装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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師範代は目が離せない

「うむ、前より幾分も腕を上げたな、一夏! まぁまぁだった」

 

師範代はそう上機嫌で満足そうにしていた。

 

「それは・・・・・・ありがとうございます」

 

俺は装甲を解除して地面に横たわりながらそう応えた。さすがに失礼ではあると思うが、体が痛くて動かないのだ。

 

「正宗、俺の体の状態は? 滅茶苦茶に痛いのだが」

『全身強打による打ち身が百カ所以上、それに全身が内出血を起こして腫れ上がっておる。また、あばらが三本折れ、二本ヒビが入っておるわ』

「通りでここまで痛いわけだ。治るのにどれくらいかかる?」

『一時間もあれば十分だ』

「そうか」

 

俺は体の状態を確認して起き上がる。

それまでみんなは俺と師範代の手合わせを見て、ポカンとしていた。

初めて生で見る武者同士の戦いということもあったが、それまで圧倒的といってもいい強さを誇っていた一夏が殆ど手も出せずに滅多打ちにされ惨敗したのをみんな初めて見たからだ。

箒達は起き上がった一夏の元に駆けつける。

 

「大丈夫か、一夏!?」

「お怪我はありませんか、一夏さん」

「何あれ、滅茶苦茶じゃない!?」

「うわぁ、身体中痣だらけだよ・・・」

「歩けますか、一夏」

 

箒達が俺のことを心配してくれることに申し訳無く思いながら俺は大丈夫だと伝える。

 

「それで・・・・・・あの人は誰なのだ?」

 

箒がそう言うと皆が聞きたそうな視線を此方に向けてきた。気がつけば千冬姉と山田先生も混じっている。とうの本人は俺の目の前でふんぞり返っていた。

 

「この人は俺の武術の師範代だよ」

 

俺がそう言うと師範代は前に出て自己紹介を始める。

 

「光の名は湊斗 光だ! よろしく頼む!」

 

そう自信満々に応える師範代の顔は随分とさわやかなものだった。

みんなはそう自信満々な師範代に恐る恐ると言った感じに紹介を始めていた。

先程の手合わせを見ればそう怖くもなるかもしれないな。

 

「うむ、こんなに(はいてく)なところに来たのは初めてだ! 色々見ていきたいが良いか!」

 

師範代はアリーナの設備やISを間近で見て目を好奇心で輝かせていた。

 

「ご母堂、しっかりと見張っていて下さい! お願いします! 師範代はすぐ物を壊しますから。さすがにこの学校の備品は壊したらしゃれにならない金額ですので!」

 

俺は二世村正さんにそう強くお願いする。

師匠は三世村正さんの仕手ということもあって二世村正さんのことをこう呼ぶので俺も習ってそう呼ぶようにしている。事実、師匠の村正さんと目の前の村正さんは親子であり、此方が親なのだ。

 

『気を付けるよう言いはするが、無駄だと思うぞ。冑の言うことなど全く聞く耳を持たんからな、あの仕手は』

 

ご母堂は呆れた声でそう応えてきた。自らの劔冑にすら呆れ返られる仕手って一体・・・・・・

 

「そのようなことは無いぞ、村正! 光はそこまで不器用ではっ、あ・・・・・・」

 

早速打鉄の近接ブレードを叩き折っていた。

 

『だから言ったであろう・・・・・・無意味だと』

 

ご母堂に言い捨てられた。

俺はそれを見て頭を抱える。あぁ、あれ直すのにいくら掛かるのだろうか・・・・・・

 

 

 

その後もIS学園の施設を師範代は目を輝かせながら見学していった。

俺はそれはもうハラハラしながら師範代を監視して、問題を起こしそうになる師範代を必死に止めていた。それはもう大変で、俺の気力がガリガリと削られていった。

昼時になったら昼食を作るよう言われ、食堂に頭を下げて作ることに。

作った昼食は一汁一菜一膳の和食。

師範代はあんな強大な強さを誇るわりに食が細い。量も少なめだ。

師範代は料理を見るなり、

 

「もっと『はいから』なものが食べたい!」

 

と文句を言ってきたが、文句を言わずに食べて下さい! と強く言うとしぶしぶと食べ始めた。

湊斗家において俺は内弟子だったが、実はそれだけでは無い。

師匠から頼まれて家事に炊事といった、いわゆる花嫁修行というものを俺は師範代に教えていた。

武術以外では立場が逆転するのだ。

このことに置いては師範代であろうと、例え師匠であろうとも文句は言わせない。

最初は文句を言っていた師範代だが、食べ終わる頃にはすっかり笑顔に戻っている。

その光景を箒達と山田先生はうらやましそうに見ていた。

 

 

 

午後になり、見学も大体終わったところでアリーナに戻ってきた。

師範代も満足したのかホクホク顔である。

 

「うむ、実に面白かった」

「そうですか」

「では次はISとやらと戦ってみたいな! 誰か相手はいないか!」

 

師範代午後からでもぶっ飛んだことを言う。

 

「無茶言わないで下さい! 師範代が相手なんかしたら一瞬で粉微塵にされちゃいますよ!」

 

すかさず突っ込む俺。

師範代の相手は俺以外この学園ではさせては絶対に駄目だ。相手がどうなるか分かった物ではない。

俺は必死になって師範代を止めた。IS学園で死傷者など出してはいけないからな。

 

「むぅぅぅぅぅぅ、一夏はケチだな」

「ケチで結構です! 師範代と戦わせればどうなるかなんて丸わかりなんですから!」

 

ぐぬぬ、と言わんばかりの顔をする師範代。しかしここで許してはならない。

 

「仕方ないか・・・それは今度の機会にするとしよう「今度も何もありませんからね!」ドケチめ・・・・・・ではここで新技を試してみるか!」

 

そう言って師範代はまたご母堂と装甲すると、陰義を使い始めた。

すると師範代の隣に黒い何かが生まれる。

一瞬、師範代最大の技かと思ってしまったが、吸引力が無いことから違うみたいだ。

師範代はその黒い何かに手を突っ込むと、

 

「む、これかな・・・・・・ふん!」

 

と言って力を込めて腕を引いた。

 

「痛てててて・・・・・・一体何なんだ?」

 

引いた腕が降ろされた先には・・・・・・

 

IS学園の制服を着て、腕に白いガントレットをした、

 

織斑 一夏がいた・・・・・・


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