解除しといてくれ。その劔冑に伝えとけ、山田先生に手を出したら許さんとな!」
そう千冬姉に伝えると携帯を切り、正宗を呼び出す。
「来い、正宗!!」
『応』
正宗は俺の前に飛び出す。
「話は大体聞いていたな! すぐ学園に戻るぞ」
『諒解!』
そして装甲の構えを取り誓約の口上を叫ぶように言う。
『世に鬼あれば鬼を断つ 世に悪あれば悪を断つ ツルギの理ここに在り』
その場で装甲し合当理を全開で噴かしてIS学園へと向かった。
IS学園のアリーナ上空まで飛行した後に着陸、目の前にいる武者をにらみつける。
すぐに見て真打だと分かる。特に右肩に付いている奇妙な面は目立っていた。
人の顔を象っているのだが、その顔が癪にさわるような笑みを浮かべているのだ。
しかしそれより山田先生は無事なのか!?
山田先生はその武者に片手で首を押さえられていた。
俺が来たことに少しだけ頬を緩めるが、すぐさま叫ぶ。
「一夏君、来ちゃ駄目です!!」
『かっ、かかかか。やっと来たか相州五郎入道正宗。待ちわびたぞ』
武者から発せられる金打声が聞いてて苛立ってくる。しゃべり方からして仕手では無く劔冑の方だろう。
『やはり貴様だったか、青江貞次』
「知っているのか、正宗」
『知識としてはな。仕手を惑わし、女子供ばかりを殺害させる妖甲よ。自らの殺人嗜好を誇る下衆だ!まさに我らがもっとも唾棄すべき悪そのものだ。肩にある面から「ニッカリ青江」などと呼ばれておるが、侮るな! 彼奴の陰義は幻覚を見せるもの故、注意せよ』
だからか、千冬姉が言っていた悪夢にうなされるというのは幻覚でやられたのか。
遠くの方を見ると退避させられた箒達やほかの教師が固められていた。
耳を澄ますと怯えたうなり声などが聞こえてくる。
中には、「婚期が・・・婚期がぁ・・・」という声も聞こえたが、これは聞かなかったことにしよう。
箒達は遠目に見ても凄く怯えてうなされていた。
それだけでも怒りがこみ上げてくる。
しかも仕手自身を惑わし、自身に取り込むなど劔冑の風上にも置けない奴だ。
「それで貴様、一体何用だ! 何故俺を呼んだ!!」
怒気に声が大きくなってしまう。山田先生は俺の声を聞いてビクっと肩が震えた。
『何、天下一名物の貴様を倒せば俺の名もさらに上がると言うものよ! 貴様を討ったのちに今度は勢洲右衛門尉村正と殺し合う。そして俺が真の妖甲だと世に知らしめるのよ』
「・・・・・・・・・・・・ふざけるな・・・・・・」
『何だって?』
「ふざけるなっ!! 何が真の妖甲だ! そんなくだらない事に箒達を、山田先生を巻き込んだというのか、貴様ぁあああああああああああああああああ!!」
俺は怒りのあまりに斬馬刀を引き抜き斬りかかろうとする。
しかし刀の前に山田先生を出され刀が振るえなくなる。
『勘違いするなよ、正宗の仕手。俺はお前達と戦いに来たんじゃ無い。お前達を殺しに来ただけだ」
そう言いながら青江は嘲笑を上げる。
『この娘を返して欲しければ刀を捨てて此方に来い。変な真似はするなよ。した瞬間にこの娘は殺す』
そう言われては俺は抵抗出来ない。
仕方なく刀を地面に捨てる。
『正気か御堂! 此奴は絶対に約束など守らんぞ!』
「分かってる! それでも、山田先生の安全のほうが大切だ」
正宗の言うことは至極当然のことだ。でも俺は、それでも、山田先生の方が・・・・・・
そして俺は青江に丸腰で近づく。
「約束通り太刀を捨てたぞ。山田先生を解放しろ」
「い、一夏君・・・・・・」
山田先生が泣きそうな顔で此方を見る。
「もう大丈夫ですよ、山田先生」
できる限り安心させるように声をかける。
『かぁ、かかかか、本当に丸腰でくるとはなぁ。正宗、貴様の仕手は馬鹿正直だな、かぁ、かかか』
青江はさそ愉快そうに笑い声を上げる。不快でしかたない。
『約束通り、この娘は返してやろう。ほらよぉ!!』
「・・・・・・ぐぅ!?」
