気をつけないといけないですね。
「うむ、話も大体済んだようだな!」
向こうの一夏が頭を抱えて困っている姿を見て師範代はそう思ったらしく、俺達の側まで歩いてきた。未だ装甲したままである。
「うわぁ、何だこれ!?」
向こうの一夏は師範代の姿を見て驚いていた。
俺はこれが劔冑を装甲した武者なのだと説明する。
「師範代、ちゃんと挨拶して下さい。それと装甲も解除して下さいよ」
「むぅ・・・・・・面倒臭いな」
「礼節です、礼節!」
「ぐぅ、わかったからそこまできつく言うな」
俺にきつく言われしぶしぶ装甲を解除し向こうの一夏に師範代は挨拶をする。
「うむ、こっちの一夏には初めましてだな! 光の名は湊斗 光だ、よろしく頼む!」
「あ、こちらこそ」
向こうの一夏はそう返すと俺の方に向き小声で聞いてくる。
「なぁ、この子って何なんだ? さっきからお前がやけに敬意を払っているみたいだし・・・・・・」
「この人は俺の学んだ武術の師範代だ。最低限の敬意を払うのは当然のことだ。これで常識を学んでいるのならもうちょっとは尊敬できるのだがな・・・」
ため息を付きながら俺はそう答える。
俺の反応を見て何か思うところがあったのか、向こうの一夏も同情してくれた。
「うむ、仲良きことは美しきかな!」
師範代は俺達を見てそう言っていた。
今の話題は師範代のせいによる苦労話だというのに・・・・・・
「よし・・・・・・では早速やろうか!」
師範代はそう言い放つと構え始めた。
「「はぁ?」」
二人で同時に聞き返してしまった。
「何を惚けているいるのだ! 手合わせしようではないか!」
師範代がまた何か言い始めた。
俺は手で向こうの一夏の方を指してみる。
「うむ、そうだ! そっちの一夏と戦ってみたい! さっき聞いててISを使うみたいだからな!」
師範代はそうだと言わんばかりにうなずく。
「へ、そうなのか? だったら別に「絶対駄目だ!」何でだ?」
向こうの一夏が平然と受けようとするのを俺は瞬時に釘を刺して止める。
「師範代と戦ったらお前のISは大破じゃすまなくなるからだ」
俺は真面目にそう言い聞かせ師範代に説教をし始める。
「何度言ったら分かりますか! 師範代がISと戦ったら三秒でジャンクに早変わりしますよ! ただでさえ手加減が下手なのですから。師範代は壊して責任がとれるわけでは無いのですから、そういったことはもう少し自重してして下さい。それが出来ないから師匠が・・・・・・・・・」
「だぁぁああああ、分かった! 分かったからそこまでいうな、そこまで言われるとさすがに光の繊細な乙女心が傷付くでは無いか」
「繊細な乙女心をもっている乙女が天下無双の強さを誇っているわけないじゃないですか」
そう返すと、ぐぅぅぅうううううううう、と唸っていた。
「そこまで言うのなら光は仕方ないから今回は「次回も何もありませんからね!」・・・・・・ケチめ。ならばお前達が手合わせしろ」
なんとまぁ無茶な要望を突き付けてきた。
しかし俺も自分と戦うのは面白いと思い受けようと思ったのだが、
「織斑、もう一人の織斑と戦うことは許さんぞ」
と止められた。
何故かと理由を聞くと・・・・・・
「お前もあの小娘とあまり変わらんな。お前が今まで戦ってきた試合を思い出せ」
と返されたので思い出してみる。
そこまで問題になるような事などなかったと思うが・・・・・・
「クラス代表決定戦でオルコットのISを中破させ、あの黒い無人機に至ってはほとんど解析不能なまでに粉砕、ボーデヴィッヒとの戦いでISを大破まで追い込んだことを忘れたとは言わせんぞ」
言われて見れば確かに俺も師範代の事を言えないような戦績だった。
