「「「「「「え・・・・・・えぇええええええぇえええええええええええええええええっ!?」」」」」」
突然現れた織斑 一夏にその場にいたみんなが驚きの声を上げていた。
何せいきなり何も無いところから人が出てきたのだから当たり前である。しかも、自分たちが知っている人物と姿形、声までも同じ人物が現れたのだからそれは驚くことだろう。何せ・・・・・・
この場に織斑 一夏は『二人』いるのだから・・・・・・
俺は目の前の事態に言葉を失う。
「痛てて・・・何なんだ、一体?」
現れた織斑 一夏はそう言いながら周りを目で確認し、俺と目が合った。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
お互いに無言。少ししてから向こうの織斑 一夏は現状を飲み込んだ。
「な、何で俺がもう一人いるんだよっ!?」
目の前に自分がもう一人いれば誰だって驚く。正直俺も驚きたいが、全員それでは話が進まない。
「・・・・・・これはどういうことですか、師範代?」
俺は動揺から首をギシギシ鳴らしながら師範代に問う。
「あっはっはっは! 驚いただろう!」
師範代は俺の反応を見ていたずらが成功したかのように誇らしげに笑っていた。
「辰気を使って空間を歪め、えぇ~と、『へいこうせかい』だったか。そこの一夏を連れてきたのだ!」
それを聞いては何も言えなくなってしまう。
普通に考えても無理なことを可能としてしまう師範代は何をやってもおかしくない。前に師匠の女性の好みを調べると言って辰気操作で師匠の夢をいじくり回したこともあったか・・・・・・本当に何が何やら、滅茶苦茶過ぎて何も言えない。
どうやったら重力制御が人の夢に干渉するのか・・・・・・まったくわからない。
それ以降、この人は何をやっても本当におかしくないと俺は思っている。
なのでこんな事態になっても、この人だからおかしくないと納得してしまう。
「これは元に戻せるのですか?」
師範代を咎めるように質問する。
この事態が元に戻せなければ俺もあっちもお互い困ったことになる。
「もちろんだ! 元の『へいこうせかい』に放り込めば良いだけだからな! 一夏は心配性だな」
「こんな事態になって心配しない方がおかしいです! 師範代はもっと常識を学ぶべきだと俺はおもいますよ!」
取りあえずは何とかなるらしい。
俺は未だに混乱の渦中にある向こうの一夏に近づき、頭を下げる。
「まず、このような事態になってしまったこと、実に申し訳無い。事情を説明させて頂きたいが、よろしいだろうか?」
「え!? あ、ああ、こちらこそすみません。お願いします」
向こうの一夏は俺の対応に驚きつい敬語になっていた。
俺はここが平行世界であることと師範代のせいでこうなったことを簡潔に説明した。
こういうことは下手に小難しく説明するより簡素に要点を押さえて説明した方がわかりやすいからだ。
というかどうやって平行世界に干渉したのかなんて、師範代しかわかりそうにないが。
説明を終えるころには向こうの一夏はある程度落ち着いたらしく、周りを見てこの世界の感想を洩らしていた。
「へぇ~、ここが平行世界ってやつなのか~。でも見た感じ何も変わってないな」
「平行世界と言うやつは、いわゆる『もしも○○をする、しない世界』というものですから。世界の根本はあまり変わらないのだと思われます」
「そうなんだ。あ、別に俺に敬語はいいよ。自分に敬語を言われるってのはまた可笑しな感じだな」
そう言われたので俺も敬語をやめる。相手に師範代のせいとはいえ失礼を働いてしまったため、丁寧な対応を心がけていたのだが、そう言われてはやめたほうが良いこともある。この年齢(見た感じ同い年)の人間の場合尚更だ。
「それでは・・・・・・これで良いだろうか」
「ああ、それでいいと思う。しっかし目の前に自分がいて話しかけられるってのは変な感じだ」
