装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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夏休みでも一夏は多忙1

さて、結局何か分からないが掴んだ感触を噛み締めながら俺は湊斗家から帰ってきた。

だが、すぐにでも行かなくてはならない所があるので寮に戻り次第急いで出かける支度をしていた。

 

「一夏、帰ったのか! さっそく遊びに行くぞ!」

「一夏さん、よろしければこれからお出かけしませんか」

「さっさと遊びにいくわよ、私と!」

「一夏、一緒に遊びに行こうよ」

「一夏、私と一緒に訓練しませんか」

 

箒達に部屋を出ようとしたところ呼び止められた。

しかし俺はそれに構っている余裕は無い。

 

「悪い、用事があるんだ。また今度な」

 

そう言って急ぎ足で箒達に謝りつつも出口に向かっていった。

これから行くところについても千冬姉には既に報告はしてあり外出に関して何も問題はない。

その時に山田先生がいたので意識してしまい顔が熱くなってしまい千冬姉に茶化されたことは言うまでも無く恥ずかしかった。

俺は学園入り口前まで急いで行くとタクシーを呼び、急いで乗り込むと目的地を伝えるとタクシーは目的地に向かって走り始めた。

 

 

 

その日、山田 真耶の顔はふやけていた。

想い人と久々に会えたこともあるが、その彼がこれから行くところに招待されたのが純粋に嬉しいのだ。特にこれから行く招待された所は彼女にとって特別な所であり、記念すべき場所でもあるのだ。そんな所に想い人から招待されるとあっては顔がふやけない方がおかしい。

しかしこのふやけ顔もすぐに固まることになった。

時間が待ち遠しいと内心ウキウキしていたところで職員室の扉が凄い音を立てて開かれた。

そこから出てきたのは箒達五人。

凄い形相で真耶の方に詰め寄ると一斉に同じ言葉を吐き出した。

 

「「「「「一夏はどこですかっ!?」」」」」

 

彼女達はどうやら一夏が山田先生と出かけるのではないかと考えたらしく、突き詰めにきたのだ。

しかし周りを探しても一夏はいない。

 

「い、いや、その・・・・・・」

 

いきなり来てこの形相である。気の弱い真耶はこれで萎縮してしまう。

そして箒達は見つけてしまった。

デスクの上に置いてある縦置きカレンダーを。

今日の日付に赤マジックで強めにマークがされており、そこには・・・・・・

 

『一夏君の働いているお店に招待!』

 

とメモ書きがされていた。

 

「「「「「これはどういうことですか、山田先生」」」」」

 

阿修羅のような形相を浮かべ(ぱっと見微笑んでいるようにしか見えないのだが)箒達は真耶に突き付ける。

 

「いや、それは~、その~」

 

真耶は内心で冷や汗を掻きながら苦笑していた。

 

(せっかくの招待なのに・・・・・・そんなぁ~)

 

真耶が幸せな気分に浸れなくなった瞬間だった。

 

 

 

所変わってここはとある懐石料理店。

古くから続く老舗であり伝統ある店である。しかしその割に料金はピンキリでお金持ちから庶民まで、誰でも気軽に食べにこられるという少し変わったお店でもある。懐石料理以外にも和食を使ったランチメニューなども用意している。

店名を、

 

『福寿荘』

 

と言う。

地元に古くから愛されつつも遠くから好んで食べに来てくれる方もいるという凄さがある。

そして今世間では学生は夏休み、そして今の時間はお昼時・・・・・・

板場は地獄と化していた。

その地獄で俺は料理を作り続けていた。

冷房を効かせているのに暑くて汗が止まらない。お客様の方に声が行かないようにしてあるとは言え、怒声罵声があちこちから飛び交う。

しかし皆手は止まらずに常に動かしていた。

 

「龍さん、はい潮汁! 天ぷら出来てますか!」

「おう、ほらよ・・・・・・て誰だこの湯葉真薯作った奴ぅ! 作りが荒いぞ、何やってんだコラぁ!!」

「す、すみません~~~~~~~」

 

板場では常にこんな怒声が飛びかっていた。

 

「なんで今日はこんなに忙しいんですか! 前はこんなに忙しくなかったはずですよね」

 

俺は目の前で魚をさばいている職人肌の四十代手前の男、龍さんに作業しながら聞く。

 

「何でってお前のせいだろ!」

 

龍さんは半ばキレつつも答える。無論手は止まらずに魚をさばいていく。

 

「何で俺のせいになるんですか!?」

 

俺も負けじと大声で答える。手は常に動き野菜の飾り切りをしつつも汁物を作っていた。

 

「お前はもう有名人なんだよ! お前この店に入るところ人に見られただろ、そしたら『織斑 一夏が働いている店』なんてことが勝手に噂されてこんな風に繁盛してんだよ、畜生め」

 

そんな風に答えられるが、それは別に俺のせいではないと主張したい。

しかし忙しさは増していき、ついには無駄口すら叩けなくなっていった。

そして・・・・・・

お昼時が過ぎたころには・・・・・・

板場には屍しか転がってない状態になっていた。

みな完全に消耗しきっており、今すぐにでも倒れたかった。しかしまだ仕事は続いていく。

みな気を奮い立たせて作業に戻って行く。

 

「一夏、ちょっと来い」

 

さっきまで地獄のように忙しかったのに板長はまったく疲れたそぶりも見せずに俺を呼んだ。

俺は板長の所へ行くと、

 

「お前に客だ。表に出なさい」

 

と言われたので表側に向かって行ったらそこには・・・・・・

 

「ご、ごめんなさい、一夏君」

 

申し訳なさそうな顔で謝る山田先生と、何故ここにいるのかまったく分からないが、箒達がいた。

 


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