「しかしあれは本気でくる相手に失礼が無いようこちらもそれに応じていたわけで」
「確かにお前の性格なら真面目にそう言うことは分かっている。しかし事実としてお前はISを破壊しすぎだ。他の奴なら問題は無いが、向こうの織斑の機体のデータが無い以上下手に壊されると直せないかもしれん」
成程・・・確かに言われて見ればそうだ。
未知のISである以上、下手に壊した場合直せない可能性もある。
俺はそれを失念していた。
「と言うわけで模擬戦は無理です、諦めて下さい」
そう師範代に伝えると、仕方ないか、と肩を落としていた。そこまでこの人はISと劔冑の戦いを見たかったのか。
俺達がそう話していると、向こうの一夏が俺に話かけてきた。
「そこまで強いんだったら、俺の戦い方を少し見てくれないか?」
そう言われ理由を聞くと、向こうの一夏のISは第二形態に移行してより性能が向上したのに、向こうの箒達との戦績ではビリに近いらしい。本人は少しでも強くなろうと努力しているが、それでも追いつけなくて焦っているようだ。
俺は箒に頼み向こうの一夏と模擬戦をしてもらうことにした。
『試合終了、織斑 一夏の勝利!』
試合終了のアナウンスが鳴り響き、お互いアリーナに着地する。
向こうの一夏の使っているISは真っ白な機体だった。
名を白式・雪羅という機体で大きな翼が特徴的だ。武装は刀のような形をし、変形してレーザーブレードにもなる雪片二型と左腕の複合兵装、雪羅の二つである。向こうの一夏はこれらを使い雪片二型で斬り付け、雪羅に搭載されている荷電粒子砲で箒の紅椿を追い詰めていった。
また、その大きな翼による高速移動(ダブルイグニッションブースト)には目を見張った。
何より、白式のワンオフアビリティー『零落白夜』は皆が驚かされたものだ。
雪片といい零落白夜の特質といい、この機体は千冬姉の昔使っていた暮桜を思い出させるな。
千冬姉と山田先生は未知の機体から得られるデータに驚愕していた。
「どうだった」
向こうの俺はそう俺に聞いてくる。
「ISでの戦闘ってのは少ししか分からないからな・・・・・・何とも言えない。しかし武者としてならアドバイスくらいは出来るぞ」
「本当か!? 教えてくれ!」
向こうの一夏は目を輝かせながら聞いてくる。少し顔が近いぞ。
「と言っても口で説明するのは分かりづらいかもしれない。実際やってみたほうが分かるかも知れないな」
俺はそう答えると正宗を呼び出す。
「来い、正宗」
『応』
声とともに俺達の前へと飛び出す正宗。
「へぇ~、これが劔冑なんだ。装着する前は初めて見るな」
「ああ、これが俺の劔冑、相州五郎入道正宗だ」
『よろしく頼む、向こうの世界の織斑 一夏よ』
「うわ、喋った!?」
向こうの一夏は正宗が喋るのを見て驚く。俺はそのことについても講釈をたれ、そのたびに向こうの一夏は劔冑って凄いんだな、と関心していた。
「正宗さんはどっちがこっちの一夏君か分かるんですか?」
山田先生が不思議そうに聞くと、正宗は当たり前に答える。
『ふん、当たり前だ! 劔冑とその仕手は帯刀の儀で繋がっておる。そうでなくとも正義を成す御堂を我が見間違えるはずがなかろうが!』
そう自信満々に答える正宗に山田先生は、負けません、と何故か対抗意識を燃やしていた。
しかし喋っているわけにもいかないので早速装甲する。
『世に鬼あれば鬼を断つ 世に悪あれば悪を断つ ツルギの理ここに在り』
装甲した俺を見て向こうの一夏は、藍色で渋いな、と呟いていた。
俺は早速斬馬刀を引き抜くと構え始める。
「その雪片でどこからでも仕掛けてみてくれ」
「いいのか? 危ないぞ」
「たぶん平気だ、頼む」