「それはそうだな、こんな経験をしたことがある人間など稀だろう。俺も驚きを隠せないよ」
話していたら自然と打ち解けて普通に話せるようになってきた。
向こうの人柄は実に好青年ですがすがしい人間だった。話していて中々に面白い。
「い、一夏君? これは一体どういうことなんですか?」
「一夏、説明しろ!?」
「一夏さん、これは何なんですの!?」
「どういうことよ、一夏!?」
「一夏が二人!?」
「どうなってるんでしょうか、一夏?」
それまで驚愕して固まっていた箒達と山田先生が俺達を囲むようにして問い詰めてきた。千冬姉は聞きたそうだが皆の手前もあって自重しているようだ。
俺は皆の前で向こうの俺を紹介する。
「此方、平行世界の織斑 一夏だ。何故こんな事になったかと言えば・・・・・・師範代のせいだ。詳しくは聞かないでくれ、俺では説明出来ん。事態は収拾出来るらしいので、そこまで心配はするな」
「ああ、え~と、織斑 一夏です? 何かこうして箒達に挨拶するのも変な感じだな」
そう向こうの一夏は頬を掻きながら恥ずかしそうにしていた。
「へぇ~、そうなんですか。一夏君が二人もいるとへんな感じですね」
「こうして話してみないとどっちがどっちだか分からなくなるな」
「そうですわね」
「区別が付きづらいわね」
「そうだね。見た感じは分かりづらいかも」
「どちらがこっちの一夏かわからないと困ります」
六人とも俺達を見てそう反応する。
「何でラウラは敬語なんだ?」
「すまん、やめるよう言ってはいるのだが聞かなくてな。もう諦めてるから聞き流してやってくれ」
「そ、そうか(こっちのラウラは何があったんだ!?)」
向こうの一夏はラウラの反応を見て何か思うところがあるらしい。向こうのラウラはこっちとは違うらしい。
「しかし話してみると分かると言っていたが、具体的にはどう違うんだ?」
俺はそう不思議に思いながら皆に聞く。そこまで違いはないと思うのだが?
「「「「「「こっちの方が落ち着きすぎ」」」」」」
と皆口をそろえて応えてきた。
「向こうは何というか、年相応な感じがする」
「少し能天気な感じがしますわ」
「こっちはジジクサイ」
「こっちの一夏は言葉使いがちょっと固いから」
「あちらのほうが弱そうな感じがします」
と箒達が言う。
俺はそこまでジジクサイないぞ、鈴! それにシャル、俺の言葉使いは武者になって定着してしまったものだから固いと言われても困る。昔は向こうの一夏のように話していたはずだ、たぶん。そしてセシリアとラウラ、二人とも失礼だぞ。
「こちらの一夏君のほうがしっかりして格好いいですよ。あっちの一夏君は男の子って感じですけど、こっちは漢って感じで頼りがいがありますし」
山田先生は頬を紅く染めながらそう言ってきた。
俺は嬉しくもあり、恥ずかしくもあり・・・・・・赤面してしまった。改めて告白されたことを実感してしまう。
俺の反応を見て箒達五人がジト目で睨んできた。俺としては何とも言いがたい。
「確かに俺もそう思った。こっちの俺って何て言うか、古くて渋い感じがする」
向こうの俺にすらそう思われてしまったことに若干ながらショックを受けた。
「俺はそこまで年寄りくさいのだろうか・・・・・・」
「そこまで気にしなくてもいいんじゃないか?」
そう向こうの俺は言うが、気になるものは気になってしまう。
「そう言えば、具体的には此方の一夏と向こうの一夏は何が違うんだ?」
「そうですわね。見た感じからして同じですし」
「IS学園の制服を着てるってことはIS学園に通ってるってことよね」
確かにそれは俺も気になった。
向こうの一夏はIS学園の制服を着ているのだから、学園に通っているのだろう。つまりISがある世界だということ。しかしISは女性しか動かせないもの故、男である向こうの俺が行く道理は無い。なら何故この制服を着ているのか?
