「ちょっとよろしくて」
そんな妙に気取った声が掛けられて俺は頭を上げた。
そこにいたのは金髪で縦ロールをした、まさに『お嬢様』。
たしか名前はセシリア・オルコットと言ったか?イギリスの代表候補生だったはずだ。
「何か用か?」
「まぁ、何て気品が無いお返事なの!?」
ワザとらしく驚くセシリア。別に返事に誠意はあっても気品というものがあるかどうか?少なくとも俺に関しては気品というのは無縁だ。何せ武者だからな。
「それで・・・俺に何の用だ?こんなやり取りをするために話しかけた訳では無いだろ」
「・・・・・・えぇ、そうですわ。私は『この世界に喧嘩を売った愚か者』がどんなものか見てみたいと思って話しかけたのですわ」
俺の答えにオルコットは気にくわないらしい。額に青筋を浮かべていた。顔がなまじ美しい娘なだけに、怒った顔が尚、壮絶に怖い。
「それで、どうだい。お眼鏡にかなったか?少なくともあんた程度の眼鏡じゃ、俺を計れるとは思えないけどな」
「な、何ですって!?」
お~お~、さらに怒って顔が真っ赤。湯が沸かせるほどになったな。
言い方は礼節に欠けると思うが、俺はこの言を引っ込める気はない。誠意には誠意を、敬意には敬意を持って接するのは当たり前のことだと思う。師匠に言わせれば、『未熟者』なのだろう。でもこのことは師匠にも譲る気は無い。
「あ、あなたはっ!?『キーン コーン カーン コーン』」
何か言おうとしたらしいが、授業ベルで妨害されたために、口をつぐむ。
「ほら、授業だ。早くつかないとあの『おっかない』先生に叱られるぞ」
俺はそう言って後ろに指を指す。そこには朝のやり取りで刺さったままの出席簿がそのままになっている。抜こうとしても抜けないらしく、そのロッカーの主が涙目になっていたことは言うまでも無い・・・・・・・・・ご愁傷様。
「チッ!」
舌打ちして俺から離れるオルコット。
そちらの行為も品が無いと思うのだが・・・・・・
「ではこの時間はクラス代表を決めることにする」
教壇で千冬姉はそう威厳を込めて言う。
こうして立派な姿を見るとは・・・・・・身内として安心するというものだ。これが私生活でも発揮されていれば実家があんなことになるわけがないので、私生活でも頑張ってもらいたいものだ。
「何か言ったか、織斑」
「いえ、何でもありません。話の続きを」
あまりくだらない考えをしていると読まれてしまうようだ。まだまだ未熟だ、修行が足りん。
気を取り直して説明し始める千冬姉。
「クラス代表は学級委員みたいなものだ。学校行事のまとめ役をしたり、クラスを代表して戦ったりと……まぁ、クラスの顔だな」
学校である以上、クラスのまとめ役は必須だ。IS学園であろうとも、そういうことは変わらないらしい。
「自薦、他薦は問わない。誰かいないのか」
そうは言うが、誰もやりたがらないだろう。
ただの学級委員ならそこまで苦にならないから問題にはならないが、IS学園では代表戦やらと戦う行事が多くある。クラスの看板をしょっている以上、そのプレッシャーはかなりのものだろう。
「私は、織斑君を推薦します」
「あ、なら私も」
あれ?何故そうなる?この話に俺が関わるとは思っていなかったんだが。
「ちょっと待って下さい! 何故彼が推薦されるのですか!? 彼はISをもって無いじゃありませんか」
オルコットが耐えられなかったらしく、席から立ち上がって抗議をあげる。
それには俺も少なからず賛成だ。俺はISではなく劔冑を使う。仮にもクラスの代表がISアンチでは、クラス全員がそうとられてもおかしくない。IS学園でそれはまずくないか?
「それについては補足を話す。織斑は日本政府の命で、戦闘をする行事には全部強制参加だ。ならばクラス代表戦なども当然参加と言うわけだ・・・・・・代表にならなくてもな。そういった行事に参加することができる以上、クラス代表になっても問題は無いと言うわけだ」
ちょっとまて!? 俺はそんな話は聞いていない。
となると・・・・・・あの教授の差し金かっ!?あのミスターパンツマンめっ!!
「納得がいきませんわっ!! 何故イギリス代表候補生である私ではなく、ISを使えないで訳のわからない不気味なものを使う彼なのですか!?」
「だって面白そうじゃない」
「このクラスだけの特性だし」
そう言って俺をごり押しするクラスメイトたち。中には『いやなら自分が立候補すればいいじゃない』なんて言い出す女の子もいた。
「そのような選出は認められませんわ! そんなわけのわからない不気味な男がクラス代表なんて、このIS学園での良い恥じさらしですわ。私はにそんな屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」
俺もセシリアの言い分は理解できる。でもそこまで屈辱でもないと思うが。
「実力からすればこのわたくしがなるのが必然。それを物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!大体! 文化として後進的な国で暮らさなければ行けないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で―――」
「ちょっといいだろうか」
さすがにコレは言い過ぎだ。
「劔冑のことや俺への誹謗中傷は結構。だが、この国への侮辱はやめていただこうか。君は国に所属する代表候補生だろ。その重みが分からないはずがない。今の言は国際問題に発展する発言だ、取り下げていただこうか」
俺がそう言うと、オルコットは、ぐぬぬ、と顔をしかめた。
少しは俺の発言で頭が冷めたらしい。しかし納得はしていない、そんな顔だ。
「ならば・・・決闘ですわ!!」
言うに事欠いてそれか・・・・・・だが嫌いじゃ無い。
「ああ、いいだろう」
「負けたらあなたを私の小間使い・・・・・・いえ、奴隷にしますわっ!!」
「お、おう?」
何故そうなるっ!?
「お前たちで勝手に決めるな。しかし自薦も推薦も、もうないようだしな。よし、では来週の月曜日に第三アリーナで決闘を行う。構わないか」
勝手に教師抜きで話を進めたのは良くなかった。反省反省。
「わかりましたわ」
「わかった」
「よし、なら授業を始めるぞ」
こうして俺、織斑 一夏はセシリア・オルコットと決闘することになった。