「わかった・・・・・・それじゃいくぜ。うぉおおおおおおおおおおお!!」
そう咆吼を上げながら雪片で俺に斬りかかってくる。
しかし俺はその斬撃のすべてを受け止め、流す。
それが三分ほど続く。
未だに俺は一撃も入れられていない。向こうの一夏少し息が上がっていた。
「どうして俺に一撃も加えられないと思う?」
「へ? 劔冑の性能じゃないのか」
「そこはあまり関係ないな。単純に言うと、お前の斬撃は軽い」
「どういうことだ、それ?」
「ISの性質上仕方ないのかもしれないが、刀に力があまり乗せられていない。地に足を付けていなくても、ちゃんとした姿勢から放たれる一撃にはそれ相応の重さが乗る。しかしそれがなされてないということは、刀を振る姿勢が出来てないことに他ならない。また、片腕だけで振るうから威力も半減しているみたいだ。前に鈴と戦ったことはあるか?」
「あるけど、それがどうしたんだ?」
「その時、パワーで押し負けなかったか」
「確かに押し負けた。どうして分かったんだ!?」
「さっき言った通りだ。ちゃんとした姿勢から放たれる刀には力が乗る。それが出来ていれば鈴のISのパワーにも勝てるはずだからな」
俺がそう言うと、向こうの一夏は成程、と関心しながら納得していた。
「それに片腕だけで振るから斬線が乱れすぎている。刀は真っ直ぐ振らないとその真価を発揮しない武器だ。お前は雪片を刀として認識はしているが、刀として分かっては振っていない。それが分かれば自然と斬線も綺麗になっていく」
「むぅ・・・・・・向こうでは聞けないような話ばかりで感心してばかりだ。それじゃあ俺は両腕で雪片を振った方がいいのか?」
「いや、その左腕じゃあちゃんとは持てないだろう。そうだな・・・・・・アドバイスとしては二刀流の訓練を積んだ方がいいかもしれない」
「何でだ?」
「あれは言わば、片手で刀を一本ずつ操る流派だからだ。二刀にならなくても片手で一本操るのは同じだからな。訓練すれば片手で雪片を振っても力が乗るようになると思う。そうすれば接近戦はより強くなると思うぞ」
「そうか、分かった! ありがとうな」
そうしてお互いISと装甲を解除した。
「いやぁ、助かったよ。これでもうちょっと強くなれると思う」
「あとは修練次第だ。精進すればきっと今までより強くなれるはずだ」
向こうの一夏は俺にお礼を言うが、俺はさして何かしたわけではないので少し困る。
「あ、そろそろ戻らないと不味いかも」
そう向こうの一夏が言い始めた。言われて時間を見てみると、そろそろ五時になりそうだ。
「確かにそろそろ帰った方がいいな」
俺もそう思い師範代に返すようお願いしようとしたが、山田先生に止められた。
「その前に写真でも撮りましょう。こんなことなんて滅多にないですから」
そう朗らかに山田先生は言うが、それはまずいのではないか? 世界線がどうのこうのタイムパラドックスがどうのこうのと・・・・・・
「別によいではないか! そのようなことを気にしていても仕方ない」
俺の考えを読んだのか、師範代が先んじてそう堂々と言う。
まぁ、この人なら何があっても武力でねじ伏せそうだから、あまり問題でも無いのかもしれないが・・・
師範代がそう言うと皆が賛同し、アリーナで俺達と師範代にご母堂、箒達にそれと千冬姉と山田先生が並ぶ。カメラはタイマーに設定し、シャッターは正宗にやらせた。
正宗は文句を言ってはいたが、スイッチを押すと同時に俺達の間に滑り込んできた。
箒達は誰が俺の隣に立つのかとギャアギャア騒いでいたが千冬姉に一喝されて静かになり、俺の隣には山田先生が立つことになった。