「ああ、俺は向こうでIS学園に通ってたんだ。初の男性操縦者としてな。理由は知らないけど何故か俺だけISを起動出来て、仕方なく」
「へぇ~、男でISを動かせる人っていたんだ~」
「もしかして此方の一夏も起動出来るのではないですか?」
どうやら向こうの一夏はISを起動させ操縦できるらしい。
その経緯などを聞いたら鈴に馬鹿にされていた。
俺は試したことが無いので起動出来るかはわからんな。仮に起動出来たとしても使う気などさらさら起きない、俺は武者だからな。
「こっちの俺もISを動かせるから入ったんじゃないのか?」
「いや・・・・・・俺は別の理由で入ったんだ」
俺は向こうの一夏に俺がこの学園に入った理由を説明すると、向こうの一夏は俺を凄いと褒め称えた。
「まさか女尊男卑の世に喧嘩を売るなんて、こっちの俺は過激なんだな」
「あくまで喧嘩を売ったのは政府の劔冑推進派だ。と言っても総理と天皇だから日本政府そのものと言っても過言はないが。俺は一武者に過ぎないよ」
「そう謙遜することでもないと思うけどな。さっき話に出た劔冑って何なんだ?」
そう聞かれたので説明すると向こうの一夏は驚きまくっていた。
「そんなものがあるのか、この世界! さすが平行世界、違うところは凄く違うんだな」
「そこまで驚くことか? 俺は向こうの俺がISを動かせる方が驚きだ」
向こうの一夏はそう言うと、何か思いつくところがあったのか俺にしか聞こえないような声で聞いてきた。
「こっちの箒達って、やっぱりすぐ怒ったりするのか?」
「どういうことだ、それは?」
詳しく話を聞いてみると、どうやら向こうでは箒達はすぐ機嫌が悪くなったり怒ったりしてISを展開して向こうの一夏を追いかけ回したりするらしい。
「むぅ・・・・・・此方はそんなことは無いと思うが、随分とそっちの箒達は凶暴なのだな。しかし主観だけでは判断がつかんこともある。箒達にもこの話を聞いてみてはどうだ? 第三者からの意見は重要だ」
俺のアドバイスを聞いて箒達にも同じ話をする向こうの一夏。
すると・・・・・・
「成程・・・・・・たしかにコレならば追いかけ回されてもしかたないな」
「確かにこれは酷すぎますわ・・・」
「こっちの一夏がこんなんじゃなくて本当によかったわ」
「僕も同感かな。ちょっとそれは・・・・・・」
「向こうの私は随分とアグレッシブなのだな」
と呆れ返られた。
「そこまで酷評されるということは、相当なことなのだろう。何がそこまで酷いんだ?」
俺がそう聞くと皆言いづらそうにし、遠回しに説明し始めた。
「まず気配りがなってない!」
「話の真意を理解しそこねていますわ!」
「女の子への誠意がなってないわよ!」
「向こうの僕たちが気の毒だよ」
「信念がないからですね」
と遠回しながらにきつい答えが返ってきた。
向こうの一夏はあまり分からないらしく頭をひねっていた。
成程、皆の反応を見て納得した。
向こうの一夏は、俺以上に・・・・・・朴念仁らしい。
そう分かると少しだけイラッとしてくる。
俺はいま山田先生の件で悪戦苦闘して葛藤しているというのに、向こうの一夏はそんなことがまったくないのだから。
だから俺も遠回し的な答えを向こうの一夏に言ってやった。
「お前はもう少し人、とりわけ女の子について知るべきだ。それを理解できない限り、一生箒達に追いかけ回されることだろうよ」
そう言われ、向こうの一夏は頭を抱えていた。
原作一夏はもうちょっと芯のある主人公してほしいです。