装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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もう一つ新しい話を書いたので皆さん、そちらにも目を向けてもらえると嬉しいです。


迷えば剣にそれは出る

一夏と景明がアリーナで稽古を付けている様子を皆、管制室で見ていた。

激突する藍と紅から発せられた轟音に皆肩をビクッとふるわせた。

 

「何よ、あの音!」

「凄い音だな・・・・・・もの凄い衝撃なのが窺える」

 

鈴と箒はそう感嘆と感想を洩らす。

ISの接近戦ではまず聞けない鋼鉄同士のぶつかり合いに皆背筋をふるわせた。

マイクを通して此方に音声が伝わり、一夏の裂帛の声が管制室に響く。

 

「凄い迫力だよ。ここまで気合いの入った一夏は初めてかも」

「そうだな。ここまで鬼気迫る一夏は初めてみた」

 

シャルロットとラウラも普段のとはまったく違う一夏の様子に驚きつつも見入る。

さらに稽古は熾烈を極めていき、場面は空へと変わっていく。

上空に移動した二騎は∞の軌道を描いて互いにぶつかり合っていく。

 

「何で回避しないのですか? 他にも戦いようはあるというのに・・・・・・」

 

セシリアがそう不思議そうに言う。ISを使っているものから見て目の前で行われている稽古の機動は愚直にしか見えないのかもしれない。

その疑問に千冬が答える。

千冬は臨海学校の一件から独自に劔冑のことを調べている。なので何故一夏達がこのような飛行をするのか説明出来る。

 

「これは双輪懸と言って劔冑が戦闘をするのに最も適した飛行らしい。それとな、オルコット。一夏はあれ以外の戦い方は出来ない」

「どういうことですの?」

「これは一夏から聞いた話だがな、武者は正面からぶつかり合う以外の戦闘を好まない。『後追戦(ドッグファイト)は武者の恥、猪突戦(ブルファイト)は武者の誉れ』と言う言葉が古くからあって、それを遵守しているらしい。正面からぶつかる以外の戦闘は卑怯者ととられ、武者にあるまじき行いとか」

「まさに武士道ですわね。格好いいですわ」

 

そうセシリアは言いながら稽古を見るのに集中する。

ISとの試合とはまったく違う戦い。しかしISとは比べものにならないほどに迫力があって皆目が離せなくなっていた。

そして稽古は終盤に突入。二騎はアリーナ上空でぶつかり合うとお互いに絡み合い、ぐるぐると上下を替えながら回転、落下していき地上に叩き付けられた。

凄い落下音とともに巻き上がる土煙。

落下地点は土煙で何も見えなくなってしまう。

 

「「「一夏っ!?」」」

「一夏さんっ!?」

「一夏君っ!?」

 

皆あまりの音と土煙に心配し、声を上げてしまった。

土煙が晴れると、そこには起き上がろうとする藍の武者と既に起き上がっている紅い武者がいた。

 

「「「「「「「「ほ・・・・・・」」」」」」」

 

その場にいる全員が一夏の無事を知って安心した。

そしてお互いに装甲を解除すると一夏は頭を下げ、礼をした。

 

 

 

稽古を終えて師匠達とアリーナの控え室に移動すると箒達と千冬姉達が入ってきた。

 

「凄いぞ、一夏! 劔冑の試合とはここまで迫力のあるものなのか!」

 

箒が興奮しながら先程の稽古の感想を言う。

同じ刀を振るう人間として感じるものがあったのかもしれない。

 

「先程のは試合ではなく稽古だ。それに師匠はかなり手加減をしていた」

「えっ、マジ!? さっきので手加減ってどういうことよ」

 

鈴が驚きながらも聞いてくる。少し騒がしい気がしなくもない。

 

「そのようなことはないぞ、一夏。俺は加減はしてはいない」

 

師匠は木訥とそう俺に言うが、

 

「嘘をつかないで下さい、師匠は一切陰義を使っておられないじゃないですか。磁気加速(リニアアクセル)や磁気障壁を使わなかったではありませんか。それで手加減していないというのはさすがに無理ですよ」

 

と不満を答える。

俺としては先程の稽古で不服があると言えばこの部分だろうか。

師匠の劔冑である村正さんの陰義、それは『磁気操作(磁力制御)』だ。

この陰義により師匠は騎行速度を上げたり、磁気障壁による防御壁を張ったりして戦闘する。

それが師匠のちゃんとした戦闘法であり、これらを使わないということは手加減されているということになる。

 

「確かに使いはしなかったが、技のみの純粋な稽古としてならば手加減はしていない。さすがにお前に電磁抜刀(レールガン)を使うわけにもいかんしな。それにこう言ってはお前に失礼だが、辰気加速(グラビティーアクセル)を使ったら稽古にならないだろう」

「それは、そうですが・・・・・・」

 

さすがにその二つを使ったら稽古にはならない。

どちらかでも使われたら俺は手も足も出ずに死んでしまうだろう。

 