山田先生が顔を赤らめつつも此方に微笑み、俺の左手を皆にばれないようにして握ってきた。
そのことに俺も顔が紅くなり心拍数が上がってしまう。
向こうの俺はそんな俺の様子を見て、どうかしたか? と不思議そうに聞いてきたが、何でも無いと返す。こんな時に向こうの一夏の唐変木が有り難く思った。さっきから嫌な視線を背中に感じて仕方ない。
そしてシャッター音がなり、写真がすぐプリントされる。
「こうして見るとやっぱり変な感じだな」
「そうだな、不思議で仕方ないよ、本当」
お互いにそう言いながら笑いあった。
そして師範代にお願いして、またあの技を出してもらう。
「それじゃ、俺行くよ。あっちに戻ってもこっちのことは忘れない」
「ああ、俺も今日のことは忘れない。お互い頑張ろう」
「おうっ、頑張ろう」
「じゃあな」「ではさらばだ」
そう別れの挨拶をすると向こうの一夏は黒い何かに歩いて行く。
「何をもたもたしているのだ! 男ならばしゃっきりと別れんか、てりゃぁあああああああ!」
師範代は向こうの一夏にそう言うと襟首を掴んで黒い何かに向かってぶん投げた。
「うわぁああぁああああああぁああああああぁああああああ!!」
向こうの一夏はそう悲鳴を上げながら黒い何かに吸い込まれていき、そして黒い何かは消失した。
「・・・・・・・・・・・・・・・て、何感動の別れを台無しにしてるんですかっ!?」
「何だかもたもたしていたからな! つい苛ついたのだ!」
どや顔でそう言う師範代。
この人は本当に空気読まないな。
その後当然お説教したが、まったく反省していなかった。
「ふむ、そろそろ光も帰るとするか! では一夏、より精進して強くなれ! ではさらばだ!」
そう師範代は別れを言って飛び立とうとする。
「師範代、ちょっと待って下さい」
「何だ、一夏! 光はもう帰る気満々なのだが」
「その前に・・・・・・『IS学園を元の位置に戻して下さい』」
「「「「「「「えっ?」」」」」」」
俺の言ったことにみんなが?を浮かべる。
「最初来たときの技でIS学園が島一つ分横にずれてます。直してもらわないと皆が困りますので直してから帰って下さい」
「む、そう言えばそうだったな! では直すとするか」
そう言って師範代は上空へと飛翔する。
「みんな、危ないからアリーナから離れるぞ」
「「「「「「「何で?」」」」」」」
「危ないからだ・・・・・・」
俺は皆にそう言い聞かせアリーナから出る。
そろそろ来るはずだ。
『む、そろそろだな。では、『吉野御流合戦礼法「月欠」が崩し、天座失墜・小彗星ッ!!』(ずれを直すためかなり手加減)
アリーナに向かってまた銀の星は落ち、IS学園はとてつもない揺れと轟音に包まれた。
「これでたぶん戻ったはずだ! ではこんどこそ光は帰るぞ、さらばだ!!」
そう師範代は金打声で大きく言うと、また空へと戻って行った。
「て師範代、穴も埋めてってくださいよぉぉおおおおおおおおお!!」
アリーナはまた来たときと同じサイズのクレーターが出来ており、俺は責任を持って一人で埋めるはめにあった。
その後俺の言ったことを千冬姉に聞かれたので前にあった江ノ島の件を伝えると驚き、信じられないらしいので師範代が来てからのIS学園の位置を調べた。
やはりというべきか、IS学園は島一個分移動していた。
皆それを知って驚きに固まり、劔冑がいかに非常識かを改めて思い知らされた。
向こうへと戻った織斑 一夏はこの時の教訓を活かし、二刀流を学んでより強くなり箒達の中で一番強くなったとか・・・・・・
なんだかんだで山田先生がちょっと頑張ってます。
ゲームで山田先生攻略出来ないかな~なんて思ってしまったりしてします。