師範代が起こした騒動から一週間が過ぎ、周りはそろそろ夏休みが近いと賑わっていた。
あの騒動で学んだことは特になく、俺はせいぜい疲れただけだ。(師範代との手合わせは一方的過ぎて修行になりづらい)
皆が逸る中、俺一人だけはあまり気が浮かない。
理由は前と同じ、山田先生のことである。
告白を受けてから既に三週間くらい経っている。さすがに女性を待たせるのは如何なものかと思うが、自身の気持ちがはっきり分からない以上ちゃんとした答えを言えない気がする。きっと山田先生は優しいから待っていてくれるに違いない。しかし、
そこまで待たしていて良い訳がないのだ!
自分のことを慕って告白してくれた女性を待たせるのは男としてどうなのか、そんなのは男として良いわけが無い・・・・・・最低な男だ。
だからこれ以上待たせるわけには行かない。少なくとも八月になる前には答えようと思う。
そんな思考に耽っている俺に何やら騒がしい声が聞こえてくる。
「今学園入り口前に不審者が出たんだって!」
「二十代くらいの男性で今も入り口前で警備員の人ともめてるとか。未だに捕まってないんだって」
この学園に不審者が来ることは珍しくない。
ISがある以上、それが盗まれる危険性はある。それを狙ってくる輩は少なくない。
世界にあるISのコアが決まった数しか無く、作れない以上秘密裏に盗みだそうと考える組織も数多くあるのだ。また、ISで無くてもいろいろある。
基本的、IS学園に通う生徒は裕福な家庭の子女が多く、誘拐でもすればそれなりの身の代金を要求する事が出来る。そう言った恥知らずもいる。
そして・・・・・・不審者でたぶんこれが一番多いのだが、IS学園に通う女子は容姿が端麗な子が多い。
そこいらのアイドルより綺麗な子もいるのだ。そういった子には隠れてファンをしている者もいるらしく、それは行きすぎればストーカーや変質者へと変わる。
それらに対抗するために、IS学園の警備員は結構な手練れ揃いになっている。
それが未だに取り押さえられて無いというのはどういうことだろうか? 少なくともただ者ではないな。
「まだ取り押さえられてないんだって! どれだけ凶暴なの!」
「いや、それが別に暴れてるわけじゃないんだって。何でも凄い丁寧な言葉使いで話すみたいなんだけど、すっごい不気味だからって止められてるみたい」
凄い丁寧な言葉使いに不気味? 何か身に覚えがあるな。
俺は気になって急いで入り口前に走った。
もしかしたら・・・・・・あの人が来たのかもしれない。
そして入り口に着いた俺が見たものは、
闇だった。
まだ昼間だというのにそこだけが夜のように真っ暗になった感じを受ける。
別に実際に暗いわけではないのだが、そこだけが闇夜のように暗く見えるのだ。
そしてそう感じさせる原因はそこに経っている男だ。
二十代後半くらいの年齢で高い身長、服装は普通にスーツのはずなのだがその男の放つ、
『雰囲気』
のせいで真っ黒く感じる。
まるで闇を凝縮したようなその人物を俺は知っていた。
向こうは真面目に丁寧な言葉使いで警備員の説得を試みようとしていたが、警備員は聞く耳を持たない。
「もう一度言います。この学園に通う織斑 一夏という生徒にようがあるのですが」
「だから何度も行っているだろうが! 許可証も無いのに入れるわけにはいかないと!」
警備員の言っていることは分かるのだが、ならば茶々丸さんや師範代の侵入にもちゃんと対応してもらいたいものだ。
俺はその場に近づくと警備員に話かける。
「その人は俺の知り合いです。身元も証明出来ますから入れてあげてもらえませんか」
そうお願いして何とかその人をIS学園に入れてもらった。
「久しいな、一夏。助かったぞ」
「お久しぶりです、『師匠』」
そう、この闇を凝縮したかのような暗い雰囲気を放つお人が俺の師匠、
『湊斗 景明』
である。