青江は山田先生を放った振りをして俺に刀を突き刺してきた。
俺は咄嗟のことに防ぐことも出来ず刀を胸に突き刺された。
普通の武者同士ならこのようなことはならない。酷い方法だが、青江は仕手の自我を殺すことによって『心鋼一致』を成している。それにより尋常では計れない力を発揮しているのだ。
「ごふっ・・・・・・」
咄嗟に少しだけ体がずらせたので心臓はまぬがれたが肺が破られてしまい吐血してしまう。
外から見てその様子は見られないが、どういうことになっているかは容易に想像できることだ。
「い、いやぁああぁああああああああぁあああああああああ!!」
山田先生の悲鳴がアリーナに響きわたった。
俺は刀を引き抜かれると地面に膝付いて伏せてしまう。倒れなかったのはもはや意地だ。
『この愚か者がぁ、約束なんて守るわけがないだろう。かぁ、かかか』
血が抜けていき痛みに堪えている最中にこいつの笑い声は傷口に触る。
すぐにでも斬りかかりたかったが、痛みで体がうまく動かない。しかもまだ山田先生は捕まったままなのだ。これでいってもさっきと同じ堂々めぐりにしかならない。
『さて、貴様を斬るのなんて後は簡単だ。しかしそれじゃあ面白くない。妖甲としてはやはり、相手に絶望させてこその妖甲よ。だから・・・・・・いま貴様の目の前でこの娘を嬲り殺すことにしよう』
青江はそう愉快そうにいうと山田先生を俺の目も前まで持って行き、見せつけるように持ち上げる。
『どうするか、その可愛い顔を切り刻むのも良いし、その馬鹿でかい胸を切り落として心臓を握り潰すのもいいなぁ、悩むなぁ。そう思わないか、娘』
そう言いながら山田先生も胸を力強く握り潰すように揉む。
ISスーツ姿の山田先生も胸がぐにゃりと変形していく。
「い、いやぁああああああああ!! や、やめて!!」
山田先生は恐怖で悲痛な悲鳴を上げる。
それを聞いて俺は・・・・・・
頭の中が怒りで真っ赤に染まった。
「正宗・・・・・・俺は・・・・・・山田先生を怖がらせるこいつを絶対に許せない。力を貸してくれ」
『我もそうだ。目の前でこのような悪行を許せる訳が無い。しかし御堂のそれは私情ではないのか』
「だからどうした。大切な人を助けられない正義に意味なんて無い! 俺の正義とは、大切な人達のためにあるものだ!!」
『そこまで言うのならこの正宗に示してみせよ、御堂の正義を!』
「ああ、わかった!」
俺は只悪を憎む正義ではなく、大切な人達に害なす悪を憎む正義になろう。
そう、いま山田先生を怯えさせるこいつを絶対に許さない正義へと・・・・・・
正宗と俺の心を一つにする。
『心鋼一致』
それは武者と劔冑の理想型。
劔冑の性能を百%以上引き出すことが出来る。
俺は今、正宗と一つになった。
胸の痛みも流れ出る血も気にならない。
考えることは一つのみ。
山田先生を怯えさせるこいつを殺すのみ。
俺(我)は即座に起き上がると山田先生を掴んでいる腕を掴むと・・・・・・
装甲ごと握り潰した。
『なぁっ!?』
青江が俺が動き右腕を握り潰されたことに驚く。しかし気にならない。
『俺(我)の大切な女性(ひと)に何している、貴様ぁあああぁああああああああああ!!』(正宗はそんなこと思っていない)
俺(我)はそのまま山田先生を手元にたぐり寄せると自分の背後にまわす。
『もう大丈夫ですからね、先生』
「い、一夏君・・・・・・」
安心させるために声を掛け、青江をにらみつける。
『俺(我)の大切な女性(ひと)をこのように怯えさせ害なした貴様には地獄すら生ぬるい!! 跡形も無くこの世から消滅させてくれるわぁ!!』(何度も言うが、正宗はそんなことを思っていない)
さぁ、この下衆にはこの場で地獄さえ生ぬるい目にあってもらおうか!
俺(我)はそう思いながら青江の右腕をそのまま引き千切った。
やっと一夏に告白? させることが出来ました。
無駄に長かったような気がしますね~