「一夏、その(レールガン)とか(リニアアクセル)って何。ラウラのレールカノンと何か違うの?」

 

シャルが不思議そうに聞いてくる。聞いただけでは同じ発音にしか聞こえないから無理も無いか。

 

「あれ、そう言えば陰義について説明してなかったか?」

「「「「「「「陰義?」」」」」」」

 

箒達と山田先生が頭を傾げていた。俺は説明していなかったみたいだな。

 

「陰義とは、真打の中でも極一部の業物だけが備える超常能力だ。師範代の村正は重力を操り、師匠の村正さんは磁力を操るんだ。それ以外にも真打には様々な陰義をもったものがいる。その力は強大で、使い方次第で絶大な威力を発揮する。師範代の蹴りでこの学園が島一個分ずれたのはみんな知っているだろ。アレも師範代の技と二世村正の陰義が合わさった結果だ」

 

俺がそう答えると、皆は納得していた。前に師範代が暴れ回ったことで変な耐性がつき始めたようだ。

 

「それで師匠は磁力を操って普通の劔冑以上の速度で騎行が出来るんだ。それが磁気加速(リニアアクセル)。そしてその磁力を使い吸着と反発を極限まで刀に加えた斬撃のことを電磁抜刀(レールガン)というんだ。はっきり言ってラウラのレールカノンの比じゃないくらい威力が高い。劔冑を一撃で確実に破壊する威力を有し、技によっては山一つ崩壊させるものもある。そんなものを使われたら稽古のけの字もしないうちに俺が死ぬ」

 

俺の説明を受けて皆耐性がついてもやはり驚き、真打劔冑の凄さに関心していた。

 

「そういうわけで俺は稽古に手を抜いてはいない。寧ろ稽古に陰義を持ち出しては稽古にならん。そのことはお前がよく知っているだろう。不服に思うかもしれんが、我慢してくれ」

 

師匠は申し訳なさそうな顔で俺をいさめる。

さすがにここまで言わせては我慢するしかない。師匠が行っていることはもっともな事だ。どうも久々に稽古を付けてもらったことで浮かれてしまっているようだ。

 

「いえ、出過ぎた真似をしました。申し訳ありません」

「いや、いい。しかし家を離れても精進し、成長していることがわかるのは師としては嬉しいものだ」

 

師匠がどことなく誇らしげに言う。

 

「ありがとうございます」

 

俺はもう一度頭を深く下げ、礼を言う。

師匠にそう言ってもらえることは、弟子としての誉れだ。

師匠は礼を受けたあと、俺を真面目な顔で見て、

 

「しかし一夏よ・・・・・・お前は今、何か悩んではいないか?」

 

と言ってきた。

 

「えっ・・・・・・」

 

咄嗟のことに声が漏れる。何故分かった!?

 

「お前の剣は確かに成長していたが、太刀筋が少しだけ曇っていた。アレは何か悩んでいる者の剣だ」

 

師匠は俺との稽古で俺が悩んでいることを看破したようだ。

しかしこの場には悩みを聞かれたくない人がいるので俺は師匠にいうことは出来ない。

師匠は俺の様子を見て、ふむ、と何かを悟ると別に言わなくて言いと言ってくれた。

 

「一夏よ、夏休みには此方に少しは顔を出すのだろう。そのときにまだ悩みが解決していないようなら相談に乗ろう。俺に助言ができるような事ならば良いのだがな」

「いえ、ありがとうございます。そのときまでに解決出来なかったら相談させてもらいます」

 

本当に師匠には頭が上がらないと実感させられた。

村正さんは何かは知らないが、ニヤニヤと笑い山田先生の所まで行き、周りに聞かれないように小声で何かを話していた。

 

「(たぶん一夏の悩みってあなたのことよ。あの一夏の反応からみて間違いないわよ、しかも脈有りかもしれないわね、あの様子だと)」

「(え? えぇえええぇええええええええええええええ!?)」

 

山田先生がまた真っ赤になってわたわたし始める。

一体何を吹き込んだんですか、村正さん!?

 

「ではそろそろ帰るとする。より精進し邁進せよ、一夏。此方に顔を出しに来るのを楽しみにしているぞ」

「はい、師匠。より精進を心がけ、頑張ります」

 

師匠の激励に真摯に答える。

師匠は俺にそう言うとみんなの方を向き、別れの挨拶をする。

 

「それでは皆様、ここで私共はお暇させて頂きます。本日はありがとうございました。では失礼いたします」

「さようなら」

 

皆に別れを言い、師匠を見送るために俺は控え室で皆と別れ、師匠をゲートまで案内していった。

当然帰りの交通費を渡して。

しかし・・・・・・師匠に看破されてしまうというのは相当悩んでいると言うことなのだろうか・・・・・・もの凄く恥ずかしいな。

夏休みに入る前に問題を解決したいところだが、たぶん無理だろう。

俺はそう考えながら師匠を見送った。

 

 


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